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2021年8月16日月曜日

Creepypasta私家訳『午前3時の迷信』(原題“The 3:00 AM Myth”)

夜の寝室の写真

"Hotel Room Bed" by Alan_D is licensed under CC BY 2.0 .

作品紹介

CreepypastaであるThe 3:00 AM Mythを訳しました。午前3時は草木も眠る丑三つ時に近い時間ですね。

作品情報
原作
The 3:00 AM Myth (Creepypasta Wiki、oldid=1408664)
原著者
Renigaed
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

午前3時の迷信

午前3時は霊が人々と意思を伝えあう時間と考える人がいます。悪魔の印と考える人もいます。午前3時に目が覚めるとき、誰かが自分を見ていると考える人さえもいます。ただ、誰かが見ているとすれば、部屋に窓も扉もないときはどのようにしてこちらを見るのでしょうか。午前3時とはどういうものかということについて、この世には数多くの迷信が存在ます。世界中に存在するこの時間の迷信の本当の意味についてお伝えしましょう。

あなたはぐっすりと眠っていて、夢を見ています。夢を見ている間は、周囲の状況が分かりませんし、クローゼットの中に潜んでいるかもしれない何かにも気付きません。ベッドの下に潜むかもしれない何かにも、掛布団に潜り込んであなたの隣にいるかもしれない何かにも。あなたの目がパッチリと開き、あなたは時間を確認します。腕時計か、携帯電話か、目覚まし時計か、横たわるあなたの周囲にある時間を表示している何かしらで。ただ、時間を知ること自体は本当はどうでもいいことです……よね? あなたは目をこすり、目を数回瞬かせて、部屋の暗闇に目を慣れさせます。

床板が軋む音が耳に入ります。床の上をパタパタという音が走ります。あなたはきっとそれをただの鼠と心の中で思っていますね。たぶん、ただのハツカネズミの類、……いや、ドブネズミの類だろう、と。とても大きな鼠があんな大きな足音をたてているのでしょう。あなたは恐怖で麻痺してしまい、ベッドの端の方を見る勇気が出ません。あなたはただ勝手に怖がっているだけ。こんな馬鹿げたことはもう十分、と自分に言い聞かせます。ただ、それは馬鹿げたことでしょうか。つまり、怖がるべき理由があるのでしょうか。ベッドの下には怪物がいるのでしょうか。あなたが真夜中にトイレに行ったり水を飲んだりしようとして起き上がったところを、怪物が足を捕まえたりベッドの下に引きずり込んだりしようと待ち構えている、ということがあるのでしょうか。

あなたは怪物の存在を信じていません。何年か前の子供の頃に、母親か父親があなたに語ってくれた物語がありました。ブギーマン、サンドマン、その他の怪物の物語は、あなたを怖がらせるためだけのただの物語でしかない……はずですね? ええ、その通り。怪物は実在しない、あなたはそう思い、幼い頃の自分の恐怖心に含み笑いをします。いや、待ってください。あれは何でしょう? パタパタという足音が近付いているようです。非常にゆっくりと扉が開き、キーキーという長く大きな音が聞こえて、あなたはぎゅっと固く目を閉じます。さっき聞こえたのはくすくす笑う声ではないか? いや、もちろん違います。ハツカネズミはくすくすと笑いません。ドブネズミもそうです。あなたは妄想に囚われつつ、ゆっくりと目を開けて、天井をじっと見つめます。

掛布団の下で何かが動いています。被っていると暖かくて心地よい掛布団の、その下で。その何かはゆっくりと曲がりくねりながらあなたの方へ近付いてきます。それはまるで毛布の下で足を引きずっているかのようです。あなたは恐怖で凍りつきます。ここから移動するのは怖い。さもないと、居場所を知られてしまいます。あなたは何かがあなたの着るダブダブの服を引っ張っているように感じます。なんてこと、あれは何? あなたは掛布団を引き上げて床に投げ捨て、目に入ったものにハッと息をのみます。その生き物はいびつでグロテスクであり、あなたのおなかをキリキリとさせます。それは数百年前に織られたかのような破れた布切れを纏っています。それは頭を右に傾け、歪んだ笑みを見せます。その黒くて瞳のない目があなたをじっと見つめます、瞬きもせずに。

あなたはゆっくりと上体を起こし始めて座った姿勢になり、その生き物から後ずさりします。あなたの行動に対しても、それは気に留めていないようです。それはただ、足を引きずりながら徐々に近付いていき、あなたの脚にまで辿り着きます。それはあなたの上によじ登ると、這いより始めます。ゆっくりと、そう、とてもゆっくりと。それは歯を見せてあのゆがんだ笑みを浮かべています。その灰色の肌が骨ばった体からぶら下がっています。その臭いは実に厭らしく、今までに経験したことがありません。ただ、あなたはこの臭いを知っています。今までに嗅いだことがないにも関わらず。その臭いは腐敗臭です。ただ、いかなる腐敗とも違います。腐敗、肉、そして血の臭いが僅かにあります。これからどうしようか。あなたは思案して唇を舐め、目を大きく見開き、その生き物から目を離そうとしません。

それはまだあなたの体の方へ少しずつ動いており、足を引きずりながら進むたびに、徐々にあなたの顔の方へ近付いています。あなたは鼻から深呼吸し、それからとても大きな叫び声を出します。自分の鼓膜が破れたように思います。その生き物は突然に頭を扉の方にぐいと向けて、殺人的な叫び声を漏らします。それは素早くベッドの端の方へ足を引きずって移動し、飛び降りて、ドンと音をたてて床に着地します。急いで扉から出ていき、廊下の暗闇の中へ消えます。

ほらね? 午前3時は小さなものたちが出てきて遊びにくる時間。小さなものたちがその日があなたにとってラッキーな一日かを決定する時間。小さなものたちが姿を現す時間。ただ、思い違いをしてはいけません。小さなものたちを見る機会はほぼ間違いなく最初にして最後になります。安全に逃げおおせたのであれば幸運です。小さなものたちをどう扱うべきか教えることはできません。小さなものたちはどこにでもいるからです。どの家にもいます。あなたの家にあるどの穴にも、どの隅っこにも、どの裂け目にもいます。自分の家にどれだけいるのか、という質問に答えるのは簡単ではありません。教えられることは、小さなものたちはたくさんいるということだけです。小さなものたちはあなたを研究し、あなたを死に追いやろうと企てています。小さなものたちが死の臭いを放つのも不思議ではありませんね。

Creepypasta私家訳『ミラクルピル』(原題“The Miracle Pill”)

作品紹介

CreepypastaであるThe Miracle Pillを訳しました。原作者はサンドマンの話と同じです。 今回は四体液説を基としており、ペスト医師のマスクを身に着けた怪人物が登場します。

作品情報
原作
The Miracle Pill (Creepypasta Wiki、oldid=1441198)
原著者
RedNovaTyrant
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

ミラクルピル

病気でいることは決して楽しいことではない。起き上がる活力があることは滅多になく、どこで休んでいてもそこから動けない。鼻は詰まり、鼻をすっきりさせようと繰り返し鼻をかむのに途方もない時間と無数のティッシュを使い果たす。食べ物は味がしなくなり、喉に詰まったべたつく粘液が取って代わる。そのうえ熱。そんなことはあってほしくないものだが、あらかじめ十分に暖かくしていなければ、痛みが高熱を伴って、その先の一週間の生活を惨めなものにするだけの役割を果たす。

そして、普通の風邪よりもいっそう深刻な病気を患っている人もいる。病院に閉じ込められた人は、医者が苦しみを和らげるために全力を尽くす中、不健康で惨めな有様のままゆっくりと残された日数を数える。病状がどれほどであろうと、どんな病気の人も同意することがある。できる限り早く病状を良くしたい、その方法が単なる錠剤一つくらいに簡単であればいいだろうに、ということだ。病気の人は皆、多くの様々な療法を試す。医者から処方箋をもらう人がいれば、自然療法を試す人もいる。皆が科学が病への解決策になると考えているが、ほとんどの人は代替となる手段について忘れている。

「ドクター」はいつも新たな患者を診たがっており、そのうえ、すばらしい実績を上げている。しかし、予約をとる前に、準備が必要なことがいくつかある。知っているかもしれないが、あらゆる人間には4種類の「体液」がある。この体液がその人間の肉体の振る舞いを規定する。赤胆汁は楽天的な性質、つまりはその人自身の社会的な部分を制御する。黄胆汁は攻撃性を管轄する。黒胆汁は抑鬱性により分泌される。粘液はアパシー、すなわち感情の欠落と関係する。凡百の医者はこの療法の原理を否認するかもしれないが、そのような連中の話を聞いてはいけない。

「ドクター」が体のどこが悪いのか決定するためには、4種類の体液のサンプルが必要になる。採取するのが簡単なものもある。ただ……勇気が必要なものもある。サンプル採取を始める前に、同じ大きさのカップを四つ集めておこう。最も簡単に採取できる体液は赤胆汁だ。必要なものは血液だけ。ただ、検査が可能になるように十分な量が必要だ。自分でナイフを扱うのが上手くないからといって、紙にほんの一滴の血液を残すのでは駄目だ。血を流すことを選ぶのであれば、深い切り傷を良い具合に作る必要があるだろう。だいたい注射1、2回に相当する量だ。この血液を四つのカップのうちの一つに集めるのだ。

次は粘液だ。「粘液」という言葉の伝統的な意味合いは現代で使われるようになっている定義とは完全に同じというわけではないが、それでも現代の用法で使っても意味は通る。だから、鼻をかみ、喉をこすって乾かそう。呼吸器にあるあの緑色の汚らしい粘液を適量集められるのであればどんなことでもすればいい。鼻をかんで粘液をティッシュに出すであれば、粘液とティッシュを分ける必要がある。「ドクター」は非常に多忙だ。「ドクター」が治療しようとするときには、粘液を使い捨ての紙から分ける時間がない。

次のセクションに進む前に、粘液を採取しておくとよい。粘液と紙はくっついてしまう可能性があり、先に分離しておかないと後になって分離するのが難しくなるかもしれないためだ。黄胆汁は胆嚢と関係がある。胆嚢は黄胆汁を分泌し、胃の中にあるスープをひどい味付けにする。その味こそ、今から味わう必要が出てくるものだ。黄胆汁を採取するには無理にでも嘔吐する必要がある。その方法は何でもいい。重要なことは、吐いた液をできる限り純粋に採取することだ。だから、吐いた後にトイレから掬い取るのは駄目だ。黄胆汁は「ドクター」が猶予を与えてくれる唯一のサンプルだ。「ドクター」は黄胆汁は採取が難しいことを理解している。黄胆汁は3番目のカップに入れること。気分を良くしたいのであれば、床を掃除してもいい。

これから最後のサンプル、黒胆汁だ。黒胆汁は抑鬱と関係することが知られているが、涙は適切なサンプルではない。死や腐敗にもっと近しいものこそが「ドクター」が必要とするものだ。ほとんどの人はここで手を引いてしまうが、本当に病気を終わりにしたいのであれば、最後まで続ける必要がある。手っ取り早く済ませよう。肌の一部を直火に晒すのだ。火を体の一部に当てるべきである。肉体の一部が黒焦げになってから死ぬ必要があるためだ (つまり、体の一部を切り取ってから火を通すのでは駄目だ)。痛みと臭いに耐え抜くのだ。一旦、皮膚の一部が黒焦げになった後は、その部分を切り取って、最後のカップに保管しておこう。ほとんどの人は下腹や脇腹の贅肉を焼くが、どの部位を選ぶかはあなた次第だ。

こうして「ドクター」のためのサンプルが用意できた。後は往診に来てもらうだけだ。夜の間、寝室に行き、100%必要とはいえないあらゆる形態の医療品を取り除くこと。取り除く必要のある医療品には、ティッシュ、液体塗布薬、水、咳止めシロップさえも該当する。「気分」を良くする助けになるものも含まれる。これらの物品を除去しないと、「ドクター」がこれらの卑しむべき医療品を見て、侮辱されたと思い立ち去ってしまう。机か棚を片づけて「ドクター」が仕事ができるようにして、その上にカップに入った四つのサンプルと一緒に火のついた蝋燭を置くこと。それから、マーカーを持ってきて、片手の手の甲に数字の「8」を書くこと。ただし、上の部分を下の部分より大きく書く。そして、8の字に「T」を貫くように書く。例を掲載しておいた。カドゥケウスの形に似ているものであれば良い。これだけが「ドクター」があなたの居場所を知るための唯一の手段になる。

明かりを消し、カーテンを引き、ベッドに潜りこむこと。そして、小綺麗にして待つ。この間、誰もあなたと一緒に部屋にいてはならない。夜が更けていくにつれて、患っている病気の症状が出てくるはずだ。喉飴を舐めたり、ティッシュで鼻をかんだりしたくてたまらなくなっているだろう。それでも、ベッドの中に居続けて、休んでいなければならない。そのうちに眠りに落ちるだろうが、1時間後に必ず目が覚めることになる。

ベッドに横たわっていると、部屋の扉が軋む音をたてながら開き、暗闇から図体の大きい人影が歩み出てくる。その肩に掛けられているのは、2枚の汚いボロボロの布切れであり、それは数多くの印で飾られている。その下には同じくボロボロのコートを着ており、コートはさながら胆汁やワキガが泡立つ沼地であるかのような悪臭を放っている。おそらくマスクが最初に目を惹くだろうが、そのマスクが何かは見てそれと分かるはずだ。結局のところ、それは当時の医師たちが身に着けていたものということだ。ただ、マスクには何か違和感があるだろう。気付いたときには頑張って平静にしていよう。なんと、嘴付きのマスクを所定の位置に止めるための釘が後頭部から突き出ているのだ。この釘は患者というよりも「ドクター」自身を守るためのものだ。かつて、「ドクター」のマスクを剥がして自分の病気に晒そうとした患者が現れたことが一度あった。だから、「ドクター」は二度とそのようなことが起こらないようにしたのだ。

「ドクター」は後ろの扉を閉めて、患者の方をちらりと一瞥し、それから机の方へ歩いていく。椅子に座り、鞄を開けて、患者の体液を検査するための様々な奇妙な道具を取り出す。こうして、「ドクター」が検査を実行していると、検査が進む中で患者が気付くはずであることがいくつかある。第一に、「ドクター」が放っていた悪臭のする瘴気が、似たような混合物や化合物をともに作り出していくにつれて、ただただ悪化していくことだ。ただ、すぐに気が付くだろうが、その瘴気は患者の肉体を麻痺させるのである。患者は好きなように動こうとすることも、部屋に引き入れてしまった恐ろしい存在に対して叫び声をあげようとすることも、金切り声をあげながら逃げ出そうとすることも可能だ。しかし、肉体は反応しようとしない。これは一部の患者たちがもっと……危険な行動をとったことに対応するためでもあった。

このとき、「ドクター」のために4種類のサンプルすべてを採取していない場合、つまりは、嘔吐物を全く出せなかった場合や、恐ろしすぎて皮膚を焼けなかった場合、また、少ないサンプルでごまかそうとした場合、「ドクター」はただベッドに近付き、自分でサンプルを集めようとする。一見すると、「これはいい。医者なのだから、黒胆汁を適切に採取する方法を知っているはずだ」と思うかもしれない。ただ、そんな考えは後悔に変わるだろう。金槌とのみで胸郭をこじ開けている瞬間に。こうすることで、「ドクター」は必要な臓器を手に入れられるようになるというわけだ。こうして「ドクター」が患者の治療薬を作成したとしても、患者は治療薬を服用する前に力尽きるだろう。

他にも知っておくべき二つの条件がある。血液病を患っている場合、「ドクター」は赤胆汁を検査すると、ただ立ち上がり、ゆっくりと患者の方へ歩いていき、嘴付きのマスクを患者の鼻に突きつけながら、「君には悪い血液が流れている」と言う。理解できないかもしれないが、その後の「ドクター」の行動に反応するだけの時間はない。なんと、メスを使って腕や脚に一連の深い切り傷を作り、体を流れる真紅の液体の一滴一滴を残らず抜き取ろうとするのだ。

肉体は健康だが、治したい病気が精神上のものである場合、「ドクター」は数時間の検査の後、困惑しながら椅子から突然に立ち上がる。そして、怒鳴り散らしながら、患者の何が悪いのかを知りたがる。少しの間、瘴気が和らぎ、治してほしい精神障害について説明する機会が与えられる。しかし、患者がどう答えたとしても、「ドクター」はそれを理解しない。そして、瘴気がもう一度患者を襲いかかり、「ドクター」は鞄から医療用のこぎりを取り出す。余談だが、瘴気は麻酔性ではない。患者は動けないまま、「ドクター」が脳を調べる中で苦しみ続けることになる。「ドクター」の手は継ぎ接ぎで、フランケンシュタインの怪物のように傷跡が走っている。

このとき、前述の条件のどれにも当てはまっていなければ、しばらくすると、「ドクター」が蝋燭を取って、その火を混合液に漬ける姿を見るかもしれない。暗闇の中、錠剤を握った手が自分の口の近くで突き出てくるまで、辛抱強く待つ必要がある。この錠剤こそが目的の品、待ち望んでいた「ミラクルピル」だ。瘴気は消滅し、「ドクター」は患者に起き上がるように言ってくる。指示に従い、それから「ドクター」の手から錠剤を受け取ろう。そして、それを服用するのだ。

「ドクター」は患者の薬への反応を気にしないようにする。患者の叫び声が大きいほど、「ドクター」は薬が効いていることを確信する。「ドクター」が化合物の中に入れた、比喩ではない文字通りの炎が、血流を通るのを患者は感じ取る。この炎が肉体の隅々を焼き焦がし、この痛みの津波が見つけられる病気を取り除く。薬による痛みはおよそ30分間続く。重要なことはこの痛みを耐えきることだ。既に黒胆汁採取を生き延びたのだ。これも耐えきることができるはずだ。卒倒してはならない。薬が効いている間は意識を保ち続ける必要がある。そうせずに、死なないようにするために意識を保つのをやめると、薬が肉体にもたらす負荷が妥当な限界を超えて心臓を圧迫し、心停止させることになる。「ドクター」は患者を助けようとはしない。病気の治療のためにできることは既に手を尽くしている。今となっては、患者の人生を変えるのは患者自身でなければならない。

それでも、辛抱強く耐えれば勝利を収めることになる。この惨い状態を乗り越えれば、そのすべてが消滅するためだ。「ドクター」はいなくなり、四つのカップは空っぽになる。患者は必要な休息を迎えることになる。そして、次の日に目が覚めると、これまでになく健康な感じがする。実際、奇跡の薬は向こう6か月間、あらゆる病気を除去してくれる。こうして、普通の生活を送ることができるようになり、充実した人生を送ることになるのだ。

おっと、最後に注意を。万が一、病気が末期の状態である場合でも、「ドクター」は治療してくれる。それだけでなく、「ドクター」は患者のあらゆる病気を永遠に治療し続け、その後は自然な人生を楽しめるようにしてくれる。しかし、死の抱擁から逃れる代償は重いものになる。この世から去るとき、「ドクター」は鞄を片手に持ち、患者の魂に実験する準備をしてくるためだ。

2021年8月10日火曜日

Creepypasta私家訳『ゼリービーンズ』(原題“Jelly Beans”)

ゼリービーンズの写真

"Jelly beans" by Mark Hillary is licensed under CC BY 2.0.

作品紹介

CreepypastaであるJelly Beansを訳しました。今回は個人的に興味深かった作品を選びました。 作中ではビーン・ブーズルドバーティ・ボッツの百味ビーンズといった特殊な味のゼリービーンズが言及されますが、どれも食べたことがありません。 そもそも、普通のゼリービーンズを食べたことがありませんね……。正直まずそうだし。

作品情報
原作
Jelly Beans (Creepypasta Wiki、oldid=1464077)
原著者
TeamKillerCody
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

ゼリービーンズ

俺は子供の頃、いつもゼリービーンズが大好きだった。学食用の金をゼリービーンズを買うために放課後まで少し残しておいたことを覚えている。帰宅途中にガソリンスタンドに立ち寄ってゼリービーンズを買っていたのだ。毎日、同じガソリンスタンドに行き、同じ女性に会った。女性は笑みを浮かべながら、嬉しそうに同じゼリービーンズを売ってくれたものだった。家まで歩く道すがらで一袋全部食べきった。だから、昼ごはんを買う金を無駄遣いして菓子を買っていたことを、お袋に知られて怒りを買うことはなかった。高校までこの日課を続けた。

高校生のころ、ゼリービーンズはだんだんと人気がなくなり、見つけるのが少し難しくなった。免許をとるころにはガソリンスタンドでももう売られなくなった。ガソリンスタンドに立ち寄る理由はガソリンだけになった。毎日、放課後にガソリンスタンドに立ち寄って満タンにし、ウォルマートへ車を走らせ、キャンディコーナーを探り、ゼリービーンズを買わなければいけなかった。ウォルマートから家まで車で15分かかった。この日課はだいたい4年間続いた。高校を卒業するまでにお袋は死に、家は俺のものになった。この時期は人生の休止期間だったが、ゼリービーンズ中毒のおかげで気分が慰められた。

新しいフレーバーが出現し始めた。トロピカルフルーツ、サワー、ミント、あらゆる味のフレーバー。そのころは変なフレーバーがあった。ビーン・ブーズルド、バーティ・ボッツの百味ビーンズ。耳くそやゲロ、土、ミミズなどのフレーバーがあった。あまりにも奇妙だったものだから……このようなひどいフレーバーを結構楽しんだ。最初に素敵な味のゼリービーンズを食べ、最後に凶悪な天国をすべてとっておくようになっていた。汚れたおむつ、鼻くそ、おしりふき、どれも味蕾を満足させた。

そしてハロウィンの数日前、新たにひどい味のゼリービーンズが出現した。モンスタースライム、脳みそ、ミイラの骨。どれも新しいフレーバーだったが、箱に「New!」と書かれたギザギザの吹き出しがあったのは血味のゼリービーンズだけだった。パッケージを買って、家に帰り、買ったフレーバーを一つ一つ試してみた。「モンスタースライム」はゲロとブドウを混ぜたような味、「脳みそ」は鼻くそとレバーのような味、「ミイラの骨」はただ犬用ビスケットのような味がしただけだった。

ぞんざいに組み合わせただけのフレーバーにがっかりして、ただゼリービーンズを一掴みして口に放り込んだ。口の中で二つピシャリと弾けるのを感じ、すぐにその味が分かった。しょっぱくて金属のようなフレーバーで味蕾がいっぱいになった。最初、俺は衝撃を受けた。「口の中で出血している……?」と頭の中で自問した。思いつくのに数秒かかったが理解した。血のフレーバーだ! ゼリービーンズの会社がぞっとするほど正確に血のフレーバーを作ったのだ! 本当に、本当に血のような味がした。口いっぱいのゼリービーンズを飲み込んだ。その後、パッケージは2、3個の血のゼリービーンズを残して空になっていることに気付いた。残ったゼリービーンズをすべて手に取り、ゆっくりと食べた。一つ一つ、舌ざわりと、しょっぱく鉄臭いフレーバーを20分近くかけて味わった。

そのまさしく翌日にウォルマートへ向かうと、昨日買ったミックスパックのそばに、ハロウィンフレーバーが個別に入ったパッケージが置かれていることに気付いた。俺は死に物狂いで新しいお気に入りのフレーバーを探していた。お気に入りではないものは全部見つかった。「モンスタースライム」、「脳みそ」、「ミイラの骨」。そして、お気に入りのフレーバーもあった。それは他のものとは違って単に「血」味と書かれておらず、「バンパイアパック」と書かれていた。値段は5.99ドルだった。他のフレーバーよりもかなり高額だったが、大好きな金属のような味付けのキャンディにはその価値があると思った。

バンパイアパックを購入し、車で15分かけて帰宅した。俺はこの新しいフレーバーに夢中になっていた。味と舌ざわりが俺の心を捉えたため、翌日にまたウォルマートへ戻った。このときは財布に金を詰めるだけ詰め込んだ。バンパイアパックの在庫を全部買い尽くすつもりだった。いつもの駐車場に到着し、キャンディコーナーに向かって、あの麗しの味覚を探しにいった。驚いたことに全部無くなっていた。他の「こわ~いハロウィンフレーバー」も残っていなかった。俺はキャンディーコーナーでウォルマートの店員が在庫を確認していることに気が付いた。その女性の店員はどこか見覚えがあるような感じがしたが、そんなことは気にせず、それよりも本題に入ることにした。

俺は店員の方へ向かって、その女性店員の意識を引いた。

「すみません」

「はい?」と言って店員は棚から顔を上げた。

「ハロウィンをテーマにしたフレーバーはどうしたんですか」

俺は何気ない調子で声をかけた。狼狽しているような素振りや、立ち去ってしまいたいという思いでいっぱいであるような素振りは見せないようにした。

「申し訳ございません。その商品は回収されました」

店員は顔に思いっきりにやりとした笑みを浮かべた。このことが俺にとって悩ましいことであると知っているかのようだった。

「きっと、子供にとってはあまりにもひどい味だったのでしょうね」

店員の口ぶりは、さながら飢えた犬の目の前でステーキをぶら下げているかのようだった。店員がからかうような物言いをしたものだから、俺は店員を絞め殺したくなった。それでもそんなことはしなかった。

ゼリービーンズ中毒はかなりのものだったが、欲求に振り回されないようにした。

「なるほど、あ、ありがとうございます……」

俺は頷きつつ言った。抑えきれず、少し震えているかのように瞼をひくつかせた。立ち去ろうと歩き始めたとき、女性が仕事をしていた棚の下に何かがあることに気が付いた。危うく見逃しかけたが、バンパイアパックの「バ」の字が見えた。あのゼリービーンズがここにあることが分かった。バンパイアパックが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は携帯電話を取り出し、女性が立ち去るまで少しの間、文字を打っているふりをした。女性がいなくなると、棚の下でさながら子供がなくしたおもちゃを探しているかのような気分でいた。驚いたことに、見つけたバンパイアパックは1袋だけではなかった。3袋もあったのだ! バンパイアパックはリコールされたのだから、買って店を出ることはできないと分かっていた。俺はすばやくバンパイアパックをひったくり、着ていたパーカーの中のおなか側に押し込んだ。そして、パーカーのファスナーを上げて立ち去った。

とうとう家に着き、車寄せに入り、エンジンを切り、玄関の鍵を開け、家の中に足を踏み入れ、コンピュータデスクに座り、愛するゼリービーンズがリコールされている理由を調べようとした。奇妙なことに、ゼリービーンズのリコールについての情報を何も見つけられなかった。なんと、ハロウィンフレーバーがこれまで存在した証拠さえも見つけられなかったのだ! パーカーからバンパイアパックを取り出し、お椀を持ってきてその中に注ぎ込んだ。とりわけ大きいゼリービーンズを取り出し、机の中央に置いた。目を逸らし、ランプの電源を入れた。10秒間、大きめのゼリービーンズを調べた。ゼリービーンズは本物の血のような紅色で、企業印が白文字で押されていた。どうしてバンパイアパックはリコールされたのだろうか。そして、どうしてそれほどにも本物のような味付けなのだろうか。何かが落ちた音が聞こえた。少し辺りを見回すと、ゼリービーンズの一つがお椀から零れ落ちていた。この奇妙なものを数秒間見つめた。どうしてあのゼリービーンズはお椀から零れ落ちたのだろうか。山になったゼリービーンズのてっぺんとお椀の端は少なくとも3センチ弱はある。

突然、左手に鋭い痛みが走った。見てみると、調べていたゼリービーンズが俺の手をひどく噛んでいたのだ! ゼリービーンズは手から吸い出した血で脈打っていた! ゼリービーンを摘まんで引き抜いたところ、ゼリービーンズには脚や顔がついていた。これはゼリービーンじゃない。うげぇ。恐怖して明かりのところに持っていって分かった。これはダニだ! 大きくて、丸々太った、暗赤色の、血でパンパンになった蠢くダニだ! 不快感で震える右手で、血を吸う生き物を取り去ろうとした。その最中、ゼリービーンズでいっぱいのお椀をひっくり返してしまった。床に零れ落ちたゼリービーンズはすべて動き出し、俺の方に這い寄ってきた。胸部と腹部に痛みを感じた。パーカーの内側を覗くと、小さな怪物どもがバンパイアパックから弾け出ていた! 怪物どもは俺にかじりつき、血を吸い取っていた。俺は卒倒した。そして、名前に込められた皮肉に気が付いた。「バンパイアパック」という名前は血の風味だからではなかった。バンパイアが中に入っていたからだったのだ。多くの思考で頭がいっぱいになり、このグロテスクな寄生虫が体を覆ったせいでパニックになった。バンパイアパックの中身を千ほど食べてしまっていたことを考え込んで頭がいっぱいになり、俺は戻し始めた。ゲロが床を広がった。吐瀉物からダニが姿を現した。俺が食べたダニの中に卵をいっぱい抱えていた個体がいたに違いない。全部が俺の中で育ったのだ! 俺の体は内側も外側もダニで覆われていた。血と吐瀉物の臭いが鼻孔を充満し、体液を失ったことで視界がかすみ始めた。小さなドラキュラのような寄生虫のすべてが小さな牙から血を吸い取っているのを感じた。あまりにも衰弱して逃げ出せず、あまりにも衰弱して動けず、あまりにも衰弱して何もできなかった。できたことは、小さな生き物が俺の体を覆っている最中、横たわってじっとしていることだけだった。ダニが這いまわり、噛みつき、血を吸っているのを感じた。ダニは顔を覆い、顔にある鼻や口といった穴という穴すべてにどんどん這って入り込んでいった。目は最悪だった……。ダニがひっかき、噛みつき、頭の中へ侵食していく音が聞こえた。そして俺の目にまで。1匹のダニが瞼をこじ開けたのが見えた。あまりにも、あまりにも近くにいた。牙に生えた最も細かな毛すらも見えた。ダニが目を掘っていき、計り知れないほどの痛みが走るまでは。俺はとうとう意識を失った。

俺は死んだものと思っていた。いや……、俺は死ぬことを望んでいた。視界が戻ってきた。周囲を見回して自分の状況を把握した。そこは病院、ベッドの上、包帯が体中を乱雑に巻かれ、左目も覆われていた。看護師がベッドわきに来た。俺は看護師の顔を見ていなかった。

「ここはどこ……」

「どうして病院にいるのか、ですね。ハロウィンでトリック・オア・トリートと言いに来た人たちが、自宅で床の上に倒れて血をたくさん流していたあなたを見つけたのです。その人たちはただのハロウィンのいたずらだと思っていましたが、すぐに嘘じゃないと気付いて警察を呼んだのです」

と看護師は言った。俺は袖を引いて腕を見た。腕は小さな吸血動物どもが残した赤いブツブツでいっぱいだった。看護師は「どうぞ」と言って俺の手の上に何かを乗せた。それは小さな箱だった。顔を上げて看護師の顔を見ると、看護師は俺に微笑みかけた。その微笑みをどこかで見たことがあった。看護師は

「楽しんでくれると思いましてね」

と言い、嬉しそうにその場を去った。そのとき思い出した。子供の頃に会ったガソリンスタンドの女性、ウォルマートの女性、看護師。思い返してみれば、ウォルマートでゼリービーンズを買ったとき、いつも同じレジ係が対応していた。全員が同じ女性だった。女性は子供のころから一日たりとも年をとっていなかった。どうすればこんなことが起こるのか。あの女性は何者なのか。どうして女性はいつもそこにいたのか。

俺は手の上に目を向けて、女性が渡したものを見た。

それに書かれた文字を声に出して読んでみた。「バンパイアパック」俺は微笑んだ。