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2023年6月24日土曜日

禍話リライト「駅のトイレ」

本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話R 年末バラエティ特番 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様 (FEAR飯)

駅のトイレ

Aさんという男性が駅のトイレで体験した話。

そのトイレは駅の外にあるため、通りすがりの人でも利用できた。ただ、ある事件が起き、亡くなった人の幽霊が出るという噂が流れた。そのため、地元の人は誰もそのトイレを利用しなかった。ただ、大学に近いという関係で、事情を知らない若者が使うことはあった。今回の体験をしたAさんもそんな若者の一人だった。ただ、過去に起きたという事件の詳細は語られておらず、Aさんの体験との関連性も不明である。

ある夜、Aさんはそのトイレを使った。小便器で用を足していると、トイレに女性が入ってきた。女性はAさんの背後を通り過ぎ、個室に入っていった。当然ながら、ここは男子トイレ。Aさんは困惑したが、おそらく女子トイレが使えず我慢できなかったのだろうと自分を納得させた。

ただ、どうも様子がおかしかった。個室の中から鞄を開ける音がしたかと思うと、はぁはぁと荒く呼吸する声が聞こえ始めた。何か重大な決断を迫られて、緊張して過呼吸になりかけているかのような、そんな必死な様子が声から感じ取れた。そのうちに何か鈍い異音が聞こえ、続けて液体が飛び散る音がした。個室の天井を見ると、そこには血が飛び散っていた。

まさか、個室の中で自殺を?

Aさんが硬直していると、目の前で個室のドアが開いた。軋む音とともにゆっくりと開いたドアの先には、誰の姿も無かった。Aさんは個室の中に入って中を見渡したが、まるで何事も無かったかのようだった。天井にあったはずの血飛沫さえも無くなっていた。

幻覚? 酒も飲んでいないのに、そんな馬鹿な。

驚愕するAさんの靴に何かが当たり、蹴飛ばされて床の上を滑った。金属製の何かが個室の中に落ちていたようだ。拾い上げてみると、それは錆びた果物ナイフだった。嫌な想像が脳裏を過ぎり、Aさんは悲鳴を上げて果物ナイフを取り落した。気味の悪い物を触ってしまったと急いで洗面台で手を洗った。

すると、また誰かがトイレに入ってきた。高校生くらいの年齢の少年だった。少年はあの女と顔が似ていた。おそらくは血縁関係にあるのだろう。

少年は例の個室に入っていった。しばらくして、錆びた果物ナイフを布で包みながら個室から出てきた。少年は携帯電話を懐から取り出して、家族らしき相手に電話をかけた。

「もしもし。またあそこにあったよ」

少年は電話で話を続けながら、そのままトイレを出ていった。

禍話リライト「タオルが2枚」

本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍ちゃんねる 泥酔スペシャル (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様 (FEAR飯)

タオルが2枚

Aさんという女性が実家に帰省したときに起こった出来事。

Aさんが風呂に入っていると、隣の洗面所から母親の声が聞こえた。

「ここにタオル置いとくね」

タオル程度は自分で出せばいいのだが、久々の帰省だからか世話を焼いてくれているようだ。そんなことを考えつつ数分間が過ぎた頃、再び母親の声が聞こえた。

「ここにタオル置いとくね」

内容も声の調子も先ほどと全く同じ。タオルを2回も持ってきたのだろうか。違和感を覚えつつ浴室を出ると、洗面所にはタオルが2枚置かれていた。2枚とも使う必要はない。1枚だけ使って体を拭き、2枚目のタオルはタオル置き場に戻しておいた。

夜が深まり、家族全員がそれぞれ寝室に向かった。Aさんも床に就いたが、なぜか風呂場での出来事が気になって眠れなかった。どうにも落ち着かず、Aさんは布団から抜け出した。タオル置き場へ向かい、使わなかった方のタオルを手に取った。Aさんはどういう訳か、このタオルに厭な感覚を覚えた。どうにも薄気味悪くて仕方がない。Aさんはこっそりとタオルを処分しようとゴミ箱に捨てた。ただ、それでも気分は晴れなかった。そのタオルが家の中にあることさえも、なんだか悍ましく感じられた。

Aさんはタオルをゴミ箱から取り出し、家を出た。夜の闇の中、近所のゴミ捨て場まで歩いて向かい、タオルをゴミ捨て場に置いた。タオル1枚とはいえ、褒められたことではない。ただ、ここまでしてようやく落ち着いた。気分も良くなって家に帰ろうと振り返ると、そこには人がいた。同年代の女性だった。

誰とも知れないその女は、Aさんに話しかけた。

「やっぱり気付くか。あんた、お母さんと仲良いもんね」

Aさんが唖然としているうちに、いつの間にか女は姿を消していた。Aさんは身を震わせながらも急いで帰宅した。

その後、特におかしなことは起こらなかった。ただ、あのタオルの異常性に気付かなければ、何かが起きていたのかもしれない。