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2025年11月15日土曜日

禍話リライト「棒の手紙」

山積みの手紙の画像

「不幸の手紙」というものがある。いわゆるチェーンメールの一種だ。送り主が書かれていない手紙が届いて、文面を見ると「この手紙と同じ内容の手紙を1週間以内に10人に出してください。そうしないと不幸になります」と書かれている。この内容を信じた人が手紙を書き写してポストに投函し、それを受け取った人が同じように書き写す。そんなことを繰り返していくうちに、徐々に手紙が広がっていく。もちろん、大抵の場合は単なる悪戯であり、手紙を無視しても何も起こらない。

「不幸の手紙」と関係する話で「棒の手紙」というものがある。字が下手な人が手書きで「不幸の手紙」を書き写すと、「不幸」が横に潰れて「棒」のように読めてしまう。その手紙を受け取った人が、「不幸」を「棒」と読み間違えて、「棒の手紙」を書き写して知り合いに送ってしまう。こうして、「この手紙を信じなかったせいで、これまで325人が棒になりました」という文面の奇怪なチェーンメールが誕生する。尤もこれは単なる笑い話であり、冗談に過ぎない。ただ、Aさんにとっては冗談では終わらなかった。

Aさんも子供の頃に、「棒の手紙」を受け取ったことがある。下校のときに下駄箱に「棒の手紙」が入っていた。字の癖から推察するに、クラスメートの女子が書いたものらしいと分かった。Aさんは迷信は信じない質で、鼻で笑って「棒の手紙」を破り捨てた。

帰宅後、Aさんは母親の手伝いで、ベランダに干していた洗濯物を取り込んでいた。すると、家の外から友人の声が聞こえてきた。 どうやら、友人が遊びに来たらしい。Aさんは腕を振って友人の呼び声に応えた。すると、友人は叫び声を上げて逃げ出してしまった。

どうして友人は逃げたのか。自分が何か変なことでもしたのか。Aさんには全く身に覚えが無かった。翌日、Aさんは登校した際に友人に話を聞いてみることにした。

Aさんが教室に入ると、友人はバツが悪そうな顔でAさんを見た。怯えているようにも見えた。声をかけてみると、友人はおずおずと口を開いた。

「昨日、お前んちに遊びに行ったんだけどさ」

「知っているよ。俺、ベランダで腕を振っていただろ」

「あれはお前だったのか」

友人は逡巡した後、話を始めた。

「お前んちのベランダに、長い棒みたいなのが立っていたんだ」

あのとき、友人がベランダに見たものは、Aさんの姿ではなく、長い棒だった。棒には瘦せ細った枝が手足のように生えていた。棒は枝の一本を振り上げて、左右に大きく揺らした。まるで手を振っているかのように見えて、友人は恐ろしくなって逃げ出した。

その日、Aさんは棒になっていたのである。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様

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