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2023年4月22日土曜日

Creepypasta私家訳『花を見つけた子供たち』(原題“The Children Found a Flower”)

赤い花の写真

"'Grand Duke of Tuscany' Jasmine Flower At Dawn" by Chic Bee is licensed under CC BY 2.0.

作品紹介

The Children Found a Flowerを訳しました。怖い花の話……なのか?

作品情報
原作
The Children Found a Flower (Creepypasta Wiki、oldid=1425985)
原著者
SkullMunch
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

花を見つけた子供たち

「キモっ! 触っちゃ駄目だよ!」

ジュディスは悲鳴を上げて後ずさった。ジョージが糸杉に張り付いていた肉の塊を尖った枝で突いたからだ。ジュディスの隣にいた幼いトーマスは、興奮しながらその物体を指さし、口を大きく開けて笑いながら大声で言った。

「ねえ! 動いているよ!」

確かに、子供たちが見つけたそれは反応してピクピクと動いており、物体の中央にある肉の穴はゆっくりと開閉し始めた。それが奇妙な物体ということくらいは子供たちも分かっていた。離れたところから見ると木に生えた花のように見えたが、近づいてみると異常な物体であることに気付いたのである。

例えば、その物体には口があった。その牙でいっぱいの胃袋は、試しに枝で突いてみるまでは眠っているように見えた。それ自体も奇妙だったが、子供たちが調べているうちに、その木にくっついた物体の口は数マイルに渡って伸びているらしいことに気付いた。歯でいっぱいのグロテスクな筒状の物体が、あり得ないほどに伸びに伸びている。その大きなピンク色の花びらをじっくりと調べているときに、その物体は素早く路傍に出てきた。舌の塊のように見える物体の中央に口の穴があり、その舌の一つ一つにたくさんの白い突起があった。その白い欠片が実際には人の歯であり、この肉の花から生えているらしいことに気付いたのはジュディスだった。

ジュディスはその物体に用心していた。ジュディスは理解できないものにはどんなものでも用心深かったのである。しかし、ジョージとトーマスは興奮し、この新しい発見に興味を抱いた。ジュディスも一人では沼地を通り抜けて戻れなかった。少年たちはその物体を見て笑い声を上げた。飢えた胃袋がピクピクと動き、ブクブクと音を立て、花びらの数枚が空気を舐め、沢山の歯が内部に引っ込む様を見て楽しんでいた。その物体が何か動きを見せる度に、ジュディスは一歩後ずさりした。どうにも……まずい感じ。ジュディスがいつも家の外の沼地で見かけた植物は同じような種類のものばかりだった。しかも、父親の花の本にもこのようなものは絶対に載っていなかった。

ジュディスが茶色の髪を指で弄りまわしていたとき、ジョージは試しに枝の先を歯を軋らせる消化管に押し込んだ。すると、眼鏡を掛けた小太りのジョージは引っ張られて数歩前に進んだ。持っていた枝が貪られ、乱暴に引き込まれたためである。ジョージが悲鳴を上げて枝を離すと、花は枝をすぐさま飲み込み、枝の破片が宙を舞った。非常に鋭い牙が幾重にも並び、一噛みごとに木端が飛んだ。今や、花びら舌の一枚一枚が勢いよく動き、多くの小さい歯が突き出て激しくピクピクと動き、侵入してきた物体を無思慮に食い尽くした。

トーマスは大声で金切声を上げ、その甲高い声が辺りに響き渡り、枝を貪る音をかき消した。ジュディスとジョージもすぐに同じように叫んで数歩後ずさった。目には突然の生命の危機への思いがけない恐怖でいっぱいになった。ジュディスは口を尖らせ、服をきれいに整えると、激しく足を踏み鳴らした。肩ほどの長さの茶色の巻き毛を怒りに任せて跳ねさせ、不満を露わにした。

「私、触るなって言ったよね! こんなのやだ、家帰りたいよ!」

ジョージは眼鏡の位置を直し、不機嫌に頬を膨らませて、自分より幼い女の子に対して口を尖らせ返した。そして、胸の前で腕を組んだ。

「いいよ、このでっかい赤ちゃんめ! そんなことしたら、次から置いていくからな!」

「そうだそうだ!」

トーマスは甲高い声でそう言うと、自分より大きな少年の横でそのポーズを真似し、ジュディスの方に侮りの表情をしてみせた。ジュディスは赤面すると、舌を出し、別の糸杉を背に腰掛け、同じように腕を組んだ。状況のせいでジュディスは気が動転していたが、遊び仲間を失っていいほどのことでもない。ジョージはトーマスに頷いてみせ、例の異常な花に注意を戻した。

ジョージはしばらくの間、顎を撫でた。ぷっくりとした指がそばかすのある青ざめた肌を擦り、例の発見した物体に対して次に何をすべきか考えた。その物体はほとんど全く動いておらず、発見したときと同じように眠っているようだった。突如、トーマスにアイディアが浮かんだ。

「岩ぶつけてみたくない?」

「いいね!」

2人の少年は微笑んだ。ジュディスは話しかけようと口を開けたが、また拗ねてしまった。2人が自分の身を傷つけたいと望むのならば、誰が2人を止めるというのか。2人はまるで聞く耳を持たなかったのだから。ジョージとトーマスは土を掘り、見つけた中では一番大きい岩を掴んだ。大きい方の少年は汗ばんだ手を伸びたカーディガンに擦り付けてから、花に狙いを定めた。

岩はジョージが思っていた以上の力で放たれて、花びらに音を立ててぶつかり、激しさのあまりに1枚の花びらに傷が残った。奇妙な物体は苦痛で唸り声を上げた。その叫び声は森中をこだまし、あまりのうるささに子供たちは耳を手で覆った。怪物の舌花びらを覆う歯が露わになった。花は岩をぶつけられたことに怒り狂い、凸凹の花びらがピクピクと動いて身もだえして、数十の歯が花びらから危うく抜け落ちかけた。ピンク色の内臓が空腹でバタバタとのたうち、胃袋をピチャピチャと鳴らしながら、喉の割れ目のどこかから長くて黒い蔓を噴出し、荒々しく蔓を振り回した。死に物狂いで攻撃してきた何かを探していた。

トーマスは悲鳴を上げて、花に四角い岩をぶつけた。他にすべきことが思いつかなかったのだ。再び猿のキャッキャッという叫びのような唸り声が響き、鳥たちが木から飛んでいった。長く甲高い叫びを聞いてジュディスとジョージは跪いてしまい、耳を手で覆った。しかし、最も幼かった子供はそこまで幸運ではなかった。トーマスは黒い蔓を凝視した。蔓がじたばたとした動きを緩めていくと、その先端が裂けて捲り上がり、白濁した白い目が露わになるのを見て、トーマスは何も聞こえなくなった。

最初の蔓からさらに多くの雫の滴る蔓が形成され始め、それぞれの蔓が数フィート伸びてから、またそれぞれが裂けて目が出てきた。怪物は金切声を止めたが、トーマスにはまだその音が聞こえていた。小さな二つの破裂音だけが、少年の鼓膜が破れたことを示していた。トーマスの目は蔓の興味深げに見つめる目に向けられた。蔓の目は絶え間なく増殖を続けつつ、静かに這い寄ってきた。ジョージはトーマスを大声で呼んだ、はずだった。しかし、ジョージの声は100万マイル離れたところからかけられたようだった。

花のヤニが滴る蔓の1本が前方に揺れ、さらに数百本の蔓が続き、凝集した塊となってトーマスの顔面に飛んでいき、トーマスの両目がグルグルと回った。多くの蔓がトーマスの口の中に入り込み、歯を粉々に砕き、胃の中を埋め尽くした。他の蔓は耳や眼孔の中を充満させた。蔓はぎこちなく動いて、いくらか力を使ってトーマスを地面に引きずり倒すと、新たな獲物を着実に引っ張り込んでいった。油に濡れた蔓がトーマスの脳を愛撫し、ジュディスとジョージの2人は骨の髄まで恐怖し叫び声を上げた。2人の友人が微笑んでいたからだ。トーマスの小さな手が土を引っ搔いて、さながら木に張り付いている例の物体の方に近づこうとしているようだった。両目は完全に真っ白で、肌は青白く、間違いなく死に物狂いで土の上をバタバタと進んでいった。

むせび泣きながら、ジョージはトーマスの足を掴んで引っ張った。元は磨かれたドレスシューズを泥や砂に塗れさせながらも、精いっぱいの力で引っ張った。トーマスは脚をバタつかせ、お返しとばかりに蹴りを入れ、怒りで喉をゴロゴロと鳴らし、世界で一番大事なものであるかのように糸杉の幹に抱き着いた。蹴りの一発が命中し、ジョージの顔面を捉え、眼鏡の片方のレンズを粉砕した。ジュディスはまだ悲鳴を上げており、完全にヒステリーな状態で手を耳に当てていた。

トーマスは幸せそうにペチャペチャと音を立てていたが、花に近づくにつれてその頻度は増していった。両手は舌花びらを恭しく握り、怒れる骨の隆起を愛撫した。花びらはトーマスの小さな指に巻き付いて、ドロドロとした唾液を塗り込み、蔓はトーマスの頭を飢えた歯の生えた軋る筒状の口の中に突っ込ませた。トーマスの頭蓋がすぐさま砕かれて、筒状の口からは深紅の太い筋が零れ、灰色の樹皮の上を流れていった。トーマスの顔には依然として笑顔が張り付き、花はトーマスをかじり始めた。

ジュディスは過呼吸になり、胎児のように体を縮こませた。一方で、ジョージは泣き叫びながら、鼻血が出続ける鼻を押さえていた。貪り骨を砕く音は徐々に小さくなった。残された2人は、その音がやんだ後も、数分もの間、黙って座っていた。最初に顔を上げたのはジュディスだった。このとき、数筋の涙が顔を流れ、頬をさくらんぼ色に染め、呼吸は喘鳴でしかなかった。

あの花はいなくなっていた。花が張り付いていた木も消えていた。血痕さえも無くなっていた。さながら何も起きていなかったかのように。

2人がこんなに速く走ったのは生まれて初めてのことだった。

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