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2021年9月9日木曜日

Creepypasta私家訳『魔の十二分』(原題“12 Minutes”)

作品紹介

Creepypastaである12 Minutesを訳しました。“Pasta of the Month”に指定された作品です。

本作の舞台であるテレビ局「WSB-TV 2」は実在するらしいです。また、例の写真はBelle Gunnessという殺人者の手にかかった人を写したものらしいです。

作品情報
原作
12 Minutesl (Creepypasta Wiki、oldid=1023084)
原著者
RoboKy
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

魔の十二分

1987年秋、アメリカ合衆国ジョージア州のアトランタに根差すローカルニュースチャンネルのWSB-TV 2は、日曜朝の番組表に空いた時間を埋めようとしていた。

地元の事業主による応募が数件あった。ニュース局は若き聖職者マーリー・サックス師に1時間の枠を与え、宗教をテーマとした番組を任せることにした。少しばかりの宣伝とともに、10月18日に初放送となった。

番組の依頼料は宗教関係としては標準的だった。内容は、牧師が簡素な椅子に座って、聖書の一節をカメラに向けて読み上げ、その解釈や現代の日常生活への影響について語るというものだった。番組はほどよい数の視聴者を獲得し、放映は12月上旬まで続いた。そのころのことだった。ニュース局に「マーリー・サックス師と光の言葉」の視聴者から極めて奇妙なクレームが寄せられるようになったのは。

クレームの電話は女性からだった (そう、女性だけだった)。クレームの内容は漠然としていたが、番組のある特定の時間に不快感を覚えるという内容だった。女性たちは吐き気、背中の痛み、めまい、目のかすみといった症状を訴えた。女性たちは明確な理由は分かっていなかったが、これらの症状は番組を見ていたことが原因であると確信していた。クレームが寄せられてから3週間経過した後、この「感覚」は番組の途中のおよそ12分間で発生していたことが分かった。

小さなニュース局のスタッフたちはすべての収録機材を確認した。録音用と録画用の両方ともだ。しかし、機材に欠陥は見つからなかった。牧師がこの事件について知らされると、ただ肩をすくめ、意味ありげにこのようなことを述べた。

「神の声を扱いきれない人もいますから……」

局長はクレームの原因をどう説明したものか途方に暮れ、番組の放映を続けることにした。

2月までに視聴者数は急減し、番組の打ち切りが決定された。局長は、他のローカルニュース局2社で沸き上がっていたあるニュースにできる限り多くの時間を割いた方が賢明だと判断した。そのニュースとは流産の流行だ。その現象は11月のある時期から始まった。アトランタの都市部に住む健康な妊婦が流産した件数は300を超えた。CDCはこの恐ろしい現象の明確な原因を見つけられなかった。

牧師は番組の打ち切りを受け容れた。そのときの態度は異様なほどに無関心としか形容できないものだった。打ち切りが伝えられると、牧師は抗議することなく、訳を知ったかのようにただ頷くだけだった。牧師は、最後の収録を一言も発することなく終えて局を去り、姿を消した。それ以来、牧師のことを聞いた者はいない。以前に礼拝をした人も、教会の職員も。ニュース局は問題をこれでおしまいとし、番組枠を生コマーシャルで埋めて、流産の話題に集中し続けた。

1年半後、WSBへインターンに来た男が「光の言葉」のテープを見つけた。そして、宗教がアトランタに与えた影響について取材する番組のための素材を見繕おうと、「光の言葉」のテープを見始めた。アトランタ・インシデント (医学誌上では例の流産の流行がこの名称で知られるようになった) はサックス師の番組が中止になってから3か月たつと立ち消えになり、既に人々の意識から薄れ始めていた。インターンがテープの視聴を続けていると、偶然にもその映像について気懸かりな発見をした。

インターンは映像を10分45秒の時点で止めようとして、誤って早送りボタンを強く押し込んでしまった。映像が過ぎ去っていく最中、インターンはスクリュードライバーでボタンを押し上げようとした。ボタンを直せたとき、ちょうどテープは32分1秒で止まった。スクリーン上に凍り付いた映像を見て、インターンは椅子から転げ落ちた。ひどく腐敗した人の首から上だけが画面いっぱいに映っていたのである。インターンは気を取り直すと、映像を数コマ戻し、再びコマ送りして、自分の気のせいではなかったことを理解した。インターンは最後まで映像を見続けて、ちょうど12分の区間で生首の写真が1コマの間出現することにすぐ気が付いた。

生首の写真の一つ。

インターンは新人に対する何かの悪ふざけだと思い、映像技師の一人にテープを見せた。嘲笑されることを覚悟していた。ところが、技師もインターンと同じくらいに困惑した。番組が中止になってから、例の映像に触った人はいなかったのだ。夜にニュース局が閉まった後、インターンは技師を説得して、「光の言葉」の全テープの視聴を手伝ってもらった。二人はどのエピソードにも例の悍ましい現象が発生していることを確認した。

番組が進むごとに、差し込まれる画像がどんどん不穏なものになっていっていることに二人は気が付いた。蛆がたるんだ肉のところを食い荒らし始め、髪の毛や皮膚が急激に脱落したようだった。今見ているものは技術的にはあり得ないことだと技師はインターンに説明した。映像そのものには継ぎ接ぎした痕跡が全く見られなかったためである。しかも、技師自身も映像の収録に毎回立ち会っており、この写真を映像に挿入する時間は無かったことを知っていた。

発見したものすべてを局長に見せた。局長はこんなものの放映を許していたことに何らかの反発が起こることを恐れ、すべてのテープを破壊することを命じた。局長はインターンと技師に向けて、誰が犯人かなんてことに興味はないと言い、

「……このクソの山の隠蔽だけが今重要なんだ」

とだけ伝えた。そして、二人に他言しないことを要求した。

技師はすぐに吹っ切った。この事件をダークであり奇妙でもある個人的な出来事として記憶に留めた。しかし、インターンは無視しようとしなかった。インターンはテープを処分する前にできるだけ多くの複製を作り、このようなことをした犯人やその動機に繋がり得るものが他に見つからないか調べようとした。

1週間後、インターンは再び技師に助力させようとして、例の画像よりも気懸かりなものを発見したようだと伝えた。個々のコマを時系列順に繋げたところ、腐った頭部の口が言葉を成そうとしているかのように動いているようだったのである。技師は仕事に障ることを恐れ、インターンにテープの複製を廃棄して、二度とその話をしないように言った。

1週間後、夕暮れ時に警察へ通報があった。通報したのはアトランタの郊外に住む老女だった。老女は若い夫婦が住む隣家から恐ろしい音を聞いた。老女は、妻の方は妊娠していて、その身に起きていた何かを恐れていたと伝えた。20分後、警察が現場に到着したとき、窓に明かりは無く、玄関の戸は半開きだった。警察はそっと家に入り、居間へ進んだ。

居間の中では若い女性が発見された。女性は死亡しており、腹部が切開されていた。傷口はギザギザで、血の跡が遺体から部屋の向こう側にあるソファーに続いていた。そこには夫が座っていた。夫はニュース局のインターンであり、全裸だった。足下には胎児が転がっており、死に瀕していた。片手には錆びた金属の壁板の断片を握っていた。インターンの男はこれで妊娠していた妻の腹を掻っ捌いたのだ。テレビがついており、18秒間の無音の映像が繰り返し流れていた。その映像では、腐った首が理解できない言葉を口の動きで伝えていた。

その警察管区で今日まで伝わる話では、そのインターンの男は警察に連行されるときに、何度も何度もこの言葉を呟いていたという。

「神の光がお呼びだ……」