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2025年10月19日日曜日

禍話リライト「髪ゼリー」(「こっくり譚」より)

この話は、読んだ人に影響が出る可能性があります。大事には至らないらしいですが、ご注意ください。


髪ゼリー

年号がちょうど昭和から平成に変わる頃の話。その時期、学生のAさんたちは定期的にこっくりさんで遊んでいた。

ある日の教室でのこと。Aさんは友人のBさんをこっくりさんに誘ったが、断られてしまった。Bさんにしては珍しい。人数は足りていたため支障はないが、AさんはBさんに理由を尋ねた。しかし、初めのうちは言葉を濁すばかりで、はっきりとは答えてくれなかった。

「ちょっと嫌なことがあって。次からも参加しないかも」

「どうしたの。こっくりさんやってて怖いことでもあったの」

「そういうわけじゃないけど、もしかしたら関係しちゃうかもしれないし」

どうやら、こっくりさんとは無関係ではあるが、怖い目に遭ったらしいことが分かった。Bさんが恐れていたことは、こっくりさんそのものではなかった。こっくりさんを遊んでいるときに、関係する何かが起きてしまうかもしれない。恐怖体験に続きが来てしまうことを恐れていた。

詳しく話を聞きたいと頼んでみると、BさんはAさんをベランダに連れ出した。二人以外には誰もいなかった。

「他の人には聞かれたくないし……」

そして、Bさんは躊躇いながらも口を開いた。それは夢の話だった。

夢の中、Bさんは自宅のダイニングルームにいた。目の前のテーブルには大きなゼリーが置かれていた。とても大きく、美味しそうだった。

ゼリーは右隣の家の人が手作りしたものという認識だった。実際には、右隣に家は無く、誰も住んでいない。夢の中だったからか、疑問には思わなかった。

さっそくゼリーを食べようとしたが、よく見ると異物が混ざっていた。長い髪の毛だ。2、3本の髪の毛がゼリーに混ざっている。

もう、手作りってのはこれだから……

Bさんは髪の毛を引き抜き、隣にあった皿の上に除けた。ゼリーを食べていると、母親が声をかけてきた。

「どうしたの。怒っているみたいだけど」

母親の方に顔を向けた。

「ゼリーに髪の毛が入ってたんだよ」

視線をテーブルに戻すと、数本しかなかったはずの髪の毛が、束になっていた。明らかに異常だったが、夢の中だったからか、さほど気に留めなかった。

そのうちに妹が帰宅した。

「お姉ちゃんばっかりズルい。私もゼリー欲しい」

妹の方に顔を向けた。

「いやでも、髪の毛入ってたからさ……」

そう言って視線をテーブルに戻した。すると、人の頭ほどの量の髪の毛があった。一塊の長い髪の毛が、こんもりと山を作っている。夢の中とはいえ、さすがに異常に気が付き、血の気が引いた。

唖然としていると、外から車の音が聞こえた。どうやら父親が帰ってきたらしい。車の音に釣られて、ついガレージの方を向こうとして、ふと思った。

よそ見をしてから、テーブルの方を見る。そんなことを繰り返しているうちに、髪の毛が人の頭になっているのではないか。髪の毛の塊に、人の顔が付いているのではないか。

Bさんはテーブルから目を逸らせなくなった。道理に合わない発想だったが、夢の中ならではの条理を超越した直観だったのかもしれない。ただ、抵抗は長くは続かなかった。

「ただいま」

父親の声が聞こえた。Bさんはつい父親の方に顔を向けてしまった。そして、自分が失態を犯したことに気が付いた。

どうしよう。もうテーブルの方を見れない。どうしよう。

幸いにも、慌てているうちに夢から覚めた。

Aさんは奇妙な夢の話を聞かされて困惑した。

「怖いね。怖い。でも、ただの夢じゃない?」

「多分、あれは女の人の頭だよ」

「やめてよ、変なこと言わないで」

Aさんは、確かにBさんはこっくりさんを遊ばない方が良いだろうと思った。おそらく、Bさんはこっくりさんを遊びすぎて、思考がオカルトに寄ってしまっているのだろう。休みを挟んだ方がいいのかもしれない。

放課後になると、Bさんはそのまま帰宅した。Aさんはさっそくこっくりさんを始めようとした。しかし、先生から急に手伝いを頼まれ、こっくりさんには遅れて参加することになった。

用事を済ませ、15分ほど遅刻して友人たちの元へ戻ると、様子がおかしかった。友人たちは当惑しているようで、顔を見合わせていた。Aさんも戸惑っていると、友人の一人が経緯を説明した。

「いやさ、こっくりさん来てくれたんだけど、何を聞いても変なことしか答えてくれなくて。女の人の名前みたいなんだけど……」

女の名前。Aさんは友人たちに、Bさんが先に帰った理由を説明していなかった。Aさんは恐怖を覚え始めた。この女の名前は、Bさんの夢に現れた髪の毛の塊と関係があるのではないか。

友人は紙の上の十円玉をじっと見つめながら、話を続けた。

「お帰りくださいってやっても、ずっとフルネームっぽいものを答えるだけで、全然帰ってくれない。困っちゃうね」

別の友人が口を挟んだ。

「名前をメモ取ったんだけど、見る?」

「いや、いい。やめとく」

Aさんは即座に断った。途中から参加するのも具合が悪そうだからと適当に理由をつけて、そのまま帰ることにした。Aさんが帰り支度をする最中も、友人たちはこっくりさんを続けていた。

「ずっと名前しか答えてくれない。誰のことなんだろう」

「意味分かんないね」

Aさんは、もう二度とこっくりさんで遊ばないと決意しつつ、学校を後にした。

翌日、Aさんは次からこっくりさんを断る口実をどうしようかと悩んでいた。教室に入ると、友人たちが集まっていた。誰もが浮かない顔をしていた。Aさんが声をかけると、友人たちはこっくりさんを卒業すると言い出した。

「みんな変な夢を見たんだ。同じ夢。だからこっくりさんはもう止めようかなって……」

Aさんは夢と聞いて顔を引きつらせた。友人はポツリと言った。

「夢で、ゼリーがね……」

友人たちは不吉だからと口をつぐみ、Aさんには女の名前を伝えなかった。結局、Aさんは女の名前を知らずに済んだ。

Aさんは、何度か他の人にこの体験談を話したことがあった。一人で抱え続けるのは怖すぎる。誰かと共有したかったのである。

この話を聞いても、大抵の場合は何事も起こらない。しかし、20人に1人ほどの割合で、頭の中に女性のフルネームが浮かぶ人がいる。そのような人は、夜にゼリーの夢を見てしまうそうだ。

Aさんは心配は要らないと語った。夢を見たとしても、事前に話を聞いているため、途中で夢と気が付いて目が覚める。今のところ、大きな問題に発展したことはないという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

原作はこっくりさんの話を収集している「Kさん」という方が、かぁなっき様に提供したものです。

主人公を「学生」と表現しましたが、放送では具体的な年齢は曖昧でした。小学校高学年から高校生の辺りと推測しています。

作品情報
出自
シン・禍話 第三十八夜 (加藤君退出後は閲覧注意かも) (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

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