本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。
作品情報
- 出自
- 震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi、放送)
- 語り手
- かぁなっき様 (FEAR飯)
夢の缶ジュース
Aさんという男性が高校生の頃に体験した、夢にまつわる話。
Aさんには幼い頃に大親友がいた。しかし、その友人は不慮の事故で急死してしまった。それ以来、友人の命日になると、奇妙な夢を見るようになった。
その夢には件の友人が出てくる。不思議なことに、友人は幼い頃のままではなく、成長した姿で現れる。Aさんが小学生、中学生と成長するにつれて、夢に出てくる友人も背が伸びていく。場所はAさんの家と友人の家の中間地点にある自動販売機の前。夢の中のAさんは友人が死んだことを覚えておらず、他愛もない会話をして過ごす。友人は必ず自動販売機で缶ジュースを買うのだが、決まって蜂蜜入りの炭酸飲料を選ぶ。友人はその飲み物を飲んでは不味いとぼやき、Aさんと笑い合う。それだけの夢だ。
目が覚めると、友人の命日であると思い出して悲しい気持ちになる。ただ、朝食の時間の頃には夢を見たことを忘れてしまう。そのせいか、毎年奇妙な夢を見ているというのに特に気にすることはなかった。しかし、高校生の頃に見た夢の体験があまりにも恐ろしく、Aさんは忘れられなくなってしまった。
その時期、Aさんは生まれて初めての恋人ができた。彼女との仲は良好で、Aさんは浮かれながらも楽しく過ごしていた。
そして、友人の命日。やはり、高校生の体格に成長した友人が出てくる夢を見た。このときの夢はいわゆる明晰夢で、友人が既にこの世を去ったことを覚えていた。しんみりとしつつも他愛もない会話を楽しんでいると、いつも通りに友人は例の蜂蜜入りの飲み物を買った。友人は缶ジュースを一口啜ると、
「ホント不味いな。お前も飲んでみないか」
と言った。不味いのに飲むわけがないと笑いながら断ったが、友人は引き下がらなかった。
「お前もさ、そろそろ飲んでみたいと思っているんじゃないのか」
どうも様子がおかしい。友人は顔が真っ青で、目には怒気を孕んでいた。友人は語気を荒げ、ジュースの缶を顔に押し付けてきた。
「いい加減、お前もさ、そろそろ飲む時期だと思うんだ。なあ、飲むだろ。飲めよ」
それでもAさんが断ると、友人は掴みかかってきた。異様に力が強く、片腕でAさんの両腕を抑え込んでしまった。Aさんはなぜか、缶ジュースを絶対に飲んではいけないような気がして、必死に抵抗した。缶ジュースから漂う蜂蜜の強烈な香りが鼻腔を埋め尽くした。
どうにかAさんは目を覚ました。まだ夜中だった。冷や汗をかいたためか、Aさんは喉の渇きを覚えた。台所に向かい、麦茶でも飲もうかと冷蔵庫を開けた。
そこには、蜂蜜入りの缶ジュースがあった。夢に出てきたものと全く同じ。
Aさんは反射的に冷蔵庫を閉めた。恐ろしくてたまらなくなり、寝ていた母親を叩き起こした。母親に冷蔵庫を開けてもらったが、その缶ジュースは影も形もなかった。
その出来事があってから、友人が夢に出ることはなくなった。仮にその缶ジュースを飲んでしまっていたら、Aさんはどうなっていたのだろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿