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2025年11月13日木曜日

禍話リライト「コンビニに来たカップル」

山中に佇む男の絵

Aさんがコンビニでアルバイトをしていたときに体験した話。

夜、Aさんは普段通りアルバイトに勤しんでいた。田舎のコンビニで、客はたまにしか来なかった。アルバイトはもう一人いたが、裏の控室で休憩していた。

あるとき、カップルの客が来店した。カップルはいかにも今時の若者といった風体だった。田舎のコンビニに若いカップルが来ることは珍しい。カップルは「お前は可愛い」だの「愛している」だのといちいち囁き合っていた。よく見ると、二人の顔は異様に白く見えた。化粧にしてはやけに青褪めているように見えると思った。

カップルはいかにも若者が買いそうな、ごく普通のものを買っていった。どういうわけか、カップルは全額をわざわざ小銭で支払った。五百円玉一枚と百円玉数枚、十円玉数枚、一円玉数枚。千円札を一枚出せば済むはずだ。Aさんは訝しく思いつつも、「ありがとうございました」とお辞儀をした。頭を下げる途中で、カップルがドアチャイムを鳴らしながらコンビニを出ていく姿が見えた。

顔を上げたとき、Aさんは再び疑念を抱いた。出入口からはガラス戸越しに駐車場が見えるが、車は一台も駐車していなかった。カップルの姿も無かった。お辞儀をしているだけの短い時間に車を出せるわけもない。

Aさんが駐車場の方を眺めていると、店の裏からもう一人の店員であるBさんが慌てて駆け込んできた。

「おい、大丈夫だったか」

Aさんが困惑していると、Bさんは事情を説明した。このコンビニの控室では監視カメラの映像を流している。Bさんは一部始終を監視カメラから見ていた。

Aさんがカップルの客が来たと認識したとき、Bさんもドアチャイムの音を聞いた。こんな時間に客が来るとは珍しいと思いつつ監視カメラの方を見た。しかし、店内にはAさんしかいなかった。ドアチャイムはセンサーの誤作動だろうかと思っていると、ジュースの冷蔵棚が一人でに開いた。驚愕して映像をよく見てみると、カメラに映らない何者かが店内を物色しているようだった。Aさんが誰もいない空間に接客している様子を見て、Bさんは恐怖に震えることしかできなかった。ドアチャイムが再び鳴り、謎の客が出ていったようだったから、ようやくAさんの元に来ることができたのである。

Aさんはカップルが来ていたと説明した。BさんはAさんの声しか聞こえなかったと返答した。普段であれば、裏の控室にも客の声は届く。そうなると、あのカップルは何だったのか。まさか、田舎だから狐や狸に化かされたのではないか。二人はレジの中を確認した。昔話ならば、小銭が葉っぱに変わっていたところだろう。

しかし、レジの中に入っていたものは、まさしく小銭だった。ただ、異様に錆びて劣化していた。硬貨であることが識別できたのが不思議なほどだった。まるで土の中に何年も埋められ、雨水の侵食を受けたかのような有様だった。先程は普通の小銭に見えていたにも関わらず。

二人は驚愕して顔を見合わせた。気味の悪い小銭をどう扱えばいいものかと思案し合っていると、明け方になって店長が戻ってきた。二人は店長に事情を説明した。店長は訳知り顔で頷いた。

「君らがバイトに来る三、四年前くらいのことだったかな」

夜に店長が一人で客を待っていると、今時のカップルが来店した。口数が乏しく、どことなく暗そうな様子だったのが印象に残った。カップルは買い物を済ませて店を出ると、車で山の方へ向かっていった。山の方にはキャンプ場などのレジャー施設があるわけではない。店長は不自然に思った。

数日後、コンビニに警察が訪ねてきた。警察官は店長に写真を見せた。まさしく例のカップルの写真だった。警察官は、カップルは親から交際を反対されていた、男の方が危険なところから借金をして返済できなくなったと説明した。カップルは友人に死ぬとメールを送り、そのまま失踪したという。

店長が警察に情報を提供してからしばらくして、カップルは山中で変わり果てた姿となって発見された。無理心中だったのかははっきりしなかったそうだ。男の死体はすぐに見つかった。しかし、女の死体は土に埋められていた。

Aさんは店長の話を聞いて、一つ思い出したことがあった。

小銭を出したのは女の方だったのである。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

紙幣は劣化して使えなかったのでしょうね。

作品情報
出自
震!禍話 第五夜 (禍話 @magabanasi放送、「汚客さん」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

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