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2026年4月27日月曜日

『衛星画像』(Creepypasta私家訳、原題“Satellite Images”)

地図アプリが映されたディスプレイの画像

数年前、俺は車の事故に遭った。それ以来、俺は家から出る頻度が減った。外出は難しいし、自分の横を車が通り過ぎるのを考えるだけでも頭がくらくらする。

事故の翌日、友人がGoogleマップを教えてくれた。あなたも見たことがあるはずだ。衛星画像を見れば、世界中のどこへだって行ける。望む場所をどこでも見られることに魅了された。仮想的に街を歩くことができ、その場所にいるような気分になれた。

あっという間に夢中になった。Googleマップは世界を見下ろす目を授けてくれた。大都市のほぼ全てに行くことができたし、実際に行ってみた。中国、日本、ドイツ、イギリス……多くの場所の街々を目にしてきた。グレートバリアリーフやドラキュラ城のような観光名所にも行った。

好きなことは大都市から無作為に選んだ場所に向かい、何人の人と何匹の動物を見つけられるか数えることだ。人の顔はいつもプライバシー保護のためぼかしがかかっていた。それでも、外に出て人々を眺めるのは楽しいことだった。人々はそれぞれの人生を過ごし、何事でもないかのように歩き回っていた。

「あの人、絶対に良い趣味している」

俺は笑った。

俺はズームインして近付いた。ある女性が灰色の鞄を肩に下げていた。肩紐は灰色と紫色。女性はゆったりと歩いており、左手は横の壁に沿わせていた。顔を見ることができたとしたら、その女性は笑顔だったに違いない。

俺は少し悲しみを覚え始めていた。俺は手を車椅子のアームの上に下ろし、1分ほど女性を見つめた。あの場所に居れたら良いのに。何の気苦労もなく女性と一緒に歩けたら。そんなことは死ぬまで起こりそうにない。死ぬまでこの椅子から動けない。

俺は溜息を吐き、東京からズームアウトした。今夜はこれで十分。コンピュータの電源を切り、ベッドへ向かった。

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早く目が覚めると、俺はパリの辺りを見て回ることに決めた。パリはいつも楽しい場所だった。パリの外観が好きだった。古く美しい建物全てが気に入っていたし、それを見に来る多くの人々を眺めるのも楽しかった。

俺は無作為に選んだとあるエリアにズームインし、古い煉瓦造りの建物が並ぶ通りを眺めた。小さな店が数軒と、古い黄褐色の煉瓦で出来た教会があった。その手前には交差点があり、十数名の人が交差点を渡っていた。はげかかったサラリーマンが素早く通り過ぎ、老女を振り返って見た。老女は髪をスカーフで覆っており、大きな手提げ鞄を持っていた。窮屈すぎる黒いパンツを履いた曲線美の女が店の窓の中をじっと見つめていた。角の辺りで別の二人の女が小さな子供たちの集団を率いていた。

俺はもう数回、視点を回転させた。そして、何か変なものを見つけた。二人の人物がバス停のペンチに座っていた。一人は若い女性で、前方にゆったりと足をはみ出させていた。赤いスニーカーを履いており、俺が持っている靴と似ていた。黒いパンツ、白いTシャツ、黒いフード付きのジャケットに気付いて、俺は一瞬驚愕した。焦げ茶色の髪は後ろに緩く結ばれていた。ベンチの上で灰色の鞄が女性の隣に置かれていた。肩紐は肩に掛けられていた。

「そんな馬鹿な。同じ女のはずがない。違う国だぞ。大陸も違う。どうしてここにいるんだ」

こんなことは馬鹿げていた。ライブ写真というわけではあるまいし。これらの写真は以前に撮影され、記録されたものだ。同時に二つの場所いたという訳ではない。その女性はただの旅行者だったかもしれない。それに、顔が見えないのだから、同一人物か見分けることはできなかった。茶色の髪はおそらく世界で最もよくある髪色だ。あの赤いスニーカーは俺がインターネットで買ったものと同じだ。きっと数百万人の人が同じように買っただろう。

俺は首を横に振り、昼食を作りに行った。

-

俺はインターネットに戻ると、ベルリンに行くことに決めた。いつものように無作為に道路を選んだ。道路はがらんとしているようだった。道沿いには煉瓦造りの建物が並んでいたが、工場のようにしか見えなかった。空き地もあり、長い草や砂利の山で埋め尽くされていた。オートバイが並んでおり、ドイツ国旗が二本突き出た車も停められていた。ただ、実際のところ、見るべきものなどほとんど無かった。

さらに探索して、子供を見つけた。その少年は学校行きの格好をしているようで、ジャケットが鞄の上に掛かっていた。少年はじろじろと携帯端末か何かを見つめていた。

俺はがっかりした。立ち去ろうとし始めたそのとき、横目で何かを捉えた。

視線を向けると、そこにはあった。

あの忌々しい赤いスニーカーが。

その女は通りの角、道標か何かの隣に立っていた。片手をポストの上に置き、通りを見下ろしていた。通りを横切ろうと待っているかのようだった。俺は衝撃を受けてじっと見つめた。どうやってこんなの所にも来たんだ。旅行をしているにしても、毎回あの女の姿を見つける訳がない。パリで見かけたのが偶然だったとして、今回はどうだ。こんなのおかしい。ジョークか何かか。Googleは自社の製品を最もよく使うアカウントに悪戯を仕掛けようと決め込んだのか。そりゃ素晴らしい冗談になるだろうさ……。

俺は手早く検索し、ウォーリーのように現れる女について情報を探した。何も無かった。Googleマップで見られる奇妙なものについての記事も一通り調べたが、世界のどこにもいる女について言及する記事は無かった。

こんなのおかしい。引きこもり生活で気でも狂ったのか。孤独のあまりに幻覚でも見ているのか。

画面にベルリンの画像を残し、俺は友人にテキストメッセージを送った。例の場所を教えて、同じ女を見たか教えてほしいと頼んだ。そして、待っていると、手は冷や汗で湿り、胸が高鳴る音が聞こえてきた。十分後、携帯電話の発信音が鳴り、俺は跳び上がった。返事のテキストメッセージが届いていた。そこには、

「お前が言っていた女はベルリンにいたよ。パリや東京にはいなかった。ゲームか何か? 大丈夫?」

と書かれていた。俺は返答しなかった。その代わりに東京やパリに戻ってみた。そこに女はいた。

女はいたが、状況は違っていた。パリでは女はもうバス停のベンチに座っていなかった。ベンチの前に立っており、鞄の中から何かを探していた。東京では、数ブロック離れた場所にいて、しゃがんで斑模様の猫を撫でていた。

俺は身震いした。あの女は何者だ。何が起きているんだ。

マップをブリュッセルに切り替えた。新たな都市の通りには、古い建物が並んでおり、一階には店が並ぶ。上階はアパートだろう。俺は素早く歩道を調べた。そこには何もなかった。明るい青色のセーターを着たがっしりとした女しかいなかった。もう一度見渡した。あの女はいなかった。

俺は安堵の溜息を吐いた。こんなことに気が高ぶっていたなんて信じられない。これは単なる偶然……

俺は硬直した。両目が画面に釘付けになった。道路の分かれ道のところに建物があった。白い建物で、黒い鉄枠のバルコニーが二階から突き出ていた。

先程、俺はあの女を見なかった。何故なら、俺は歩道を見ていたからだ。

そこに女はいた。バルコニーに立っていた。頭をカメラの方向に傾けていた。恥ずかしげに俺の方を見ているかのようだ。

俺は息を飲んだ。俺はシドニーに画面を切り替えた。女は壁に寄り掛かっていた。明るい青色の「キャリックス薬局」という建物の出入口の内側だ。ロンドンでは、女は赤い二階付きバスに乗り込もうとしていた。顔は後ろに振り返っていた。見に行った場所のすべてに女がいた。ベネチアでは橋の煉瓦造りの歩道に立っていた。チューリッヒでは黄色の線が引かれた横断歩道を渡っていた。香港では永隆銀行とマクドナルドの間に立っていた。鞄に紐を付け直していた。どの写真でも、女はカメラに近付いていき、ぼかしがかかった顔を向けて俺を直視していた。

俺は心臓が怯えた鳥のようになっている気分だった。心臓が胸の中でドンドンと打ち付けていた。息を整えることができなかった。何をしたらいいのかはっきりと分からなかった。警察を呼べなかった。スクリーンショットをGoogleに送るべきだろうかと考えていた。

俺は拳をぎゅっと握りしめ、両目を閉じた。あの女は何者なんだ。俺の後をつけているのか。女の表情が見られたらいいのにと思った。女が振り向いて俺の方を見たとき、何を見ていたのか知りたかった。椅子から立ち上がって逃げ出したかった。どうして再び自由を感じさせてくれた唯一のことが、いっそう囚われているような気持ちにさせてくるんだろう。俺は知りたかった。

俺は自分が住む町の名前を入力し、無作為に選んだ通りにズームした。俺の家から数マイルの距離だ。市立の公園の門が鮮やかな日光に照らされていた。今ここは夜だったが。

そこにいた。そこに……女はいたのである。

女は俺の家からほんの数マイルの距離にいた。その公園の名が書かれた鉄のアーチの下に立っていた。女はカメラを真直ぐに見つめていた。真直ぐに俺を見ていた。

吐いてしまうかもしれないと感じた。あの女は近くにいた。俺を見ていた。俺の方に向かっていた。あの女は何が望みなんだ。

俺は自分が住む団地の名前を入力した。建物の外側が見えた。駐車場は車でいっぱいだ。運動場では数名の子供たちがいて、顔にはぼかしがかかっていた。あの女がいないか全ての場所を探した。駐車場や歩道にはいなかった。建物の間にも隠れておらず、運動場にもいなかった。車も一台一台確認した。茂みの後ろや、ぼかしがかかった窓の一つ一つも調べた。

女はいなかった。

俺はぎゅっと体を丸めて、机の上に頭をうつぶせに乗せた。この場所は安全だ。どうあれ部屋からは出ない。もう二度とGoogleマップは使わないようにしよう。もう二度とあの女を見ることはないだろう。あの女が公園にいようがどうでもいい。俺は一人微笑んだ。涙が自分の顔を流れて驚いた。

「俺は安全」

俺は一人呟いた。声に出して言って気分が良かった。

「安全だ」

そう言ったとき、ドアがノックされた。

背筋に寒気が走った。俺はカメラをコンピュータに接続していた。困難な移動を補助できるように、玄関にいる人物を映すためのものだ。誰が外にいるのか確認するため、俺はおもむろに制御盤へ手を伸ばした。しかし、俺の手はひどく震えていた。

制御盤に触れたとき、俺は自分の過ちに気が付いた。俺が最後に見たGoogleの画像は建物の外側を写していただけだ。外側だけ。

画面を見ると、女の姿が見えた。白いTシャツ、黒いパンツ、黒いフード付きのジャケット。灰色の鞄。肩紐は紫色と灰色の縞。もちろん、赤いスニーカーもあった。女はカメラを直視していた。顔にはまだ完全にぼかしがかかっていた。俺が叫び声を抑えようとすると、女は手を振り上げて玄関のドアを叩く音を響かせた。


Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”に選出されています。

『ウォーリーを探せ』のウォーリーは、アメリカではウォルド (Waldo) という名前らしい。何故。

作品情報
原作
Satellite Images (Creepypasta Wiki、oldid=1517011)
原著者
SquidInk
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2026年4月16日木曜日

『ニューヨーク、自由の女神、十二角形』(Creepypasta私家訳、原題“New York City, Statue of Liberty, Dodecagon”)

自由の女神の画像

覚えておいてくれ。古都ニューヨークにある自由の女神の目の奥には十二角形があり、恐ろしい力を持つ。その十二角形を見た者は誰であっても凄惨な死を迎える。十二角形は人目に晒されることを望んでいないためだ。

嘘をつこうという訳じゃない。数日間、このお題をじっと睨みつけていたが、こいつに取り組むのは本当に骨が折れる。

ほら、お題に従わないと、話が投稿できないからな。でも、俺は決まりきったやり方で話を伝えたい。そうすれば胸のつかえを吐き出せる。だから、これを読むお前はニューヨークにまつわるあらゆる知識を放り捨てる準備をしておいてくれ。

お前は最初にこんな疑問が浮かんだはずだ。「どうしてこのお題に従わなければならないのか」そうだな、お題にあるように、見られることが大嫌いな十二角形があって、そいつは自由の女神の目の奥にある。その十二角形は俺がタイプする言葉の一つ一つを審査している。

お前は嘘だと思うかもしれない。凄い、そいつは結構。何故なら嘘だからだ。重要なのは、十二角形はお前にある特定の考えを思い描いてもらう必要があることだ。ニューヨークを想像してくれ。空に浮かぶ建物の輪郭、臭い、煙。自由の女神の目の奥をじっと見つめ、そこに十二角形が見えることを想像してくれ。それがこの話の核心だ。そのメッセージこそ十二角形が送りたがっているものだ。だから、お前は望むならここで読むのをやめてもいい。

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十二角形が書き続けることを許してくれてホッとした。唯一の警告は、俺はニューヨークのお決まりのネタを続けなければならないことだ。俺と一緒に我慢してくれ。何故かと言えば、俺はニューヨークについてそれほど詳しくないんだ。

ニューヨークの下水にはワニが住んでいるという話を知っているか。代わりに、その都市伝説が自由の女神にまつわるものと想像してくれ。ああそうだ、自由の女神の中にワニがいるってな。2020年3月11日、俺の住む行政区 (十二角形にこんな言葉を使うことを強制されている。単なる小さな町か何かと思ってくれ) の出身の5人のティーンエイジャーがはるばる自由の女神にまでワニを探しにやってきた。どうしてそんなことをしでかしたのかは分からない。その5人が最初だったのかも分からない。今となっては聞き出せない。長い時間がかかっていたから、自由の女神を隅々まで探索したはずだ。そして、5人はどうにか冠から頭に到達した。5人が町へ戻ってきたとき、5人は通りを駆け抜けていき、皆に伝えて回った。自由の女神に行かない方がいい、俺たちは何も見なかった、ってな。1人は俺の元へ駆け寄って、肩を掴んだ。

「どうか自由の女神に行ってくれるなよ、いいな。何をやっても無駄なんだ」

奴は俺より頭一つ背が高かった。その顔と声は狂気的なまでに平静だった。あれほどの速さで走ってきたこと、あれほどの強さで肩を握ってきたことを考慮すればな。自分自身を俺に固定させようとしていたみたいだった。奴の瞳は絶え間なくわずかに大きさが変わった。ピクピクと引きつっていて、今にも横に飛び出していきそうだった。

5人がどのように死んだのかも覚えていない。何もかも後になって起きたからだ。1週間以内に全員死んだと思うが、人々は疑念を抱いた。多分、死ぬ間隔がもっと空いていれば、それで話は済んだだろう。そうであってほしかった。現実には、大人たちの一団が後で自由の女神に向かい、この事件の全容を理解しようとした。俺のお袋はその一人だった。だから俺は何もかもが手に負えなくなった正確な日を知っている。2020年3月24日のことだ。お袋が言うには、大人たちがその日を選んだ理由は、週末に更に行動を起こすためにその地域を探索する計画を立てていたからだった。俺はお袋を説得してやめさせようとした。時々、今正気でいるのはそのせいなのかと思う。

十二角形は思考を人々の頭に滑り込ませて操る。十二角形が今そうすると俺は「ここで自由の女神の話がしたい」と思ってしまうが、数秒後には我に返る。最初に十二角形がそうしたのは、俺が学校にいたときのこと。俺は家に帰りたい気分だった。俺が立ち上がると、クラスのみんなもそうした。先生が俺たち全員の帰宅を許し、俺は自分の部屋に向かった。部屋のドアが外から鍵がかかっていることに「認識」した後、俺はドアを閉めた。「認識」したと言ったのは、実際にはドアは鍵がかかっておらず、鍵をかけることもできなかったからだ。十二角形がそう思わせただけなんだ。

彫像のように壁を凝視して1日と半日が過ぎたとき、俺の頭には全く思考が無く、俺はドアを開けて町の広場に出た。広場には行政区の皆が集まっていた。その場所で、調査に行った人々が一列になって膝を曲げて地面に座っており、頭を下げていた。俺に自分にかかっていた十二角形の支配力があまりにも強かったから、最初は俺の母親がいることも認知できなかった。やっとお袋がいると認知できたとき、誰かが斧の方に向かっていことに気が付いた。彼以外の全員はじっと動かず、地面に目を向けていた。その人が一人一人の首を叩き切り始めたのを俺は慄きながら見ていた。その人はおもむろに首を切り落としていった。他の誰も微動だにできず、目だけが動いていた。処刑人が斧を自分自身に向けるまでは。その時点で、人々は道や自分の家、森の中に逃げていった。でも、俺はお袋の方へ駆け寄った。俺はお袋の膝の上で咽び泣いた。留まるように説得していればと思いながら。でも、今となっては、お袋は留まっていても早く殺されていただろうと思う。何の慰めにもならない。分かっているさ。

どうしたらニューヨークの行政区で誰にも知られずにこんなことが起こり得るのかと思うかもしれない。もしそう思うのなら、はっきりさせたいことがある。十二角形は論理を気にかけない。ただ合わせるだけだ。十二角形は俺にニューヨークという言葉を、自由の女神という言葉を、そして「十二角形」という言葉を繰り返し使わせて、お前の脳内にイメージを作り出そうとする。だから、代わりに何か言葉をタイプしようとすると、十二角形は即座に削除する。俺が「行政区」と書いても実際にはそこまで大事ではないとだけ言っておく。俺の住む「行政区」から全員が引っ越しても問題は起こらない。ある程度自然に起きたのであれば、人々はただ全員が引っ越したか死んだと思い込むだけだ。

それは数年にわたる計画だった。人々は老人と小さな子供をバラバラに切り刻み、平静を装うために空の墓穴を掘った。俺は人々が経眼窩ロボトミー手術をお互いに施し合い、自分自身にも施すのを見た。その間、町の外から人が来ると、その人は完全に自然な行動をとり、人々が自然死したか引っ越したと装った。時折、俺も虐殺に加わった。俺が5歳の女の子の脚をもぎ取ったとき、その子は不気味なほどに静かなままだった。誰かの古着を刻んで、別の誰かの墓に埋めたこともあった。それでも、俺は決して受ける側には回らなかった。ある時、俺は自由の女神の方向をじっと見つめて、疑問を口に出した。

「どうして他の人はロボトミー手術を受けているのに、俺は完全に平気なんだ」

数秒後、俺は思い至った。俺は決して他の行政区や町に行こうとしたり、何が起きたか話そうとしたりしておらず、一度も十二角形を見に自由の女神へ向かおうとしなかった。それが俺自身の考えなのか、十二角形が植え付けたものなのかははっきりしない。多分、俺はただ狂ってしまったか、十二角形は人をそういう風に感じさせるのが好きなんだろう。

俺の仮説は話半分に聞いてくれ。それでも、俺は十二角形がどうしてこんなことをしているのか分かっているつもりだ。反ミームという言葉を聞いたことがあるかもしれない。自分自身を人間の心から消し去ってしまう存在だ。十二角形を反ミームと表現できると思うかもしれないが、それは少し違う。十二角形は反ミームになりたがっているんだ。十二角形は人間に記憶されることを憎んでいる。人間の心の中に残ることを憎んでいる。でも、実際に自分自身を人間の心から消し去ることはできない。だから、言うなれば、十二角形は心を消し去る。十二角形は町を破壊し、徐々に人々を全員殺していった。余所者には何か悪いことが本当は起こっていないみたいに見せかけて。十二角形はただ一人の人間を生かした。次のメッセージを送り付けさせるために。ニューヨーク、自由の女神、十二角形。十二角形が伝えたい正確な場所と物の、形が有るイメージ。物語がそれほど鮮明であれば、陳腐な真実はどうでもいい。

十二角形がそれを見える人全員を殺すよりも、人に見られることを逃れる良い方法はあるはずだ。でも、十二角形を理解しようとする人々について十二角形は十分に気にかけているとは思わない。時折、十分な数の人間が「自由の女神」の「ニューヨーク」にある「十二角形」が実際には何なのかを知ったとき、十二角形はこの惑星に住む全ての生き物を殺すのだろうかと考えてしまう。俺は十二角形が実際にはどこにあるのかさえも知らない。一度も探しに行かなかったからだ。誰であっても十二角形を見ない方が良いと思う。それが俺が生きていられる理由と確信している。俺が正気だったとして、俺の行動はまるで操り人形のようだ。その日、俺はお袋が十二角形を見に行こうとするのを止めようとした。俺は一度も町の外に行こうとしなかった。逃げ出そうとしたり、自由の女神の十二角形がどこにあるのか見ようともしなかった。町に起きていたことを止めようともしなかった。俺の思考のどれほどが実際には十二角形に由来するものだったとしても、俺はしでかしたこと全ての責任をとりたい。どういうわけか、この件を自分のせいと考えることは正しいようだ。多分、だからこれほど長くこの件を書き続けている。

ロボトミー手術で抜け殻になった父親は俺を生かし続けている。俺のために料理や掃除をしてくれる。毎日、父親は歯をむき出しにして笑い、俺はその不安にさせる笑い声で目を覚ます。父親は言う。

「済ませたか」

それがここ数か月で経験した唯一の人間との対話だ。俺はひたすら書き続けている。俺は滅んでいく行政区の中で生き続けたいのか、それとも他の全てと同じように死にたいのか、はっきりしない。誰もがいつかは死ななければならない。最後にこれを投稿したら、俺は自由の女神に向かう。この最悪の事態に終止符を打つつもりだ。

覚えておいてくれ。古都ニューヨークにある自由の女神の目の奥には十二角形があり、恐ろしい力を持つ。その十二角形を見た者は誰であっても凄惨な死を迎える。十二角形は人目に晒されることを望んでいないためだ。


Creepypasta Wikiでは“Spotlighted Pastas”に選出されています。ニューヨークシティ、スタチューオブリバティ、ドデカゴン。

「反ミーム」(antimeme) はSCP財団などで用いられる言葉です。

作品情報
原作
New York City, Statue of Liberty, Dodecagon (Creepypasta Wiki、oldid=1508983)
原著者
Squidmanescape
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0