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2025年11月18日火曜日

禍話リライト「耳なし芳一」

バスの画像

Aさんという女性が体験した話。当時、Aさんはバス会社に勤務しており、バスガイドの仕事をしていた。

そのバス会社では、バスガイドが「耳なし芳一」の話を語る機会が多かった。バスツアーで平家に縁のある土地を通るときに、子供向けに「耳なし芳一」の話をするのである。普通に語ってもさほど怖い場面が無く、語りには様々な工夫が必要だった。Aさんは新人で、上手くコツを掴めずにいた。

バス会社にはBさんという先輩がいた。Bさんは真面目でストイックな性格であり、後輩の面倒見も良かった。BさんはAさんが悩んでいる様子を見兼ねて、テープレコーダーで自分の語りを録り、Aさんにテープを渡した。翌日は休みだったため、Aさんは語りの練習をすることにした。

Aさんは一人暮らしだった。テープを聞きながら練習を重ねているうちに時間が過ぎていった。事が起こったのは、草木も眠る丑三つ時の頃。

Aさんは「耳なし芳一」の後半部の、平家の亡霊が芳一を探す場面を練習していた。テープからはBさんの声が流れていた。

亡者が芳一の名を何度も叫ぶ。それから、少し間を開けて、恐ろしげな声で芳一の名を呼ぶ。

「芳一、芳一……芳一!」

Aさんは最後のタメが重要なのかと得心した。感覚を掴むため、その部分を繰り返し再生した。

「芳一、芳一……芳一!」

「芳一、芳一……芳一!」

何度もテープを聞いているうちに、Aさんは違和感を覚えた。最後の「芳一!」と叫ぶところで、スピーカー以外からも声が聞こえる気がする。声が重なって聞こえる。

「芳一、芳一……芳一ィ!」

「芳一、芳一……芳一ッ!

Aさんは徐々に気味が悪くなってきた。夜も遅いことに気付き、練習を切り上げて床に就くことにした。

翌日のこと。Aさんが朝の支度をしていると、バス会社から電話があった。

Bさんが自殺した、という連絡だった。

AさんはBさんが自殺する理由が思い当たらなかった。通夜に出席し、遺族から話を聞いてみると、Bさんの真面目な性格が災いしたらしいことが分かった。

Bさんの部屋からは日記が見つかった。几帳面なBさんは日記を毎日綴っていた。その日の失敗と反省を毎日書いていた。客観的に見れば、失敗というほどでもないことまで、Bさんは自分の責任としていた。そんな習慣を続けて自分を追い込み、ついには発作的に死を選んでしまったのだろう。

Bさんが亡くなったのは、ちょうどAさんが奇妙な体験をしていた頃のことだった。Aさんは虫の知らせというものかもしれないと思った。

Bさんの遺族の一人に話好きの人がいた。その人物はAさんにBさんの死の状況を事細かに教えてくれた。

Bさんは風呂場で左手首を切って死んだらしい。ただ、異常があったのは左手だけではなかった。右腕の手首から肘のところまでを、黒のサインペンでのたくった文字が書かれていた。文字はびっしりと書き殴られており、まるでお経のようだった。

Aさんは恐ろしくなり、通夜から帰った後にテープを捨ててしまったそうだ。バス会社も「耳なし芳一」を語るのを止めてしまったという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

かぁなっきさんが学校の先生から聞いた話だそうです。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 第3夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

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