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2025年12月6日土曜日

禍話リライト「ヤマガミさんの写真」(甘味さん譚)

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この話は廃墟好きのKさんという女性から提供されたものだ。ただ、Kさんが廃墟に行った話ではない。奇妙な写真を見せられたという話である。

ある日、Kさんは知人から、ある男性に会ってほしいと頼まれた。その人物はKさんにとって大学の先輩に当たるが、大規模な飲み会で一度会ったことがある程度で、知り合いとすら言えない関係だった。その先輩が旅行から帰ってきて以来、おかしくなってしまったらしい。頼み事をしてきた知人は、Kさんの度胸を当てにしていた。

会いに行ってみると、先輩はにこやかな笑みを浮かべて出迎えた。元は社交的でお洒落な人物だったらしい。ただ、目の前にいる人物は明らかに何日か風呂に入っていない様子だった。ブランド物の眼鏡を掛けていたが、レンズには沢山の指紋が付いていた。

「Kちゃん、お久しぶり。元気だったかな」

知り合いでもないのに、妙に馴れ馴れしい口調だった。話を続けていると、どうやらふざけているわけではなく、本気で旧友か何かに会っているつもりらしかった。

「そうそう、この間、彼女と旅行に行ったんだよね」

先輩は旅行の話を始めた。

まず異様だったのが、旅行の行き先が漠然としていたことだった。具体的な観光地の名前を出すわけではなく、例えば「〇〇県」や「××地方」というような大雑把な地名を挙げて、そこに行ったと語っていた。

「旅行ガイドに載っているホテルに泊まっても詰まらないだろ。だから、駅前の案内から旅館を探したんだ。鄙びた感じの場所だったけど、それが大当たりでね」

先輩は旅館から見える景色が良かった、料理が美味しかったと宿泊した旅館を褒め始めた。ただ、具体的に何が良かったのか、どのような料理が出たのかなど、何もかもが曖昧だった。

「その旅館にヤマガミさんっていう仲居さんがいてさ。とても良くしてくれたんだ。結構年配の方だったんだけど、俺らみたいな若い人とも気兼ねなく会話してくれてさ」

「はあ、ヤマガミさん、ですか」

「仲良くなったから、一緒に写真を撮ったんだよ」

先輩はそう言うと、スマートフォンから写真を見せた。写真には水しぶきしか写っていなかった。 甘味さんは困惑したが、よく見ると、自然の滝を接写したものらしいと分かった。

明らかに異様な状況である。しかし、Kさんは一風変わった性格の持ち主。恐怖を覚えるよりも、むしろ楽しい気持ちになってきた。そこで、先輩に直球で質問した。

「滝の写真ですか」

先輩は相変わらずにこやかな笑みを浮かべつつ、口を開いた。

「そうそう。滝だよ。旅館の近くに滝があるんだ。気持ちの良い場所でね」

「ヤマガミさんはどこにいるんですか」

「水が上から下に流れているだろ。その向こう側にヤマガミさんが居るんだ」

滝の裏側が通れるようになっているのかと思って聞いたが、そうではなかった。先輩によれば、滝の裏には何もなく、通路や洞窟があるわけではないとのことだった。

「分からないかな。ここに目があるだろ。鼻は写っていないな」

先輩は写真の所々を指をさして、ここに顔のパーツがあると言った。ただ、どう見ても、滝以外は何も写っていなかった。

先輩は別の写真もあると言って、水面を写した写真を見せた。おそらくは滝の近くで撮影されたものだ。水面にはスマートフォンを構える先輩が写っていたが、その顔は無表情だった。それ以外には何も写っていない。ただ水面が広がるだけだ。

「ヤマガミさんはどちらにいらっしゃるんですか」

Kさんは攻めの姿勢を崩さなかった。

「俺が写っちゃっているけどさ、その隣に写っているだろ」

先輩が指さしたところは水面だけが写っていた。

先輩は同じような写真を数枚見せてきた。山道の接写。木の接写。岩の接写。どれにもヤマガミさんらしき人物は写っていなかった。

Kさんは写真を眺めているうちに、あることに気が付いた。旅館の写真が一枚も無いのである。さんざん褒めていた割に、旅館の内部や、旅館からの風景を写した写真は無かった。

「旅館では写真を撮らなかったんですか」

Kさんは尋ねた。先輩は張り付いたような笑みを崩さずに答えた。

「撮影禁止だったんだよ」

このとき初めてKさんは恐怖を感じたそうだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話アンリミテッド 第三夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

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