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2019年7月21日日曜日

"This Is A True Story"、トレジャーハンターとされた日本人女性の悲しき真相

この記事をゆっくり解説化しました。宜しければどうぞ。

 次の文章は、奇妙な事件に関するニュースを専門とするNews of the Weirdが2002年1月下旬に配信した記事から引用したものである。

Ms. Takako Konishi, 28, was found dead, of probable suicide, in Detroit Lakes, Minn., six days after being spotted in Bismarck, N.D., inquiring how to find the money that had been buried by a character in the movie "Fargo."

 この英文を訳すと「28歳のコニシタカコ (Takako Konishi) という女性がミネソタ州デトロイト・レイクスで遺体となって発見された。自殺のようだ。その6日前にノースダコタ州ビスマークで目撃されており、映画『ファーゴ』である登場人物が埋めた金のありかを尋ねていた」となる。

News of the Weirdの記事

 また、テレグラフでの報道では、このコニシタカコという女性の事件についてより詳細に説明している。その記事の内容を要約すると次の通りである。一部、内容を補足している。

東京に住むコニシタカコという女性が1ヶ月前にノースダコタ州へ旅立った。コニシの姿がビスマークにあるゴミ捨て場の近くで目撃され、警察に通報された。警察が尋問すると、コニシは粗雑な出来の地図を見せた。コーエン兄弟製作の映画『ファーゴ』では、1987年に実際に発生した事件を元にしていると説明する演出があるが、実際は事実を元にしておらず、完全なフィクションである。コニシはどうやら映画が事実を元にしていると思い込み、作中でスティーヴ・ブシェミが雪の中に埋めた金を地図を手に探しに来たようだ。警察官たちは映画は単なるフィクションであり、埋められた金は実在しないと説明しようとしたが、コニシを説得することはできなかった。その後、ファーゴとブレイナードの間にあるデトロイト・レイクスの近くの森林で、狩人がコニシの遺体を発見した。警察によると、-3℃の寒い夜だったにも関わらず、コニシは軽装だったという。

 コニシの事件に関するニュースは大きな話題になったという。この奇妙な事件から着想を受け、ゼルナー兄弟が製作したのが、菊池凛子主演の2014年の映画『トレジャーハンター・クミコ』である。

映画『ファーゴ』
ある日本人女性が映画『ファーゴ』は事実を元にしていると勘違いして金を探しに行き、その結果死亡したと報道された。
映画『トレジャーハンター・クミコ』
そして、その事件から着想を得て映画が製作された。

 ゼルナー兄弟と同じように事件に関心をもった人物がもう1人いた。ロンドン在住のアメリカ人ポール・バーセラー (Paul Berczeller) である。バーセラーはこの奇妙な事件を再現したドキュメンタリー映画を制作しようと考えた。事前に警察から入手した資料の中には遺体発見現場の写真もあった。バーセラーは当時のコニシと同じ格好をした役者を連れて、事件の関係者とインタビューを行おうと計画した。さながら、血の通ったコニシの亡霊を現世に呼び出したかのように。こうして、コニシ役のオオモリミミ (Mimi Ohmori、ロンドン在住の音楽プロモータ) という女性、そして撮影スタッフとともに冬のアメリカへ飛んだ。本稿では、バーセラーが解明した事件の真実について詳細に紹介する。この不可思議な事件の真相は、全くもって奇妙なものではなく、ある意味ではありふれたものだった。

コニシの行動

ビスマーク、ファーゴ、デトロイト・レイクス

 事件は2001年11月にコニシがビスマークを訪れたところから始まる。辺りをうろついてたときに通りすがりの親切なトラック運転手が、助けが必要な様子だった彼女を見かねてビスマーク警察署へ送り届けた。

ビスマーク警察署

 コニシの格好は警察官たちにとっては異様なものだった。寒い冬のノースダコタで、ミニスカートを履いて歩いて回る女性などいない。警察官の中には娼婦ではないかと疑った者もいた。 警察官たちはコニシとの会話を試みたが、コニシは英語が分からず、警察官たちは日本語が分からなかった。コニシはポケット翻訳機を持ってきていたが、役に立たなかった。警察官たちは近くの中華料理店に電話をかけて助力を求めたが意味は無かった。

コニシの格好 (再現)
バーセラー制作のドキュメンタリーで再現されたコニシの格好。黒いミニスカート、黒いブーツ、黒いコート。このカットには写っていないが、髪も黒かった。 (出典: This Is A True Story)

 コニシは警察官たちに地図を見せた。地図は紙に道路を示す2本線と木が書かれているという代物だった。道路の側に木があるという光景がありふれていたノースダコタ州では役に立たなかった。 コニシは「ファーゴ」という言葉を何度も発言した。そのため、警察官たちは、コニシは映画『ファーゴ』を事実であると思い込んでおり、手に持った地図は金のありかを示すものだろうと解釈した。警察官たちはコニシの誤解を解こうとしたが、結局、コニシは金を探し出そうと決意を固めていると推測し、説得を諦めた。

 警察署へ来てから4時間後、応対した警察官の1人であるジェシー・ヘルマン (Jesse Hellman) はコニシを車に乗せてバス発着場へ送り届けた。 車の中で、コニシは腹を押さえる仕草をした。ヘルマンによると、コニシは"cancer" (癌) というような単語を発したという。"six months" (6ヶ月) とも発言した。癌を患って6ヶ月なのか、癌のために余命6ヶ月なのか。コニシの発言の意味は明確には分からなかった。 事件の後、デトロイト・レイクスの刑事から電話があった。ヘルマンの名刺を財布に入れた日本人女性の遺体が森の中で発見されたという内容だった。 ヘルマンはコニシを1人にしたことを後悔しているという。

 癌のために余命短い女性が、一発逆転を賭けて、映画『ファーゴ』の金を探しに来たのだろうか。しかし、実際はそうではなかった。遺体から癌は発見されなかった。コニシと警察官たちとの会話は成り立っていなかったのである。

 コニシはファーゴでバスを降り、Quality Innという安モーテルへ宿泊した。コニシは夜間担当の従業員と会話した。その従業員はイギリスのチジック出身で、彼によると、コニシは映画の話など一切しなかったという。コニシは星が綺麗な場所を探していたという。彼は地図を示して良い場所を教えてあげた。ただ、この辺りは特別星が綺麗という評判があるわけではないらしく、わざわざ寒い時期に星を見に行こうとするのは奇妙だとも思っていた。

 翌日、コニシはタクシーを拾ってデトロイト・レイクスへ向かった。デトロイト・レイクスはリゾート地らしいが、その季節はシーズンオフ。タクシー運転手は不思議に思いながらも、客の事情に不躾に深入りすることはしなかった。コニシは運転手に森の中に降ろすように頼んだ。人家も疎らなただの森に。

デッドショット・サークル

 タクシーを降りた後のコニシの足取りを知る人物がいる。コニシを目撃したのはデビー・クルーガー (Debbie Krueger) という女性だった。コニシはデッドショット・サークルの近辺で雪の積もった丘を登っていたという。普段、そのような場所を通る人はいない。黒い服に身を包んだコニシはさながら魔女のように見えた。クルーガーは自分の子供たちに外に魔女がいると話した。しかし、クルーガーは後にコニシを放置したのを悔やんだ。雪の中をさまよっていた彼女に手を差し伸べるべきだったのではないか、と。

 生前のコニシと関わった人物はまだいる。Jeff NemecとScott Manevaiの2人組が車を走らせていたところ、雪の積もった丘を下ってきたコニシに出会った。2人はこの奇妙なヒッチハイカーを車に乗せてあげた。コニシが止まれと指示した場所で車を停めると、コニシはそのまま立ち去っていった。

真相

 その後、デトロイト・レイクスの森林でコニシの遺体が発見された。遺体には他殺を示唆する外傷はなかった。遺体からは鎮静剤、精神安定剤、精神病治療薬といった少なくとも6種類の薬が検出された。コニシはシャンパンを飲み、積雪の中で凍死したようだった。そして、死から3週間後、コニシの両親の元に手紙が届いた。コニシがビスマークで警察官たちに出会った日に出したものだった。手紙の文面は次のとおりである。誤字は敢えてそのままにした (出典: This Is A True Story)。

新愛なるお父さん、お母さん、弟へ。
この手紙が届く頃には、私はもう
亡くなっていると思います。
先立つ不幸をどうぞお許し下さい。
二○○一年十一月十一日
誉子
両親に送られた遺書の一部

 真相は自殺だった。コニシは地方から上京し、東京にある旅行代理店で働いていた。しかし、勤務先が倒産して失職。その後は深夜に「仕事」に出て、朝に帰宅する生活を送っていたという。コニシにはダグ (Doug) という名の恋人がいた。恋人は既婚者で、彼女を置いてシンガポールへ行ってしまった。コニシが自殺を遂げた理由は、失職後の荒れた生活や失恋によるものだったようだ。コニシは過去にミネソタ州に3回行ったことがあった。恐らくはその恋人と一緒に旅をしたのだろう。ファーゴは元恋人の故郷だった。コニシが何度も言及した「ファーゴ」という言葉は映画ではなく地名だったのである。コニシは宿泊先でシンガポールへ国際電話をかけていた。その電話の相手も元恋人だった。40分間の料金88ドルの電話。これが元恋人への最後の電話だった。

当時の報道

この事件はテレビのニュースでも紹介されたようだが、真相は全く異なっていた。 (出典: This Is A True Story)

 この事件はインターネットなどで大きな話題になったという。若い日本人女性が存在しない財宝を求めて冬のミネソタ州を訪れ、その果てに死亡した。あまりにも奇妙な話。しかし、実際はそのような出来事など起こっていなかった。映画『ファーゴ』と同様に実在しなかった。単に、言語の壁によりコニシの話を警察官が勘違いして、その話が広まってしまっただけだったのである。苦しい生活と恋愛の問題で追い詰められた女性が自殺した、というありふれた悲劇に過ぎなかった。もっとも、ありふれた悲劇でも、彼女と関わり当事者になってしまった時点で、もはや拭いがたい後悔から逃れることはできないのであるが。

 この事件を取材したバーセラーは本邦へも訪れ、コニシが住んでいた家の大家にもインタビューを行っている。事件の際、大家の女性はコニシは故郷へ帰ったのだろうと思っていたが、それから少し後にコニシの母親から電話があり、遠い異国の地で亡くなったことを知らされた。大家はコニシに何もしてあげなかったことを後悔しているという。コニシの部屋にはカセットテープの入ったラジカセが残されていた。カセットにはテレサ・テンの『ふるさとはどこですか』が録音されていた。コニシのお気に入りの曲だったという。出来すぎた話のようではあるが、彼女はこの曲に突き動かされて、恋人との思い出の地で最期を過ごそうと考えたのかもしれない。

最後に

 バーセラーの取材の成果はThis Is A True Storyと題され、2003年にイギリスのチャンネル4で放映された。現在、上記のリンク先で無料で鑑賞できる。映画『ファーゴ』を意識した題名通りの真実の物語である。前述のとおり、コニシをオオモリという女性が演じているほか、事件の関係者本人が映画に出演している。 コニシの遺体発見の状況も再現されているが、実際にはコニシが亡くなった場所から少し離れたところで撮影されている。さすがに場所そのものまで再現する気にはならなかったようだ。オオモリはコニシが亡くなったところにあった木のそばにオレンジをお供えしたという。

余談

 同じ事件を扱っているNewSphereの記事では、Paul Berczellerを「ポール・バークゼラー」と紹介しているが、これは誤りである。本人が出演したラジオ番組での自己紹介から、"Berczeller"は「バーセラー」と発音すると分かる。

 ついでに個人的な経験談を付け加えると、日本人女性が雪の中をミニスカート姿でさまようのはそこまで不思議な話ではないと思う。私の故郷は北国で、冬になると嫌でも雪が降ってくる。そのような環境下でも、女子高生たちはミニスカートを履いて学校に登校する。もちろん、除雪されて歩きやすくなっている道路を通るが、ストッキング1枚で寒さを凌げるとは思えない。もしも雪の中で自殺しようと計画したとしても、日本人女性というものはせめて可愛らしい格好をして死のうとするのではなかろうか。

参考文献

  1. Berczeller, Paul. This Is A True Story. Vimeo.
  2. Berczeller, Paul (2003年6月6日). Death in the snow. The Guardian. 2019年6月22日閲覧.
  3. Fargo. NPR. 2015年4月24日. 2019年6月22日閲覧.
  4. Fenton, Ben (2001年12月11日). Cult film sparked hunt for a fortune. Telegraph. 2019年7月13日閲覧.
  5. Vincent, Alice (2015年4月14日). The truth behind Fargo's 'true story'. Telegraph. 2019年7月13日閲覧.
  6. Storr, Will (2015年2月25日). Did a woman die trying to find Fargo's buried treasure? Telegraph. 2019年7月13日閲覧.
  7. Powell, Mike (2015年3月18日). The Woman Who Froze in Fargo. GRANTLAND. 2019年7月21日閲覧.
  8. Macfarlan, Tim (2015年4月3日). Kumiko, the Treasure Hunter tells of woman who died 'trying to find Fargo suitcase with $1m in'. Daily Mail Online. 2019年6月22日閲覧.
  9. Shepard, Chuck. News of the Weird. Santa Monica Daily Press. 2002年1月31日. vol. 1. iss. 69. p. 6.
  10. About News of the Weird. uexpress. 2019年7月20日閲覧.
  11. 米国では有名な、亡き日本人女性の都市伝説 菊地凛子主演の映画化で好評価 その内容とは? NewSphere. 2014年2月2日. 2019年7月13日閲覧.
  12. 菊地凛子主演の日本未公開アメリカ映画、「トレジャーハンター・クミコ」初放送. 映画ナタリー. 2015年9月10日. 2019年7月20日閲覧.

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