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2025年12月31日水曜日

禍話リライトまとめ、12月報: ジャンル分け、切抜き追加など

これまでの振り返り

現在、禍話リライトをまとめたページを作成しています。 現状、noteにあるリライトはほぼすべてまとめを終えているはずです。

最初、配信ごとにリライトをまとめたページを用意しました。

その後、特殊な形式でまとめたページも作成しました。

続いて、シリーズごとにまとめたページも作成しました。

ここまでが、過去の記事で紹介した内容です。以降は最近に追加した新規のまとめです。

FEAR飯関係者のまとめ

FEAR飯関係者に関するまとめを作成しました。FEAR飯の関係者が登場する話や、提供した話を個別にまとめたものです。

このまとめですが、かなり抜けが多いと思われます。抜けを見つけた際には指摘のコメントをいただけますと幸いです。 また、イソロクさん (五十六さん?) や介護職のIさん、アオさんについては存在は認識していますが、まとめに含めていません。どの話に登場するのか忘れてしまった、そもそも表記がよく分からないなどの理由があります。

話の提供者についてのまとめ

禍話ではFEAR飯の方々が自分で集めた話を語るだけでなく、視聴者がダイレクトメールを通じて話を送ることがあります。最近は「創作ホラー劇場 ミッドナイトギャラリー」という企画もあります。 そこで、分かる範囲で話の提供者ごとにまとめたページも作成しました。提供した話や関係する話を2話以上確認した方が対象です。

広義の「禍話関係者」ではありますが、先程のページには含めないことにします。酢豆腐さんは分類が難しいですが、ひとまずはこちらに入れています。

こちらも抜けが多いと思われます。ご指摘いただけますと幸いです。

note以外のリライトのまとめ

禍話リライトといえばnote。noteといえば禍話リライトとニンジャスレイヤー。

そう言っても過言ではないほどに禍話リライトはnoteに投稿されることが多いです。ただ、note以外にも少数ですがリライトは投稿されています。

このページではnote以外のウェブサイトで投稿されたリライトをまとめています。ただし、noteに同じ内容のリライトがある場合は対象外とします。

noteにないリライトは等閑視されがちなのではないか、という懸念からこのページを作成しました。むくろ幽介さんのリライトは多くの人が読んでいると思いますが、個人サイトに投稿されたものは見逃している人も多いのではないかと思います。

逆に言えば、このページに書かれていないものは私も見逃しています。抜けがあればご報告いただけますと幸いです。

ジャンルの分類

ジャンルごとにまとめたページも作成しました。怪談でありがちなジャンルごとに分類しています。

このページはリライトがある話を優先してまとめました。リライトがない話についても、徐々に整備していく予定です。

切抜き動画へのリンクを追加

禍話の配信の一部を切抜いた動画が投稿されています。そこで、切抜き動画へのリンクをまとめの各話に追加しました。 以下のチャンネルの切抜き動画を対象としています。同一の話の切抜き動画が複数存在する場合、上から順に優先して選択しています。

  1. FEAR飯
  2. 『禍話』切り抜きチャンネル【公認】
  3. 禍話の分家

以上です。来年も禍く過ごしましょう。

2025年12月14日日曜日

C#でnoteの検索結果を全て取得する

noteで「禍話」に関する記事を全て取得するためにC#でプログラムを作成しました。noteのAPIの扱い方の参考になるかと思い、汎用的になるように加工して公開します。

noteでは、次のURLから検索結果をJSON形式で取得できます。

https://note.com/api/v3/searches?context=note&q=(検索ワード)&sort=(ソート方法)&size=(結果の数)&start=(開始番号)

各種のパラメータの意味は以下の通りです。

q=(検索ワード)
検索したい言葉。URL用にエンコードが必要です。「禍話」を検索する場合は「%E7%A6%8D%E8%A9%B1」となります。
sort=(ソート方法)
検索結果のソート方法。新しい順であれば「new」と書きます。
size=(結果の数)
検索結果の取得数。最大値は20のはずです。
start=(開始番号)
検索結果全体のうち、どこから取得するか。

次のプログラムは、noteの検索結果をすべて取得し、テキストファイルに出力します。 短期間で連続してnoteのAPIを叩くと、noteのサーバから怒られてしまいます。そのため、時間はかかりますが、Thread.Sleepを挟む必要があります。


using System.IO;
using System.Net.Http;
using System.Text.Json;
using System.Web;

// 待機時間生成用
var random = new Random();

// HTTPクライアント
using var httpClient = new HttpClient();

// note検索の基準値
int start = 0;

// startは20ずつ増加する
const int START_STEP = 20;

// 検索ワード
string? searchQuery = HttpUtility.UrlEncode("検索ワード");

// 出力先
using var sw = new StreamWriter("output.txt");

while(true)
{
    // 検索APIを呼び出す
    string noteUrlText = $@"https://note.com/api/v3/searches?context=note&q={searchQuery}&sort=new&size=20&start={start}";
    HttpResponseMessage httpResponseMessage = await httpClient.GetAsync(noteUrlText);

    Console.WriteLine(noteUrlText);

    // ステータスコードを出力
    Console.WriteLine($"Status Code: {httpResponseMessage.StatusCode}");

    // JSONデータを取得
    string? jsonContent = await httpResponseMessage.Content.ReadAsStringAsync();

    // noteの検索結果を解析する
    JsonDocument searchResult = JsonDocument.Parse(jsonContent);

    // note_cursor
    int cursor = 0;

    // dataエレメントがあるか確認
    if (searchResult.RootElement.TryGetProperty("data", out JsonElement dataElement))
    {
        // note_cursorエレメントを確認
        if (dataElement.TryGetProperty("note_cursor", out JsonElement noteCursorElement))
        {
            if (Int32.TryParse(noteCursorElement.GetString(), out int cursorConv))
            {
                cursor = cursorConv;
            }
        }
        else
        {
            // note_cursorエレメント取得失敗時はエラーと見なし、中断
            Console.WriteLine("失敗");

            break;

        }

        Console.WriteLine($"cursor: {cursor}");

        // notesエレメントを確認
        if (dataElement.TryGetProperty("notes", out JsonElement notesElement))
        {
            // contentsエレメントを確認
            if (notesElement.TryGetProperty("contents", out JsonElement contentsElement))
            {
                for (int i = 0; i < (cursor - start); i++)
                {
                    JsonElement contentElementChild = contentsElement[i];
                    string? authorId = null;

                    // 題名を取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("name", out JsonElement nameElement))
                    {
                        sw.WriteLine($"題名\t{nameElement}");
                    }

                    // 記事投稿日時を取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("publish_at", out JsonElement publishAtElement))
                    {
                        if (publishAtElement.TryGetDateTimeOffset(out DateTimeOffset dateTime))
                        {
                            sw.WriteLine($"投稿日時\t{dateTime.ToString("yyyy-MM-ddTHH:mm:sszzz")}");
                        }
                    }

                    // userエレメントを取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("user", out JsonElement userElement))
                    {
                        // ユーザ名を取得
                        if (userElement.TryGetProperty("nickname", out JsonElement nicknameElement))
                        {
                            sw.WriteLine($"作者名\t{nicknameElement.ToString()}");
                        }

                        // ユーザのnoteページを取得
                        if (userElement.TryGetProperty("urlname", out JsonElement urlNameElement))
                        {
                            sw.WriteLine($"作者noteページ\thttps://note.com/{urlNameElement}");
                            authorId = urlNameElement.ToString();
                        }
                    }

                    // note記事のURLを取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("key", out JsonElement keyElement))
                    {
                        sw.WriteLine($"noteのURL\thttps://note.com/{authorId}/n/{keyElement}");
                    }
                }
            }
        }
    }

    // cursorはstartから20増加する値になるはず
    if (cursor >= (start + START_STEP))
    {
        // 次のstartは20増加
        start = start + START_STEP;
    }
    else
    {
        // 20増加した値にならなかった場合、この周回で検索を終える
        break;
    }

    // 短期間でのnoteへのアクセスを防止するため、ランダム時間だけ待機
    Thread.Sleep(random.Next(10000, 15000));

    sw.WriteLine();
}

C#でBloggerページの自動更新

禍話リライトまとめを作る際に、Bloggerのページを自動で更新するプログラムが欲しくなり、Blogger APIを叩くプログラムを自作しました。

下準備: ページIDの取得

ページの自動更新のためには、ブログのIDとページのIDを知っている必要があるようです。

ブログのIDは簡単に確認できます。Bloggerのサイトを開いたときに、自動でリダイレクトされる先のURLを見れば解決します。URLは「https://www.blogger.com/blog/posts/(数字の羅列)」という形式であり、この数字の羅列がブログのIDです。

ただ、ページのIDは簡単には確認できないようでした。そのため、まずはページのIDを調べるプログラムを作成しました。

以下のプログラムは次の2点を予め実施する必要があります。

  • GoogleのAPIの認証のため、APIキーまたはOAuthクライアントIDを作成する (参考: アクセス認証情報を作成する)。作成したAPIキーまたはOAuthクライアントIDはすぐには有効にはならないため注意する。
  • NuGetパッケージで「Google.Apis.Blogger.v3」をインストールする。

このプログラムは、ページのキーを列挙し、そのID、題名、URLを出力します。 この例ではAPIキーを使用していますが、OAuthクライアントIDを使用しても良いです。どうせ必要になることを考えると、OAuthクライアントIDを作成した方が良いかもしれません。


using Google.Apis.Blogger.v3;
using Google.Apis.Services;

// Bloggerサービス
var service = new BloggerService(new BaseClientService.Initializer()
{
    ApiKey = "APIキー",
    ApplicationName = "アプリケーション名"
});

// リクエスト
var request = service.Pages.List("ブログのID");
request.MaxResults = 100;      // 結果の最大数

// レスポンス
var response = request.Execute();

// レスポンスを出力
using (var sw = new StreamWriter("output.txt"))
{
    foreach (var item in response.Items)
    {
        sw.WriteLine(item.Id);
        sw.WriteLine(item.Title);
        sw.WriteLine(item.Url);

        sw.WriteLine();
    }
}

本番: ページの更新

ようやく本題に入ります。以下のプログラムは次の2点を予め実施する必要があります。

  • GoogleのAPIの認証のため、OAuthクライアントIDを作成する (参考: アクセス認証情報を作成する)。“client_secret.json”をダウンロードしておくこと。作成したOAuthクライアントIDはすぐには有効にはならないため注意する。
  • NuGetパッケージで「Google.Apis.Blogger.v3」をインストールする。

このプログラムは、既存のBloggerのページの題名、内容を更新します。


using Google.Apis.Auth.OAuth2;
using Google.Apis.Blogger.v3;
using Google.Apis.Blogger.v3.Data;
using Google.Apis.Services;
using Google.Apis.Util.Store;
using static Google.Apis.Blogger.v3.Data.Page;

namespace BloggerPageUpdateProgram
{
    public class Program()
    {
        public static void Main()
        {
            new Program().Run().Wait();
        }
    
        private async Task Run()
        {
            // Googleの認証
            UserCredential credential;
            using (var stream = new FileStream("client_secret.jsonのパス", FileMode.Open, FileAccess.Read))
            {
                credential = await GoogleWebAuthorizationBroker.AuthorizeAsync(
                    GoogleClientSecrets.FromStream(stream).Secrets,
                    new[] { BloggerService.Scope.Blogger },
                    "user",
                    CancellationToken.None,
                    new FileDataStore(this.GetType().ToString())
                );
            }

            // Bloggerサービス
            var service = new BloggerService(new BaseClientService.Initializer()
            {
                HttpClientInitializer = credential,
                ApplicationName = "アプリケーション名"
            });

            // Blogger接続用のデータ
            var blog = new BlogData();
            blog.Id = "ブログのID";
            
            // Bloggerのページへの書き込みデータ
            var page = new Page();
            page.Kind = "blogger#page";
            page.Blog = blog;
            page.Id = "ページのID";
            page.Title = "ページの題名";
            page.Content = "ページの内容";

            // リクエスト
            var request = service.Pages.Update(page, "ブログのID", "ページのID");

            // レスポンス
            var response = request.Execute();
        }
    }
}

2025年12月6日土曜日

禍話リライト「ヤマガミさんの写真」(甘味さん譚)

写真の画像

この話は廃墟好きのKさんという女性から提供されたものだ。ただ、Kさんが廃墟に行った話ではない。奇妙な写真を見せられたという話である。

ある日、Kさんは知人から、ある男性に会ってほしいと頼まれた。その人物はKさんにとって大学の先輩に当たるが、大規模な飲み会で一度会ったことがある程度で、知り合いとすら言えない関係だった。その先輩が旅行から帰ってきて以来、おかしくなってしまったらしい。頼み事をしてきた知人は、Kさんの度胸を当てにしていた。

会いに行ってみると、先輩はにこやかな笑みを浮かべて出迎えた。元は社交的でお洒落な人物だったらしい。ただ、目の前にいる人物は明らかに何日か風呂に入っていない様子だった。ブランド物の眼鏡を掛けていたが、レンズには沢山の指紋が付いていた。

「Kちゃん、お久しぶり。元気だったかな」

知り合いでもないのに、妙に馴れ馴れしい口調だった。話を続けていると、どうやらふざけているわけではなく、本気で旧友か何かに会っているつもりらしかった。

「そうそう、この間、彼女と旅行に行ったんだよね」

先輩は旅行の話を始めた。

まず異様だったのが、旅行の行き先が漠然としていたことだった。具体的な観光地の名前を出すわけではなく、例えば「〇〇県」や「××地方」というような大雑把な地名を挙げて、そこに行ったと語っていた。

「旅行ガイドに載っているホテルに泊まっても詰まらないだろ。だから、駅前の案内から旅館を探したんだ。鄙びた感じの場所だったけど、それが大当たりでね」

先輩は旅館から見える景色が良かった、料理が美味しかったと宿泊した旅館を褒め始めた。ただ、具体的に何が良かったのか、どのような料理が出たのかなど、何もかもが曖昧だった。

「その旅館にヤマガミさんっていう仲居さんがいてさ。とても良くしてくれたんだ。結構年配の方だったんだけど、俺らみたいな若い人とも気兼ねなく会話してくれてさ」

「はあ、ヤマガミさん、ですか」

「仲良くなったから、一緒に写真を撮ったんだよ」

先輩はそう言うと、スマートフォンから写真を見せた。写真には水しぶきしか写っていなかった。 甘味さんは困惑したが、よく見ると、自然の滝を接写したものらしいと分かった。

明らかに異様な状況である。しかし、Kさんは一風変わった性格の持ち主。恐怖を覚えるよりも、むしろ楽しい気持ちになってきた。そこで、先輩に直球で質問した。

「滝の写真ですか」

先輩は相変わらずにこやかな笑みを浮かべつつ、口を開いた。

「そうそう。滝だよ。旅館の近くに滝があるんだ。気持ちの良い場所でね」

「ヤマガミさんはどこにいるんですか」

「水が上から下に流れているだろ。その向こう側にヤマガミさんが居るんだ」

滝の裏側が通れるようになっているのかと思って聞いたが、そうではなかった。先輩によれば、滝の裏には何もなく、通路や洞窟があるわけではないとのことだった。

「分からないかな。ここに目があるだろ。鼻は写っていないな」

先輩は写真の所々を指をさして、ここに顔のパーツがあると言った。ただ、どう見ても、滝以外は何も写っていなかった。

先輩は別の写真もあると言って、水面を写した写真を見せた。おそらくは滝の近くで撮影されたものだ。水面にはスマートフォンを構える先輩が写っていたが、その顔は無表情だった。それ以外には何も写っていない。ただ水面が広がるだけだ。

「ヤマガミさんはどちらにいらっしゃるんですか」

Kさんは攻めの姿勢を崩さなかった。

「俺が写っちゃっているけどさ、その隣に写っているだろ」

先輩が指さしたところは水面だけが写っていた。

先輩は同じような写真を数枚見せてきた。山道の接写。木の接写。岩の接写。どれにもヤマガミさんらしき人物は写っていなかった。

Kさんは写真を眺めているうちに、あることに気が付いた。旅館の写真が一枚も無いのである。さんざん褒めていた割に、旅館の内部や、旅館からの風景を写した写真は無かった。

「旅館では写真を撮らなかったんですか」

Kさんは尋ねた。先輩は張り付いたような笑みを崩さずに答えた。

「撮影禁止だったんだよ」

このとき初めてKさんは恐怖を感じたそうだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話アンリミテッド 第三夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

禍話リライト「柱の傷」

何かの現場の画像

Aさんという会社員の男性の体験談。Aさんは意図せずに他人のトラウマを抉ってしまったことがある。

当時、Aさんはかなり安いアパートに住んでいた。敷金、礼金が0円と破格の物件だ。事故物件というわけではなく、とてつもなく古いのである。柱には、昔の住人が子供の身長を計ったときに付けたと思しき傷が残っていた。

ある日、上司がこの部屋に泊まりに来た。出張する際の準備の関係で、社員の誰かの家に泊まりに行く必要があり、位置の都合からAさんのアパートが選ばれた。少し飲んだ後、明日も早いからと就寝した。

夜、Aさんが眠っていると、物音を聞いて目を覚ました。ガリ、ガリという音が聞こえる。木か何かを削っているようだ。古いアパートとはいえ、さすがにネズミはいない。何だろうと思って音の聞こえる方を見ると、暗い部屋の中で上司の姿が見えた。

上司は柱のそばに立ち、腕を懸命に上の方に伸ばしていた。暗い中、目を凝らしてよく見ると、上司が何をしているのか分かった。片手にフォークを持ち、柱の上の方に傷を付けていた。身長を計っているのであれば、そこまで背が高い人はいないだろうというような位置だ。

酒の飲み過ぎで奇行に走ったのか。いや、まさか。さすがに夢だろう。Aさんも酒が入っていて眠かった。何をするでもなく、そのまま再び眠りに落ちた。

翌朝、目が覚めると、柱のかなり上の方に新しい傷が付いていた。夢ではないことに気付き、Aさんは上司を問い詰めた。

「ボロボロの部屋だから別にいいですけど、さすがにこれは無いですよ」

「これ、俺が付けたのか。ごめんな」

怒りはしたものの、恐ろしく古い物件だったから、大して損害は無い。Aさんは冗談めかして言った。

「だいたい、成長しても、こんなに背が高くなるわけないじゃないですか」

「いや、ホントごめんな。ごめん」

上司は顔を洗いたいと言って、洗面台の方へ向かった。その途中、Aさんの横を通り過ぎる間際に囁くような声で言った。

「伸びるぞ。人は伸びる。そういう状態が続いたらな」

Aさんが呆気にとられていると、上司はテキパキと出張の準備を進め、そのまま部屋を出ていった。

上司が出張から戻ってしばらくした後、上司が退職した。急な退職で、関係者は穴を埋めるのに苦労した。それでも、上司は「実家の都合」の一点張りで、詳しい理由を聞くことも、止めることもできなかった。

残された上司の机を整理していると、引き出しの中から便箋のセットが見つかった。便箋はレシートと一緒に100円ショップの袋の中に入っていた。レシートの日付は、上司が最後に私物を取りに来た日だった。便箋の1枚が包装から取り出されており、それにはこのように書かれていた。

「最悪の部下だ。カサブタを剥がしてくる」

あの夜の奇行と退職の理由に何か関係があったのか、今となっては分からない。

「人が伸びる」と聞くと、首吊り自殺の末路が思い浮かぶ。首吊り死体を放置すると、首が伸びてしまうらしい。「そういう状態」という言葉が嫌な想像を膨らませる。

Aさんは今はもう別の物件へ引っ越した。かつて住んでいた古いアパートの部屋には既に別の人が入居しており、何事もなく幸せそうに暮らしている。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話アンリミテッド 第二夜 (一時間後からQを視聴) (禍話 @magabanasi放送、「部屋の柱の傷」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年12月4日木曜日

禍話リライト「離脱の記録」(こっくり譚より)

教室の画像

安藤さんという中学校の教師の体験談。

安藤さんは今はベテランの教師だが、若い頃は生徒たちからは気楽に話せる相手として親しまれていた。そんな彼だが、一度だけ生徒に手を上げてしまったことがあった。

一時期、生徒の間でこっくりさんが流行ったことがあった。ある女子生徒のグループが特に熱心に取り組んでいた。彼女たちは内輪で籠りがちな性向があった。

あるとき、そのグループの一人が安藤さんに話しかけた。

「安藤先生、ちょっとお話が……」

親身になって話を聞いてみたが困惑した。こっくりさんの話だった。どういうわけか、こっくりさんに誘われたのである。

学校としてはこっくりさんを禁止していなかった。こっくりさんも仲間内での一種のコミュニケーションと言えるだろう。ただ、ヒステリーなどの兆候があったら、対策が必要かもしれない。

安藤さんはこっくりさんへのお誘いに乗ることにした。女子生徒に案内され、こっくりさんの集まりに向かった。

そこは本来は文化系のクラブ活動に使用する教室だった。しかし、そのクラブは休止状態になっており、実質的には空き部屋になっていた。女子生徒たちはそこを溜まり場にしていたようで、彼女たち以外には誰もいなかった。

女子生徒たちはこっくりさんの準備を進めていた。十円玉。五十音と鳥居が書かれた紙。ノート。

ノート……?

そのノートは中学生が勉強に使っていてもおかしくはない、至って普通のノートだった。ただ、こっくりさんには不似合いだ。安藤さんは疑問に思い、女子生徒にノートを何に使っているのか尋ねた。

「こっくりさんの記録に使っているんです。読んでみてもいいですよ」

女子生徒に促されて、安藤さんはノートを開いた。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

……

一瞬、ドキリとしたが、2ページ目を見て謎は解けた。こっくりさんが来るまで決まり文句を繰り返さなければならない。それを律儀に書き記していただけのことだった。2ページ目で漸くこっくりさんが来てくれた。

こっくりさん:はい

ノートをパラパラと捲って流し読みしていくと、大したことは書かれていなかった。

みゆちゃん:こっくりさん、こっくりさん、山岸先輩は誰が好きですか。

こっくりさん:ぬまた

こんな具合に、他愛もない質問ばかり書かれている。そろそろ女子生徒にノートを返そうかと思っていると、ある記述が目に飛び込んだ。

まゆちゃん、ここで離脱。

よく読んでみると、他にも同じような記述があった。

えみちゃん、ここで離脱。

さきちゃん、ここで離脱。

……

安藤さんは女子生徒に尋ねた。

「なあ、この『離脱』というのは何かな」

「こっくりさんをやっていると、みんな寝落ちしちゃうんです。そのときに『離脱』って書いているんですよ」

こっくりさんの最中に、生徒が急に寝落ちする。

安藤さんは女子生徒の不可解な言葉に驚き、改めてノートを仔細に確認することにした。そのうちに、安藤さんはある発見をした。

よく読んでみると、女子生徒たちが全員寝落ちしている回がある。ここにいる全員の名前に「離脱」と書かれている。その次の行は、行頭に名前が書かれていなかった。

:こっくりさん、こっくりさん、お帰りください。

こっくりさん:はい

こっくりさんは帰りました。

安藤さんは女子生徒たちにおずおずと尋ねた。

「なあ、ここのページに全員が『離脱』したって書いてあるけど、続きは誰が書いているんだ?」

生徒たちはこっくりさんの準備を終えようとしていた。生徒の一人が答えた。

「それを確認するために、先生を呼んだんですよ」

安藤さんは動揺のあまり、その生徒の頬を張ってしまった。

生徒が泣き出して騒ぎになってしまい、安藤さんは先輩の教師からお叱りを受けた。幸い、大事にはならなかった。ただ、そもそも教師がこっくりさんに参加するのはいかがなものかと窘められた。

ところで。

こっくりさんを遊んでいると、生徒たちが一人一人寝落ちする。ノートには全員が「離脱」したと記録されている。つまり、全員がこっくりさんを遊んでおり、女子生徒たちの誰も端からノートに記録をつけていなかったことになる。

こっくりさんの記録をつけていたのは誰だったのか、最後まで分からずじまいだったとのことだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。こっくり譚のKさんが提供しています。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

登場人物の名前を出す必要がある場合、適当な仮名を付けています。

作品情報
出自
元祖!禍話 第二十六夜(後半は猫ちゃん映画の話とかです) (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年12月1日月曜日

禍話リライト「ベランダで自己紹介」

室外機の画像

Aさんという男性が体験した話。

AさんにはBさんという友人がいた。Bさんは自宅に人を招かない。遊びに行きたいと頼んでも断ってくる。Aさんは、Bさんが何か秘密の趣味を隠しているか、壁が薄くて騒ぐと迷惑になるから人を入れたくないのだろうと推測を立てていた。

ある夏の夜。先輩と居酒屋に行った帰り道。先輩は飲み足りない様子だった。

「そうだ。この辺りにBんちあるからさ。そこで飲み直そうぜ」

AさんはBさんが嫌がるからと抵抗したが、先輩の圧力に押し切られた。酒やツマミを買って、Bさんの住むマンションへ向かった。Bさんの部屋は三階にあった。先輩がインターフォンを押すと、怪訝な顔付きのBさんが出てきた。

「ちょっと飲み直そうと思ってさ。お前も飲もうぜ」

Bさんは露骨に嫌そうな顔をしたが、断らずに二人を部屋に入れた。部屋はごく普通の男性の一人暮らしといった様子で、綺麗でもないが散らかってもいない。秘密の趣味を隠しているというわけではなさそうだ。安普請でもなく、騒音を心配する必要もないように見える。

どうして人を泊めたがらないのだろう。潔癖で他人が自宅に上がるのが許せないという性格でもないはずだが。

色々と疑問は沸き上がったが、気にせずに飲み直すことにした。ただ、先輩の元に電話が入った。恋人からの電話らしく、応答のために外へ出ていってしまった。

飲み会をしようと言い出した張本人がなかなか帰ってこず、AさんとBさんは気まずい気持ちのまま黙々と酒を飲み進めた。そのうち、酒が回りすぎて、二人とも眠くなった。そのままBさんの部屋で雑魚寝する流れになった。Aさんは眠気に身を任せて、そのまま眠りに就いた。

ふと目が覚めた。外の方に目をやると、ベランダの窓が開いていた。暑いからと窓を開けていたことを思い出した。よく見ると、ベランダに誰か立っていた。Bさんは近くで寝ている。そうなると、先輩がタバコでも吸っているのだろうか。Aさんは暗闇の中で目を凝らした。

先輩ではなかった。女だった。当然ながら知り合いではない。

女はこちらを見ながら、右に行ったり左に行ったりとうろうろしていた。三階だから誰かが忍び込んだ可能性は低い。まさか幽霊か。女と自分を隔てているものは薄い網戸だけである。AさんはBさんを起こそうとした。

「おい。女がベランダにいるぞ。おい」

「立ってねぇよ」

「いや、女が立っているぞ。何なんだあいつは」

Aさんは寝転がるBさんの肩を揺すった。すると、BさんはAさんの腕を強く叩き返した。寝起きの力ではない。ずっと前から起きていたようだ。Bさんは上体を起こした。

「だから居ねぇよ」

「でも……」

Aさんはベランダの方に目を向けた。うっかり女と目が合ってしまった。女は口を開いた。

「しつがいき」

Aさんが唖然としていると、Bさんはうんざりしたような声で言った。

「誰も居ないだろ。室外機しかない。本人もそう言っている。だから早く寝ろ」

Bさんは再び横になり、目を閉じた。

女は再び言葉を発した。

「しつがいき」

Aさんも横になり、何も聞こえないふりをしながら夜を過ごした。明け方には女は姿を消していた。

AさんはBさんから事情を聞いた。Bさんはどうしても引っ越せない訳があるらしく、あの女のことを気にしないようにしながら夜を過ごしているそうだ。

「自分が室外機だって言っているから、そういうことにしているんだよ」

Bさんは充血した目を瞬かせた。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
元祖!禍話 第十二夜 (禍話 @magabanasi放送、「自己紹介と妥協」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年11月30日日曜日

禍話リライト「お礼娘」

プールの画像

Aさんという女性が体験した話。

Aさんの家の菩提寺にある墓地には曰くありげな塚があった。 塚はかなり古びており、立ち入りにくい場所にあった。意図的にそのような配置にしているように思われた。妙な場所に塚があるものだと、Aさんは少し気になっていた。

ある日、墓の敷地が足りないとお寺に相談しに行くことになった。両親とお坊さんが話し合っている間、運転手役だったAさんは暇になった。 先祖代々のお墓を磨くなどして暇をつぶしたが、まだ時間が余っていた。そこで、前から気になっていた塚に行ってみることにした。

塚は古びていたが、辛うじて石碑に彫られた字は読めた。どうやら、水難事故か水害の供養碑のようで、幼い子供が大勢亡くなったというようなことが書かれていた。 かなり昔にあった事故らしく、Aさんには聞き覚えがなかった。

これも何かの縁。子供の墓のようだからと、Aさんは偶然に持っていたお菓子をお供えした。その後、用事を済ませた両親を車に乗せて帰宅した。 Aさんは日頃から塚や事故現場などにお供えをする習慣があった。そのため、この日の一件は特別な体験というわけではなく、すぐに忘れてしまった。

一週間ほど経過した頃、Aさんは奇妙な夢を見た。

ふと気が付くと、Aさんは塚の前に立っていた。塚の裏手は生垣で囲われていた。天気は晴れているような曇っているような曖昧な空模様だった。

どうしてお寺に来ているのだろうと疑問に思っていると、塚の裏手の生垣を女の子が乗り越えてきた。幼い女の子だ。自分の背丈よりも高い生垣を悠々と乗り越えて、楽しそうに笑いながら通り過ぎていった。

訳も分からず困惑していると、再び女の子が生垣を乗り越えてきた。先程とは別の子のようだ。さらに続いて女の子が一人、また一人。続々と生垣を乗り越えてきて、ケラケラと笑いながら通り過ぎていく。その数は十人か二十人か。

ようやく全員どこかへ行ったかと思いきや、再び女の子の集団が生垣に現れた。続々と生垣を乗り越えては、笑いながら過ぎ去っていく。子供たちの第二波である。そのうちに第三波まで現れた辺りで目が覚めた。

「子供なりのお礼か何かのつもりだったのでしょう。でも、何だか疲れる夢でしたよ」

とAさんは苦笑した。

ちなみに、子供たちはスクール水着を着ていたそうだ。明治辺りの霊のはずだが、何故か現代の格好をしていた。

スク水を着た少女たちが大勢押し寄せる夢を見たというお話。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話R 第五夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様 (FEAR飯)

2025年11月29日土曜日

禍話リライト「老夫婦」

インターフォンを押す指の画像。

Aさんという女性が中学生の頃に体験した話。

その日、Aさんは普段よりも早めの時刻に学校から帰宅していた。土曜日だったからというわけではない。理由は不明だが、そのときは自分だけ早く帰路に就いていた。友人とは一緒ではなく、一人で通学路を歩いていた。

角を曲がった出会い頭、人とぶつかりそうになった。咄嗟に謝罪して顔を上げると、そこにいたのは老婆だった。喪服を着ている。老婆はAさんに話しかけた。

「ちょっとごめんなさい。うちのお爺さんを見かけなくてね。お嬢さんのお宅に居ませんでしたか」

どうやら夫を探しているらしい。ただ、自分の家に居るか尋ねてくるのは奇妙だ。困惑しながらも、Aさんは居ないと返事をした。老婆は曖昧な笑みを浮かべた。

「そうでしたか。ごめんなさいね」

老婆は離れた所を歩いていた大学生の方に向かい、同じように質問していた。不気味な人がいるものだと思いつつ、Aさんは家路を急いだ。老婆を振り切るため、なるべく走って移動した。

帰宅してみると、普段は居る母親が不在だった。置手紙があり、町内会の用事で出かけているとのことだった。すぐには帰ってきそうもない。変な老婆に会ったために心細い思いだったが、仕方なく家族の帰りを待つことにした。

すると、外からは老婆の声が聞こえた。振り切ったつもりだったが、どうやらついてきたらしい。老婆は近所のおばさんに同じような質問をしていた。他にも通行人にも声をかけているようだった。幸いなことに、Aさんの家には来なかった。

そのうちに家族も帰ってきた。それから時間が過ぎて、夜11時頃のこと。

ピンポーン

インターフォンが鳴った。誰かがインターフォンを何度も押している。近所の人が怒鳴りつけてもおかしくないほどに音が鳴り響いた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

普通であれば、夜遅くに訪ねてきた人物に対して中学生の娘に応対させることはないだろう。しかし、両親や兄弟はインターフォンには気が付いていないらしい。誰も応対せず、相変わらずインターフォンは鳴り続ける。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

仕方なく、Aさんが玄関のドアを開けると、そこには老婆がいた。帰宅中に会った喪服の老婆だ。老婆は相変わらず困ったような笑みを浮かべていた。

「すみません。うちのお爺さん、そちらのお宅に居ませんでしたか」

Aさんは黙ってドアを閉めた。すると、再びインターフォンが鳴り始めた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

家族は誰も出てこない。インターフォンの音に耐えかねて、電源を切れないか思案した。すると、Aさんの手を誰かが掴んだ。驚いて振り返ると、そこには老爺がいた。パジャマ姿で痩せぎすだった。老爺は絞り出したような掠れた声で言った。

「居ないって言って」

Aさんの手を掴む腕。そこには無数の痣があった。

そこから先の記憶は無い。気が付くと朝だった。

それ以来、近隣でも老夫婦が出るという噂が流れた。人探しをする老婆と、逃げ隠れする老爺。老婆に付き纏われた人の家に老爺が現れる、ということが多々あったらしい。それから長い時間が経った今となっては、老夫婦が出るという話をする人はいなくなった。

老爺は今も老婆から逃亡しているのだろうか。それとも、誰かが老爺を引き渡したから、噂が消滅したのか。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怖い話を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 霊障?①真・禍話/激闘編 霊障?② (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

2025年11月23日日曜日

『ロボットダンス』(Creepypasta私家訳、原題“The Robot Dance”)

演者たちの画像

給料を貰い過ぎている映画スターやミュージシャンのインタビューを読んだことがある。連中はいかに疲れてしまったか、いかに懸命に働いたか、いかに消耗してしまったかと嘆いており、燃え尽きて、悲惨なほどに休暇を求めていた。連中の監督者は苛烈に仕事を割り当てた。パフォーマンスは苦痛。なんて苦しい人生。俺は口角を吊り上げて思う。

「大衆酒場の作業台を試してみてはいかがかな。それとも、安っぽい終夜営業のカフェで無限に朝食を作り続けるのはどうかね」

それから、手垢のついた新聞を置いて、十時間のシフトに戻ったものだった。またクビになる前のことだ。

今となっては、俺にも彼らの言いたいことを本当に理解できる。そこには新聞もない。新聞を買ってくれるほどの人が残っていない。そうでなくても読む時間がない。バーやカフェもない。そこにあるのは娯楽だ。無限で底知れないほどの娯楽。俺は娯楽を提供する。パフォーマンスする。永遠に。

奴らによる侵略は突然で、組織的だった。労せずに順調に終わった。誰にも何が起きていたのか全く分からない。ニュースによれば、俺たちが組み立てていた小さなロボットが俺たちをやっつけたらしい。それから、宇宙の深部から発せられたメッセージに関する何かも。以来、他にニュースは流れなかった。奴らは俺たちの情報をすべて奪い取った。奴らは情報を秘匿するのがお好みだ。

誰が統制していたのだろうか。アンドロイドが足を踏み鳴らしながら街を闊歩し、レーザーライフルを撃ちまくるなんて光景は見なかった。共謀の噂は少しあった。権力者が取引を交わしたとか何とか。何もかもがあまりにも早く進んだ。停電が起き、交通手段も失った。本当のニュースは流れず、噂話だけが流れた。恐怖。人々は自宅に留まることを恐れたが、家を出た人々は二度と姿を見せなかった。

ほとんど完璧に筋の通った噂は、先進的な宇宙人の人工知能がインターネットを汚染した、というものだ。ただ、俺が知る限りでは、そんな話は根拠の無い憶測でしかない。俺たちには奴らが何者なのか、正体は何なのか分からずにいる。誰も奴らを目撃していない。大人数かもしれないし、一人かもしれない。奴らは少数の人々を生かした。全員がパフォーマー……。俺は奴らのオーディションを通過しなければならなかった。俺には演技の経験が少しあった。それは夢物語で終わった過去だ。端役だったし、ローカルな演劇だった。

奴らにとって、俺たちにある唯一の価値は芸術だ。奴らが産み出せるものは冷淡さと計算だけだ。残虐さもないが、哀れみもない。奴らは俺たちの歌や本、映画に興味がある。奴らは一瞬であらゆる映画を見て、あらゆる歌を聞き、あらゆる物語を読んでしまった。奴らは既に飽きている。奴らはさらに欲している。俺たちは生ける傑作だ。俺はそう言い聞かせる。作業台よりはマシだ、と。

仲間たちの多くはもういない。毎日毎分、俺たちは創作し続けなければならない。さもなくば死ぬだけだ。時間は果てしなく流れる。一人、また一人と心臓が止まり始めた。連中がどうやってそんなことをしているのかは分からない。もしも何かを移植されているのであれば、俺の知らないうちにやってのけたことになる。そんな手術を受けた記憶は無い。曰くありげな傷口も無い。死は瞬時に訪れる。俺たちの息の根は奴らの命令次第だ。

最も長く生きる者は、決まりをすぐに学ぶ、困難な道程で。奴らの好みに合わせようとしてはならない。革新するのだ。ジョークは当惑を招く。ただ、未だに影響力を持ち得る。奴らは立ち続けたり座り続けたりすると注意深く咎める。これはショーの一部だと無鉄砲に言い張っても、奴らは騙されない。

我らの保護者たちは優しく指示をくれる。ブンブンと唸る虫のような声で。俺たちは言葉を聞くのではなく振動を感じる。

ダンス

奴らは言う。すると、俺はいくらかムーブをこなしつつ躓いてしまう。俺はダンスフロアに上がっても見る価値のあることは全く出来なかった。それでも幾分か満足させている。多分、奴らは俺がエッジを利かせていると思ってくれるはず。多分、俺は自分にそう言い聞かせているだけだ。

ある若造が、ネオン輝く1980年代のナイトクラブからやってきたかのような、ほぼ完璧なロボットダンスを繰り出す。あれが思いつけばなと思いはした。しばらくして、若造の死体がバタリと床に倒れ伏すまでは。人の弱みに付け込んではならない。恩着せがましくしてはならない。

目を眩ませる光が俺たちの疲れ切った顔を永遠に照らし続けるが、この冷たい鉄の舞台からは暗闇しか見えない。奴らは光が無くても物が見える。奴らはこの場所にはおらず、外のどこかにいるのだろう、と想像する。多分、奴らはカメラを使っているのだろう。多分、奴らの感覚は人類の知覚を超越しているのだろう。

最も無味乾燥としたゴミでさえ、奴らは身を起こして耳を傾ける。奴らは高尚な文化よりもおどけの方が好みのようだ。これが奴ら自身の欲望を反映したのか、それとも俺たちの欲望の方なのかは分からない。ただ、いつも新鮮でなければならない。同じ題材を繰り返すのは考えられない。受け入れられない。

稀にこの日々の仕事に応えて、暗がりから耳障りなほぼ聞き取れないブンブン言う音で称賛を受けることがある。組織的な交響曲だ。一度、俺は感謝の念でお辞儀したことがある。相棒たちがはっと息を飲む危険を冒してのことだ。それは成功したに違いない。だから俺はまだ存在している。唖然としていた一人、俺がいくつかの映画で見たことがある老齢のイギリス人悲劇俳優は、いつまでも唖然としていたものだから、逝ってしまった。

俺たちは合作もできる。ある指示「転覆」を受けて、俺たちと他の三人は閃いた。軽率にも古いアダムスファミリーのテレビ番組にあった苛烈なコメディと捻くれた悪意を再現した。地下にある中世の拷問部屋へ急いで下って休暇に行く話だ。観客はこれを見て不道徳だとは思わず、巧妙さや皮肉も読み取らない。奴らは称賛したに違いない。というのも、奴らは俺たちに小道具をくれた、あの地獄の暗がりから。小道具のご褒美は珍しい。自分にこんなことができたとはまるで知らなかった。最近はこれくらいはできないとなと思う。

この件は仲間からの憎しみを招いた。俺は仲間たちの目から殺意を見出した。劇場の座席からのやかましい声援に紛れて、仲間たちの不満げに唸る声を聞いた。

時折、奴らの指示は謎めいており、時折は直球だ。幸運にも俺は即興ができた。即断しろ。残ったネタは何か。時折、俺たちは珠玉の指示を受ける。例えば、こんな風に。

成長できず、決して撃退できないもの

その手の指示はいつも誰かがヘマをやらかし、我らが一座は数を減らす。

時折、俺たちは謎の肉を与えられた。絶対に沢山はくれなかった。奴らは俺たちが痩せた体型を維持するのがお好みだ。分かることは、この肉はピンク色の偽物で、ペトリ皿の上で育っていることだけだ。

雑誌でモデルをしている姿を見たかもしれない、ある背高の少女は幾分か事を楽しんでいるようだった。少女は過度に肉体改造することに興味を持っていた。奴らは少女にナイフを与え、少女はそれに応えた。少女は当初から狂っていた。俺は少女の狂気にかなり嫉妬していた。しまいには、少女は瞼も唇もナイフを握る指も切り落とした。だから、少女は自分の頭を床に強く打ち付けた。かつての容貌がもはや分からなくなるまで。今まで以上に大きな歓喜する唸り声が聞こえた。

「私を見て! お前の見るものが私の望み!」

少女は絶叫した。そして狂喜とともに観客席へ身を投じた。このアイディアが一度や二度、俺たち全員の脳裏を過ぎったことは間違いない。全くの好奇心からか、休息できるという微かな希望からか。その答えは沈黙。嗅ぎなれた焼ける肉の臭い。

次の指示が来る。

砂漠に水はあるか

俺は動きが止まる。心は空っぽだ。もしかしたら、消えてなくなってしまったのかもしれない。


謎の侵略者により、人々は永遠のパフォーマーになった。これはある演者の物語。

Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”や“PotM”に選出されています。

作品情報
原作
The Robot Dance (Creepypasta Wiki、oldid=1508551)
原著者
Hack Shuck
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2025年11月19日水曜日

『飴の袋』(Creepypasta私家訳、原題“A Bag of Candy”)

建物の写真

劇場がある建物。

小さい頃、私はいつも劇やミュージカル、広く言うと芸術というものに魅了されていた。幼い頃から演劇の才能があった私は、有名人になるよりも、人々を楽しませることを望んでいた。演じたいだけでなく、一切合切あらゆるものの仕組みを知りたかった。役者が自分の台詞を覚えるのと同じくらいに、照明も重要だったし、キューも重要だった。そして、楽しい観劇のための適切な環境を形成するもの全体が、いつしか私が学びたいことに加わった。

私が通う大学にある舞台は古いもので、正直に言えば、いつ作られたものかははっきりとは知らない。大学の「シリング講堂」と呼ばれる場所の中にある。1953年に改築されたという話を覚えている。かなり古い様式だったが、生のパフォーマンスをする意図で設けられている。何列もの座席があり、上方には立ち見のための大きなバルコニーがある。満員になっているのを一度も見たことはないが、次に演じる時はそうなっていてほしいと願っている。

この場所はオバケが出るという噂が様々ある。ただ、もちろん、オバケが出る証拠には全くお目にかかったことがない。私はこの目で見るまでは信じない質だ。前に、バルコニーに上がった人たちが、「幽霊」へのお供えとして飴をいくつか手摺の上に置いていったのを見たことがある。清掃員が回収して捨てるだけだろうというのが率直な感想だ。そんなのは時間の無駄でしかないと思う。

そう言えば、この「幽霊」は茶髪の少女であると言われていた。七歳くらいというのがほとんどの人の見立てだ。髪は短めのボブ。白いドレスを着ており、ピンクのタイを結んでいる。単に「手摺の少女」と呼ばれている。バルコニーの手摺の近くに現れたからだ。私もかつてはこの少女の存在を信じていなかった。しかし、いくつかの出来事を経験して、完全に心変わりしたのであった。

ある日、私は友達と昼食を食べながらおしゃべりしていた。彼はかなり迷信深い人で、超常的な存在を信じていた。彼はその少女がバルコニーの辺りに現れる理由について、ベラベラと捲し立てていた。少女は強姦か殺人の被害者であり壁の中に埋め込まれたとか、少女はバルコニーから落ちて死んだのだろうとか、そんな話だ。私は目を剥いた。幽霊なんて絶対に実在するわけがないと思っていた。だから、彼にはただこう言っただけだった。

「ライアン、黙ってサンドイッチ食べてな」

すると、彼ははにかんだ笑みを浮かべた。ライアンは私が自分の話を信じていないことを分かっていたが、それでもいつも突飛な考えを携えて私の元に来るのだった。

時間が経つにつれて、私は講堂で作業をするようになった。備品の掃除や舞台の確認をする作業だ。私は女優の役割の方が好きだったから、劇で良い役をとれないときや、新人に手助けが必要になる場合に備えて、諸々がどのように機能するか知りたかった。そのときは、私は舞台に箒をかけていた。酷く散らかっていたわけではないのだが、次の公演のために綺麗にしておきかった。すると、足音を聞いた気がした。怖い話でありがちな「重々しい足音」ではなかったことを記しておく。子供が走っているように聞こえた。少し立ち止まると、何も聞こえなかった。音がどこから来たのかも聞き分けられなかった。だから、ライアンがテープ・プレイヤーをカーテンの裏に仕掛けて、私がこういうものの存在を信じる証拠を拵えようとしたのだろうと推測した。もう音は聞こえなかったが、私はまだカーテンの裏や、大抵の人は音の出所として一瞥もしないような場所も確認した。何も見つからなかった。

私は例の劇場の中を一人で数回、掃除をしたり、邪魔になるものがないか調べたりして過ごした。ほとんどの夜はありふれた時間だった。何も起こらず、「手摺の少女」のことはすっかり忘れてしまった。しかし、あるとき、携帯電話を無くしたことに気が付いた。少し苛立ち、携帯電話を探し始めた。どこに携帯電話を置いていったかは見当がついていたが、確認してもそこには無かった。ようやく見つかったのは、メッセージを受信した携帯電話が光って振動し始めたときだった。携帯電話は講堂の観客席にある椅子の肘掛の上に置かれていた。こんな場所に携帯電話を置いたはずはなかった。奇妙な出来事はこれで終わらなかった。

ある夜、リハーサルの後に更衣室から自分の物を運び出そうとしていたとき、咽び泣く声が聞こえた。歩く途中で凍り付き、声の出所を探そうとひたすら辺りを見回した。私は怒りに駆られ、声の原因である何者かに向かって叫んだ。

「やめてよ。こんな冗談は面白くない」

認めよう、私は少し怖がっていた。咽び泣く声は止まったが、見られているような感覚がしてまだゾッとしていた。

その後、私はライアンと一緒にステージの上で作業をしていた。別の劇のリハーサルの準備中だった。ライアンは手摺に飴を数個お供えした。私は心の中で笑った。儀式の贄か何かのように見えたからだ。準備を続けていると、霧を出す装置が独りでに動き始めた。ライアンは目を見開いて、装置の方に走っていって電源を切ろうとした。装置の電源は入っていなかった。しかも、コンセントに繋がってすらいなかった。ライアンは3個では足りなかったのかもしれないと考え、小走りで走っていき、飴の袋の半分をお供えした。言うまでもなく、私ももう笑っていなかった。

数日後、私はステージに上り、他の人と一緒に劇の練習をした。ライアンは大抵は脇役や小道具作りを担当しており、彼はその分野で創造性を発揮していた。ライアンは我らが主役に話しかけた。

「なあ、カレン。『手摺の少女』に飴をお供えしたかい」

私は何も言わなかった。口には出さなかったが、「手摺の少女」が実在するかもしれないと思っていた。ただ、ライアンにそんなお墨付きを与えるつもりはなかった。カレンは嘲り、ただ小馬鹿にするように笑った。

「馬鹿げたオバケに飴をやれって。そんなのいるわけないでしょ」

私は沈黙を続けた。私が数か月前に来た道だ。リハーサルはほぼ計画通りに進んだ。カレンが主役に選ばれた理由は分からなかった。ただ、(酷い言い方だが) 猥褻な手管で先生に主役の座を強要したのだろうと思っていた。カレンは誰とでも寝ると噂されていた。カレンの感情の籠っていない演技を気にしないようにしつつ、私はどうにか演技を続けた。リハーサルが終わり、カレンが舞台から降りようとしたとき、私は恐怖の叫び声を上げそうになった。二つの青白い手が段差から伸びてきていた。青白い指がカレンの足首に巻き付いた。カレンが気付いたときには、もう遅かった。

小さな指が足首を固く掴み、カレンは指を振りほどこうとして躓いた。カレンは声を上げる間もなく足をすくわれた。私が出来たことは、後ろで立ち竦み、見守ることだけだった。カレンが転倒したとき、小さな青白い手が木製の段差の中に引っ込んでいき、痕跡も残さずに消えたのが見えた。カレンの頭が固い床にぶつかったとき、悍ましい大きな衝撃音を聞いた。怖かった。私はカレンのことが好きでは無かったが、怪我をしてほしいとは思っていなかった。ましてや、死んでほしいとは。幸運なことに、血だまりは見えなかった。ただ、手の着地の仕方から、カレンは自分を支えようとしたことは分かった。医者志望の学生が診察した。ただ趣味で医者のように振舞っているだけの男だったが、彼はカレンはただ気絶しているだけだと認めた。数分後、カレンの意識が戻り、誰かが自分を転ばせようとしたと捲し立てた。私は間違いなくくすくす笑う小さな声を聞いた。ただ、おそらく、ただの空想だろう……。

カレンは負傷して以来、劇場に再び向かうつもりはないと言った。そのため、私が代役になった。とても嬉しかった。幽霊のことはそこまで不安に思っていなかったが、そのせいで幾分か神経質になっていた。私はまだ誰かが自分を見ているという奇妙な感覚を覚えつつ練習した。いくらか考えが脳裏を過ぎった。飴を持ってきた方がいいのだろうか、というような考えだ。私はそんな思いが練習の邪魔にならないようにした。台詞はほとんど暗記しており、いくらかアドリブができて悪くない成果を出せた。すると、少女が劇場の裏口のドアから頭を覗かせ、辺りを見回すと、すぐに逃げ出した。その少女は私が聞いた特徴通りの格好だったが、私は演技を続けた。劇場を立ち去る前に、鞄を探って小さな飴の袋を手摺の上にお供えした。演劇の日は同じことをすると、何もかも円滑に上手くいった。

数週間後、私はバルコニーの制御室で作業をしていた。照明や色々なものが散らばっており、上手く動作するのだろうかとただ考えていた。同じ寮の子たちはこの時間には大声を出したり、酒を飲んだりするから気に障ったというだけの理由で、その場所では読書や勉強もしていた。友人数人に私がこの場所にいると伝えていたから、ドアのノックを聞いたときにも、ノックの主を察した。何か用事があるのだろうと考えた。ドアを開けると、最初は何も見えなかった。視線を下ろすと少女がいた。茶色の髪を短くした少女が私を凝視していた。何かを期待しているかのようだった。

「何か御用」

少女は私をじっと見て、白いドレスに包んだ体を前後に揺り動かした。少女は単純な返事をした。

「いいえ」

少女は私の目の前で消えた。私は怯えた。それ以来、私は一人ではこの場所に来ないようになった。

私は今も何日かその劇場に行き、時折役を演じる。しかし、どんなときも「手摺の少女」のことを忘れず、絶対に飴の袋をお供えする。もはや幽霊のことを信じていないとは言えない。けれども、あの子は大学で過ごす時間をかなり面白くしてくれたことは間違いない。


大学の劇場で起きた楽しい幽霊譚。地元で起きた出来事を元にしたそうです。

作品情報
原作
A Bag of Candy (Creepypasta Wiki、oldid=1515045)
原著者
Shinigami.Eyes
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2025年11月18日火曜日

禍話リライト「耳なし芳一」

バスの画像

Aさんという女性が体験した話。当時、Aさんはバス会社に勤務しており、バスガイドの仕事をしていた。

そのバス会社では、バスガイドが「耳なし芳一」の話を語る機会が多かった。バスツアーで平家に縁のある土地を通るときに、子供向けに「耳なし芳一」の話をするのである。普通に語ってもさほど怖い場面が無く、語りには様々な工夫が必要だった。Aさんは新人で、上手くコツを掴めずにいた。

バス会社にはBさんという先輩がいた。Bさんは真面目でストイックな性格であり、後輩の面倒見も良かった。BさんはAさんが悩んでいる様子を見兼ねて、テープレコーダーで自分の語りを録り、Aさんにテープを渡した。翌日は休みだったため、Aさんは語りの練習をすることにした。

Aさんは一人暮らしだった。テープを聞きながら練習を重ねているうちに時間が過ぎていった。事が起こったのは、草木も眠る丑三つ時の頃。

Aさんは「耳なし芳一」の後半部の、平家の亡霊が芳一を探す場面を練習していた。テープからはBさんの声が流れていた。

亡者が芳一の名を何度も叫ぶ。それから、少し間を開けて、恐ろしげな声で芳一の名を呼ぶ。

「芳一、芳一……芳一!」

Aさんは最後のタメが重要なのかと得心した。感覚を掴むため、その部分を繰り返し再生した。

「芳一、芳一……芳一!」

「芳一、芳一……芳一!」

何度もテープを聞いているうちに、Aさんは違和感を覚えた。最後の「芳一!」と叫ぶところで、スピーカー以外からも声が聞こえる気がする。声が重なって聞こえる。

「芳一、芳一……芳一ィ!」

「芳一、芳一……芳一ッ!

Aさんは徐々に気味が悪くなってきた。夜も遅いことに気付き、練習を切り上げて床に就くことにした。

翌日のこと。Aさんが朝の支度をしていると、バス会社から電話があった。

Bさんが自殺した、という連絡だった。

AさんはBさんが自殺する理由が思い当たらなかった。通夜に出席し、遺族から話を聞いてみると、Bさんの真面目な性格が災いしたらしいことが分かった。

Bさんの部屋からは日記が見つかった。几帳面なBさんは日記を毎日綴っていた。その日の失敗と反省を毎日書いていた。客観的に見れば、失敗というほどでもないことまで、Bさんは自分の責任としていた。そんな習慣を続けて自分を追い込み、ついには発作的に死を選んでしまったのだろう。

Bさんが亡くなったのは、ちょうどAさんが奇妙な体験をしていた頃のことだった。Aさんは虫の知らせというものかもしれないと思った。

Bさんの遺族の一人に話好きの人がいた。その人物はAさんにBさんの死の状況を事細かに教えてくれた。

Bさんは風呂場で左手首を切って死んだらしい。ただ、異常があったのは左手だけではなかった。右腕の手首から肘のところまでを、黒のサインペンでのたくった文字が書かれていた。文字はびっしりと書き殴られており、まるでお経のようだった。

Aさんは恐ろしくなり、通夜から帰った後にテープを捨ててしまったそうだ。バス会社も「耳なし芳一」を語るのを止めてしまったという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

かぁなっきさんが学校の先生から聞いた話だそうです。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 第3夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

禍話リライト「解説こっくりさん」

教室の中、着物を着た少女の画像。目が隠れている。

Aさんという女性の体験談。

その日、Aさんは小学校の同級生だったBさん、Cさんと一緒に買い物を楽しんだ。その夜にお洒落なレストランで食事をしていたときのことである。

小学生時代の思い出話に話題が移り、当時流行っていた「こっくりさん」の思い出話になった。 今思えばほとんどは言葉になっていなかったが、たまに意味が通る言葉になって怖かった、というような話になった。 Aさんはふとあることを思い出した。

「そういえば、こっくりさんをやっていると、女の子が来て、解説みたいなことをやっていたよね。これはこんな意味があるとか、そんなことを言っていてさ。あの子って誰だったの? 隣のクラスの子だと思うんだけど、BちゃんかCちゃんの友達?」

すると、Bさんが不審そうな面持ちで言った。

「そんな子いたかな。いなかったと思うけど」

CさんもBさんに同意した。しかし、Aさんには間違いなく解説役の子の記憶があった。

確か、こっくりさんを始めた最初の頃にはいなかった。いつの間にかこっくりさんのときはいつも同席するようになっていたはずだ。 夕暮れの教室に、いつもその子がどこからともなく現れて、何か妙なことを言っていた。毎回、こっくりさんを始めるときに「今から私が███を務めます」と宣言していた。 一体、何を務めると言っていたか……。

「確か同年代の子だったよ。あの子、Bちゃんの友達じゃないの?」

「違うよ。絶対にそんな子はいなかった」

「そうそう。怖いこと言うのやめてよね」

結局、BさんとCさんは解説役の子はいなかったと言って譲らなかった。しかし、Aさんは話を続けるうちに記憶が徐々に蘇っていった。記憶の中で、解説役の子が実在していたことは確固たる事実になっていった。

食事を終えてBさん、Cさんと別れた後の道すがら、Aさんは解説役の子がこっくりさんを始める前に宣言していた言葉を思い出した。

「今から私が審神者 (さにわ) を務めます」

さにわ。Aさんにとってはあまり聞きなれない言葉だった。意味を調べてみると、背筋に寒気が走った。

審神者。神様のお告げを聞き、神託を解釈する役職。

解説役の子は一体、何のつもりで審神者を務めると発言したのか。Aさんはこれ以上は記憶を遡らない方が良いと判断し、こっくりさんのことは考えないようにして家路を急いだ。

帰宅すると、Cさんから電話がかかってきた。

「もしもし」

「Cちゃん? 今日は楽しかったね」

「楽しかったじゃないよ」

Cさんはどういうわけか怒っていた。身に覚えがなく、Aさんは困惑した。

「ごめん。私、何か変なことでも言った?」

「Bちゃんが覚えていないのは、そういうことだからさ」

「え?」

「だから、Bちゃんが覚えていないのは、そういうことなんだよ。思い出したら良くないことが起こるでしょ。もうBちゃんの前であの話はしないでね」

Cさんは一方的に捲し立てると、そのまま電話を切った。

それ以来、AさんはBさん、Cさんと個別で会うことを避けるようになった。同窓会などで大勢で会うときは気にしないようにしているが、三人で集まることはなくなった。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍ちゃんねる 平成最後の怖い話スペシャル (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

禍話リライト「舐婆」

病院内部の画像

Aさんが幼稚園に通っていた頃の話。Aさんには弟にまつわる嫌な思い出がある。

弟が生まれ、Aさんは病院の産婦人科で弟と対面することになった。初めて会った弟はとても愛らしかったことを覚えているという。

ふと気が付くと、Aさんと乳児用のベッドで眠る赤ん坊たち以外は誰もいない時間があった。乳児が眠る部屋で、大人が誰もいないことは普通はあり得ない。看護師か誰かが一人はついているだろう。子供ながらにどこか居心地が悪かったことをAさんは記憶している。

そんな折、看護師用の出入り口から誰かが出てきた。それは誰とも知れない老婆だった。老婆は背がかなり曲がっていた。格好からして間違いなく看護師ではない。自分のように、新しい家族に会いに来た人なのだろうかと思っていると、老婆はAさんの弟の元に真っ直ぐに向かっていった。そして、屈み込んで、弟の顔を舐め始めた。

老婆は一心不乱に弟の頬を舐め回している。幼いAさんはただ茫然と眺めることしかできなかった。弟の頬から唾液の糸が伸びるのを見て、Aさんはやっと我に返った。Aさんは咄嗟にナースステーションへ駆け込んだ。顔馴染みの看護師を呼んで、状況を説明した。

それからは大騒ぎになった。Aさんの弟の顔には、何者かの唾液が付着していた。本来、一人はついていなければならない看護師が、何故か全員に別の仕事が入っていた。 監視カメラで不審人物がいないか確認したが、怪しい人物は誰も映っていなかった。唾液という物的証拠があるため、何者かが狼藉を働いたのは間違いないのだが、誰の仕業だったのかは全く分からなかった。

その後は奇妙な出来事は起こらなかった。弟はすくすくと成長し、二十数年の月日が流れた。弟は独身だが、恋人を作る気配もない。弟にはある思い出があり、誰かと付き合う気になれないのだという。

その思い出は朧気ながら、幼いときのことらしい。眠っていて、ふと目が覚めると、どこからかお姉さんが現れた。お姉さんは美しい人で、自分にキスをしてくれた。弟はそのお姉さんの顔が忘れられないのだそうだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 十六夜 佐藤復活祭 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
佐藤実様

禍話リライト「保健室での譫言」

竹林を背景に、靴を履いた足の画像

Aさんという女性が中学生の頃に体験した話。

Aさんのクラスには、Bくんという人気者の男の子がいた。Bくんは運動が得意で、スポーツ推薦で進学先が決まっていた。

ある日、Bくんはドッキリを仕掛けることになった。奥手の女の子に愛の告白をするというものだ。運悪く標的に選ばれたのはAさんだった。Aさんに過失があったわけではない。その場の勢いで決まってしまったらしい。

その日は金曜日だった。Aさんは恋愛には疎く、Bくんからの嘘の告白を聞いて舞い上がってしまった。Bくんに明日に返事を聞かせてほしいと伝えられ、浮かれた気分のまま帰宅した。ドキドキしてあまり眠れないまま夜を過ごし、翌日の土曜日。授業を終えた後、Bくんに告白の返事をした。その瞬間、隠れていたBくんの友人たちが飛び出して、ネタばらしを始めた。AさんはBくんたちと一緒になって笑おうとしたが、上手く笑えなかった。それどころか、涙が溢れてきた。泣き笑いの表情のまま、Aさんは教室を飛び出した。

その日は雨が降っていた。Aさんは学校を出て、傘も差さずに帰り道を走った。そのうちに足が止まり、ついにはしゃがみ込んでしまった。涙と雨でずぶ濡れになっているところを、Aさんの友人たちが駆け寄ってきた。友人たちは事情を知って憤慨し、どこかへ走り去ったAさんを探していたのである。友人たちはAさんを慰めながら家まで送り届けてくれた。

休みが明けて月曜日、Aさんは重い体を引きずるようにして登校した。びしょ濡れになったせいで、風邪を引いてしまったのである。 担任の先生は明らかに体調が悪そうなAさんを心配し、保健室で熱を下げてから帰宅するように指示を出した。保健委員の生徒がAさんを保健室まで送り届けた。

保健室には養護教諭の先生がいた。先生はAさんに解熱剤を飲ませ、ベッドに寝かせた。先生はカウンセリングも担当していたためか、ドッキリがあってAさんが酷く傷ついたことも把握していた。Aさんは高熱に苛まれながら、ベッドの上で譫言を言った。

「先生、キティちゃんって本当につらいですよね」

「先生、ドラえもんっていつも宙に浮いていて大変ですよね」

訳の分からないことを言ったが、先生は「そうね、そうね」と優しく返事をした。 Aさんが譫言を言い、先生は優しく返答する。そんなことを繰り返しているうちに、Aさんは自分が何を言っているのか分からなくなってしまった。何を言っても先生が頷いてくれたことしか覚えていなかった。 ひたすらに先生に話しかけて、先生はただただ肯定する。そんな時間が続いた。

あるとき、不意に廊下が騒がしくなった。先生も「ちょっとごめんね」と断ってから保健室を出ていった。Aさんはその後も無人の保健室の中で譫言を呟いていたが、そのうちに眠ってしまった。

しばらくして目を覚ました。保健室の中にはまだ先生はいなかった。微熱は残っていたものの、体調がある程度は回復したため、家に帰ることにした。帰宅の準備を進めていると、保健の先生が帰ってきた。先生はAさんに体調はどうか聞いてきたが、慌しげで心ここにあらずといった様子だった。Aさんはまだぼんやりとしていたため、先生の様子を気に留めなかった。Aさんは熱が下がったため帰ると伝え、保健室を出た。学校の中は騒然としていたが、Aさんは夢か現かも分からないような心地で学校を後にした。

帰宅後、Aさんはもう一度ひと眠りし、夜には平熱になっていた。これで明日も学校に行けると思っていると、Aさんの友人から電話がかかってきた。友人に体調が完全に回復したことを伝えると、友人はあまり聞きたくない名前を口にした。

「知ってる? Bくん、大変なことになっていたんだよ」

聞いてみると、体育の授業で大事件が起きていたことが分かった。体育の授業は学校の周りを走るというもので、Bくんは友人たちと一緒に走っていた。ふざけながら走っていたものだから、Bくんは何かの弾みで転んでしまった。転んだ先は竹林で、切断されて先が尖った竹があった。不運なことに、Bくんは竹で脚を切ってしまい、重傷を負った。動脈は避けていたため、大量に出血したものの、命に関わる怪我にはならなかった。ただ、その怪我が原因で激しい運動ができなくなり、スポーツ推薦は取り消されてしまった。

Aさんは事件を知り、さすがにBくんを哀れに思った。ただ、わざわざ慰めの言葉をかける気にはならなかった。

それから時が経ち、Aさんが大学生になった頃のこと。Aさんは街中で偶然に保健の先生に出会った。久方ぶりの出会いを喜び、二人は喫茶店に入った。話題は自然とBくんの怪我の話に移った。

「あのときはびっくりしたね」

「そうですね」

Aさんもドッキリの件は流石にもう気にしていなかった。今となっては単なる思い出である。

「あのときは怖かったよ」

「えっと、竹が危険、って話ですかね」

保健の先生は声を潜めた。

「もう、ずっと誰にも話さなかったから、言ってもいいと思うのだけどね……」

Aさんが保健室のベッドの上で譫言を言っていたときのことだ。Aさんは取り留めもない話を延々と続けて、先生は肯定的な返事を繰り返した。ただ、あるときを境に、Aさんは竹の話ばかりし始めた。

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

……

保健の先生は話を続けた。

「なんでこんなに竹に拘っているんだろうと思っていたら、あの事件が起きてね。先生、怖かったよ。でも、誰にも言っちゃいけないと思って、今まで話さなかったんだ」

Aさんも心底恐ろしく思った。同時に、誰にも話さないでいてくれた先生に感謝した。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送、「嘘告白」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

2025年11月15日土曜日

禍話リライト「棒の手紙」

山積みの手紙の画像

「不幸の手紙」というものがある。いわゆるチェーンメールの一種だ。送り主が書かれていない手紙が届いて、文面を見ると「この手紙と同じ内容の手紙を1週間以内に10人に出してください。そうしないと不幸になります」と書かれている。この内容を信じた人が手紙を書き写してポストに投函し、それを受け取った人が同じように書き写す。そんなことを繰り返していくうちに、徐々に手紙が広がっていく。もちろん、大抵の場合は単なる悪戯であり、手紙を無視しても何も起こらない。

「不幸の手紙」と関係する話で「棒の手紙」というものがある。字が下手な人が手書きで「不幸の手紙」を書き写すと、「不幸」が横に潰れて「棒」のように読めてしまう。その手紙を受け取った人が、「不幸」を「棒」と読み間違えて、「棒の手紙」を書き写して知り合いに送ってしまう。こうして、「この手紙を信じなかったせいで、これまで325人が棒になりました」という文面の奇怪なチェーンメールが誕生する。尤もこれは単なる笑い話であり、冗談に過ぎない。ただ、Aさんにとっては冗談では終わらなかった。

Aさんも子供の頃に、「棒の手紙」を受け取ったことがある。下校のときに下駄箱に「棒の手紙」が入っていた。字の癖から推察するに、クラスメートの女子が書いたものらしいと分かった。Aさんは迷信は信じない質で、鼻で笑って「棒の手紙」を破り捨てた。

帰宅後、Aさんは母親の手伝いで、ベランダに干していた洗濯物を取り込んでいた。すると、家の外から友人の声が聞こえてきた。 どうやら、友人が遊びに来たらしい。Aさんは腕を振って友人の呼び声に応えた。すると、友人は叫び声を上げて逃げ出してしまった。

どうして友人は逃げたのか。自分が何か変なことでもしたのか。Aさんには全く身に覚えが無かった。翌日、Aさんは登校した際に友人に話を聞いてみることにした。

Aさんが教室に入ると、友人はバツが悪そうな顔でAさんを見た。怯えているようにも見えた。声をかけてみると、友人はおずおずと口を開いた。

「昨日、お前んちに遊びに行ったんだけどさ」

「知っているよ。俺、ベランダで腕を振っていただろ」

「あれはお前だったのか」

友人は逡巡した後、話を始めた。

「お前んちのベランダに、長い棒みたいなのが立っていたんだ」

あのとき、友人がベランダに見たものは、Aさんの姿ではなく、長い棒だった。棒には瘦せ細った枝が手足のように生えていた。棒は枝の一本を振り上げて、左右に大きく揺らした。まるで手を振っているかのように見えて、友人は恐ろしくなって逃げ出した。

その日、Aさんは棒になっていたのである。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様

2025年11月13日木曜日

禍話リライト「コンビニに来たカップル」

山中に佇む男の絵

Aさんがコンビニでアルバイトをしていたときに体験した話。

夜、Aさんは普段通りアルバイトに勤しんでいた。田舎のコンビニで、客はたまにしか来なかった。アルバイトはもう一人いたが、裏の控室で休憩していた。

あるとき、カップルの客が来店した。カップルはいかにも今時の若者といった風体だった。田舎のコンビニに若いカップルが来ることは珍しい。カップルは「お前は可愛い」だの「愛している」だのといちいち囁き合っていた。よく見ると、二人の顔は異様に白く見えた。化粧にしてはやけに青褪めているように見えると思った。

カップルはいかにも若者が買いそうな、ごく普通のものを買っていった。どういうわけか、カップルは全額をわざわざ小銭で支払った。五百円玉一枚と百円玉数枚、十円玉数枚、一円玉数枚。千円札を一枚出せば済むはずだ。Aさんは訝しく思いつつも、「ありがとうございました」とお辞儀をした。頭を下げる途中で、カップルがドアチャイムを鳴らしながらコンビニを出ていく姿が見えた。

顔を上げたとき、Aさんは再び疑念を抱いた。出入口からはガラス戸越しに駐車場が見えるが、車は一台も駐車していなかった。カップルの姿も無かった。お辞儀をしているだけの短い時間に車を出せるわけもない。

Aさんが駐車場の方を眺めていると、店の裏からもう一人の店員であるBさんが慌てて駆け込んできた。

「おい、大丈夫だったか」

Aさんが困惑していると、Bさんは事情を説明した。このコンビニの控室では監視カメラの映像を流している。Bさんは一部始終を監視カメラから見ていた。

Aさんがカップルの客が来たと認識したとき、Bさんもドアチャイムの音を聞いた。こんな時間に客が来るとは珍しいと思いつつ監視カメラの方を見た。しかし、店内にはAさんしかいなかった。ドアチャイムはセンサーの誤作動だろうかと思っていると、ジュースの冷蔵棚が一人でに開いた。驚愕して映像をよく見てみると、カメラに映らない何者かが店内を物色しているようだった。Aさんが誰もいない空間に接客している様子を見て、Bさんは恐怖に震えることしかできなかった。ドアチャイムが再び鳴り、謎の客が出ていったようだったから、ようやくAさんの元に来ることができたのである。

Aさんはカップルが来ていたと説明した。BさんはAさんの声しか聞こえなかったと返答した。普段であれば、裏の控室にも客の声は届く。そうなると、あのカップルは何だったのか。まさか、田舎だから狐や狸に化かされたのではないか。二人はレジの中を確認した。昔話ならば、小銭が葉っぱに変わっていたところだろう。

しかし、レジの中に入っていたものは、まさしく小銭だった。ただ、異様に錆びて劣化していた。硬貨であることが識別できたのが不思議なほどだった。まるで土の中に何年も埋められ、雨水の侵食を受けたかのような有様だった。先程は普通の小銭に見えていたにも関わらず。

二人は驚愕して顔を見合わせた。気味の悪い小銭をどう扱えばいいものかと思案し合っていると、明け方になって店長が戻ってきた。二人は店長に事情を説明した。店長は訳知り顔で頷いた。

「君らがバイトに来る三、四年前くらいのことだったかな」

夜に店長が一人で客を待っていると、今時のカップルが来店した。口数が乏しく、どことなく暗そうな様子だったのが印象に残った。カップルは買い物を済ませて店を出ると、車で山の方へ向かっていった。山の方にはキャンプ場などのレジャー施設があるわけではない。店長は不自然に思った。

数日後、コンビニに警察が訪ねてきた。警察官は店長に写真を見せた。まさしく例のカップルの写真だった。警察官は、カップルは親から交際を反対されていた、男の方が危険なところから借金をして返済できなくなったと説明した。カップルは友人に死ぬとメールを送り、そのまま失踪したという。

店長が警察に情報を提供してからしばらくして、カップルは山中で変わり果てた姿となって発見された。無理心中だったのかははっきりしなかったそうだ。男の死体はすぐに見つかった。しかし、女の死体は土に埋められていた。

Aさんは店長の話を聞いて、一つ思い出したことがあった。

小銭を出したのは女の方だったのである。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

紙幣は劣化して使えなかったのでしょうね。

作品情報
出自
震!禍話 第五夜 (禍話 @magabanasi放送、「汚客さん」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

2025年11月6日木曜日

【禍話リライトまとめ】投稿日順ページ追加、ファンアートまとめ、朗読まとめなど

禍話まとめのイメージ

現在、禍話リライトを網羅したまとめを編集しています。 本稿は最近の大規模な更新内容を紹介します。

投稿日順ページ追加

リライトや二次創作を投稿日順に並べたページを作成しました。まとめデータに登録されたすべての作品を網羅しています。リライトの歴史を総括したページ、とも言えるかもしれません。言えないかもしれません。

このまとめページを利用する際には、注意が必要な点があります。noteのリライトを優先して登録していることです。

例えば、このまとめではドントさん「アイスの森」のリライト投稿と書かれています。この投稿日はnote版のもので、ブログ版の投稿日はです。

リライトの歴史を総括したページ、と声高に主張するには難があります。リライトのオリジンを探るなどの用途には使いにくいです。 大学の卒業研究や夏休みの自由研究で禍話を調査する際にも参考になると思いますが、利用の際は注意しましょう。

ファンアートまとめ拡充

リライトまとめでは、ファンアートの類も登録しています。これまでは、noteやpixivで投稿されているファンアートしか扱っていませんでした。 最近になってようやく、XやYouTubeで公開されているファンアートも登録しました。 現在、以下のジャンルのファンアートのまとめがあります。

pixivとXは通常の検索、YouTubeはAPIによる検索で作品を探しました。 XとYouTubeは検索機能が貧弱です。「禍話」と検索したところで、「禍話」に関連する投稿の一部しかヒットしません。 すべての作品を網羅するのは不可能に近いです。自薦他薦を問わず、まとめるべきファンアートがあればご報告頂けますと幸いです。

朗読まとめ拡充

最近になって、朗読のまとめも登録数を増やしました。

元はnoteに記事があったばけねこ3さんの朗読動画だけ登録していました。今はかなりの数の朗読動画を登録しています。動画の作成者本人の肉声による朗読が多いです。少数ですが、VOICEROID、CeVIO、AquesTalk (ゆっくり) などの機械音声によるものもあります。

前述の通り、YouTubeのAPIを叩いて動画のデータを収集しました。ただ、APIを経由しても、一部の動画のデータしか返してくれません。すべてを網羅するのは厳しいというのが現状です。かなりの抜けがあることを確認しています。より効率的な情報収集方法を見つけない限り、朗読動画のまとめがこれ以上拡充する日は来ないと思ってください。

時刻データの修正

地味な変更ですが、時刻データの管理方法を修正しました。これまでは日付と時刻が揃ったデータは正しく扱えました。しかし、日付だけのデータや、秒が欠けたデータは正しく扱えないという問題がありました。例えば、これまでは「2025年11月4日」のデータは「2025年11月4日0時0分0秒」と区別がつきませんでした。

現状は修正されています。時刻が無いデータは、「0時0分0秒」のデータとは全くの別物として扱えます。前述の投稿日順のまとめのように、リライトを投稿時刻順に並び替えてまとめを作ることは頻繁にあるため、この修正は地味ながら重要でした。

ドラマ、舞台、「まがまが大宴会!」などのページを追加

以下のまとめページを追加しました。 「ドラマ、舞台」以外は、「禍話 簡易まとめWiki」にある同名のページに対応しています。

「ドラマ、舞台」はファンアートや脚本などが登録されています。それ以外のページはリライトが全く登録されておらず、時刻データ修正よりも地味な更新です。 せいぜい、「四次元怪奇バラエティーGAGOZE」にマルノくんの話があったことを言及している程度です。

2025年10月19日日曜日

禍話リライトを網羅したページを更新し、シリーズ分類機能を追加しました

現在、禍話リライトを網羅したまとめを編集しています。

先日の記事で「ほぼ完成」と書いてそこまで日は経っていませんが、ここ数日にかけて大規模な更新を行いました。シリーズごとに分類する機能を追加しました。

今回、シリーズごとにまとめたページとして、下記を追加しました。

ここでの「シリーズ」とは、禍話で語られた話のうち、関連性があるものをまとめたものです。 例えば、「怪談手帖」のまとめページでは、余寒様提供の「怪談手帖」の話のリライトをまとめています。 「こっくりさん禁止の学校」のまとめページでは、こっくりさんが校則で禁止されている某学校を舞台とした話のリライトをまとめています。 「ネンネシナ」に代表される、いわゆる「ネンネ式」の話もまとめています。

下記の図に示すように、何らかのシリーズに属する話は、どのシリーズに属するかを右隣に記載しています。 この部分はリンクになっており、シリーズごとにまとめたページに移動します。

まとめページのスクリーンショット
右上の「こっくりさん禁止の学校」から「こっくりさん禁止の学校」シリーズのまとめページに移動できます。

ただ、このシリーズごとの分類機能には多数の課題が残っています。 どのシリーズに属するか判断するには、題名に明記されているものを除けば、禍話の放送を聞くしかありません。 放送を聞いても、明確には判断がつかないこともあります。 正直に申し上げますと、私は不真面目なリスナーで、気が向いたときにしか禍話を聞きに行きません。 どちらかと言えば、リライトを読むことに比重を置いています。 聞いたことがある放送についても、すべての話の内容を覚えているわけではありません。 そのため、シリーズに分類し損ねている話もあれば、逆に間違ってシリーズに分類してしまっている話もあるでしょう。 大変情けない話ではありますが、もし誤りがあれば、コメントなどで報告頂けますと幸いです。

そのような事情もあり、いくつかのシリーズをピックアップして、現状と課題について詳しく説明しようと思います。

〇〇の家

禍話では「〇〇の家」という形式の題名の怖い話が数多く存在します。「〇〇の家」のまとめページでまとめています。

放送中では、「 (まが) ホーム」と呼ばれています。 ただ、「〇〇の家」という形式の題名ではない話でも、放送中で「禍ホーム」であると言及されたものがあります。 逆に、「〇〇の家」という形式の題名でも、放送中で「禍ホーム」ではないと説明されていたものもあった記憶があります。

現状、まとめページではどちらのケースにもごく一部しか対応できていません。 実質的には、「〇〇の家」という題名の話を集めたリストにしかなっていません。

マルノミヤコくん

「マルノミヤコくん」のまとめページでは、「マルノミヤコ」を名乗る人物がかぁなっきさんに投稿した怖い話をまとめています。 ただ、「マルノミヤコ」さんはかぁなっきさんたちが創作した架空の人物です。 普通に考えれば、誰かが「マルノミヤコ」の名を騙っているということになりますが、果たして……。

「マルノミヤコくん」の初出は「震!禍話 第九夜」です。 この放送で「マルノミヤコ」を名乗る人物が送った怖い話が語られます。 「放送室」、「ラブホ」などはかぁなっきさんが明言していたため、「マルノミヤコ」提供の話と確定しています。 「リヤカー」や「休憩室」も「マルノミヤコ」提供の話だったのかもしれませんが、放送の内容を聞く限りでは曖昧です。

この放送の最後 (1;58:10辺り) に、まだ語っていない「マルノミヤコ」提供の話として、下記が挙げられています。そのうちの2話はどの話か推測できました。 残りの2話は見当がつきませんでした。そもそも語られていない可能性もあります。

「赤いクレヨン」の新しいバージョンの話
どの話か分かりませんでした。
洞窟内のお祭りの話
震!禍話 十二夜」の「洞窟の祭り」の可能性があります。この話はゲーデルさんによるリライトがあります。ただ、「震!禍話 十二夜」中で、かぁなっきさんが体験者と直に話をしたと発言しているため、「洞窟の祭り」はマルノくん提供ではない可能性の方が高いです。
ビルのスキマのヒロミさんの話
震!禍話 第十夜 佐藤君スペシャル②」の「ビルのスキマのヒロミさん」で間違いないでしょう。邪魅さんゲーデルさんによるリライトがあります。
教頭室の看護婦さんの話
どの話か分かりませんでした。はっきりとは聞き取れなかったため、「教頭室」ではないかもしれません。

禍話関係者の体験談

禍話では、関係者の体験談が語られることがあります。 シリーズとして体験談をまとめようと考えていました。ただ、数が多すぎて断念しています。

公開しているJSONファイルには、一部に「かぁなっきさん」、「加藤よしきさん」、「皮肉屋文庫さん」というように名前のデータが含まれるものがあります。これはこの計画の痕跡です。

そもそもの話

ここまで読んでくれた奇特な方であれば、こう思うでしょう。 「個人のブログに公開するのではなく、Wikiにリライトまとめを作って、不十分な箇所は集合知を当てにすればいいのではないか」と。ご尤もです。 ただ、あくまで自分の管理下に置いておきたいというわがままで、自分のブログに公開しています。

まとめを作る際に使用したJSONのデータを公開しています。このデータの利用は一切制限していません。 独自のリライトまとめを作ってブログに公開するも良し、Wikiを作るも良し。 私自身、うっかり頓死したり、唐突に禍話に対する興味を失ったりする可能性もあります。 そのときは、JSONデータを元に誰かがまとめを引き継いでいただけますと幸いです。

実を言いますと、元々は、私がリライトを行うときの参考にするために、このリライトまとめを作成しました。 リライトを書くのであれば、誰もリライトを書いていない話を選びたいと思っていたためです。 今回のシリーズ分類機能は、埋もれた名禍に光を当てることにも役立つと思います。 皆様にこのリライトまとめをご活用いただけますと幸いです。

禍話リライト「蝋燭の男」

竹林の中で蝋燭を持つ手の画像

かぁなっきさんが2018年12月の放送で、5年ほど前に聞いたと前置きして語った話。

ある日、仲の良い友人同士で集まってドライブに出かけたときのこと。男だらけでむさ苦しいが、気ままで楽しい時間だった。

夜の山道を走っていたとき、Aさんという人がトイレに行きたいと言い出した。

「できれば奥まった場所がいいかな、なんて」

「近くにコンビニなんてねぇぞ」

運良く車を停められそうな場所があった。辺りは竹林が広がっており、筍取りに来る人が駐車場の代わりに使っていそうな場所だった。 停車すると、Aさんは車を出て、慌てて走っていった。

車に残された友人たちは、そこら辺ですりゃいいのに、馬鹿だなと軽口を叩いた。 すると、Aさんはすぐに戻ってきた。あまりにも早すぎる。さすがに用を済ませたとは思えない。

車に飛び乗るや否や、Aさんは絶叫した。

「逃げろ。早く出せ。早く」

よく見ると、Aさんはズボンを濡らしていた。運転手も絶叫した。

「ふざけんな。新車だぞ」

「逃げろ。早く、早く」

「逃げろって、何からだ」

「後ろ見ろ、後ろ」

Aさんの必死の叫び声を聞いて、彼らは振り返った。すると、揺らぐ小さな明かりが見えた。目を凝らすと、明かりの正体は蝋燭だった。蝋燭の火がかなりの速さで竹林の中を移動していた。

揺らめく炎は車に近付いていき、それにつれて、蝋燭が移動する理由が分かってきた。着物姿の中年ほどの男が、火のついた蝋燭を持って、竹林を走っていたのである。

男の着物は薄手で、竹の枝で切り傷を負いそうな格好だったが、男は意に介していないようだった。 不思議なことに、かなりの速度で走っているにも関わらず、蝋燭の火は消えることがなかった。

蝋燭の火と謎の男の姿を見て、車内は騒然となった。運転手は急いで車を発進させた。 車を走らせているうちに、蝋燭の火は遠くなっていき、しまいには見えなくなった。 運転手は車を路肩に停めた。彼らはひとまず冷静になり、Aさんから事情を尋ねることにした。

「急に出てきたんだ。あのオッサン、絶対にオバケだ」

Aさんが用を足している最中に、先程の男が唐突に現れたという。人が走っているような物音は聞こえなかったそうだ。 竹林の中を走っていれば、体が枝や葉に当たって、普通は何か物音がする。 何の音もせず、ただ蝋燭の火と、奇怪な男の姿だけが見えた。Aさんは身を震わせながら、そのように説明した。

思わぬ災難に遭い、車内には重苦しい空気が充満した。 皆が沈黙している中、Bさんという男がおずおずと口を開いた。

「あのオッサン、走ってきたよね。こんなところに停めていたら、そのうちに追いつかれるのでは」

「結構離れたし、大丈夫でしょ。蝋燭の火も見えないし」

Bさんの表情は晴れなかった。

「でも、蝋燭の火を隠して、闇に紛れているかも。夜だから、蝋燭の明かりが無いと、見えないだろうし」

Bさんの懸念は当たっていた。突如、車の近くで蝋燭の明かりが出現した。Bさんの想像通り、男は蝋燭の火を隠して忍び寄っていたようだ。

車内は再び恐慌に陥った。運転手は発進しようとするが、慌てているためか、上手くエンジンがかからなかった。 不運なことに、運転手は喫煙者だったため、運転席の窓を開けっ放しにしていた。蝋燭の男は運転席の方に駆け寄ってきた。 男は何か話しかけていたようだが、皆の絶叫で男の声はかき消された。

「早く出せ。早く」

「来てる。来てるぞ」

間一髪のところで、車のエンジンがかかった。車は猛スピードで山中の道を進んでいき、蝋燭の火は見えなくなった。 車を走らせているうちに、車は街に辿り着いた。人々の日常の営みを示す明かりに照らされて、彼らはまるで生き返ったかのような心地がした。安堵のあまりか、車内を軽口が飛び交った。

「B、お前が余計なことを言うからだろ」

「俺が言ったおかげで気付けたんでしょ。俺のおかげだよ」

「元はと言えば、あんな近くで車を停めたのが悪い」

彼らが運転手を見ると、相変わらず落ち込んでいるようだった。Aさんが声をかけた。

「ごめん、変なことに巻き込んで」

運転手の顔は青褪めていた。

「そうじゃない。俺、聞いたんだ」

蝋燭の男が運転席に駆け寄っていたとき、運転手には男の姿が明瞭に見えた。男は蝋燭を燭台に乗せずに、素手で掴んでいた。 窓を開けていたため、男の声もはっきりと聞こえたのである。

「なんで熱くならないか、分かる?」

「なんで熱くならないか、分かる?」

男はその言葉を繰り返していたという。

九州の山奥での出来事である。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

どことなく既視感を覚えた方もいると思います。この話の数年後に語られるのですが、「禍話アンリミテッド 第二十二夜」(2023年6月17日) で朗読された忌魅恐NEO「思ったほど熱くなかった話」と共通する要素があります (高橋知秋様のリライトを参照)。何か関係があるのでしょうか。

なお、元の朗読は若干汚い表現が多いです。放送を聞く際はご注意ください。どのような内容かは察してください。

作品情報
出自
禍話R 第七夜 (禍話 @magabanasi放送、「ロウソクの男」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
佐藤実様

禍話リライト「髪ゼリー」(「こっくり譚」より)

この話は、読んだ人に影響が出る可能性があります。大事には至らないらしいですが、ご注意ください。

仰々しい色のゼリーの画像

髪ゼリー

年号がちょうど昭和から平成に変わる頃の話。その時期、学生のAさんたちは定期的にこっくりさんで遊んでいた。

ある日の教室でのこと。Aさんは友人のBさんをこっくりさんに誘ったが、断られてしまった。Bさんにしては珍しい。人数は足りていたため支障はないが、AさんはBさんに理由を尋ねた。しかし、初めのうちは言葉を濁すばかりで、はっきりとは答えてくれなかった。

「ちょっと嫌なことがあって。次からも参加しないかも」

「どうしたの。こっくりさんやってて怖いことでもあったの」

「そういうわけじゃないけど、もしかしたら関係しちゃうかもしれないし」

どうやら、こっくりさんとは無関係ではあるが、怖い目に遭ったらしいことが分かった。Bさんが恐れていたことは、こっくりさんそのものではなかった。こっくりさんを遊んでいるときに、関係する何かが起きてしまうかもしれない。恐怖体験に続きが来てしまうことを恐れていた。

詳しく話を聞きたいと頼んでみると、BさんはAさんをベランダに連れ出した。二人以外には誰もいなかった。

「他の人には聞かれたくないし……」

そして、Bさんは躊躇いながらも口を開いた。それは夢の話だった。

夢の中、Bさんは自宅のダイニングルームにいた。目の前のテーブルには大きなゼリーが置かれていた。とても大きく、美味しそうだった。

ゼリーは右隣の家の人が手作りしたものという認識だった。実際には、右隣に家は無く、誰も住んでいない。夢の中だったからか、疑問には思わなかった。

さっそくゼリーを食べようとしたが、よく見ると異物が混ざっていた。長い髪の毛だ。2、3本の髪の毛がゼリーに混ざっている。

もう、手作りってのはこれだから……

Bさんは髪の毛を引き抜き、隣にあった皿の上に除けた。ゼリーを食べていると、母親が声をかけてきた。

「どうしたの。怒っているみたいだけど」

母親の方に顔を向けた。

「ゼリーに髪の毛が入ってたんだよ」

視線をテーブルに戻すと、数本しかなかったはずの髪の毛が、束になっていた。明らかに異常だったが、夢の中だったからか、さほど気に留めなかった。

そのうちに妹が帰宅した。

「お姉ちゃんばっかりズルい。私もゼリー欲しい」

妹の方に顔を向けた。

「いやでも、髪の毛入ってたからさ……」

そう言って視線をテーブルに戻した。すると、人の頭ほどの量の髪の毛があった。一塊の長い髪の毛が、こんもりと山を作っている。夢の中とはいえ、さすがに異常に気が付き、血の気が引いた。

唖然としていると、外から車の音が聞こえた。どうやら父親が帰ってきたらしい。車の音に釣られて、ついガレージの方を向こうとして、ふと思った。

よそ見をしてから、テーブルの方を見る。そんなことを繰り返しているうちに、髪の毛が人の頭になっているのではないか。髪の毛の塊に、人の顔が付いているのではないか。

Bさんはテーブルから目を逸らせなくなった。道理に合わない発想だったが、夢の中ならではの条理を超越した直観だったのかもしれない。ただ、抵抗は長くは続かなかった。

「ただいま」

父親の声が聞こえた。Bさんはつい父親の方に顔を向けてしまった。そして、自分が失態を犯したことに気が付いた。

どうしよう。もうテーブルの方を見れない。どうしよう。

幸いにも、慌てているうちに夢から覚めた。

Aさんは奇妙な夢の話を聞かされて困惑した。

「怖いね。怖い。でも、ただの夢じゃない?」

「多分、あれは女の人の頭だよ」

「やめてよ、変なこと言わないで」

Aさんは、確かにBさんはこっくりさんを遊ばない方が良いだろうと思った。おそらく、Bさんはこっくりさんを遊びすぎて、思考がオカルトに寄ってしまっているのだろう。休みを挟んだ方がいいのかもしれない。

放課後になると、Bさんはそのまま帰宅した。Aさんはさっそくこっくりさんを始めようとした。しかし、先生から急に手伝いを頼まれ、こっくりさんには遅れて参加することになった。

用事を済ませ、15分ほど遅刻して友人たちの元へ戻ると、様子がおかしかった。友人たちは当惑しているようで、顔を見合わせていた。Aさんも戸惑っていると、友人の一人が経緯を説明した。

「いやさ、こっくりさん来てくれたんだけど、何を聞いても変なことしか答えてくれなくて。女の人の名前みたいなんだけど……」

女の名前。Aさんは友人たちに、Bさんが先に帰った理由を説明していなかった。Aさんは恐怖を覚え始めた。この女の名前は、Bさんの夢に現れた髪の毛の塊と関係があるのではないか。

友人は紙の上の十円玉をじっと見つめながら、話を続けた。

「お帰りくださいってやっても、ずっとフルネームっぽいものを答えるだけで、全然帰ってくれない。困っちゃうね」

別の友人が口を挟んだ。

「名前をメモ取ったんだけど、見る?」

「いや、いい。やめとく」

Aさんは即座に断った。途中から参加するのも具合が悪そうだからと適当に理由をつけて、そのまま帰ることにした。Aさんが帰り支度をする最中も、友人たちはこっくりさんを続けていた。

「ずっと名前しか答えてくれない。誰のことなんだろう」

「意味分かんないね」

Aさんは、もう二度とこっくりさんで遊ばないと決意しつつ、学校を後にした。

翌日、Aさんは次からこっくりさんを断る口実をどうしようかと悩んでいた。教室に入ると、友人たちが集まっていた。誰もが浮かない顔をしていた。Aさんが声をかけると、友人たちはこっくりさんを卒業すると言い出した。

「みんな変な夢を見たんだ。同じ夢。だからこっくりさんはもう止めようかなって……」

Aさんは夢と聞いて顔を引きつらせた。友人はポツリと言った。

「夢で、ゼリーがね……」

友人たちは不吉だからと口をつぐみ、Aさんには女の名前を伝えなかった。結局、Aさんは女の名前を知らずに済んだ。

Aさんは、何度か他の人にこの体験談を話したことがあった。一人で抱え続けるのは怖すぎる。誰かと共有したかったのである。

この話を聞いても、大抵の場合は何事も起こらない。しかし、20人に1人ほどの割合で、頭の中に女性のフルネームが浮かぶ人がいる。そのような人は、夜にゼリーの夢を見てしまうそうだ。

Aさんは心配は要らないと語った。夢を見たとしても、事前に話を聞いているため、途中で夢と気が付いて目が覚める。今のところ、大きな問題に発展したことはないという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

原作はこっくりさんの話を収集している「Kさん」という方が、かぁなっき様に提供したものです。

主人公を「学生」と表現しましたが、放送では具体的な年齢は曖昧でした。小学校高学年から高校生の辺りと推測しています。

作品情報
出自
シン・禍話 第三十八夜 (加藤君退出後は閲覧注意かも) (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年10月4日土曜日

note内の禍話リライトを網羅したページを作成しました (ほぼ完成)

note内で公開されている禍話リライトを、放送ごとに表形式でまとめたページを作成しました。下記のページに公開しています。

放送ごとにまとめたページだけでなく、下記の形式でまとめたページも用意しました。

先日の記事で暫定版を作成したと報告しましたが、今回でひとまずの完成とします。note内の禍話リライトは、までに公開されたものについては、すべて掲載されているはずです。実際には抜けがあるかもしれませんが……。

現在、禍話リライトまとめの方針は下記の通りです。

  • 基本的に、noteに掲載された禍話リライトを対象とします。note以外のウェブサイトも可能な範囲でまとめます。ただし、同じ内容であれば、noteの記事を優先します。
  • リライト以外の禍話の二次創作 (ファンアート) も、可能な範囲で対象とします。イラスト、漫画、映画、朗読などのことです。こちらも、基本的にはnoteで公開されたものを優先します。
  • 公式の書籍でのリライトやコミカライズなども、まとめの対象として検討しています。現状は全く手を付けていません。
  • 怪談の題名は「禍話 簡易まとめWiki」のものをお借りしています。
  • データはJSON形式で管理しています。暫定的に、「禍話リライトまとめ」でJSONデータを公開しています。「禍話 簡易まとめWiki」の内容を引用していることに留意する必要はありますが、少なくとも編集者である私の権利は放棄します (そもそも著作権は発生していないと思います)。

現在、下記の課題があると認識しています。

  • 前述の通り、公式の書籍や漫画もまとめの対象にすることを検討しています。
  • 他のウェブサイトでのリライトや二次創作は、一部しか対応できていません。現状、noteに紹介する記事があったもの、「禍話 簡易まとめWiki」で紹介されていたものは掲載しました。
  • JSONデータをブログ記事に掲載していますが、あくまで暫定的なものです。データとして扱いにくいため、公開方法の変更を検討しています。
  • リライトの投稿日時が、時刻が無い日付だけのデータの場合、投稿日時の表示が不正確になります。

まとめに抜けや誤字などの問題があれば、コメント欄などでご報告いただけますと幸いです。ご要望にも可能な範囲でお応えします。

2025年9月23日火曜日

禍話リライトまとめ (暫定版) を作成しました

禍話リライトの一覧がほしいと思い、禍話リライトを列挙した表を作成しました。 怪談の題名は「禍話 簡易まとめWiki」に準拠しています。今のところはnoteのみです。 下記のページに公開しています。

既にそのような一覧表は存在するかもしれませんが、JSONファイルでまとめたデータを作成する予定であるため、無駄にはならない……はず。

現状は暫定版です。下記の課題があるという認識です。

  • noteのAPIから検索でデータを収集し、手作業で選定しました。検索に引っ掛からなかったもの、手作業で誤って除外したものなどが含まれる可能性があります。
    • 題名がWikiのものと異なるものは、検索でヒットしにくいです。Wiki掲載の題名がシンプルなものも、同様に検索しにくいです。
    • 逆に、間違って検索でヒットしたものを除外し損ねていることもありました。この件は解決したはずです。
    • 何らかの理由でWikiに登録されていない回は、現状は載っていません。追加する予定です。可能な範囲で解消しました。
  • 諸事情により、一部の雑談パートなどが除外されています。追加する予定です。
  • Mシリーズもの (「ネンネシナ」など) をまとめた記事の扱いに悩みながら作ったため、扱いがまちまちです。基本的には全部追加する予定です。追加しました。
  • 目次を追加する予定です。追加しました。
  • 前述の通り、JSON形式のデータを公開する予定です。公開方法は未定です。ひとまず、「禍話リライトまとめ」に掲載しました。GitHubなどがいいのでしょうか。
  • note以外のウェブサイトや書籍なども、可能であれば対応したいです。優先順位は低め。試験的に一部のウェブサイトは追加しました。

また、noteの禍話リライト以外にも、下記のコンテンツもまとめの対象とする方針です。現状、noteに掲載されているものに限定しています。将来的には拡大したいところ。

  • 連作のまとめ記事。「ネンネシナ」、「洞窟の夢」、「ぼーだーの動画」などのシリーズ化している作品をまとめたもの。
  • 禍話のエピソードに関連する事件、夢などにまつわる記事。
  • ファンアート。イラスト、漫画、動画など。

要望などがあれば、可能な範囲で対応します。

2025年1月6日月曜日

『私のためじゃない美』(Creepypasta私家訳、原題“Aesthetically Pleasing”)

唇の写真

"Lips." by Haleyface is licensed under CC BY 2.0.

私のためじゃない美

私は自分の外見を変えることは好きじゃない。でも、社会に馴染むためには必要なこと。男性のほとんどは、女性のほとんどが仄めかす茶番じみた真似事が嫌いらしい。男たちは自然体の美を望んでいるそうだ。でも、男たちはおおげさに加工されたタレントたちが涎を垂らすほどに大好きだ。自分の住む町をうろつく女の子たちとまるで違いがないのに。こんなことが普通だから、ハリウッドの女たちの不自然な美を真似なければならないと言われるせいで、女の子たちはメイクに泡を立て、毎日様々な化粧ブラシを使って自分の欠点をごまかす。

私はそんな女の子たちと違わない。

私はメイクが大好き、本当に。でも、悩みの種でもある。ただの映画館デートの準備をするためだけに、私が頭の中に思い描いた美を完璧に実現しようとするのを、彼は数時間リビングルームで待たないといけない。多くの女性たちと同じように、完璧にメイクを終えて、私の偽物の鏡像が楽しそうに笑みを浮かべるまで、私は洗面所を出ようとしない。

彼や世間の男たちは知らないけれど、自然体なんてものはもう存在しない。私の仲間内では、タネも仕掛けもない人は、どんな美を陳列していても、もう見向きもされない。官能的な目、ふっくらとした赤い唇、輝く肌、長く魅力的な髪をお出ししないと、世界から相手にされない。ただのバケモノ。

私たち女性はこんな浅薄な結論に達してしまったけれども、私たちはよく彼から自分の素の美の素晴らしさを認めるように圧力をかけられる。それでも、私たちは、そう私自身も含めて、かつて私たちの本性を目撃してしまった男たちのせいで、数えきれないほどに過酷な苦しみを経験してきた。私は自分の外見を愛せるようになりたい。私は自分に自信を持ちたいし、私は美しいんだと世界に叫びたい。でも、現実はそんな冒涜的な発言を許してくれない。

私は恐れているのに、彼がどう反応するか分からないのに、羽目を外してしまい、彼に泊まっていいと言ってしまった。

なんて馬鹿だったんだろう。

私がシャワーを浴びていると、洗面所のドアがバタンと開く音が聞こえた。私以外の人にとっては、それは親密な関係に続くやや危険な道への誘い。でも、私にとっては、恐怖を誘うもの。全く予想通りに、聞きなれたショックを受けた声が響きわたった。

「な、何なんだ、これ」

彼は震えながら言った。

私はお湯を止めると、躊躇いながらゆっくりとシャワーカーテンを開いた。晒してしまうと、彼は私と目が合ったが、その視線は私の裸体を上から下へと進んでいった。それは彼がかつて愛していたヒトの体。彼が私の顔を見たときの表情は、胸が張り裂けるような悲痛なものだった。

「これのこと、話してもいいかな」

私が尋ねてみると、彼は後ずさり始めた。目は恐怖により狂気を帯びていた。

彼は頭を横に振った。身震いし、脚をもつれさせた。

「鼻どこにあるんだよ。お、お前、一体何なんだ」

彼はヒステリックな態度で言い返してきた。

私は重い溜息を洩らし、彼に向けて腕を伸ばした。

「お願い、こんなことはやめて」

私は彼に懇願した。

彼は後ずさりし続けた。彼は素早く顔をドアに向け、どれほど走れば逃げられるか計算した。

「お前は逃げられない」

私は頭を横に振った。涙が頬を流れ落ちた。

私が突然に低い声を出したため、彼の注意は私の方に戻った。彼の表情は急に声の調子が変わったことで、さらに恐怖で歪んだ。過去の男たち全員と同じように、彼はドアに向かって走っていき、殺気立った様子でドアノブを回した。ドア枠に設置された無数の錠を開けることを忘れていた。

私はしばらく眺めていた。彼の恐怖を、衝撃を、私への露骨な嫌悪を観察した。まるでそれが何年も続いたかのように、怒りが爆発し始めた。私を見捨てようとした彼を目撃したときの失望感が、自分の真の姿を見せようとしたときの勇気を忘れさせた。そう、付け髪、偽舌、義鼻、義耳、栗色のコンタクトレンズ、コラーゲンでいっぱいの唇が無い私の姿を……。彼を喜ばせようとした私の努力を彼は認めなかった……。前の彼たちと全く同じように、彼は私を酷く醜いと思っていた。

だから、彼が最後の錠と格闘し、助けを求めて絶叫している最中、私は歩み寄り、ドアの錠を開けるのを助けた。彼は外に出ると、廊下を走り始めたが、廊下にいる女性の数が増えていることに気付いていなかった。彼は女性の一人に駆け寄ると、私と見なしたバケモノを指さした。女性は彼を安心させ、彼を地面に座らせると、他の様々な人たちも彼の周りに集まってきた。徐々に、彼が差し迫った状況にあることが理解されてきた。女性たち全員が自分の仮面を外した。社会の普通に閉じ込められてきた私の仲間たちだ。彼女たちは彼をバラバラに引き裂き始めた。


男たちの欲望に答え続けた女の、ありふれた絶望の物語。

作品情報
原作
Aesthetically Pleasing (Creepypasta Wiki、oldid=1492462)
原著者
GreyOwl
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2025年1月5日日曜日

『肖像画』(Creepypasta私家訳、原題“The Portraits”)

窓枠の写真

"Frame 2" by ~jar{} is licensed under CC BY 2.0.

肖像画

森の中に狩人がいた。長い狩りで一日を費やした後、気付けば巨大な森の真ん中にいた。徐々に暗くなり、方向を見失った彼は、ますます圧迫する群葉を抜けるまで、一つの方向を進むことにした。

数時間が過ぎたように思う頃、狩人は小さな空地の中で小屋に出くわした。暗くなっていたことに気付き、狩人は夜を小屋の中で過ごせるか確認することにした。近付いてみると、ドアは少し開いていた。誰も中にはいなかった。狩人はごろりとシングルベッドに横たわった。朝に家主に事情を説明することにした。

小屋の内部を見渡すと、壁にいくつか肖像画が飾ってあって驚いた。どれも信じられないほど仔細に描かれている。肖像画は例外なく、狩人をじっと見下ろしているようだった。容貌は憎悪と悪意の表情で歪んでいた。狩人は見つめ返すうちに、徐々に気味が悪くなっていった。狩人は憎悪に満ちた数多くの顔を懸命に無視しようとして、壁に向き直った。狩人は疲れ果て、落ち着かない気持ちのまま眠りに就いた。

翌朝、狩人は目覚め、振り向いた。予期せず朝日を浴びて目を瞬かせた。見上げてみると、小屋には肖像画は無く、窓があるだけだった。


かなり古典的なクリーピーパスタです。

Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”や“Historical Archive”に指定されています。

作品情報
原作
The Portraits (Creepypasta Wiki。oldid=1512698)
原著者
不明
ライセンス
CC BY-SA 4.0