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2021年8月16日月曜日

Creepypasta私家訳『ミラクルピル』(原題“The Miracle Pill”)

作品紹介

CreepypastaであるThe Miracle Pillを訳しました。原作者はサンドマンの話と同じです。 今回は四体液説を基としており、ペスト医師のマスクを身に着けた怪人物が登場します。

作品情報
原作
The Miracle Pill (Creepypasta Wiki、oldid=1441198)
原著者
RedNovaTyrant
訳者
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

ミラクルピル

病気でいることは決して楽しいことではない。起き上がる活力があることは滅多になく、どこで休んでいてもそこから動けない。鼻は詰まり、鼻をすっきりさせようと繰り返し鼻をかむのに途方もない時間と無数のティッシュを使い果たす。食べ物は味がしなくなり、喉に詰まったべたつく粘液が取って代わる。そのうえ熱。そんなことはあってほしくないものだが、あらかじめ十分に暖かくしていなければ、痛みが高熱を伴って、その先の一週間の生活を惨めなものにするだけの役割を果たす。

そして、普通の風邪よりもいっそう深刻な病気を患っている人もいる。病院に閉じ込められた人は、医者が苦しみを和らげるために全力を尽くす中、不健康で惨めな有様のままゆっくりと残された日数を数える。病状がどれほどであろうと、どんな病気の人も同意することがある。できる限り早く病状を良くしたい、その方法が単なる錠剤一つくらいに簡単であればいいだろうに、ということだ。病気の人は皆、多くの様々な療法を試す。医者から処方箋をもらう人がいれば、自然療法を試す人もいる。皆が科学が病への解決策になると考えているが、ほとんどの人は代替となる手段について忘れている。

「ドクター」はいつも新たな患者を診たがっており、そのうえ、すばらしい実績を上げている。しかし、予約をとる前に、準備が必要なことがいくつかある。知っているかもしれないが、あらゆる人間には4種類の「体液」がある。この体液がその人間の肉体の振る舞いを規定する。赤胆汁は楽天的な性質、つまりはその人自身の社会的な部分を制御する。黄胆汁は攻撃性を管轄する。黒胆汁は抑鬱性により分泌される。粘液はアパシー、すなわち感情の欠落と関係する。凡百の医者はこの療法の原理を否認するかもしれないが、そのような連中の話を聞いてはいけない。

「ドクター」が体のどこが悪いのか決定するためには、4種類の体液のサンプルが必要になる。採取するのが簡単なものもある。ただ……勇気が必要なものもある。サンプル採取を始める前に、同じ大きさのカップを四つ集めておこう。最も簡単に採取できる体液は赤胆汁だ。必要なものは血液だけ。ただ、検査が可能になるように十分な量が必要だ。自分でナイフを扱うのが上手くないからといって、紙にほんの一滴の血液を残すのでは駄目だ。血を流すことを選ぶのであれば、深い切り傷を良い具合に作る必要があるだろう。だいたい注射1、2回に相当する量だ。この血液を四つのカップのうちの一つに集めるのだ。

次は粘液だ。「粘液」という言葉の伝統的な意味合いは現代で使われるようになっている定義とは完全に同じというわけではないが、それでも現代の用法で使っても意味は通る。だから、鼻をかみ、喉をこすって乾かそう。呼吸器にあるあの緑色の汚らしい粘液を適量集められるのであればどんなことでもすればいい。鼻をかんで粘液をティッシュに出すであれば、粘液とティッシュを分ける必要がある。「ドクター」は非常に多忙だ。「ドクター」が治療しようとするときには、粘液を使い捨ての紙から分ける時間がない。

次のセクションに進む前に、粘液を採取しておくとよい。粘液と紙はくっついてしまう可能性があり、先に分離しておかないと後になって分離するのが難しくなるかもしれないためだ。黄胆汁は胆嚢と関係がある。胆嚢は黄胆汁を分泌し、胃の中にあるスープをひどい味付けにする。その味こそ、今から味わう必要が出てくるものだ。黄胆汁を採取するには無理にでも嘔吐する必要がある。その方法は何でもいい。重要なことは、吐いた液をできる限り純粋に採取することだ。だから、吐いた後にトイレから掬い取るのは駄目だ。黄胆汁は「ドクター」が猶予を与えてくれる唯一のサンプルだ。「ドクター」は黄胆汁は採取が難しいことを理解している。黄胆汁は3番目のカップに入れること。気分を良くしたいのであれば、床を掃除してもいい。

これから最後のサンプル、黒胆汁だ。黒胆汁は抑鬱と関係することが知られているが、涙は適切なサンプルではない。死や腐敗にもっと近しいものこそが「ドクター」が必要とするものだ。ほとんどの人はここで手を引いてしまうが、本当に病気を終わりにしたいのであれば、最後まで続ける必要がある。手っ取り早く済ませよう。肌の一部を直火に晒すのだ。火を体の一部に当てるべきである。肉体の一部が黒焦げになってから死ぬ必要があるためだ (つまり、体の一部を切り取ってから火を通すのでは駄目だ)。痛みと臭いに耐え抜くのだ。一旦、皮膚の一部が黒焦げになった後は、その部分を切り取って、最後のカップに保管しておこう。ほとんどの人は下腹や脇腹の贅肉を焼くが、どの部位を選ぶかはあなた次第だ。

こうして「ドクター」のためのサンプルが用意できた。後は往診に来てもらうだけだ。夜の間、寝室に行き、100%必要とはいえないあらゆる形態の医療品を取り除くこと。取り除く必要のある医療品には、ティッシュ、液体塗布薬、水、咳止めシロップさえも該当する。「気分」を良くする助けになるものも含まれる。これらの物品を除去しないと、「ドクター」がこれらの卑しむべき医療品を見て、侮辱されたと思い立ち去ってしまう。机か棚を片づけて「ドクター」が仕事ができるようにして、その上にカップに入った四つのサンプルと一緒に火のついた蝋燭を置くこと。それから、マーカーを持ってきて、片手の手の甲に数字の「8」を書くこと。ただし、上の部分を下の部分より大きく書く。そして、8の字に「T」を貫くように書く。例を掲載しておいた。カドゥケウスの形に似ているものであれば良い。これだけが「ドクター」があなたの居場所を知るための唯一の手段になる。

明かりを消し、カーテンを引き、ベッドに潜りこむこと。そして、小綺麗にして待つ。この間、誰もあなたと一緒に部屋にいてはならない。夜が更けていくにつれて、患っている病気の症状が出てくるはずだ。喉飴を舐めたり、ティッシュで鼻をかんだりしたくてたまらなくなっているだろう。それでも、ベッドの中に居続けて、休んでいなければならない。そのうちに眠りに落ちるだろうが、1時間後に必ず目が覚めることになる。

ベッドに横たわっていると、部屋の扉が軋む音をたてながら開き、暗闇から図体の大きい人影が歩み出てくる。その肩に掛けられているのは、2枚の汚いボロボロの布切れであり、それは数多くの印で飾られている。その下には同じくボロボロのコートを着ており、コートはさながら胆汁やワキガが泡立つ沼地であるかのような悪臭を放っている。おそらくマスクが最初に目を惹くだろうが、そのマスクが何かは見てそれと分かるはずだ。結局のところ、それは当時の医師たちが身に着けていたものということだ。ただ、マスクには何か違和感があるだろう。気付いたときには頑張って平静にしていよう。なんと、嘴付きのマスクを所定の位置に止めるための釘が後頭部から突き出ているのだ。この釘は患者というよりも「ドクター」自身を守るためのものだ。かつて、「ドクター」のマスクを剥がして自分の病気に晒そうとした患者が現れたことが一度あった。だから、「ドクター」は二度とそのようなことが起こらないようにしたのだ。

「ドクター」は後ろの扉を閉めて、患者の方をちらりと一瞥し、それから机の方へ歩いていく。椅子に座り、鞄を開けて、患者の体液を検査するための様々な奇妙な道具を取り出す。こうして、「ドクター」が検査を実行していると、検査が進む中で患者が気付くはずであることがいくつかある。第一に、「ドクター」が放っていた悪臭のする瘴気が、似たような混合物や化合物をともに作り出していくにつれて、ただただ悪化していくことだ。ただ、すぐに気が付くだろうが、その瘴気は患者の肉体を麻痺させるのである。患者は好きなように動こうとすることも、部屋に引き入れてしまった恐ろしい存在に対して叫び声をあげようとすることも、金切り声をあげながら逃げ出そうとすることも可能だ。しかし、肉体は反応しようとしない。これは一部の患者たちがもっと……危険な行動をとったことに対応するためでもあった。

このとき、「ドクター」のために4種類のサンプルすべてを採取していない場合、つまりは、嘔吐物を全く出せなかった場合や、恐ろしすぎて皮膚を焼けなかった場合、また、少ないサンプルでごまかそうとした場合、「ドクター」はただベッドに近付き、自分でサンプルを集めようとする。一見すると、「これはいい。医者なのだから、黒胆汁を適切に採取する方法を知っているはずだ」と思うかもしれない。ただ、そんな考えは後悔に変わるだろう。金槌とのみで胸郭をこじ開けている瞬間に。こうすることで、「ドクター」は必要な臓器を手に入れられるようになるというわけだ。こうして「ドクター」が患者の治療薬を作成したとしても、患者は治療薬を服用する前に力尽きるだろう。

他にも知っておくべき二つの条件がある。血液病を患っている場合、「ドクター」は赤胆汁を検査すると、ただ立ち上がり、ゆっくりと患者の方へ歩いていき、嘴付きのマスクを患者の鼻に突きつけながら、「君には悪い血液が流れている」と言う。理解できないかもしれないが、その後の「ドクター」の行動に反応するだけの時間はない。なんと、メスを使って腕や脚に一連の深い切り傷を作り、体を流れる真紅の液体の一滴一滴を残らず抜き取ろうとするのだ。

肉体は健康だが、治したい病気が精神上のものである場合、「ドクター」は数時間の検査の後、困惑しながら椅子から突然に立ち上がる。そして、怒鳴り散らしながら、患者の何が悪いのかを知りたがる。少しの間、瘴気が和らぎ、治してほしい精神障害について説明する機会が与えられる。しかし、患者がどう答えたとしても、「ドクター」はそれを理解しない。そして、瘴気がもう一度患者を襲いかかり、「ドクター」は鞄から医療用のこぎりを取り出す。余談だが、瘴気は麻酔性ではない。患者は動けないまま、「ドクター」が脳を調べる中で苦しみ続けることになる。「ドクター」の手は継ぎ接ぎで、フランケンシュタインの怪物のように傷跡が走っている。

このとき、前述の条件のどれにも当てはまっていなければ、しばらくすると、「ドクター」が蝋燭を取って、その火を混合液に漬ける姿を見るかもしれない。暗闇の中、錠剤を握った手が自分の口の近くで突き出てくるまで、辛抱強く待つ必要がある。この錠剤こそが目的の品、待ち望んでいた「ミラクルピル」だ。瘴気は消滅し、「ドクター」は患者に起き上がるように言ってくる。指示に従い、それから「ドクター」の手から錠剤を受け取ろう。そして、それを服用するのだ。

「ドクター」は患者の薬への反応を気にしないようにする。患者の叫び声が大きいほど、「ドクター」は薬が効いていることを確信する。「ドクター」が化合物の中に入れた、比喩ではない文字通りの炎が、血流を通るのを患者は感じ取る。この炎が肉体の隅々を焼き焦がし、この痛みの津波が見つけられる病気を取り除く。薬による痛みはおよそ30分間続く。重要なことはこの痛みを耐えきることだ。既に黒胆汁採取を生き延びたのだ。これも耐えきることができるはずだ。卒倒してはならない。薬が効いている間は意識を保ち続ける必要がある。そうせずに、死なないようにするために意識を保つのをやめると、薬が肉体にもたらす負荷が妥当な限界を超えて心臓を圧迫し、心停止させることになる。「ドクター」は患者を助けようとはしない。病気の治療のためにできることは既に手を尽くしている。今となっては、患者の人生を変えるのは患者自身でなければならない。

それでも、辛抱強く耐えれば勝利を収めることになる。この惨い状態を乗り越えれば、そのすべてが消滅するためだ。「ドクター」はいなくなり、四つのカップは空っぽになる。患者は必要な休息を迎えることになる。そして、次の日に目が覚めると、これまでになく健康な感じがする。実際、奇跡の薬は向こう6か月間、あらゆる病気を除去してくれる。こうして、普通の生活を送ることができるようになり、充実した人生を送ることになるのだ。

おっと、最後に注意を。万が一、病気が末期の状態である場合でも、「ドクター」は治療してくれる。それだけでなく、「ドクター」は患者のあらゆる病気を永遠に治療し続け、その後は自然な人生を楽しめるようにしてくれる。しかし、死の抱擁から逃れる代償は重いものになる。この世から去るとき、「ドクター」は鞄を片手に持ち、患者の魂に実験する準備をしてくるためだ。

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