作品紹介
男たちの欲望に答え続けた女の、ありふれた絶望の物語。
作品情報
- 原作
- Aesthetically Pleasing (Creepypasta Wiki、oldid=1492462)
- 原著者
- GreyOwl
- 翻訳
- 閉途 (Tojito)
- ライセンス
- CC BY-SA 4.0
私のためじゃない美
私は自分の外見を変えることは好きじゃない。でも、社会に馴染むためには必要なこと。男性のほとんどは、女性のほとんどが仄めかす茶番じみた真似事が嫌いらしい。男たちは自然体の美を望んでいるそうだ。でも、男たちはおおげさに加工されたタレントたちが涎を垂らすほどに大好きだ。自分の住む町をうろつく女の子たちとまるで違いがないのに。こんなことが普通だから、ハリウッドの女たちの不自然な美を真似なければならないと言われるせいで、女の子たちはメイクに泡を立て、毎日様々な化粧ブラシを使って自分の欠点をごまかす。
私はそんな女の子たちと違わない。
私はメイクが大好き、本当に。でも、悩みの種でもある。ただの映画館デートの準備をするためだけに、私が頭の中に思い描いた美を完璧に実現しようとするのを、彼は数時間リビングルームで待たないといけない。多くの女性たちと同じように、完璧にメイクを終えて、私の偽物の鏡像が楽しそうに笑みを浮かべるまで、私は洗面所を出ようとしない。
彼や世間の男たちは知らないけれど、自然体なんてものはもう存在しない。私の仲間内では、タネも仕掛けもない人は、どんな美を陳列していても、もう見向きもされない。官能的な目、ふっくらとした赤い唇、輝く肌、長く魅力的な髪をお出ししないと、世界から相手にされない。ただのバケモノ。
私たち女性はこんな浅薄な結論に達してしまったけれども、私たちはよく彼から自分の素の美の素晴らしさを認めるように圧力をかけられる。それでも、私たちは、そう私自身も含めて、かつて私たちの本性を目撃してしまった男たちのせいで、数えきれないほどに過酷な苦しみを経験してきた。私は自分の外見を愛せるようになりたい。私は自分に自信を持ちたいし、私は美しいんだと世界に叫びたい。でも、現実はそんな冒涜的な発言を許してくれない。
私は恐れているのに、彼がどう反応するか分からないのに、羽目を外してしまい、彼に泊まっていいと言ってしまった。
なんて馬鹿だったんだろう。
私がシャワーを浴びていると、洗面所のドアがバタンと開く音が聞こえた。私以外の人にとっては、それは親密な関係に続くやや危険な道への誘い。でも、私にとっては、恐怖を誘うもの。全く予想通りに、聞きなれたショックを受けた声が響きわたった。
「な、何なんだ、これ」
彼は震えながら言った。
私はお湯を止めると、躊躇いながらゆっくりとシャワーカーテンを開いた。晒してしまうと、彼は私と目が合ったが、その視線は私の裸体を上から下へと進んでいった。それは彼がかつて愛していたヒトの体。彼が私の顔を見たときの表情は、胸が張り裂けるような悲痛なものだった。
「これのこと、話してもいいかな」
私が尋ねてみると、彼は後ずさり始めた。目は恐怖により狂気を帯びていた。
彼は頭を横に振った。身震いし、脚をもつれさせた。
「鼻どこにあるんだよ。お、お前、一体何なんだ」
彼はヒステリックな態度で言い返してきた。
私は重い溜息を洩らし、彼に向けて腕を伸ばした。
「お願い、こんなことはやめて」
私は彼に懇願した。
彼は後ずさりし続けた。彼は素早く顔をドアに向け、どれほど走れば逃げられるか計算した。
「お前は逃げられない」
私は頭を横に振った。涙が頬を流れ落ちた。
私が突然に低い声を出したため、彼の注意は私の方に戻った。彼の表情は急に声の調子が変わったことで、さらに恐怖で歪んだ。過去の男たち全員と同じように、彼はドアに向かって走っていき、殺気立った様子でドアノブを回した。ドア枠に設置された無数の錠を開けることを忘れていた。
私はしばらく眺めていた。彼の恐怖を、衝撃を、私への露骨な嫌悪を観察した。まるでそれが何年も続いたかのように、怒りが爆発し始めた。私を見捨てようとした彼を目撃したときの失望感が、自分の真の姿を見せようとしたときの勇気を忘れさせた。そう、付け髪、偽舌、義鼻、義耳、栗色のコンタクトレンズ、コラーゲンでいっぱいの唇が無い私の姿を……。彼を喜ばせようとした私の努力を彼は認めなかった……。前の彼たちと全く同じように、彼は私を酷く醜いと思っていた。
だから、彼が最後の錠と格闘し、助けを求めて絶叫している最中、私は歩み寄り、ドアの錠を開けるのを助けた。彼は外に出ると、廊下を走り始めたが、廊下にいる女性の数が増えていることに気付いていなかった。彼は女性の一人に駆け寄ると、私と見なしたバケモノを指さした。女性は彼を安心させ、彼を地面に座らせると、他の様々な人たちも彼の周りに集まってきた。徐々に、彼が差し迫った状況にあることが理解されてきた。女性たち全員が自分の仮面を外した。社会の普通に閉じ込められてきた私の仲間たちだ。彼女たちは彼をバラバラに引き裂き始めた。
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