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2026年1月26日月曜日

禍話リライト「祭りと靴」

空地に靴が散らばっている

Aさんという会社員の男性から聞いた話。

Aさんの同僚にBさんという男がいた。Bさんはお調子者で、宴席では大活躍するため重宝されていた。ただ、踏み越えてはいけない領域に土足で踏み入ってしまう無神経な性格でもあった。

お盆休みを終えたときのこと。Bさんは「頼みがある」と言いながら、Aさんに写真を見せてきた。手ブレのせいで何が写っていたのかよく分からなかった。

「なんだよ、この写真」

「いやぁ、旅先で祭りに参加したんだよね」

お盆休みのとき、Bさんは車で旅行に出かけた。行き先がどこだったのかは、当時のBさんは語ってくれず、今となってはもはや聞き出すこともできないため、不明のままである。

旅行の帰り道、Bさんは道に迷い、小さな集落に迷い込んだという。集落の公園では地域の祭りが開かれていた。

寂れた地域だったためか、祭りはどことなく陰気な空気が漂っていた。参加者は高齢化のためか老人ばかり。滑り台をやぐらに見立てて飾っているが、滑り台は錆だらけで今にも倒壊しそうだ。飲み物も酒ではなく、参加者の体を労わったのか、ポカリスエットのようなものを飲んでいた。そんな有様だったが、Bさんは興が乗り、祭りに飛び入りで参加した。

Aさんに見せたのはそのときの写真だというのだが、まともに写っている写真は一枚も無かった。どれもこれも手ブレが酷く、端からまともに撮影する気があったのか疑わしいほどだった。

特に酷かったのはやぐらに上ったときの写真だ。若い人が来てくれてありがたいからとやぐらに上らせてもらい、そのときにやぐらから下を覗き込んで撮影したものだそうだ。しかし、真っ黒で何も写っていなかった。まるで光源がない場所で撮影したかのようだった。

「真っ暗だ。レンズを指で塞いじゃったのか」

「いやいや、そんなはずはないよ。加工すれば見えるんじゃないかと思ってさ。頼むよ」

「仕方ないな」

Aさんは画像編集ソフトウェアの扱いに慣れており、言われた通りに写真の明るさを調節した。すると、確かに何かが写ってはいたのだが、それは明らかに祭りの様子などではなかった。

そこに写っていたのは荒れた空き地だった。雑草が生い茂っており、全く手入れをされていない様子だった。その空き地の中に、四、五足の靴が転がっていた。靴は様々で、革靴であったり、ブーツやスニーカーが落ちていたりした。靴は揃って置かれてはおらず、バラバラになって散らかっていた。空き地に靴が不法投棄された現場を写しているようにしか見えなかった。

「これ祭りの写真じゃないだろ」

「こんなの写した覚えはないよ。でも、祭りのときに撮ったはずなんだけどな」

「お前さ、何て祭りに参加したの」

「████だよ。作物のために晴れることを祈願する祭り、なんだってさ」

Aさんはその場でネット検索にかけたが、そのような名前の祭りは見つからなかった。Aさんはうっかり名前を忘れてしまったそうだが、濁点の多い名前だったことを記憶している。

Bさんの旅の思い出話はあまりにも不自然なことばかりだった。Aさんは困惑しつつも呆れ果てた。

「本当にこんな祭りあったのかよ。まともに撮れた写真も無いし」

「まあ、旅の恥はかき捨てということで」

客観的に見れば、かなり不気味な状況のように思われる。しかし、そのときは笑い話ということで流され、深く追及されることはなかった。

翌日、Bさんは風邪を理由に会社を休んだ。その次の日も。

上司は心配になり、Bさんに電話を掛けた。しかし、Bさんは酷く疲れたような声で、

「今は行けないんですよ」

と捲し立て、一方的に電話を切ってしまった。日頃のBさんの態度からは想像できない言動で、上司はますます心配になった。そこで、Aさんを伴ってBさんの家へ向かうことになった。

道中、AさんはBさんが旅先で体験した出来事について上司に説明した。何か関係があるかもしれないと考えてのことだったが、上司は「祭りが一体何の関係があるのか」と戸惑うばかりだった。

Bさんの自宅は古いアパートの2階の一室だった。一目見て、Bさんが不在であると推察できた。玄関のドアが開け放たれて、中の様子が見えたためである。部屋の中は明かり一つなく真っ暗で、玄関には靴が一つも残っていなかった。

Aさんと上司は顔を見合わせるばかりだった。ふと、アパートの駐車場の方に目をやると、数足の靴が転がっていた。整然と並べられているのではなく、蹴飛ばしたまま乱雑に放置したかのような様相だった。おそらくはBさんの靴だろう。玄関に靴が無かった理由は、駐車場にバラバラに落ちていたためだった。上司は呆れたように呟いた。

「おいおい、『明日天気になぁれ』じゃないんだから……」

このとき、Aさんと上司は思い出した。Bさんが参加した祭りは、晴れを祈願する目的があったことを。

二人は無言のまま、急いでその場を立ち去った。

後日、Bさんの実家から退職すると連絡があった。その後、Bさんがどうなったのかは分からない。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怖い話を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話フロムビヨンド 第9夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2026年1月22日木曜日

禍話リライト「人形が居る廃墟」

廃墟の中に置かれた人形の画像。

Aさんが友人たちと、夜中に廃墟へ肝試しに行ったときの体験談。

その廃墟はかつては何らかの施設だったようだ。古めかしいポスターが貼られ、故障した自動販売機が放置されていた。Aさんたちは逸る気持ちとほんのりとした恐怖をないまぜに、廃墟の中を探索した。

しかし、思わぬ横槍が入った。廃墟には先客が居たのである。カップルと付添いの友人という組み合わせの三人組だった。

Aさんたちは気まずい気持ちになり、先に廃墟から出た。玄関の近くで三人が廃墟から出るのを待つことにした。よく見ると、駐車場には三人が乗ってきたらしき車が停まっていた。駐車場はかなり広く、放置された廃車やゴミに紛れていたこともあり、車の存在に気付かなかったようだ。

しばらく暇を潰していると、廃墟から大きな物音が聞こえた。それは例の三人が廃墟の中を全力で走っている足音だった。三人は勢いよく玄関から飛び出した。Aさんは走り去っていく三人の背中へ向けて声をかけた。

「どうしたんですか」

すると、最後尾の男が返答した。カップルに付き添いで来たらしき人物だ。

「ここヤバいですよ。早く帰った方が良いです」

付き添いの男はランドセルほどの大きさの箱を抱えていた。カップルは駐車場に停めた車の運転席と助手席に飛び乗った。付き添いの男も箱を抱えたまま後部座席に乗り込んだ。Aさんたちは三人が乗った車の方へ駆け寄った。運転席にいたカップルの片割れの男が窓を開けた。

「早く逃げた方が良いですよ」

Aさんは廃墟の中で何が起きたのか聞き出そうとした。

「何かあったんですか」

すると、三人は口々に叫んだ。

「人形! 人形!」

三人は興奮していたためかまともな説明ができず、ただ「人形!」と叫ぶばかりだった。

「ヤバい人形があったんですか」

「そう、人形!」

三人の乗った車はそのまま駐車場を出ていった。

残されたAさんたちは、三人の忠告を無視して廃墟を探索することにした。どうやら恐ろしい人形があるようだが、所詮は人形である。動き出して襲い掛かってくるわけもない。不意に怖い人形に出くわしたら驚くかもしれないが、事前に情報を知っているのであれば、大したことは無いだろう。

しかし、Aさんたちの予想は意外な形で外れた。廃墟をいくら探索しても、人形は見つからなかったのである。最上階まで隈なく探したが、ぬいぐるみやマネキンの類すら無かった。

Aさんたちは期待を裏切られ、白けた気分になった。おそらく例の三人は何か別の物を人形と見間違えたのだろう。Aさんたちがそろそろ帰ろうかと思っていると、仲間の一人が窓の外を見てあることに気付いた。

「おい、あの人たち戻ってきているぞ」

Aさんたちも窓を見ると、駐車場に三人の車が停まっていた。

Aさんたちは三人の様子を見ることにした。廃墟を出てみると、三人の車は室内灯がついていた。ぼんやりとしか見えないが、どうやら三人とも車の中にいるようだ。

「どうしたんですか。忘れ物ですか」

Aさんたちは懐中電灯を三人の車に向けた。そして、三人の姿を見て唖然とした。

三人は女の顔を模したゴム製のマスクで顔を隠していた。そして、頭には長い鬘を被っていた。三人は微動だにしなかった。無表情なマスクと黒髪。背筋を伸ばし、動かずにじっとしている様は、まさしく人形のような姿だった。首から下は先程見たときの服装のままだった。おそらくは同一人物のはずである。

車の運転席の窓は開けたままだった。Aさんは声を詰まらせながらも話しかけた。

「あの、どうしたんですか」

しかし、車中の三人は反応を示さなかった。人形のように固まったままだった。

運転席の男はハンドルを握っていた。もしかしたら、車を急発進させて襲い掛かってくるかもしれない。Aさんたちは廃墟に戻り、三人の様子を見ることにした。

Aさんたちが廃墟の最上階にまで戻ると、友人の一人が窓の外を眺めながら呟いた。

「そういえば、あいつら箱を持っていたな。あの箱の中にマスクとかが入っていたんだろう」

彼の言葉に誰も反応しなかった。溜息をつきながら、三人の車の様子を見張った。Aさんたちは朝まで待ってみることにしようと腹を括った。

そして、朝五時頃。Aさんは痺れを切らし、三人の偵察に向かうことにした。もしかしたら三人は眠っているかもしれないと期待していた。今のところ、車に全く動きが無かったためである。

Aさんは静かに階段を降りて、廃墟の玄関を出た。三人の車に近寄ってみたところ、明け方だったこともあり、車中の様子が垣間見えた。

どうやら三人は眠っていないようだった。相変わらず、マスクと鬘を身につけて、車の中でじっとしていた。

そして、後部座席に四人目がいた。

その人物も女の顔を模したマスクと、長い黒髪の鬘を纏っていた。微動だにせず人形のふりをしていた。

Aさんは理解した。この四人目は元は廃墟に潜んでいたのだろう。三人は人形の姿をしたその人物と出会い、恐慌を来して逃げ出した。しかし、追いつかれてこのような有様になっているのだろう。

Aさんは悲鳴を上げて、廃墟へ駆け戻っていった。Aさんたちは恐怖に身を震わせつつ、三人の車の様子を見張った。ふと気が付くと、車はいなくなっていた。こうして、Aさんたちは無事に廃墟から脱出することができた。


後日、Aさんはこの恐怖体験を他の友人に話した。友人たちは怖い、怖いと口々に言い合い、場が盛り上がった。すると、Bさんという男が冷ややかな反応をした。

「人形のふりをした幽霊ね。コスプレイヤーの幽霊なんじゃないの。ふざけた格好してさ」

Bさんはコスプレイヤーを毛嫌いしており、事あるごとにコスプレイヤーを中傷する。Aさんたちは彼の悪癖をうんざりするほどよく知っていたため、いつものように軽口として扱ってBさんをいなし、話を流した。

しかし、「人形」はBさんの言葉を聞き逃していなかったようだ。

それから半年後。Bさんはこれまで社内恋愛をしていたが、別れることになった。その後、別の相手を見つけたが、すぐに関係は破綻した。

AさんはBさんの元恋人から話を聞くことができた。元恋人によれば、夜になると、Bさんの家に誰かが訪ねてくるそうだ。その人物は玄関の前で何か話しかけてくる。元恋人はドアに耳を当ててその声を聞き取り、後悔した。その声は甲高く、間延びしており、このような言葉を繰り返していた。

「日本人形です。よろしくお願いします」

今もBさんの家には、日本人形を名乗るものがBさんの言葉を否定するために訪ねてきているそうだ。


この話には続きがある。

禍話の語り手であるかぁなっきさんは、この体験談を文章で受け取った。そのため、「日本人形です」のくだりをどのような節回しで言えばいいのか分からなかった。どうしたものかと考えたあげく、この話をすぐには語らず、寝かせたまま放置してしまった。

ある日、かぁなっきさんはCoCo壱番屋に行き、カレーを食べていた。店内には親子連れが居て、幼い少女がはしゃいで騒いでいた。少女は左手を掲げて、人差し指と中指を曲げたポーズをとった。そして、甲高い声で間延びした調子で叫んだ。

「日本人形でぇす。よろしくお願いしまぁす」

かぁなっきさんはある種の啓示として受け取り、この話を語ることを決意したという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怖い話を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話インフィニティ 第二十四夜 (禍話 @magabanasi放送、「人形廃墟」、「よろしくお願いします」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様