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2025年11月29日土曜日

禍話リライト「老夫婦」

インターフォンを押す指の画像。

Aさんという女性が中学生の頃に体験した話。

その日、Aさんは普段よりも早めの時刻に学校から帰宅していた。土曜日だったからというわけではない。理由は不明だが、そのときは自分だけ早く帰路に就いていた。友人とは一緒ではなく、一人で通学路を歩いていた。

角を曲がった出会い頭、人とぶつかりそうになった。咄嗟に謝罪して顔を上げると、そこにいたのは老婆だった。喪服を着ている。老婆はAさんに話しかけた。

「ちょっとごめんなさい。うちのお爺さんを見かけなくてね。お嬢さんのお宅に居ませんでしたか」

どうやら夫を探しているらしい。ただ、自分の家に居るか尋ねてくるのは奇妙だ。困惑しながらも、Aさんは居ないと返事をした。老婆は曖昧な笑みを浮かべた。

「そうでしたか。ごめんなさいね」

老婆は離れた所を歩いていた大学生の方に向かい、同じように質問していた。不気味な人がいるものだと思いつつ、Aさんは家路を急いだ。老婆を振り切るため、なるべく走って移動した。

帰宅してみると、普段は居る母親が不在だった。置手紙があり、町内会の用事で出かけているとのことだった。すぐには帰ってきそうもない。変な老婆に会ったために心細い思いだったが、仕方なく家族の帰りを待つことにした。

すると、外からは老婆の声が聞こえた。振り切ったつもりだったが、どうやらついてきたらしい。老婆は近所のおばさんに同じような質問をしていた。他にも通行人にも声をかけているようだった。幸いなことに、Aさんの家には来なかった。

そのうちに家族も帰ってきた。それから時間が過ぎて、夜11時頃のこと。

ピンポーン

インターフォンが鳴った。誰かがインターフォンを何度も押している。近所の人が怒鳴りつけてもおかしくないほどに音が鳴り響いた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

普通であれば、夜遅くに訪ねてきた人物に対して中学生の娘に応対させることはないだろう。しかし、両親や兄弟はインターフォンには気が付いていないらしい。誰も応対せず、相変わらずインターフォンは鳴り続ける。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

仕方なく、Aさんが玄関のドアを開けると、そこには老婆がいた。帰宅中に会った喪服の老婆だ。老婆は相変わらず困ったような笑みを浮かべていた。

「すみません。うちのお爺さん、そちらのお宅に居ませんでしたか」

Aさんは黙ってドアを閉めた。すると、再びインターフォンが鳴り始めた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

家族は誰も出てこない。インターフォンの音に耐えかねて、電源を切れないか思案した。すると、Aさんの手を誰かが掴んだ。驚いて振り返ると、そこには老爺がいた。パジャマ姿で痩せぎすだった。老爺は絞り出したような掠れた声で言った。

「居ないって言って」

Aさんの手を掴む腕。そこには無数の痣があった。

そこから先の記憶は無い。気が付くと朝だった。

それ以来、近隣でも老夫婦が出るという噂が流れた。人探しをする老婆と、逃げ隠れする老爺。老婆に付き纏われた人の家に老爺が現れる、ということが多々あったらしい。それから長い時間が経った今となっては、老夫婦が出るという話をする人はいなくなった。

老爺は今も老婆から逃亡しているのだろうか。それとも、誰かが老爺を引き渡したから、噂が消滅したのか。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怖い話を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 霊障?①真・禍話/激闘編 霊障?② (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

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