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2023年4月27日木曜日

禍話リライト「夢の缶ジュース」

夢の缶ジュース

Aさんという男性が高校生の頃に体験した、夢にまつわる話。

Aさんには幼い頃に大親友がいた。しかし、その友人は不慮の事故で急死してしまった。それ以来、友人の命日になると、奇妙な夢を見るようになった。

その夢には件の友人が出てくる。不思議なことに、友人は幼い頃のままではなく、成長した姿で現れる。Aさんが小学生、中学生と成長するにつれて、夢に出てくる友人も背が伸びていく。場所はAさんの家と友人の家の中間地点にある自動販売機の前。夢の中のAさんは友人が死んだことを覚えておらず、他愛もない会話をして過ごす。友人は必ず自動販売機で缶ジュースを買うのだが、決まって蜂蜜入りの炭酸飲料を選ぶ。友人はその飲み物を飲んでは不味いとぼやき、Aさんと笑い合う。それだけの夢だ。

目が覚めると、友人の命日であると思い出して悲しい気持ちになる。ただ、朝食の時間の頃には夢を見たことを忘れてしまう。そのせいか、毎年奇妙な夢を見ているというのに特に気にすることはなかった。しかし、高校生の頃に見た夢の体験があまりにも恐ろしく、Aさんは忘れられなくなってしまった。

その時期、Aさんは生まれて初めての恋人ができた。彼女との仲は良好で、Aさんは浮かれながらも楽しく過ごしていた。

そして、友人の命日。やはり、高校生の体格に成長した友人が出てくる夢を見た。このときの夢はいわゆる明晰夢で、友人が既にこの世を去ったことを覚えていた。しんみりとしつつも他愛もない会話を楽しんでいると、いつも通りに友人は例の蜂蜜入りの飲み物を買った。友人は缶ジュースを一口啜ると、

「ホント不味いな。お前も飲んでみないか」

と言った。不味いのに飲むわけがないと笑いながら断ったが、友人は引き下がらなかった。

「お前もさ、そろそろ飲んでみたいと思っているんじゃないのか」

どうも様子がおかしい。友人は顔が真っ青で、目には怒気を孕んでいた。友人は語気を荒げ、ジュースの缶を顔に押し付けてきた。

「いい加減、お前もさ、そろそろ飲む時期だと思うんだ。なあ、飲むだろ。飲めよ」

それでもAさんが断ると、友人は掴みかかってきた。異様に力が強く、片腕でAさんの両腕を抑え込んでしまった。Aさんはなぜか、缶ジュースを絶対に飲んではいけないような気がして、必死に抵抗した。缶ジュースから漂う蜂蜜の強烈な香りが鼻腔を埋め尽くした。

どうにかAさんは目を覚ました。まだ夜中だった。冷や汗をかいたためか、Aさんは喉の渇きを覚えた。台所に向かい、麦茶でも飲もうかと冷蔵庫を開けた。

そこには、蜂蜜入りの缶ジュースがあった。夢に出てきたものと全く同じ。

Aさんは反射的に冷蔵庫を閉めた。恐ろしくてたまらなくなり、寝ていた母親を叩き起こした。母親に冷蔵庫を開けてもらったが、その缶ジュースは影も形もなかった。

その出来事があってから、友人が夢に出ることはなくなった。仮にその缶ジュースを飲んでしまっていたら、Aさんはどうなっていたのだろうか。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様 (FEAR飯)

『望みが叶う森』(Creepypasta私家訳、原題“The Forest of Things You Want to Happen”)

雪の降る中を歩く女性の写真

望みが叶う森

外では雪が降っている。そこでは子供たちが橇やスキーで遊んでいた。ママが幼いジョニーが羽織っている毛皮のコートのクロームのボタンを留めて、ジョニーの頭を軽く叩く。

「ジョニー、今日は雪が降っているね」とママが言う。

「だから、公園には遊びに行けないね。きっとブランコがツルツル滑るしね。森の中をちょっと散歩しに行こうよ」

森? ジョニーはこれまで本物の森に行ったことがなかった。ジョニーは頷き、親子はウェリントンブーツを履く。ママは傘を持ち、親子は家を発つ。それから、親子はジョニーが通う学校を通り過ぎ、それから病院、郵便局、バス乗り場を過ぎていく。バス乗り場でジョニーは、笑みを浮かべた交通安全のおばさんが喜んだ様子で手に持つ標識をジョニーの方に振っているのを目にする。ジョニーは手を振り返して笑う。ママはトラネコを指さす。トラネコはバス乗り場のスクリーンの下で自分の手を舐めている。

「子猫さんがいるよ、ジョニー。子猫さんに『こんにちは』って言いなさい」ママは笑顔で言う。

「こんにちは、子猫さん」ジョニーはママの言葉を繰り返し、手を振る。

親子は森の外れに辿り着き、ママはジョニーの手を握る。暖かな光がママの笑顔から放たれる。

「この森は魔法がかかっているのよ。他の森とは違うの」

「どうして、ママ」

「この森は、起きてほしいことを見せてくれるの。ここで見える全てのことはジョニーが望むことなの」

ジョニーは立ち止まり、驚きで目を見開いた。

「本当?」

「もちろんよ」

ここは本当に……魔法の森? 今になって、ジョニーは進むのが心配になってきた。ジョニーはこれまで魔法が関わるものに出会ったことがなかった。少し信じがたかった。それでも、ジョニーは信じることにした。なぜなら、大人は嘘を吐かなかったから。

「ママ、僕はもう森の中で何が見えるか分かるよ!」

「それじゃあ、ママに何が見えると思うか教えて」

「きっとキャンディが見えるよ。いや、キャンディ千本だ! 百億万本のマース・バーと綿飴。それがそこら中に! マシュマロもほしいし、いろんな味のタフィーもいいな!」

「あらジョニー。本当にほしがりさんね」ママはジョニーの髪をくしゃくしゃに乱した。

「それだけじゃないよ。キャンディだけじゃない。おっきなおっきなおうちも見えるよ! えっと、それと新しい自転車、フットボール、たっくさんのお金も」

「森に行ってみましょうか」

「やったぁ!」

親子は手に手を取って2本の見事なオークの分け目の中を入っていった。ママは傘を折り畳み、ハンドバックに戻す。頭上に広がった葉の落ちた枝が十分に雪を防いでいるからだ。

並木の間を通る道を歩いていると、地面の上に降り積もった雪が薄くなり始める。木々は色味を帯びて生き生きとし始め、葉が生え始める。すぐに、足の下でザクザクと音を立てていた雪は消えてなくなり、青々とした緑の草の層が姿を現す。美しいピンク、黄色、赤色の花々が親子の周りの原っぱで生えてくる。進むにつれて木々は数を減らし、瞬く間に木々は姿を消す。

ジョニーは目の前の光景を不思議に思い、当惑しながら辺りを見回す。ジョニーは夢を見ていたのだろうか。もちろん、ママは嘘を吐いていなかった。大人は絶対に嘘を吐かない。この場所は本当に魔法がかかっており、まるで夢のよう。その森は間違っていない。ジョニーは本当にこんな場所に永遠に住めたらいいと願っている。親子が歩みを進めると、周囲の風景はもう一度変化する。

このときは、原っぱは美しい砂浜に変わる。歩いていくと、金色の砂が足の下で小さくサラサラと音を立てる。親子の周囲をカモメが飛ぶ。もはや寒くはない。太陽が頭上で輝き、ジョニーは移動遊園地を目にする。そこには様々な乗り物がある。アイスクリーム売りのトラックもある。楽しい道化師も。ジョニーはついさっきはあの原っぱが気に入っていた。しかし、この場所の方が大分好みだ。やはり、その森は正確だ。ジョニーは確実にこの場所を望んでいる。実際に、ジョニーは残りの人生をこの黄金の理想郷で過ごしたいという衝動に駆られている。

雷鳴が轟き、そして、雷とともにあるはずの灰色の陰鬱な風景の代わりに、綿飴でできた色とりどりの雲が空を覆う。オレンジ、青、ピンク、赤。ジョニーは虹色の雲さえも目にする。虹色の紙幣が空から降ってきて、ジョニーの髪の上に着地する。

「ママ、急いで、傘を出して!」ジョニーは叫ぶ。

ママはハンドバッグから傘を取り出して、ジョニーを見て笑いながら、傘を開いて逆様にし、色とりどりの紙幣を集める。

空は晴れ、太陽が再び輝いている。紙幣は消え去るが、ジョニーは気にしない。アイスクリーム・トラックに近づいているためだ。トラックはジョニーの目の前で巨大な青い豪邸に変わる。その巨大な家は、まさしくジョニーが夢に見たものだ。とても小さい頃から、この豪邸を所有する夢を見ていたのだ。ママは豪邸の方に向かうように促して、ジョニーは階段を上ってドアをノックする。ドアが開いて、百億万のマース・バーとグミベアが地滑りのように零れ出て、ジョニーを押し倒す。ジョニーはキャンディの雪崩の中でママの方へ滑り落ちて倒れる。ジョニーは両腕と両脚を広げ、ワイパーのように両腕と両足を前後に動かして、地上にキャンディの天使を作り出す。ママは笑い、築山を指さす。

赤いフレームのピカピカの自転車が誇らしげに壁に寄り掛かって停められている。黄色と緑のフットボールがそのそばでキラリと光る。ジョニーはハッと息を飲み、キャンディの内側にできた天使形の空間から起き上がると、その方へ走るが、ママに止められる。

「ジョニー、時間があまりないの。まずは森の中のご馳走をすべていただきましょう。それから、戻ってきてお気にのものを取りに行けばいいの、わかる?」

ジョニーは自転車を十分に試乗し、フットボールを蹴飛ばす誘惑に抗う。ジョニーは再びママの手を取り、豪邸を後にする。

親子が進んでいくにつれて、空は暗くなり、太陽は灰色の雲に覆われる。このときは、雲は綿飴ではできていない。ジョニーはこれは先ほどの風景から次の風景へのただの変わり目なのかと思うが、空は暗くなり続ける。木々が再び姿を現すが、葉は無く、不気味に捻じれている。ジョニーは怯え、困惑する。親子は森から出ていくところなのだろうか。ジョニーはそんなことは望んでいないと分かっている。そのせいでジョニーは狼狽する。ジョニーのママの手を握る力が強くなる。

「ママ、寒いよ……。もう歩きたくない。おうちに帰りたいよ」

「ママ?」

ママの手が冷たく固く感じる。視線を降ろしてギョッとする。そこにもうママの手は無く、ジョニーが握る手はガラスでできている。装飾品のように、人間の手を形作っているガラス。それは完全に透明で、掌が透けて自分の指が見える。ママの指輪の形は指の周りにまだ明らかに目に見えている。

ジョニーは深く息を吸い込むと、左の方を見る。ママはそこにはいないが、ガラスの手はまだジョニーの手を握っている。ジョニーは悲鳴を上げ、咄嗟にその手を離すと、ガラスの手を落としてしまう。

手は床に落下し、千々に砕け散る。今、砕けたガラスが目の前の床に散らばっている。ママはまだどこにも見つからない。ジョニーは数秒間、物も言えないほどに驚愕し、それから泣き出す。森を見渡すと、今や森は完全に影に覆われて灰色だ。

「ママ……。マ、ママ……。怖いよ……、どうなっているの」

突如、ママが目の前に現れる。ジョニーはママに駆け寄り抱き着こうとして、どういうわけか恐怖で戦慄が走る。ジョニーは啜り泣き、ママの数十センチ前で立ち止まって縮こまる。新たなママは生気のない、恐ろしい表情をしている。

「ママ……手はどうしたの」

ママの左手は無くなっていた。

「ジョニー、お前がママの手を壊したの」ママは半ば呟くように言い、ジョニーの背後の床でキラキラと輝く残骸を指さす。細くてなよなよとした枝が不気味で悍ましげな影をママの顔に投げかける。「お前のせいでママの手は無くなったの。お前がやったの。お前がそう望んだんでしょ」

「えぇ?」混乱、当惑、恐怖。何が起きているのか。有頂天だった子供が今や鼻水を抑えようともがいている。彼は凄まじい悪夢に囚われているのだ。ジョニーは慎重にそっと辺りを見回す。さながら肝を潰した猫のようだ。「ママ、こんなこと起きてほしいと思っていなかったよ。絶対に! ママの手を壊したいなんて絶対に思っていないよ! ごめんなさい!」

「ジョニー、森はいつだって嘘を吐かないの。お前はキャンディもフットボールも欲しかったでしょ」

「でも、こんなことは望んでないよ! ママ、ごめんなさい! ママと手を繋ぎたいよ!」

「ジョニー、残念だけどもう無理なの。ママがもう一方の片手も壊されたいと思っているとでも?」

ママは不気味にジョニーを睨みつけ、そのまま黙ったまましばらく経過する。ジョニーは恐怖の余りに動けない。ジョニーはこの新しいママが好きではない。ジョニーは偽りの罪で泣き喚き、偽りの動機で責められている。

遠くの暗闇の中に明るい光の輝きが見えて、ジョニーは動きを止める。

ジョニーは慎重にその方向へ向かい、近づいてからいったんしばらく立ち止まる。馴染みのある人影が光の下に座っていて、咳をして苦痛でぜぇぜぇと息を切らす。禿げ頭で短い爪に、顎には無精髭を生やした男。生え際に薄くなった茶色の髪が残り、それ以外は禿げあがった頭皮。

「パパ? パパ、どこか悪いの」

パパは答えない。ただ、ブツブツと不明瞭に呟き続けるだけだ。すると、赤い光が出現し、パパの胸部の左側から出てくる。パパは立ち上がって赤い光から逃れようとするが、光は糊のようにパパに貼り付いて離れない。ママが自分の肩に残った手を強く置いて、ジョニーは跳び上がる。

「パパは痛がっているよ。どうして助けようとしないの」

「でも……」ジョニーはハッと息を飲み、ママの失われた左手の方を見て、先ほど何が起きたか思い至る。「どうやって?」

「胸の中にある何かがパパを苦しめているの。切って取り出せば、パパを救えるわ。愛するパパを救うのよ」

ジョニーは目を見開く。ママが大きな包丁を取り出したからだ。空の裂け目から微かな光の筋が差し込み、包丁の刃がキラリと光る。

「ママ……。すごく怖いよ。こんなこと絶対嫌だ」

「あら、そうなの。森はいつだって噓を吐かない。ということは、お前がこうなれと望んだ奴なんだ。お前はパパが苦しめばいいと思ったんじゃないの」

ジョニーはできる限り激しくかぶりを振る。再び泣きたくなる。

「ほらほら、しっかりしなきゃね、可愛いジョニーちゃん? お前は間違いを償って、パパの苦しみを止めなきゃいけないの」

ジョニーが包丁を手に取ると、手が震える。ジョニーはパパの方まで歩いていき、その横で膝をつく。パパは急に恐怖にかられたように見える。パパの目から涙が流れ、目が大きく見開かれ、懇願するような風だ。

「ごめんなさい、パパ。こんなこと起こってほしくなかった。でも、森はぼくが望んだって言うんだ。だから、ママは僕がパパを苦しめる何かを取り出す助けをしないといけないって言うんだ。心配しないで、すぐに済ませるよ。約束するよ」

パパは首を横に振るが、ジョニーはそれでも包丁を手に取り、切開を始める。パパは悲鳴を上げて喚き散らす最中、ジョニーは泣き叫ぶ。驚くことに、パパの肉はバターのように切れる。血は湧き出てこない。パパの体の内側には数百万もの小さな白い蛆が詰まっている。そのすべてがパパの皮膚の下をのたうち回っている。小さなハサミを持つ蛆もいて、ジョニーの手に這い上がる。ジョニーは悲鳴を上げて、気持ち悪さと恐怖で後ずさり、ママの方に目を向ける。ママはジョニーの行動を良く思っていないようだが、その顔には奇妙な表情が浮かび、歯を見せて笑いそうになっているところである。

「しっかりしろ」ジョニーは自分に向かって呟く。「しっかりしなきゃ」

ジョニーはさらにパパを切っていく。何か大きく丸いものがパパの内側で動いている。何か固く震えるものが。ジョニーは悲鳴を上げて泣き叫び、手を蛆の塊の中に沈め、パパを苦しめていたものを引きずり出す。

それは赤いもので、2本の長い紐が繋がっており、その紐はパパの肉体の内側へと続く。ジョニーの手の中でまだ鼓動を打つ。ジョニーは泣くのをやめて、怯えながらその物体を見つめる。

「じっと持っていてジョニー」ママが呟く。「パパの心臓をママの手みたいに落としたらパパはね、死ぬ」

「でも、ママ、そうしろって言ったでしょ。あんたが言ったんだよママ!」ジョニーは泣き喚きながら、かなり慎重にパパの心臓を両手に抱く。震えてしまい、何をすべきか決心がつかない。心臓をパパの胸に戻そうとし始めるが、パパは叫び声を上げてもだえている。しかし、赤い光がパパを地面に押さえつける。

ジョニーは叫ぶ。パパの皮膚が急にジョニーの両手に癒着していく。すぐに、両手はパパの皮膚に包まれる。今やそこから血が湧き出始め、さながらパパの胸の中に手が囚われてしまったかのようだ。

「やめなさい! ジョニー! お前がパパを苦しめているんだ!」ママが叫ぶ。

「ママ、どうしたらいいんだよ!」

パパは荒々しく手足をバタつかせる。突如、パパは床に倒れ伏し、肉体が衰弱する。ジョニーは全力でパパから手を抜き出し、地面に倒れ込む。明るい光が出ていって、パパの死体が地面に倒れている。ママは泣いている。

「ジョニー! お前が何をしたか見なさい! どうしてそんな悍ましいことが起きてほしいと思ったの」

「思っていないよママ、思っていないって言ったでしょ! こんなことになっている理由なんて分かんないよ、こんなこと本当に望んでなんか……」

「お前は父親を殺したんだ! お前は父親に死んでほしかった。お前は殺したかったんだよ! ママ恥ずかしい。お前がこんなに卑しい奴だったなんて、ジョニー!」

「ママ、そんなこと望んでいないって!」涙が川のようにジョニーの目から出てきて黒い地面に流れ込む。「こんなこと本当に起きてほしくないよ! 訳分かんないよ! 怖いよ!」

「この嘘吐き!」ママが金切声を上げる。その叫び声は森の中をこだまする。

叫びの最中、ママの肉体は突如、凍り付く。眉は怒りで吊り上がり、顔はしわくちゃで、口が大きく開いている。ジョニーは震えあがり、ママの頭が完全にガラスに変化していくのを見つめる。すると、パキッと割れて頭が体から外れる。ジョニーは飛び退いて叫び声を上げる。首は肩の上から地面に落ちて、砕け散ってバラバラになる。

ママの頭の無い体が動き始め、しばらくの間よろよろと歩く。ママの声がいまだに地面の上の破片からこだまする。

「ジョニー、望みが叶う森は絶対に嘘を吐かない。お前がこんなことが起こればいいと望んだんだろ。お前は本当に、悪い子だ」

ジョニーは不意に陰鬱に沈黙し、無表情になる。ジョニーはじっと立ち尽くす。森の中へは進みたくない。こんな悪趣味は沢山だ。

「ママ」ジョニーは言う。「あんたは嘘吐きの、冷酷な怪物だよ」

ジョニーはたった一人ではなかったことを、2人の人間がこの森に入ったことを思い出していた。


The Forest of Things You Want to Happenを訳しました。作者の方は既に亡くなられているらしいです。

ちなみに、「マース・バー」とはチョコレート焼き菓子のことらしいです。「グミベア」はおそらくハリボーのことです。

作品情報
原作
The Forest of Things You Want to Happen (Creepypasta Wiki、oldid=1492561)
原著者
Tiololo
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2023年4月23日日曜日

『ソンブレロを被った恐竜』(Creepypasta私家訳、原題“Sombrero Wearing Dinosaur”)

ソンブレロを被った恐竜のイラスト

ソンブレロを被った恐竜

真夜中、ビリーは目を覚ました。いつもの悪夢のせいだ。しかし、今回はいつもの悪夢よりもひどかった。死ぬのを見るのではなく、殺す側に回っていたのだ。冷たい汗が額を伝って落ち、両目を見開いた。数時間も両目を閉じずにいたような感覚だ。

悪夢は何度も頭の中で再生された。まるで誰かが巻き戻しボタンを押して、繰り返し最初から悪夢を流しているかのようだ。ビリーの両手は熊手のように凍り付いたように感じられ、震え、何かを掴もうとしていた。両目はただぼんやりと両脚を覆う毛布を見つめた。悪夢がゆっくりと心から消えていくと、ビリーは頭をゆっくりと上げ、そしてそのベッドの前に見た……大きくて……黄色の……ティラノサウルスの姿を。ティラノサウルスは、とても大きいが体の大きさからしてきつそうなソンブレロのようなものを被っていた。その恐竜はティラノサウルスにしてはかなり小さかったが、それでも大きかった。頭は天井に接触し、尻尾は床の上でその恐竜の周りを取り囲んでいた。部屋に収まるには大きすぎたのだ。

ビリーは叫ぼうとしたが、突然に何かがハンマーのようにビリーの頭を打ち付けた。本物のハンマーだったら、ビリーの頭は粉々に吹っ飛ばされていただろう。なんてこった、壁が血や脳味噌、頭部の破片に塗れているイメージが既に心に浮かんでいた。そのイメージは数秒間残ったが、心は恐竜に焦点を戻した。

あの恐竜は絶対に前に会ったことがある。

恐竜は身を乗り出した。ビリーの顔には恐竜の暖かい息が感じられた。ビリーはソンブレロを細かく把握できるようになった。薄茶色のフェルトでできており、側面とてっぺんは深紅と白の花柄で、白い部分には金ぴかのラメがあった。

恐竜は丸々一分間ビリーを見つめた。ビリーは自分が恐竜に恐怖を抱いていないだけでなく、安心感のようなものを感じていることに驚いた。恐竜は口を開けて物を言った。奇妙なことに口は恐竜が話すようには動いておらず、誰かが恐竜の中にいて、内側から話しかけているようだった。

「大丈夫かい、ダニー?」

恐竜は低い声で聞いてきた。奇妙なことに他の何物でもなく人間の声のように聞こえた。

ダニーはゆっくりと頷いた。ダニーは膝を胸の方に寄せて、腕で膝を抱え、助けようとしてくれている恐竜をじっと眺めた。恐竜は頭を上げて、それからゆっくりとダニーのナイトテーブルの上にあるディジタル時計を見た。時計の画面には6:25という数字が輝いていた。恐竜は頭をダニーの方に向けて、再び話しかけた。

「また悪夢かい? 寝た方がいいよ、テディ」

テディはすぐに首を横に振った。ゆっくりと脚を広げて言った。

「悪夢が怖いんだ……」

すすり泣きのような言い方だった。恐竜は部屋を見まわした。尻尾がナイトテーブルの脚の1本にバタンと打ち付けて、ナイトテーブルをひっくり返した。しかし、少年も恐竜も気にせず、隣の部屋で眠る両親でさえも物音に気付かなかった。

「名前はなんていうの?」

テディがそう聞いたとき、恐竜はテディの棚の上に置かれたおもちゃを見ていた。恐竜はぼんやりと棚の上のテディベアを見つめながら言った。

「覚えていないのかな? 僕たちは親友だったんだよ、スティーブ……」

スティーブは瞬きした。恐竜と友達になった記憶はない。しかし、ジェリーと一緒にいてそんな気分がするのはそういうことかもしれない……そうだ、ジェリーだ。スティーブはやっと思い出した。

「ジェリー、でしょ?」

スティーブはそう聞いて、ベッドの反対端にまでゆっくりと這っていった。恐竜は見渡すと、爬虫類の唇に笑みを浮かべて頷いた。それから、テディベアを抱えて振り返った。テディベアにはジョシュアという名前が書いてあった。

「これは君のだよね?」

ジェリーはジョシュアにテディベアを渡した。ジョシュアはベッドから跳び下りると、恐竜の尻尾で躓きかけた。バランスを取り直すと、頷いてテディベアを受け取った。テディベアを抱いて押しつぶした。

「遊ぼうよ」

ジョシュアはジェリーに優しく微笑みかけた。恐竜は笑顔を返して頷いた。2人は床に座ってジョシュアのおもちゃで遊んだ。ジョシュアはテディベア役で、ジェリーはジャケットを着て右ポケットにナイフを入れた男の役。2人は冗談を言って笑いながら遊んだ。

それから、2人はチェッカーで遊んだ。ジョシュアは黒の駒、ジェリーは赤の駒。

それから、2人は泥棒ごっこで遊んだ。ジョシュアは警官、ジェリーは泥棒。

それから、2人は消防士ごっこで遊んだ。ジョシュアは消防士で、ジェリーはナイフ。

それから、2人はスーパーヒーローごっこで遊んだ。ジョシュアはスーパーヒーローで、ジェリーは複数の刺し傷。

それから、2人は騎士の龍退治ごっこで遊んだ。ジョシュアは銃、ジェリーは頭蓋骨を貫く銃弾。

それから、2人はチェッカーで遊んだ。スーザンは死体、ジェリーは父親。

最後に、2人はスーザンの寝室でかくれんぼで遊んだ。スーザンは罪、ジェリーは破れたガラス。

2人はスーザンが学校へ行く準備をする時間になるまで遊び続けた。ジェリーはスーザンの両親の寝室のドアが開く音と、誰かが自分の寝室の方へ歩いてくる足音を聞いた。スーザンは焦った。部屋はめちゃくちゃで、おもちゃは床中を散らばり、そこには恐竜がいる。スーザンはすぐに恐竜の方へ向いて、そして……

ジェリーはいなくなっていた……。

ビリーの母親がドアを開けると、床の上のおもちゃを見て眉をひそめた。大目玉を食らって朝食を食べた後、ビリーは学校へ行く準備をした。ビリーは玄関の前に立ち、母親がビリーの部屋からお気に入りのドナルドダックの冬用帽子を持ってくるのを待っていた。母親は帽子を持ってすぐに階段を駆け下りてきた。ドアを開けて、帽子をビリーに手渡した。すぐにバスが到着するところだった。外では、前庭の芝生が雪が降り積もって真っ白に染まっていた。一部が黄色の雪になっていて、父親が雪で覆い隠そうとしていた。

「今朝、またクソッタレのルーカスの野郎が酔って芝生に小便しやがった」

父親が母親に怒りと疲労で怒鳴りながらそう言った。

ビリーが歩いて出ようとすると、母親が立ち塞がった。母親は膝をついて、ビリーの頬に軽くキスをした。

「ごめんね叱っちゃって。でも、自分の部屋をあんなに散らかしちゃ駄目でしょ……」

母親はビリーの目をじっと見つめた。

「厳しくし過ぎたくなかったの。また悪夢を見たの?」

母親は心配しながら言った。

ビリーは首を横に振った。なんて嘘吐き。

一方で、父親はルーカスの野郎が次に立ち小便をしたら、頭をショベルで何度も殴り、黒いキャンバスに描いた絵のように白雪に脳味噌をばら撒いてやって、それから奴の死体の上に座って煙草を一服してやると考えていた。そのイメージが頭を過ぎり、顔に少し笑みが浮かんだ。といっても、ただの思い付きだ。

ビリーはバスに乗り、その日はいつもと同じように展開していった。

バスは車線を走った。空には雲一つなく、太陽が眩しく輝き、そのせいで雪で目が潰れかねなかった。バスはビリーの家の前に停まった。ビリーはバスから慎重に跳び下りた。足を踏み外して転ばないようにした。それから、家に向かい、戸口の上り段のそばで足を止め、ドアベルを鳴らした。母親がドアを開けて、歩み入ろうとするビリーに微笑みかけた。

巻き戻し

バスは車線を走った。空には一塊の雲があったが、太陽は眩しく輝き、そのせいで雪で目が潰れかねなかった。バスはビリーの家の前に停まった。ビリーはバスから慎重に跳び下りた。足を踏み外して転んで顔面を地面に打ちつけないようにした。それから、家に向かい、戸口の上り段のそばで足を止め、ドアベルを鳴らした。母親がドアを開けて、歩み入ろうとするビリーをじっと見つめた。

巻き戻し

バスは車線を走った。空には沢山の雲があったが、太陽は眩しく輝き、そのせいで雪で目が潰れかねなかった。バスはビリーの家の前に停まった。ビリーはバスから慎重に跳び下りた。足を踏み外して転んで顔面を地面に打ちつけて、綺麗な歩道に血塗れにしないようにした。それから、家に向かった。戸口の上り段のそばで足を止め、ドアベルを鳴らした。母親がドアを開けて、歩み入ろうとするビリーに眉をひそめた。

巻き戻し

バスは車線を走った。空は曇っており、太陽は見えなかった。バスはビリーの家の前に停まった。ビリーはバスから慎重に跳び下りた。足を踏み外して転んで顔面を地面に打ちつけて、頭蓋骨を骨折して綺麗な歩道を脳味噌で汚さないようにした。それから、家に向かった。戸口の上り段のそばで足を止め、ドアベルを鳴らしたが、返事がなかった……。もう一度鳴らしたが……返事はなかった。それから、ビリーはドアは開いていることに気付いた。2人の警官が中にいて、台所の床の上に横たわる2人の死体を見下ろしていた。

ジミーは2人の死体をじっと見つめた。2人の顔は見えなかったが、見たくなかった。もしあれが自分の……

「すまないが……君がジミーか?」

警官の1人がドアのそばにいたスティーブに気付いた。

スティーブはとてもゆっくりと頷いた。

警官は溜息をつき、それからこう言った。

「可哀想に……お巡りさんたちは誰がこんなことをしたのか見つけようとしているんだ……分かるかい?」

警官はジョシュアの目を見つめて、肩に腕を回してジョシュアを慰めようとしてた。もう1人の警官が頭をかきながら、遺体を調べつつこう言った。

「まるで恐竜がやったみたいだな……」

これは最高だ。

巻き戻し

これは最高だ。

巻き戻し

最悪だこんなの飲み物がほしい。


Sombrero Wearing Dinosaurを訳しました。Creepypasta WikiではPasta of the Monthに選ばれた作品です。 ソンブレロを被った愉快な恐竜さんが出てきます。

ちなみに、チェッカーとは黒と赤の駒を取り合うボードゲームのことらしいです。

作品情報
原作
Sombrero Wearing Dinosaur (Creepypasta Wiki、oldid=1463702)
原著者
The Wizard Experience Starring Meds 2.0
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2023年4月22日土曜日

『花を見つけた子供たち』(Creepypasta私家訳、原題“The Children Found a Flower”)

赤い花の写真

"'Grand Duke of Tuscany' Jasmine Flower At Dawn" by Chic Bee is licensed under CC BY 2.0.

花を見つけた子供たち

「キモっ! 触っちゃ駄目だよ!」

ジュディスは悲鳴を上げて後ずさった。ジョージが糸杉に張り付いていた肉の塊を尖った枝で突いたからだ。ジュディスの隣にいた幼いトーマスは、興奮しながらその物体を指さし、口を大きく開けて笑いながら大声で言った。

「ねえ! 動いているよ!」

確かに、子供たちが見つけたそれは反応してピクピクと動いており、物体の中央にある肉の穴はゆっくりと開閉し始めた。それが奇妙な物体ということくらいは子供たちも分かっていた。離れたところから見ると木に生えた花のように見えたが、近づいてみると異常な物体であることに気付いたのである。

例えば、その物体には口があった。その牙でいっぱいの胃袋は、試しに枝で突いてみるまでは眠っているように見えた。それ自体も奇妙だったが、子供たちが調べているうちに、その木にくっついた物体の口は数マイルに渡って伸びているらしいことに気付いた。歯でいっぱいのグロテスクな筒状の物体が、あり得ないほどに伸びに伸びている。その大きなピンク色の花びらをじっくりと調べているときに、その物体は素早く路傍に出てきた。舌の塊のように見える物体の中央に口の穴があり、その舌の一つ一つにたくさんの白い突起があった。その白い欠片が実際には人の歯であり、この肉の花から生えているらしいことに気付いたのはジュディスだった。

ジュディスはその物体に用心していた。ジュディスは理解できないものにはどんなものでも用心深かったのである。しかし、ジョージとトーマスは興奮し、この新しい発見に興味を抱いた。ジュディスも一人では沼地を通り抜けて戻れなかった。少年たちはその物体を見て笑い声を上げた。飢えた胃袋がピクピクと動き、ブクブクと音を立て、花びらの数枚が空気を舐め、沢山の歯が内部に引っ込む様を見て楽しんでいた。その物体が何か動きを見せる度に、ジュディスは一歩後ずさりした。どうにも……まずい感じ。ジュディスがいつも家の外の沼地で見かけた植物は同じような種類のものばかりだった。しかも、父親の花の本にもこのようなものは絶対に載っていなかった。

ジュディスが茶色の髪を指で弄りまわしていたとき、ジョージは試しに枝の先を歯を軋らせる消化管に押し込んだ。すると、眼鏡を掛けた小太りのジョージは引っ張られて数歩前に進んだ。持っていた枝が貪られ、乱暴に引き込まれたためである。ジョージが悲鳴を上げて枝を離すと、花は枝をすぐさま飲み込み、枝の破片が宙を舞った。非常に鋭い牙が幾重にも並び、一噛みごとに木端が飛んだ。今や、花びら舌の一枚一枚が勢いよく動き、多くの小さい歯が突き出て激しくピクピクと動き、侵入してきた物体を無思慮に食い尽くした。

トーマスは大声で金切声を上げ、その甲高い声が辺りに響き渡り、枝を貪る音をかき消した。ジュディスとジョージもすぐに同じように叫んで数歩後ずさった。目には突然の生命の危機への思いがけない恐怖でいっぱいになった。ジュディスは口を尖らせ、服をきれいに整えると、激しく足を踏み鳴らした。肩ほどの長さの茶色の巻き毛を怒りに任せて跳ねさせ、不満を露わにした。

「私、触るなって言ったよね! こんなのやだ、家帰りたいよ!」

ジョージは眼鏡の位置を直し、不機嫌に頬を膨らませて、自分より幼い女の子に対して口を尖らせ返した。そして、胸の前で腕を組んだ。

「いいよ、このでっかい赤ちゃんめ! そんなことしたら、次から置いていくからな!」

「そうだそうだ!」

トーマスは甲高い声でそう言うと、自分より大きな少年の横でそのポーズを真似し、ジュディスの方に侮りの表情をしてみせた。ジュディスは赤面すると、舌を出し、別の糸杉を背に腰掛け、同じように腕を組んだ。状況のせいでジュディスは気が動転していたが、遊び仲間を失っていいほどのことでもない。ジョージはトーマスに頷いてみせ、例の異常な花に注意を戻した。

ジョージはしばらくの間、顎を撫でた。ぷっくりとした指がそばかすのある青ざめた肌を擦り、例の発見した物体に対して次に何をすべきか考えた。その物体はほとんど全く動いておらず、発見したときと同じように眠っているようだった。突如、トーマスにアイディアが浮かんだ。

「岩ぶつけてみたくない?」

「いいね!」

2人の少年は微笑んだ。ジュディスは話しかけようと口を開けたが、また拗ねてしまった。2人が自分の身を傷つけたいと望むのならば、誰が2人を止めるというのか。2人はまるで聞く耳を持たなかったのだから。ジョージとトーマスは土を掘り、見つけた中では一番大きい岩を掴んだ。大きい方の少年は汗ばんだ手を伸びたカーディガンに擦り付けてから、花に狙いを定めた。

岩はジョージが思っていた以上の力で放たれて、花びらに音を立ててぶつかり、激しさのあまりに1枚の花びらに傷が残った。奇妙な物体は苦痛で唸り声を上げた。その叫び声は森中をこだまし、あまりのうるささに子供たちは耳を手で覆った。怪物の舌花びらを覆う歯が露わになった。花は岩をぶつけられたことに怒り狂い、凸凹の花びらがピクピクと動いて身もだえして、数十の歯が花びらから危うく抜け落ちかけた。ピンク色の内臓が空腹でバタバタとのたうち、胃袋をピチャピチャと鳴らしながら、喉の割れ目のどこかから長くて黒い蔓を噴出し、荒々しく蔓を振り回した。死に物狂いで攻撃してきた何かを探していた。

トーマスは悲鳴を上げて、花に四角い岩をぶつけた。他にすべきことが思いつかなかったのだ。再び猿のキャッキャッという叫びのような唸り声が響き、鳥たちが木から飛んでいった。長く甲高い叫びを聞いてジュディスとジョージは跪いてしまい、耳を手で覆った。しかし、最も幼かった子供はそこまで幸運ではなかった。トーマスは黒い蔓を凝視した。蔓がじたばたとした動きを緩めていくと、その先端が裂けて捲り上がり、白濁した白い目が露わになるのを見て、トーマスは何も聞こえなくなった。

最初の蔓からさらに多くの雫の滴る蔓が形成され始め、それぞれの蔓が数フィート伸びてから、またそれぞれが裂けて目が出てきた。怪物は金切声を止めたが、トーマスにはまだその音が聞こえていた。小さな二つの破裂音だけが、少年の鼓膜が破れたことを示していた。トーマスの目は蔓の興味深げに見つめる目に向けられた。蔓の目は絶え間なく増殖を続けつつ、静かに這い寄ってきた。ジョージはトーマスを大声で呼んだ、はずだった。しかし、ジョージの声は100万マイル離れたところからかけられたようだった。

花のヤニが滴る蔓の1本が前方に揺れ、さらに数百本の蔓が続き、凝集した塊となってトーマスの顔面に飛んでいき、トーマスの両目がグルグルと回った。多くの蔓がトーマスの口の中に入り込み、歯を粉々に砕き、胃の中を埋め尽くした。他の蔓は耳や眼孔の中を充満させた。蔓はぎこちなく動いて、いくらか力を使ってトーマスを地面に引きずり倒すと、新たな獲物を着実に引っ張り込んでいった。油に濡れた蔓がトーマスの脳を愛撫し、ジュディスとジョージの2人は骨の髄まで恐怖し叫び声を上げた。2人の友人が微笑んでいたからだ。トーマスの小さな手が土を引っ搔いて、さながら木に張り付いている例の物体の方に近づこうとしているようだった。両目は完全に真っ白で、肌は青白く、間違いなく死に物狂いで土の上をバタバタと進んでいった。

むせび泣きながら、ジョージはトーマスの足を掴んで引っ張った。元は磨かれたドレスシューズを泥や砂に塗れさせながらも、精いっぱいの力で引っ張った。トーマスは脚をバタつかせ、お返しとばかりに蹴りを入れ、怒りで喉をゴロゴロと鳴らし、世界で一番大事なものであるかのように糸杉の幹に抱き着いた。蹴りの一発が命中し、ジョージの顔面を捉え、眼鏡の片方のレンズを粉砕した。ジュディスはまだ悲鳴を上げており、完全にヒステリーな状態で手を耳に当てていた。

トーマスは幸せそうにペチャペチャと音を立てていたが、花に近づくにつれてその頻度は増していった。両手は舌花びらを恭しく握り、怒れる骨の隆起を愛撫した。花びらはトーマスの小さな指に巻き付いて、ドロドロとした唾液を塗り込み、蔓はトーマスの頭を飢えた歯の生えた軋る筒状の口の中に突っ込ませた。トーマスの頭蓋がすぐさま砕かれて、筒状の口からは深紅の太い筋が零れ、灰色の樹皮の上を流れていった。トーマスの顔には依然として笑顔が張り付き、花はトーマスをかじり始めた。

ジュディスは過呼吸になり、胎児のように体を縮こませた。一方で、ジョージは泣き叫びながら、鼻血が出続ける鼻を押さえていた。貪り骨を砕く音は徐々に小さくなった。残された2人は、その音がやんだ後も、数分もの間、黙って座っていた。最初に顔を上げたのはジュディスだった。このとき、数筋の涙が顔を流れ、頬をさくらんぼ色に染め、呼吸は喘鳴でしかなかった。

あの花はいなくなっていた。花が張り付いていた木も消えていた。血痕さえも無くなっていた。さながら何も起きていなかったかのように。

2人がこんなに速く走ったのは生まれて初めてのことだった。


The Children Found a Flowerを訳しました。怖い花の話……なのか?

作品情報
原作
The Children Found a Flower (Creepypasta Wiki、oldid=1425985)
原著者
SkullMunch
ライセンス
CC BY-SA 4.0