給料を貰い過ぎている映画スターやミュージシャンのインタビューを読んだことがある。連中はいかに疲れてしまったか、いかに懸命に働いたか、いかに消耗してしまったかと嘆いており、燃え尽きて、悲惨なほどに休暇を求めていた。連中の監督者は苛烈に仕事を割り当てた。パフォーマンスは苦痛。なんて苦しい人生。俺は口角を吊り上げて思う。
「大衆酒場の作業台を試してみてはいかがかな。それとも、安っぽい終夜営業のカフェで無限に朝食を作り続けるのはどうかね」
それから、手垢のついた新聞を置いて、十時間のシフトに戻ったものだった。またクビになる前のことだ。
今となっては、俺は連中の言いたいことを本当に理解できる。そこには新聞もない。新聞を買ってくれるほどの人が残っていない。そうでなくても読む時間がない。バーやカフェもない。そこにあるのは娯楽だ。無限で底知れないほどの娯楽。俺は娯楽を提供する。パフォーマンスする。永遠に。
奴らによる侵略は突然で、組織的だった。労せずに順調に終わった。誰にも何が起きていたのか全く分からない。ニュースによれば、俺たちが組み立てていた小さなロボットが俺たちをやっつけたらしい。それから、宇宙の深部から発せられたメッセージに関する何かも。以来、他にニュースは流れなかった。奴らは俺たちの情報をすべて奪い取った。奴らは情報を秘匿するのがお好みだ。
誰が統制していたのだろうか。アンドロイドが足を踏み鳴らしながら街を闊歩し、レーザーライフルを撃ちまくるなんて光景は見なかった。共謀の噂は少しあった。権力者が取引を交わしたとか。何もかもがあまりにも早く進んだ。停電が起き、交通手段も失った。本当のニュースは流れず、噂話だけが流れた。恐怖。人々は自宅に留まることを恐れたが、家を出た人々は二度と姿を見せなかった。
ほとんど完璧に筋の通った噂は、先進的な宇宙人の人工知能がインターネットを汚染した、というものだ。ただ、俺が知る限りでは、そんな話は根拠の無い憶測でしかない。俺たちには奴らが何者なのか、正体は何なのか分からずにいる。誰も奴らを目撃していない。大人数かもしれないし、一人かもしれない。奴らは少数の人々を生かした。全員がパフォーマー……。俺は奴らのオーディションを通過しなければならなかった。俺には演技の経験が少しあった。それは夢物語で終わった過去だ。端役だったし、ローカルな演劇だった。
奴らにとって、俺たちにある唯一の価値は芸術だ。奴らが産み出せるものは冷淡さと計算だけだ。残虐さもないが、哀れみもない。奴らは俺たちの歌や本、映画に興味がある。奴らは一瞬であらゆる映画を見て、あらゆる歌を聞き、あらゆる物語を読んでしまった。奴らは既に飽きている。奴らはさらに欲している。俺たちは生ける傑作だ。俺はそう言い聞かせる。作業台よりはマシだ、と。
仲間たちの多くはもういない。毎日毎分、俺たちは創作し続けなければならない。さもなくば死ぬだけだ。時間は果てしなく流れる。一人、また一人と心臓が止まり始めた。連中がどうやってそんなことをしているのかは分からない。もしも何かを移植されているのであれば、俺の知らないうちにやってのけたことになる。そんな手術を受けた記憶は無い。曰くありげな傷口も無い。死は瞬時に訪れる。俺たちの息の根は奴らの命令次第だ。
最も長く生きる者は、決まりをすぐに学ぶ、困難な道程で。奴らの好みに合わせようとしてはならない。革新するのだ。ジョークは当惑を招く。ただ、未だに影響力を持ち得る。奴らは立ち続けたり座り続けたりすると注意深く咎める。これはショーの一部だと無鉄砲に言い張っても、奴らは騙されない。
我らの保護者たちは優しく指示をくれる。ブンブンと唸る虫のような声で。俺たちは言葉を聞くのではなく振動を感じる。
「ダンス」
奴らは言う。すると、俺はいくらかムーブをこなしつつ躓いてしまう。俺はダンスフロアに上がっても見る価値のあることは全く出来なかった。それでも幾分か満足させている。多分、奴らは俺がエッジを利かせていると思ってくれるはず。多分、俺は自分にそう言い聞かせているだけだ。
ある若造が、ネオン輝く1980年代のナイトクラブからやってきたかのような、ほぼ完璧なロボットダンスを繰り出す。あれが思いつけばなと思いはした。しばらくして、若造の死体がバタリと床に倒れ伏すまでは。人の弱みに付け込んではならない。恩着せがましくしてはならない。
目を眩ませる光が俺たちの疲れ切った顔を永遠に照らし続けるが、この冷たい鉄の舞台からは暗闇しか見えない。奴らは光が無くても物が見える。奴らはこの場所にはおらず、外のどこかにいるのだろう、と想像する。多分、奴らはカメラを使っているのだろう。多分、奴らの感覚は人類の知覚を超越しているのだろう。
最も無味乾燥としたゴミでさえ、奴らは身を起こして耳を傾ける。奴らは高尚な文化よりもおどけの方が好みのようだ。これが奴ら自身の欲望を反映したのか、それとも俺たちの欲望の方なのかは分からない。ただ、いつも新鮮でなければならない。同じ題材を繰り返すのは考えられない。受け入れられない。
稀にこの日々の仕事に応えて、暗がりから耳障りなほぼ聞き取れないブンブン言う音で称賛を受けることがある。組織的な交響曲だ。一度、俺は感謝の念でお辞儀したことがある。相棒たちがはっと息を飲む危険を冒してのことだ。それは成功したに違いない。だから俺はまだ存在している。唖然としていた一人、俺がいくつかの映画で見たことがある老齢のイギリス人悲劇俳優は、いつまでも唖然としていたものだから、逝ってしまった。
俺たちは合作もできる。ある指示「転覆」を受けて、俺たちと他の三人は閃いた。軽率にも古いアダムスファミリーのテレビ番組にあった苛烈なコメディと捻くれた悪意を再現した。地下にある中世の拷問部屋へ急いで下って休暇に行く話だ。観客はこれを見て不道徳だとは思わず、巧妙さや皮肉も読み取らない。奴らは称賛したに違いない。というのも、奴らは俺たちに小道具をくれた、あの地獄の暗がりから。小道具のご褒美は珍しい。自分にこんなことができたとはまるで知らなかった。最近はこれくらいはできないとなと思う。
この件は仲間からの憎しみを招いた。俺は仲間たちの目から殺意を見出した。劇場の座席からのやかましい声援に紛れて、仲間たちの不満げに唸る声を聞いた。
時折、奴らの指示は謎めいており、時折は直球だ。幸運にも俺は即興ができた。即断しろ。残ったネタは何か。時折、俺たちは珠玉の指示を受ける。例えば、こんな風に。
「成長できず、決して撃退できないもの」
その手の指示はいつも誰かがヘマをやらかし、我らが一座は数を減らす。
時折、俺たちは謎の肉を与えられた。絶対に沢山はくれなかった。奴らは俺たちが痩せた体型を維持するのがお好みだ。分かることは、この肉はピンク色の偽物で、ペトリ皿の上で育っていることだけだ。
雑誌でモデルをしている姿を見たかもしれない、ある背高の少女は幾分か事を楽しんでいるようだった。少女は過度に肉体改造することに興味を持っていた。奴らは少女にナイフを与え、少女はそれに応えた。少女は当初から狂っていた。俺は少女の狂気にかなり嫉妬していた。しまいには、少女は瞼も唇もナイフを握る指も切り落とした。だから、少女は自分の頭を床に強く打ち付けた。かつての容貌がもはや分からなくなるまで。今まで以上に大きな歓喜する唸り声が聞こえた。
「私を見て! お前の見るものが私の望み!」
少女は絶叫した。そして狂喜とともに観客席へ身を投じた。このアイディアが一度や二度、俺たち全員の脳裏を過ぎったことは間違いない。全くの好奇心からか、休息できるという微かな希望からか。その答えは沈黙。嗅ぎなれた焼ける肉の臭い。
次の指示が来る。
「砂漠に水はあるか」
俺は動きが止まる。心は空っぽだ。もしかしたら、消えてなくなってしまったのかもしれない。
謎の侵略者により、人々は永遠のパフォーマーになった。ある演者の悲哀の物語。
Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”や“PotM”に選出されており、評価が高いです。
作品情報
- 原作
- The Robot Dance (Creepypasta Wiki、oldid=1508551)
- 原著者
- Hack Shuck
- 翻訳
- 閉途 (Tojito)
- ライセンス
- CC BY-SA 4.0














