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2025年12月31日水曜日

禍話リライトまとめ、12月報: ジャンル分け、切抜き追加など

これまでの振り返り

現在、禍話リライトをまとめたページを作成しています。 現状、noteにあるリライトはほぼすべてまとめを終えているはずです。

最初、配信ごとにリライトをまとめたページを用意しました。

その後、特殊な形式でまとめたページも作成しました。

続いて、シリーズごとにまとめたページも作成しました。

ここまでが、過去の記事で紹介した内容です。以降は最近に追加した新規のまとめです。

FEAR飯関係者のまとめ

FEAR飯関係者に関するまとめを作成しました。FEAR飯の関係者が登場する話や、提供した話を個別にまとめたものです。

このまとめですが、かなり抜けが多いと思われます。抜けを見つけた際には指摘のコメントをいただけますと幸いです。 また、イソロクさん (五十六さん?) や介護職のIさん、アオさんについては存在は認識していますが、まとめに含めていません。どの話に登場するのか忘れてしまった、そもそも表記がよく分からないなどの理由があります。

話の提供者についてのまとめ

禍話ではFEAR飯の方々が自分で集めた話を語るだけでなく、視聴者がダイレクトメールを通じて話を送ることがあります。最近は「創作ホラー劇場 ミッドナイトギャラリー」という企画もあります。 そこで、分かる範囲で話の提供者ごとにまとめたページも作成しました。提供した話や関係する話を2話以上確認した方が対象です。

広義の「禍話関係者」ではありますが、先程のページには含めないことにします。酢豆腐さんは分類が難しいですが、ひとまずはこちらに入れています。

こちらも抜けが多いと思われます。ご指摘いただけますと幸いです。

note以外のリライトのまとめ

禍話リライトといえばnote。noteといえば禍話リライトとニンジャスレイヤー。

そう言っても過言ではないほどに禍話リライトはnoteに投稿されることが多いです。ただ、note以外にも少数ですがリライトは投稿されています。

このページではnote以外のウェブサイトで投稿されたリライトをまとめています。ただし、noteに同じ内容のリライトがある場合は対象外とします。

noteにないリライトは等閑視されがちなのではないか、という懸念からこのページを作成しました。むくろ幽介さんのリライトは多くの人が読んでいると思いますが、個人サイトに投稿されたものは見逃している人も多いのではないかと思います。

逆に言えば、このページに書かれていないものは私も見逃しています。抜けがあればご報告いただけますと幸いです。

ジャンルの分類

ジャンルごとにまとめたページも作成しました。怪談でありがちなジャンルごとに分類しています。

このページはリライトがある話を優先してまとめました。リライトがない話についても、徐々に整備していく予定です。

切抜き動画へのリンクを追加

禍話の配信の一部を切抜いた動画が投稿されています。そこで、切抜き動画へのリンクをまとめの各話に追加しました。 以下のチャンネルの切抜き動画を対象としています。同一の話の切抜き動画が複数存在する場合、上から順に優先して選択しています。

  1. FEAR飯
  2. 『禍話』切り抜きチャンネル【公認】
  3. 禍話の分家

以上です。来年も禍く過ごしましょう。

2025年12月14日日曜日

C#でnoteの検索結果を全て取得する

noteで「禍話」に関する記事を全て取得するためにC#でプログラムを作成しました。noteのAPIの扱い方の参考になるかと思い、汎用的になるように加工して公開します。

noteでは、次のURLから検索結果をJSON形式で取得できます。

https://note.com/api/v3/searches?context=note&q=(検索ワード)&sort=(ソート方法)&size=(結果の数)&start=(開始番号)

各種のパラメータの意味は以下の通りです。

q=(検索ワード)
検索したい言葉。URL用にエンコードが必要です。「禍話」を検索する場合は「%E7%A6%8D%E8%A9%B1」となります。
sort=(ソート方法)
検索結果のソート方法。新しい順であれば「new」と書きます。
size=(結果の数)
検索結果の取得数。最大値は20のはずです。
start=(開始番号)
検索結果全体のうち、どこから取得するか。

次のプログラムは、noteの検索結果をすべて取得し、テキストファイルに出力します。 短期間で連続してnoteのAPIを叩くと、noteのサーバから怒られてしまいます。そのため、時間はかかりますが、Thread.Sleepを挟む必要があります。


using System.IO;
using System.Net.Http;
using System.Text.Json;
using System.Web;

// 待機時間生成用
var random = new Random();

// HTTPクライアント
using var httpClient = new HttpClient();

// note検索の基準値
int start = 0;

// startは20ずつ増加する
const int START_STEP = 20;

// 検索ワード
string? searchQuery = HttpUtility.UrlEncode("検索ワード");

// 出力先
using var sw = new StreamWriter("output.txt");

while(true)
{
    // 検索APIを呼び出す
    string noteUrlText = $@"https://note.com/api/v3/searches?context=note&q={searchQuery}&sort=new&size=20&start={start}";
    HttpResponseMessage httpResponseMessage = await httpClient.GetAsync(noteUrlText);

    Console.WriteLine(noteUrlText);

    // ステータスコードを出力
    Console.WriteLine($"Status Code: {httpResponseMessage.StatusCode}");

    // JSONデータを取得
    string? jsonContent = await httpResponseMessage.Content.ReadAsStringAsync();

    // noteの検索結果を解析する
    JsonDocument searchResult = JsonDocument.Parse(jsonContent);

    // note_cursor
    int cursor = 0;

    // dataエレメントがあるか確認
    if (searchResult.RootElement.TryGetProperty("data", out JsonElement dataElement))
    {
        // note_cursorエレメントを確認
        if (dataElement.TryGetProperty("note_cursor", out JsonElement noteCursorElement))
        {
            if (Int32.TryParse(noteCursorElement.GetString(), out int cursorConv))
            {
                cursor = cursorConv;
            }
        }
        else
        {
            // note_cursorエレメント取得失敗時はエラーと見なし、中断
            Console.WriteLine("失敗");

            break;

        }

        Console.WriteLine($"cursor: {cursor}");

        // notesエレメントを確認
        if (dataElement.TryGetProperty("notes", out JsonElement notesElement))
        {
            // contentsエレメントを確認
            if (notesElement.TryGetProperty("contents", out JsonElement contentsElement))
            {
                for (int i = 0; i < (cursor - start); i++)
                {
                    JsonElement contentElementChild = contentsElement[i];
                    string? authorId = null;

                    // 題名を取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("name", out JsonElement nameElement))
                    {
                        sw.WriteLine($"題名\t{nameElement}");
                    }

                    // 記事投稿日時を取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("publish_at", out JsonElement publishAtElement))
                    {
                        if (publishAtElement.TryGetDateTimeOffset(out DateTimeOffset dateTime))
                        {
                            sw.WriteLine($"投稿日時\t{dateTime.ToString("yyyy-MM-ddTHH:mm:sszzz")}");
                        }
                    }

                    // userエレメントを取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("user", out JsonElement userElement))
                    {
                        // ユーザ名を取得
                        if (userElement.TryGetProperty("nickname", out JsonElement nicknameElement))
                        {
                            sw.WriteLine($"作者名\t{nicknameElement.ToString()}");
                        }

                        // ユーザのnoteページを取得
                        if (userElement.TryGetProperty("urlname", out JsonElement urlNameElement))
                        {
                            sw.WriteLine($"作者noteページ\thttps://note.com/{urlNameElement}");
                            authorId = urlNameElement.ToString();
                        }
                    }

                    // note記事のURLを取得
                    if (contentElementChild.TryGetProperty("key", out JsonElement keyElement))
                    {
                        sw.WriteLine($"noteのURL\thttps://note.com/{authorId}/n/{keyElement}");
                    }
                }
            }
        }
    }

    // cursorはstartから20増加する値になるはず
    if (cursor >= (start + START_STEP))
    {
        // 次のstartは20増加
        start = start + START_STEP;
    }
    else
    {
        // 20増加した値にならなかった場合、この周回で検索を終える
        break;
    }

    // 短期間でのnoteへのアクセスを防止するため、ランダム時間だけ待機
    Thread.Sleep(random.Next(10000, 15000));

    sw.WriteLine();
}

C#でBloggerページの自動更新

禍話リライトまとめを作る際に、Bloggerのページを自動で更新するプログラムが欲しくなり、Blogger APIを叩くプログラムを自作しました。

下準備: ページIDの取得

ページの自動更新のためには、ブログのIDとページのIDを知っている必要があるようです。

ブログのIDは簡単に確認できます。Bloggerのサイトを開いたときに、自動でリダイレクトされる先のURLを見れば解決します。URLは「https://www.blogger.com/blog/posts/(数字の羅列)」という形式であり、この数字の羅列がブログのIDです。

ただ、ページのIDは簡単には確認できないようでした。そのため、まずはページのIDを調べるプログラムを作成しました。

以下のプログラムは次の2点を予め実施する必要があります。

  • GoogleのAPIの認証のため、APIキーまたはOAuthクライアントIDを作成する (参考: アクセス認証情報を作成する)。作成したAPIキーまたはOAuthクライアントIDはすぐには有効にはならないため注意する。
  • NuGetパッケージで「Google.Apis.Blogger.v3」をインストールする。

このプログラムは、ページのキーを列挙し、そのID、題名、URLを出力します。 この例ではAPIキーを使用していますが、OAuthクライアントIDを使用しても良いです。どうせ必要になることを考えると、OAuthクライアントIDを作成した方が良いかもしれません。


using Google.Apis.Blogger.v3;
using Google.Apis.Services;

// Bloggerサービス
var service = new BloggerService(new BaseClientService.Initializer()
{
    ApiKey = "APIキー",
    ApplicationName = "アプリケーション名"
});

// リクエスト
var request = service.Pages.List("ブログのID");
request.MaxResults = 100;      // 結果の最大数

// レスポンス
var response = request.Execute();

// レスポンスを出力
using (var sw = new StreamWriter("output.txt"))
{
    foreach (var item in response.Items)
    {
        sw.WriteLine(item.Id);
        sw.WriteLine(item.Title);
        sw.WriteLine(item.Url);

        sw.WriteLine();
    }
}

本番: ページの更新

ようやく本題に入ります。以下のプログラムは次の2点を予め実施する必要があります。

  • GoogleのAPIの認証のため、OAuthクライアントIDを作成する (参考: アクセス認証情報を作成する)。“client_secret.json”をダウンロードしておくこと。作成したOAuthクライアントIDはすぐには有効にはならないため注意する。
  • NuGetパッケージで「Google.Apis.Blogger.v3」をインストールする。

このプログラムは、既存のBloggerのページの題名、内容を更新します。


using Google.Apis.Auth.OAuth2;
using Google.Apis.Blogger.v3;
using Google.Apis.Blogger.v3.Data;
using Google.Apis.Services;
using Google.Apis.Util.Store;
using static Google.Apis.Blogger.v3.Data.Page;

namespace BloggerPageUpdateProgram
{
    public class Program()
    {
        public static void Main()
        {
            new Program().Run().Wait();
        }
    
        private async Task Run()
        {
            // Googleの認証
            UserCredential credential;
            using (var stream = new FileStream("client_secret.jsonのパス", FileMode.Open, FileAccess.Read))
            {
                credential = await GoogleWebAuthorizationBroker.AuthorizeAsync(
                    GoogleClientSecrets.FromStream(stream).Secrets,
                    new[] { BloggerService.Scope.Blogger },
                    "user",
                    CancellationToken.None,
                    new FileDataStore(this.GetType().ToString())
                );
            }

            // Bloggerサービス
            var service = new BloggerService(new BaseClientService.Initializer()
            {
                HttpClientInitializer = credential,
                ApplicationName = "アプリケーション名"
            });

            // Blogger接続用のデータ
            var blog = new BlogData();
            blog.Id = "ブログのID";
            
            // Bloggerのページへの書き込みデータ
            var page = new Page();
            page.Kind = "blogger#page";
            page.Blog = blog;
            page.Id = "ページのID";
            page.Title = "ページの題名";
            page.Content = "ページの内容";

            // リクエスト
            var request = service.Pages.Update(page, "ブログのID", "ページのID");

            // レスポンス
            var response = request.Execute();
        }
    }
}

2025年12月6日土曜日

画像生成AI遊びの記録

今時はネット小説に挿絵があって当たり前の時代。せっかくだから、流行りの生成AIを使って挿絵を作成することにした。 ここでは、没にした画像も含め、挿絵に使用したAI生成物を紹介する。

Stable Diffusionを使用した。モデルはPhotonである。 自前で環境構築を試みたが、パソコンの性能が微妙だったため、色々と機能に制約がある状態だった。 例えば、SDXLが使用できず、512×512より大きい画像の出力も無理だった。

以下、特に断りが無ければいわゆる「ポン出し」の画像である。そのような画像については、法律上は著作物として扱われないと思われる。

禍話リライト「髪ゼリー」(「こっくり譚」より)
採用
候補

最初は特に意味もなく、青いゼリーの画像を想定していた。途中から、サムネイルにしたときの鮮烈さを求め、赤色のゼリーに変更した。そんなわけで、青いゼリーの画像と赤いゼリーの画像がある。

禍話リライト「蝋燭の男」
採用
候補

蝋燭を握る手の画像にしたかったのだが、なかなか生成が上手くいかず、最初はただの蝋燭の画像で妥協した。 その後、i2iを利用して、どうにかそれらしい画像を捻り出すことに成功した。

i2iの元絵はこちらである。これを元に生成した画像を、さらにi2iにかけるなどの工程を踏んでいる。

禍話リライト「コンビニに来たカップル」
採用
候補

汚れた硬貨の画像や、地面に突き刺さったスコップの画像を生成したかったのだが、上手くいかなかった。 途中、山中を走る車の画像で妥協しようとした。 最終的には、山に佇む男の画像を作る方針に切り替え、まあまあ上手くいった。

採用した画像の元となったものは次のAI生成画像である。この画像をさらにi2iにかけて完成とした。

採用に至った画像には土饅頭のようなものが描かれているが、特にそのような指示はプロンプトには無かった。偶然の産物である。

禍話リライト「棒の手紙」
採用
候補

山積みの手紙の画像をポン出ししただけ。それ以上、何も思いつかなかった。letter違いで文字の山積みの文字の画像も生成された。

禍話リライト「保健室での譫言」
採用
候補

最初は保健室の画像を出そうとしたが、上手くいかなかった。その後、竹をテーマに適当なものが出来ないかと試みたが、それも失敗した。途中、壊れたハートの画像や、ラブレターを書く様子の画像での妥協を試みた。 最終的に、竹林の近くを走る足を出力する方向で落ち着いた。

禍話リライト「舐婆」
採用
候補

小汚い病院の画像を生成してお終いとした。これ以上は何も思いつかなかった。

禍話リライト「解説こっくりさん」
採用
候補

最終的には、目元を黒い四角形で隠した、巫女のような姿の女の子の画像となった。なお、AI生成物の背景を抽出して、暗い色になるように加工してある。

ここまでやれば、さすがに著作物として主張できるのではないか。無理か。どうなんだ。

ちなみに、加工前の生成物はこちら。可愛い。

禍話リライト「耳なし芳一」
採用
候補

当初は、文字がびっしりと書かれた腕の画像を生成しようとしたが、上手くいかなかった。その後は、バスの画像を生成する方向で切り替えた。

採用したものはバスの画像を生成し、それをモダンでビビッドでお経な感じに加工したものである。これも著作物と言い張って良いのではないか。

なお、お経の画像は下記を使用している。

加工する前の生成物はこちら。

『ロボットダンス』(Creepypasta私家訳、原題“The Robot Dance”)
採用
候補

「しょっぱい演劇」のイメージで、dirtyでoldな感じのmanを出力させた。 顔面の描写が微妙に破綻しているが、それが却って味があると思って採用に至った。

ところで、「mask」をプロンプトに指定すると、コ口ナ禍の風刺画のようなものが生成されて困惑した記憶がある。

禍話リライト「老夫婦」
採用

自宅のインターフォンの写真をi2iにかけたもの。

実物はもっと汚らしい。故障しまって以来、掃除もせずに放置しているためだ。ろくに客も来ないため、特に問題が無い。

いや、まあ、問題はあるのだが……。

禍話リライト「お礼娘」
採用

普通のプールの画像で妥協。「プールの中に墓石が立っている」という不思議な画像を作りたかったのだが、上手くはいかなかった。

試しに女の子の画像も生成してみたのだが、子供らしくない奇妙な体型だったため没となった。子供の顔に、子供の大きさの大人びた肉体がくっついており、かなり不気味だった。

禍話リライト「ベランダで自己紹介」
採用

自宅のベランダの室外機を撮影し、その写真をi2iにかけたもの。生成AIは網目の部分が苦手なのかもしれない。

禍話リライト「離脱の記録」
採用

ノートのある教室の画像をポン出ししただけである。数は沢山生成したのだが、使い道がありそうなものは少なかった。机と椅子を沢山描画させた結果、物が多い分、破綻が目立つ画像が多かった。

禍話リライト「柱の傷」
採用
候補

最初は傷の付いた柱の画像を生成しようとした。しかし、何故かログハウスや枯れ木が出力されてしまった。柱らしき画像が出力されたこともあるが、柱が新しすぎたり古すぎたりとしっくりくるものは無かった。

その後、「何かがあった現場」の画像に方針を切り替えた。これも上手くいかなかったのだが、妥協して1枚選んだ。

禍話リライト「ヤマガミさんの写真」(甘味さん譚)
採用
候補

「滝 (fall) を写した写真」の画像を生成しようとしたところ、秋 (fall) の画像が生成されてしまった。

禍話リライト「ヤマガミさんの写真」(甘味さん譚)

写真の画像

この話は廃墟好きのKさんという女性から提供されたものだ。ただ、Kさんが廃墟に行った話ではない。奇妙な写真を見せられたという話である。

ある日、Kさんは知人から、ある男性に会ってほしいと頼まれた。その人物はKさんにとって大学の先輩に当たるが、大規模な飲み会で一度会ったことがある程度で、知り合いとすら言えない関係だった。その先輩が旅行から帰ってきて以来、おかしくなってしまったらしい。頼み事をしてきた知人は、Kさんの度胸を当てにしていた。

会いに行ってみると、先輩はにこやかな笑みを浮かべて出迎えた。元は社交的でお洒落な人物だったらしい。ただ、目の前にいる人物は明らかに何日か風呂に入っていない様子だった。ブランド物の眼鏡を掛けていたが、レンズには沢山の指紋が付いていた。

「Kちゃん、お久しぶり。元気だったかな」

知り合いでもないのに、妙に馴れ馴れしい口調だった。話を続けていると、どうやらふざけているわけではなく、本気で旧友か何かに会っているつもりらしかった。

「そうそう、この間、彼女と旅行に行ったんだよね」

先輩は旅行の話を始めた。

まず異様だったのが、旅行の行き先が漠然としていたことだった。具体的な観光地の名前を出すわけではなく、例えば「〇〇県」や「××地方」というような大雑把な地名を挙げて、そこに行ったと語っていた。

「旅行ガイドに載っているホテルに泊まっても詰まらないだろ。だから、駅前の案内から旅館を探したんだ。鄙びた感じの場所だったけど、それが大当たりでね」

先輩は旅館から見える景色が良かった、料理が美味しかったと宿泊した旅館を褒め始めた。ただ、具体的に何が良かったのか、どのような料理が出たのかなど、何もかもが曖昧だった。

「その旅館にヤマガミさんっていう仲居さんがいてさ。とても良くしてくれたんだ。結構年配の方だったんだけど、俺らみたいな若い人とも気兼ねなく会話してくれてさ」

「はあ、ヤマガミさん、ですか」

「仲良くなったから、一緒に写真を撮ったんだよ」

先輩はそう言うと、スマートフォンから写真を見せた。写真には水しぶきしか写っていなかった。 甘味さんは困惑したが、よく見ると、自然の滝を接写したものらしいと分かった。

明らかに異様な状況である。しかし、Kさんは一風変わった性格の持ち主。恐怖を覚えるよりも、むしろ楽しい気持ちになってきた。そこで、先輩に直球で質問した。

「滝の写真ですか」

先輩は相変わらずにこやかな笑みを浮かべつつ、口を開いた。

「そうそう。滝だよ。旅館の近くに滝があるんだ。気持ちの良い場所でね」

「ヤマガミさんはどこにいるんですか」

「水が上から下に流れているだろ。その向こう側にヤマガミさんが居るんだ」

滝の裏側が通れるようになっているのかと思って聞いたが、そうではなかった。先輩によれば、滝の裏には何もなく、通路や洞窟があるわけではないとのことだった。

「分からないかな。ここに目があるだろ。鼻は写っていないな」

先輩は写真の所々を指をさして、ここに顔のパーツがあると言った。ただ、どう見ても、滝以外は何も写っていなかった。

先輩は別の写真もあると言って、水面を写した写真を見せた。おそらくは滝の近くで撮影されたものだ。水面にはスマートフォンを構える先輩が写っていたが、その顔は無表情だった。それ以外には何も写っていない。ただ水面が広がるだけだ。

「ヤマガミさんはどちらにいらっしゃるんですか」

Kさんは攻めの姿勢を崩さなかった。

「俺が写っちゃっているけどさ、その隣に写っているだろ」

先輩が指さしたところは水面だけが写っていた。

先輩は同じような写真を数枚見せてきた。山道の接写。木の接写。岩の接写。どれにもヤマガミさんらしき人物は写っていなかった。

Kさんは写真を眺めているうちに、あることに気が付いた。旅館の写真が一枚も無いのである。さんざん褒めていた割に、旅館の内部や、旅館からの風景を写した写真は無かった。

「旅館では写真を撮らなかったんですか」

Kさんは尋ねた。先輩は張り付いたような笑みを崩さずに答えた。

「撮影禁止だったんだよ」

このとき初めてKさんは恐怖を感じたそうだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話アンリミテッド 第三夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

禍話リライト「柱の傷」

何かの現場の画像

Aさんという会社員の男性の体験談。Aさんは意図せずに他人のトラウマを抉ってしまったことがある。

当時、Aさんはかなり安いアパートに住んでいた。敷金、礼金が0円と破格の物件だ。事故物件というわけではなく、とてつもなく古いのである。柱には、昔の住人が子供の身長を計ったときに付けたと思しき傷が残っていた。

ある日、上司がこの部屋に泊まりに来た。出張する際の準備の関係で、社員の誰かの家に泊まりに行く必要があり、位置の都合からAさんのアパートが選ばれた。少し飲んだ後、明日も早いからと就寝した。

夜、Aさんが眠っていると、物音を聞いて目を覚ました。ガリ、ガリという音が聞こえる。木か何かを削っているようだ。古いアパートとはいえ、さすがにネズミはいない。何だろうと思って音の聞こえる方を見ると、暗い部屋の中で上司の姿が見えた。

上司は柱のそばに立ち、腕を懸命に上の方に伸ばしていた。暗い中、目を凝らしてよく見ると、上司が何をしているのか分かった。片手にフォークを持ち、柱の上の方に傷を付けていた。身長を計っているのであれば、そこまで背が高い人はいないだろうというような位置だ。

酒の飲み過ぎで奇行に走ったのか。いや、まさか。さすがに夢だろう。Aさんも酒が入っていて眠かった。何をするでもなく、そのまま再び眠りに落ちた。

翌朝、目が覚めると、柱のかなり上の方に新しい傷が付いていた。夢ではないことに気付き、Aさんは上司を問い詰めた。

「ボロボロの部屋だから別にいいですけど、さすがにこれは無いですよ」

「これ、俺が付けたのか。ごめんな」

怒りはしたものの、恐ろしく古い物件だったから、大して損害は無い。Aさんは冗談めかして言った。

「だいたい、成長しても、こんなに背が高くなるわけないじゃないですか」

「いや、ホントごめんな。ごめん」

上司は顔を洗いたいと言って、洗面台の方へ向かった。その途中、Aさんの横を通り過ぎる間際に囁くような声で言った。

「伸びるぞ。人は伸びる。そういう状態が続いたらな」

Aさんが呆気にとられていると、上司はテキパキと出張の準備を進め、そのまま部屋を出ていった。

上司が出張から戻ってしばらくした後、上司が退職した。急な退職で、関係者は穴を埋めるのに苦労した。それでも、上司は「実家の都合」の一点張りで、詳しい理由を聞くことも、止めることもできなかった。

残された上司の机を整理していると、引き出しの中から便箋のセットが見つかった。便箋はレシートと一緒に100円ショップの袋の中に入っていた。レシートの日付は、上司が最後に私物を取りに来た日だった。便箋の1枚が包装から取り出されており、それにはこのように書かれていた。

「最悪の部下だ。カサブタを剥がしてくる」

あの夜の奇行と退職の理由に何か関係があったのか、今となっては分からない。

「人が伸びる」と聞くと、首吊り自殺の末路が思い浮かぶ。首吊り死体を放置すると、首が伸びてしまうらしい。「そういう状態」という言葉が嫌な想像を膨らませる。

Aさんは今はもう別の物件へ引っ越した。かつて住んでいた古いアパートの部屋には既に別の人が入居しており、何事もなく幸せそうに暮らしている。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話アンリミテッド 第二夜 (一時間後からQを視聴) (禍話 @magabanasi放送、「部屋の柱の傷」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年12月4日木曜日

禍話リライト「離脱の記録」(こっくり譚より)

教室の画像

安藤さんという中学校の教師の体験談。

安藤さんは今はベテランの教師だが、若い頃は生徒たちからは気楽に話せる相手として親しまれていた。そんな彼だが、一度だけ生徒に手を上げてしまったことがあった。

一時期、生徒の間でこっくりさんが流行ったことがあった。ある女子生徒のグループが特に熱心に取り組んでいた。彼女たちは内輪で籠りがちな性向があった。

あるとき、そのグループの一人が安藤さんに話しかけた。

「安藤先生、ちょっとお話が……」

親身になって話を聞いてみたが困惑した。こっくりさんの話だった。どういうわけか、こっくりさんに誘われたのである。

学校としてはこっくりさんを禁止していなかった。こっくりさんも仲間内での一種のコミュニケーションと言えるだろう。ただ、ヒステリーなどの兆候があったら、対策が必要かもしれない。

安藤さんはこっくりさんへのお誘いに乗ることにした。女子生徒に案内され、こっくりさんの集まりに向かった。

そこは本来は文化系のクラブ活動に使用する教室だった。しかし、そのクラブは休止状態になっており、実質的には空き部屋になっていた。女子生徒たちはそこを溜まり場にしていたようで、彼女たち以外には誰もいなかった。

女子生徒たちはこっくりさんの準備を進めていた。十円玉。五十音と鳥居が書かれた紙。ノート。

ノート……?

そのノートは中学生が勉強に使っていてもおかしくはない、至って普通のノートだった。ただ、こっくりさんには不似合いだ。安藤さんは疑問に思い、女子生徒にノートを何に使っているのか尋ねた。

「こっくりさんの記録に使っているんです。読んでみてもいいですよ」

女子生徒に促されて、安藤さんはノートを開いた。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

みんな:こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたらはいに進んでください。

……

一瞬、ドキリとしたが、2ページ目を見て謎は解けた。こっくりさんが来るまで決まり文句を繰り返さなければならない。それを律儀に書き記していただけのことだった。2ページ目で漸くこっくりさんが来てくれた。

こっくりさん:はい

ノートをパラパラと捲って流し読みしていくと、大したことは書かれていなかった。

みゆちゃん:こっくりさん、こっくりさん、山岸先輩は誰が好きですか。

こっくりさん:ぬまた

こんな具合に、他愛もない質問ばかり書かれている。そろそろ女子生徒にノートを返そうかと思っていると、ある記述が目に飛び込んだ。

まゆちゃん、ここで離脱。

よく読んでみると、他にも同じような記述があった。

えみちゃん、ここで離脱。

さきちゃん、ここで離脱。

……

安藤さんは女子生徒に尋ねた。

「なあ、この『離脱』というのは何かな」

「こっくりさんをやっていると、みんな寝落ちしちゃうんです。そのときに『離脱』って書いているんですよ」

こっくりさんの最中に、生徒が急に寝落ちする。

安藤さんは女子生徒の不可解な言葉に驚き、改めてノートを仔細に確認することにした。そのうちに、安藤さんはある発見をした。

よく読んでみると、女子生徒たちが全員寝落ちしている回がある。ここにいる全員の名前に「離脱」と書かれている。その次の行は、行頭に名前が書かれていなかった。

:こっくりさん、こっくりさん、お帰りください。

こっくりさん:はい

こっくりさんは帰りました。

安藤さんは女子生徒たちにおずおずと尋ねた。

「なあ、ここのページに全員が『離脱』したって書いてあるけど、続きは誰が書いているんだ?」

生徒たちはこっくりさんの準備を終えようとしていた。生徒の一人が答えた。

「それを確認するために、先生を呼んだんですよ」

安藤さんは動揺のあまり、その生徒の頬を張ってしまった。

生徒が泣き出して騒ぎになってしまい、安藤さんは先輩の教師からお叱りを受けた。幸い、大事にはならなかった。ただ、そもそも教師がこっくりさんに参加するのはいかがなものかと窘められた。

ところで。

こっくりさんを遊んでいると、生徒たちが一人一人寝落ちする。ノートには全員が「離脱」したと記録されている。つまり、全員がこっくりさんを遊んでおり、女子生徒たちの誰も端からノートに記録をつけていなかったことになる。

こっくりさんの記録をつけていたのは誰だったのか、最後まで分からずじまいだったとのことだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。こっくり譚のKさんが提供しています。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

登場人物の名前を出す必要がある場合、適当な仮名を付けています。

作品情報
出自
元祖!禍話 第二十六夜(後半は猫ちゃん映画の話とかです) (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年12月1日月曜日

禍話リライト「ベランダで自己紹介」

室外機の画像

Aさんという男性が体験した話。

AさんにはBさんという友人がいた。Bさんは自宅に人を招かない。遊びに行きたいと頼んでも断ってくる。Aさんは、Bさんが何か秘密の趣味を隠しているか、壁が薄くて騒ぐと迷惑になるから人を入れたくないのだろうと推測を立てていた。

ある夏の夜。先輩と居酒屋に行った帰り道。先輩は飲み足りない様子だった。

「そうだ。この辺りにBんちあるからさ。そこで飲み直そうぜ」

AさんはBさんが嫌がるからと抵抗したが、先輩の圧力に押し切られた。酒やツマミを買って、Bさんの住むマンションへ向かった。Bさんの部屋は三階にあった。先輩がインターフォンを押すと、怪訝な顔付きのBさんが出てきた。

「ちょっと飲み直そうと思ってさ。お前も飲もうぜ」

Bさんは露骨に嫌そうな顔をしたが、断らずに二人を部屋に入れた。部屋はごく普通の男性の一人暮らしといった様子で、綺麗でもないが散らかってもいない。秘密の趣味を隠しているというわけではなさそうだ。安普請でもなく、騒音を心配する必要もないように見える。

どうして人を泊めたがらないのだろう。潔癖で他人が自宅に上がるのが許せないという性格でもないはずだが。

色々と疑問は沸き上がったが、気にせずに飲み直すことにした。ただ、先輩の元に電話が入った。恋人からの電話らしく、応答のために外へ出ていってしまった。

飲み会をしようと言い出した張本人がなかなか帰ってこず、AさんとBさんは気まずい気持ちのまま黙々と酒を飲み進めた。そのうち、酒が回りすぎて、二人とも眠くなった。そのままBさんの部屋で雑魚寝する流れになった。Aさんは眠気に身を任せて、そのまま眠りに就いた。

ふと目が覚めた。外の方に目をやると、ベランダの窓が開いていた。暑いからと窓を開けていたことを思い出した。よく見ると、ベランダに誰か立っていた。Bさんは近くで寝ている。そうなると、先輩がタバコでも吸っているのだろうか。Aさんは暗闇の中で目を凝らした。

先輩ではなかった。女だった。当然ながら知り合いではない。

女はこちらを見ながら、右に行ったり左に行ったりとうろうろしていた。三階だから誰かが忍び込んだ可能性は低い。まさか幽霊か。女と自分を隔てているものは薄い網戸だけである。AさんはBさんを起こそうとした。

「おい。女がベランダにいるぞ。おい」

「立ってねぇよ」

「いや、女が立っているぞ。何なんだあいつは」

Aさんは寝転がるBさんの肩を揺すった。すると、BさんはAさんの腕を強く叩き返した。寝起きの力ではない。ずっと前から起きていたようだ。Bさんは上体を起こした。

「だから居ねぇよ」

「でも……」

Aさんはベランダの方に目を向けた。うっかり女と目が合ってしまった。女は口を開いた。

「しつがいき」

Aさんが唖然としていると、Bさんはうんざりしたような声で言った。

「誰も居ないだろ。室外機しかない。本人もそう言っている。だから早く寝ろ」

Bさんは再び横になり、目を閉じた。

女は再び言葉を発した。

「しつがいき」

Aさんも横になり、何も聞こえないふりをしながら夜を過ごした。明け方には女は姿を消していた。

AさんはBさんから事情を聞いた。Bさんはどうしても引っ越せない訳があるらしく、あの女のことを気にしないようにしながら夜を過ごしているそうだ。

「自分が室外機だって言っているから、そういうことにしているんだよ」

Bさんは充血した目を瞬かせた。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
元祖!禍話 第十二夜 (禍話 @magabanasi放送、「自己紹介と妥協」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

2025年11月30日日曜日

禍話リライト「お礼娘」

プールの画像

Aさんという女性が体験した話。

Aさんの家の菩提寺にある墓地には曰くありげな塚があった。 塚はかなり古びており、立ち入りにくい場所にあった。意図的にそのような配置にしているように思われた。妙な場所に塚があるものだと、Aさんは少し気になっていた。

ある日、墓の敷地が足りないとお寺に相談しに行くことになった。両親とお坊さんが話し合っている間、運転手役だったAさんは暇になった。 先祖代々のお墓を磨くなどして暇をつぶしたが、まだ時間が余っていた。そこで、前から気になっていた塚に行ってみることにした。

塚は古びていたが、辛うじて石碑に彫られた字は読めた。どうやら、水難事故か水害の供養碑のようで、幼い子供が大勢亡くなったというようなことが書かれていた。 かなり昔にあった事故らしく、Aさんには聞き覚えがなかった。

これも何かの縁。子供の墓のようだからと、Aさんは偶然に持っていたお菓子をお供えした。その後、用事を済ませた両親を車に乗せて帰宅した。 Aさんは日頃から塚や事故現場などにお供えをする習慣があった。そのため、この日の一件は特別な体験というわけではなく、すぐに忘れてしまった。

一週間ほど経過した頃、Aさんは奇妙な夢を見た。

ふと気が付くと、Aさんは塚の前に立っていた。塚の裏手は生垣で囲われていた。天気は晴れているような曇っているような曖昧な空模様だった。

どうしてお寺に来ているのだろうと疑問に思っていると、塚の裏手の生垣を女の子が乗り越えてきた。幼い女の子だ。自分の背丈よりも高い生垣を悠々と乗り越えて、楽しそうに笑いながら通り過ぎていった。

訳も分からず困惑していると、再び女の子が生垣を乗り越えてきた。先程とは別の子のようだ。さらに続いて女の子が一人、また一人。続々と生垣を乗り越えてきて、ケラケラと笑いながら通り過ぎていく。その数は十人か二十人か。

ようやく全員どこかへ行ったかと思いきや、再び女の子の集団が生垣に現れた。続々と生垣を乗り越えては、笑いながら過ぎ去っていく。子供たちの第二波である。そのうちに第三波まで現れた辺りで目が覚めた。

「子供なりのお礼か何かのつもりだったのでしょう。でも、何だか疲れる夢でしたよ」

とAさんは苦笑した。

ちなみに、子供たちはスクール水着を着ていたそうだ。明治辺りの霊のはずだが、何故か現代の格好をしていた。

スク水を着た少女たちが大勢押し寄せる夢を見たというお話。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍話R 第五夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様 (FEAR飯)

2025年11月29日土曜日

禍話リライト「老夫婦」

インターフォンを押す指の画像。

Aさんという女性が中学生の頃に体験した話。

その日、Aさんは普段よりも早めの時刻に学校から帰宅していた。土曜日だったからというわけではない。理由は不明だが、そのときは自分だけ早く帰路に就いていた。友人とは一緒ではなく、一人で通学路を歩いていた。

角を曲がった出会い頭、人とぶつかりそうになった。咄嗟に謝罪して顔を上げると、そこにいたのは老婆だった。喪服を着ている。老婆はAさんに話しかけた。

「ちょっとごめんなさい。うちのお爺さんを見かけなくてね。お嬢さんのお宅に居ませんでしたか」

どうやら夫を探しているらしい。ただ、自分の家に居るか尋ねてくるのは奇妙だ。困惑しながらも、Aさんは居ないと返事をした。老婆は曖昧な笑みを浮かべた。

「そうでしたか。ごめんなさいね」

老婆は離れた所を歩いていた大学生の方に向かい、同じように質問していた。不気味な人がいるものだと思いつつ、Aさんは家路を急いだ。老婆を振り切るため、なるべく走って移動した。

帰宅してみると、普段は居る母親が不在だった。置手紙があり、町内会の用事で出かけているとのことだった。すぐには帰ってきそうもない。変な老婆に会ったために心細い思いだったが、仕方なく家族の帰りを待つことにした。

すると、外からは老婆の声が聞こえた。振り切ったつもりだったが、どうやらついてきたらしい。老婆は近所のおばさんに同じような質問をしていた。他にも通行人にも声をかけているようだった。幸いなことに、Aさんの家には来なかった。

そのうちに家族も帰ってきた。それから時間が過ぎて、夜11時頃のこと。

ピンポーン

インターフォンが鳴った。誰かがインターフォンを何度も押している。近所の人が怒鳴りつけてもおかしくないほどに音が鳴り響いた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

普通であれば、夜遅くに訪ねてきた人物に対して中学生の娘に応対させることはないだろう。しかし、両親や兄弟はインターフォンには気が付いていないらしい。誰も応対せず、相変わらずインターフォンは鳴り続ける。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

仕方なく、Aさんが玄関のドアを開けると、そこには老婆がいた。帰宅中に会った喪服の老婆だ。老婆は相変わらず困ったような笑みを浮かべていた。

「すみません。うちのお爺さん、そちらのお宅に居ませんでしたか」

Aさんは黙ってドアを閉めた。すると、再びインターフォンが鳴り始めた。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

家族は誰も出てこない。インターフォンの音に耐えかねて、電源を切れないか思案した。すると、Aさんの手を誰かが掴んだ。驚いて振り返ると、そこには老爺がいた。パジャマ姿で痩せぎすだった。老爺は絞り出したような掠れた声で言った。

「居ないって言って」

Aさんの手を掴む腕。そこには無数の痣があった。

そこから先の記憶は無い。気が付くと朝だった。

それ以来、近隣でも老夫婦が出るという噂が流れた。人探しをする老婆と、逃げ隠れする老爺。老婆に付き纏われた人の家に老爺が現れる、ということが多々あったらしい。それから長い時間が経った今となっては、老夫婦が出るという話をする人はいなくなった。

老爺は今も老婆から逃亡しているのだろうか。それとも、誰かが老爺を引き渡したから、噂が消滅したのか。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怖い話を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 霊障?①真・禍話/激闘編 霊障?② (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

2025年11月23日日曜日

『ロボットダンス』(Creepypasta私家訳、原題“The Robot Dance”)

演者たちの画像

給料を貰い過ぎている映画スターやミュージシャンのインタビューを読んだことがある。連中はいかに疲れてしまったか、いかに懸命に働いたか、いかに消耗してしまったかと嘆いており、燃え尽きて、悲惨なほどに休暇を求めていた。連中の監督者は苛烈に仕事を割り当てた。パフォーマンスは苦痛。なんて苦しい人生。俺は口角を吊り上げて思う。

「大衆酒場の作業台を試してみてはいかがかな。それとも、安っぽい終夜営業のカフェで無限に朝食を作り続けるのはどうかね」

それから、手垢のついた新聞を置いて、十時間のシフトに戻ったものだった。またクビになる前のことだ。

今となっては、俺にも彼らの言いたいことを本当に理解できる。そこには新聞もない。新聞を買ってくれるほどの人が残っていない。そうでなくても読む時間がない。バーやカフェもない。そこにあるのは娯楽だ。無限で底知れないほどの娯楽。俺は娯楽を提供する。パフォーマンスする。永遠に。

奴らによる侵略は突然で、組織的だった。労せずに順調に終わった。誰にも何が起きていたのか全く分からない。ニュースによれば、俺たちが組み立てていた小さなロボットが俺たちをやっつけたらしい。それから、宇宙の深部から発せられたメッセージに関する何かも。以来、他にニュースは流れなかった。奴らは俺たちの情報をすべて奪い取った。奴らは情報を秘匿するのがお好みだ。

誰が統制していたのだろうか。アンドロイドが足を踏み鳴らしながら街を闊歩し、レーザーライフルを撃ちまくるなんて光景は見なかった。共謀の噂は少しあった。権力者が取引を交わしたとか何とか。何もかもがあまりにも早く進んだ。停電が起き、交通手段も失った。本当のニュースは流れず、噂話だけが流れた。恐怖。人々は自宅に留まることを恐れたが、家を出た人々は二度と姿を見せなかった。

ほとんど完璧に筋の通った噂は、先進的な宇宙人の人工知能がインターネットを汚染した、というものだ。ただ、俺が知る限りでは、そんな話は根拠の無い憶測でしかない。俺たちには奴らが何者なのか、正体は何なのか分からずにいる。誰も奴らを目撃していない。大人数かもしれないし、一人かもしれない。奴らは少数の人々を生かした。全員がパフォーマー……。俺は奴らのオーディションを通過しなければならなかった。俺には演技の経験が少しあった。それは夢物語で終わった過去だ。端役だったし、ローカルな演劇だった。

奴らにとって、俺たちにある唯一の価値は芸術だ。奴らが産み出せるものは冷淡さと計算だけだ。残虐さもないが、哀れみもない。奴らは俺たちの歌や本、映画に興味がある。奴らは一瞬であらゆる映画を見て、あらゆる歌を聞き、あらゆる物語を読んでしまった。奴らは既に飽きている。奴らはさらに欲している。俺たちは生ける傑作だ。俺はそう言い聞かせる。作業台よりはマシだ、と。

仲間たちの多くはもういない。毎日毎分、俺たちは創作し続けなければならない。さもなくば死ぬだけだ。時間は果てしなく流れる。一人、また一人と心臓が止まり始めた。連中がどうやってそんなことをしているのかは分からない。もしも何かを移植されているのであれば、俺の知らないうちにやってのけたことになる。そんな手術を受けた記憶は無い。曰くありげな傷口も無い。死は瞬時に訪れる。俺たちの息の根は奴らの命令次第だ。

最も長く生きる者は、決まりをすぐに学ぶ、困難な道程で。奴らの好みに合わせようとしてはならない。革新するのだ。ジョークは当惑を招く。ただ、未だに影響力を持ち得る。奴らは立ち続けたり座り続けたりすると注意深く咎める。これはショーの一部だと無鉄砲に言い張っても、奴らは騙されない。

我らの保護者たちは優しく指示をくれる。ブンブンと唸る虫のような声で。俺たちは言葉を聞くのではなく振動を感じる。

ダンス

奴らは言う。すると、俺はいくらかムーブをこなしつつ躓いてしまう。俺はダンスフロアに上がっても見る価値のあることは全く出来なかった。それでも幾分か満足させている。多分、奴らは俺がエッジを利かせていると思ってくれるはず。多分、俺は自分にそう言い聞かせているだけだ。

ある若造が、ネオン輝く1980年代のナイトクラブからやってきたかのような、ほぼ完璧なロボットダンスを繰り出す。あれが思いつけばなと思いはした。しばらくして、若造の死体がバタリと床に倒れ伏すまでは。人の弱みに付け込んではならない。恩着せがましくしてはならない。

目を眩ませる光が俺たちの疲れ切った顔を永遠に照らし続けるが、この冷たい鉄の舞台からは暗闇しか見えない。奴らは光が無くても物が見える。奴らはこの場所にはおらず、外のどこかにいるのだろう、と想像する。多分、奴らはカメラを使っているのだろう。多分、奴らの感覚は人類の知覚を超越しているのだろう。

最も無味乾燥としたゴミでさえ、奴らは身を起こして耳を傾ける。奴らは高尚な文化よりもおどけの方が好みのようだ。これが奴ら自身の欲望を反映したのか、それとも俺たちの欲望の方なのかは分からない。ただ、いつも新鮮でなければならない。同じ題材を繰り返すのは考えられない。受け入れられない。

稀にこの日々の仕事に応えて、暗がりから耳障りなほぼ聞き取れないブンブン言う音で称賛を受けることがある。組織的な交響曲だ。一度、俺は感謝の念でお辞儀したことがある。相棒たちがはっと息を飲む危険を冒してのことだ。それは成功したに違いない。だから俺はまだ存在している。唖然としていた一人、俺がいくつかの映画で見たことがある老齢のイギリス人悲劇俳優は、いつまでも唖然としていたものだから、逝ってしまった。

俺たちは合作もできる。ある指示「転覆」を受けて、俺たちと他の三人は閃いた。軽率にも古いアダムスファミリーのテレビ番組にあった苛烈なコメディと捻くれた悪意を再現した。地下にある中世の拷問部屋へ急いで下って休暇に行く話だ。観客はこれを見て不道徳だとは思わず、巧妙さや皮肉も読み取らない。奴らは称賛したに違いない。というのも、奴らは俺たちに小道具をくれた、あの地獄の暗がりから。小道具のご褒美は珍しい。自分にこんなことができたとはまるで知らなかった。最近はこれくらいはできないとなと思う。

この件は仲間からの憎しみを招いた。俺は仲間たちの目から殺意を見出した。劇場の座席からのやかましい声援に紛れて、仲間たちの不満げに唸る声を聞いた。

時折、奴らの指示は謎めいており、時折は直球だ。幸運にも俺は即興ができた。即断しろ。残ったネタは何か。時折、俺たちは珠玉の指示を受ける。例えば、こんな風に。

成長できず、決して撃退できないもの

その手の指示はいつも誰かがヘマをやらかし、我らが一座は数を減らす。

時折、俺たちは謎の肉を与えられた。絶対に沢山はくれなかった。奴らは俺たちが痩せた体型を維持するのがお好みだ。分かることは、この肉はピンク色の偽物で、ペトリ皿の上で育っていることだけだ。

雑誌でモデルをしている姿を見たかもしれない、ある背高の少女は幾分か事を楽しんでいるようだった。少女は過度に肉体改造することに興味を持っていた。奴らは少女にナイフを与え、少女はそれに応えた。少女は当初から狂っていた。俺は少女の狂気にかなり嫉妬していた。しまいには、少女は瞼も唇もナイフを握る指も切り落とした。だから、少女は自分の頭を床に強く打ち付けた。かつての容貌がもはや分からなくなるまで。今まで以上に大きな歓喜する唸り声が聞こえた。

「私を見て! お前の見るものが私の望み!」

少女は絶叫した。そして狂喜とともに観客席へ身を投じた。このアイディアが一度や二度、俺たち全員の脳裏を過ぎったことは間違いない。全くの好奇心からか、休息できるという微かな希望からか。その答えは沈黙。嗅ぎなれた焼ける肉の臭い。

次の指示が来る。

砂漠に水はあるか

俺は動きが止まる。心は空っぽだ。もしかしたら、消えてなくなってしまったのかもしれない。


謎の侵略者により、人々は永遠のパフォーマーになった。これはある演者の物語。

Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”や“PotM”に選出されています。

作品情報
原作
The Robot Dance (Creepypasta Wiki、oldid=1508551)
原著者
Hack Shuck
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2025年11月19日水曜日

『飴の袋』(Creepypasta私家訳、原題“A Bag of Candy”)

建物の写真

劇場がある建物。

小さい頃、私はいつも劇やミュージカル、広く言うと芸術というものに魅了されていた。幼い頃から演劇の才能があった私は、有名人になるよりも、人々を楽しませることを望んでいた。演じたいだけでなく、一切合切あらゆるものの仕組みを知りたかった。役者が自分の台詞を覚えるのと同じくらいに、照明も重要だったし、キューも重要だった。そして、楽しい観劇のための適切な環境を形成するもの全体が、いつしか私が学びたいことに加わった。

私が通う大学にある舞台は古いもので、正直に言えば、いつ作られたものかははっきりとは知らない。大学の「シリング講堂」と呼ばれる場所の中にある。1953年に改築されたという話を覚えている。かなり古い様式だったが、生のパフォーマンスをする意図で設けられている。何列もの座席があり、上方には立ち見のための大きなバルコニーがある。満員になっているのを一度も見たことはないが、次に演じる時はそうなっていてほしいと願っている。

この場所はオバケが出るという噂が様々ある。ただ、もちろん、オバケが出る証拠には全くお目にかかったことがない。私はこの目で見るまでは信じない質だ。前に、バルコニーに上がった人たちが、「幽霊」へのお供えとして飴をいくつか手摺の上に置いていったのを見たことがある。清掃員が回収して捨てるだけだろうというのが率直な感想だ。そんなのは時間の無駄でしかないと思う。

そう言えば、この「幽霊」は茶髪の少女であると言われていた。七歳くらいというのがほとんどの人の見立てだ。髪は短めのボブ。白いドレスを着ており、ピンクのタイを結んでいる。単に「手摺の少女」と呼ばれている。バルコニーの手摺の近くに現れたからだ。私もかつてはこの少女の存在を信じていなかった。しかし、いくつかの出来事を経験して、完全に心変わりしたのであった。

ある日、私は友達と昼食を食べながらおしゃべりしていた。彼はかなり迷信深い人で、超常的な存在を信じていた。彼はその少女がバルコニーの辺りに現れる理由について、ベラベラと捲し立てていた。少女は強姦か殺人の被害者であり壁の中に埋め込まれたとか、少女はバルコニーから落ちて死んだのだろうとか、そんな話だ。私は目を剥いた。幽霊なんて絶対に実在するわけがないと思っていた。だから、彼にはただこう言っただけだった。

「ライアン、黙ってサンドイッチ食べてな」

すると、彼ははにかんだ笑みを浮かべた。ライアンは私が自分の話を信じていないことを分かっていたが、それでもいつも突飛な考えを携えて私の元に来るのだった。

時間が経つにつれて、私は講堂で作業をするようになった。備品の掃除や舞台の確認をする作業だ。私は女優の役割の方が好きだったから、劇で良い役をとれないときや、新人に手助けが必要になる場合に備えて、諸々がどのように機能するか知りたかった。そのときは、私は舞台に箒をかけていた。酷く散らかっていたわけではないのだが、次の公演のために綺麗にしておきかった。すると、足音を聞いた気がした。怖い話でありがちな「重々しい足音」ではなかったことを記しておく。子供が走っているように聞こえた。少し立ち止まると、何も聞こえなかった。音がどこから来たのかも聞き分けられなかった。だから、ライアンがテープ・プレイヤーをカーテンの裏に仕掛けて、私がこういうものの存在を信じる証拠を拵えようとしたのだろうと推測した。もう音は聞こえなかったが、私はまだカーテンの裏や、大抵の人は音の出所として一瞥もしないような場所も確認した。何も見つからなかった。

私は例の劇場の中を一人で数回、掃除をしたり、邪魔になるものがないか調べたりして過ごした。ほとんどの夜はありふれた時間だった。何も起こらず、「手摺の少女」のことはすっかり忘れてしまった。しかし、あるとき、携帯電話を無くしたことに気が付いた。少し苛立ち、携帯電話を探し始めた。どこに携帯電話を置いていったかは見当がついていたが、確認してもそこには無かった。ようやく見つかったのは、メッセージを受信した携帯電話が光って振動し始めたときだった。携帯電話は講堂の観客席にある椅子の肘掛の上に置かれていた。こんな場所に携帯電話を置いたはずはなかった。奇妙な出来事はこれで終わらなかった。

ある夜、リハーサルの後に更衣室から自分の物を運び出そうとしていたとき、咽び泣く声が聞こえた。歩く途中で凍り付き、声の出所を探そうとひたすら辺りを見回した。私は怒りに駆られ、声の原因である何者かに向かって叫んだ。

「やめてよ。こんな冗談は面白くない」

認めよう、私は少し怖がっていた。咽び泣く声は止まったが、見られているような感覚がしてまだゾッとしていた。

その後、私はライアンと一緒にステージの上で作業をしていた。別の劇のリハーサルの準備中だった。ライアンは手摺に飴を数個お供えした。私は心の中で笑った。儀式の贄か何かのように見えたからだ。準備を続けていると、霧を出す装置が独りでに動き始めた。ライアンは目を見開いて、装置の方に走っていって電源を切ろうとした。装置の電源は入っていなかった。しかも、コンセントに繋がってすらいなかった。ライアンは3個では足りなかったのかもしれないと考え、小走りで走っていき、飴の袋の半分をお供えした。言うまでもなく、私ももう笑っていなかった。

数日後、私はステージに上り、他の人と一緒に劇の練習をした。ライアンは大抵は脇役や小道具作りを担当しており、彼はその分野で創造性を発揮していた。ライアンは我らが主役に話しかけた。

「なあ、カレン。『手摺の少女』に飴をお供えしたかい」

私は何も言わなかった。口には出さなかったが、「手摺の少女」が実在するかもしれないと思っていた。ただ、ライアンにそんなお墨付きを与えるつもりはなかった。カレンは嘲り、ただ小馬鹿にするように笑った。

「馬鹿げたオバケに飴をやれって。そんなのいるわけないでしょ」

私は沈黙を続けた。私が数か月前に来た道だ。リハーサルはほぼ計画通りに進んだ。カレンが主役に選ばれた理由は分からなかった。ただ、(酷い言い方だが) 猥褻な手管で先生に主役の座を強要したのだろうと思っていた。カレンは誰とでも寝ると噂されていた。カレンの感情の籠っていない演技を気にしないようにしつつ、私はどうにか演技を続けた。リハーサルが終わり、カレンが舞台から降りようとしたとき、私は恐怖の叫び声を上げそうになった。二つの青白い手が段差から伸びてきていた。青白い指がカレンの足首に巻き付いた。カレンが気付いたときには、もう遅かった。

小さな指が足首を固く掴み、カレンは指を振りほどこうとして躓いた。カレンは声を上げる間もなく足をすくわれた。私が出来たことは、後ろで立ち竦み、見守ることだけだった。カレンが転倒したとき、小さな青白い手が木製の段差の中に引っ込んでいき、痕跡も残さずに消えたのが見えた。カレンの頭が固い床にぶつかったとき、悍ましい大きな衝撃音を聞いた。怖かった。私はカレンのことが好きでは無かったが、怪我をしてほしいとは思っていなかった。ましてや、死んでほしいとは。幸運なことに、血だまりは見えなかった。ただ、手の着地の仕方から、カレンは自分を支えようとしたことは分かった。医者志望の学生が診察した。ただ趣味で医者のように振舞っているだけの男だったが、彼はカレンはただ気絶しているだけだと認めた。数分後、カレンの意識が戻り、誰かが自分を転ばせようとしたと捲し立てた。私は間違いなくくすくす笑う小さな声を聞いた。ただ、おそらく、ただの空想だろう……。

カレンは負傷して以来、劇場に再び向かうつもりはないと言った。そのため、私が代役になった。とても嬉しかった。幽霊のことはそこまで不安に思っていなかったが、そのせいで幾分か神経質になっていた。私はまだ誰かが自分を見ているという奇妙な感覚を覚えつつ練習した。いくらか考えが脳裏を過ぎった。飴を持ってきた方がいいのだろうか、というような考えだ。私はそんな思いが練習の邪魔にならないようにした。台詞はほとんど暗記しており、いくらかアドリブができて悪くない成果を出せた。すると、少女が劇場の裏口のドアから頭を覗かせ、辺りを見回すと、すぐに逃げ出した。その少女は私が聞いた特徴通りの格好だったが、私は演技を続けた。劇場を立ち去る前に、鞄を探って小さな飴の袋を手摺の上にお供えした。演劇の日は同じことをすると、何もかも円滑に上手くいった。

数週間後、私はバルコニーの制御室で作業をしていた。照明や色々なものが散らばっており、上手く動作するのだろうかとただ考えていた。同じ寮の子たちはこの時間には大声を出したり、酒を飲んだりするから気に障ったというだけの理由で、その場所では読書や勉強もしていた。友人数人に私がこの場所にいると伝えていたから、ドアのノックを聞いたときにも、ノックの主を察した。何か用事があるのだろうと考えた。ドアを開けると、最初は何も見えなかった。視線を下ろすと少女がいた。茶色の髪を短くした少女が私を凝視していた。何かを期待しているかのようだった。

「何か御用」

少女は私をじっと見て、白いドレスに包んだ体を前後に揺り動かした。少女は単純な返事をした。

「いいえ」

少女は私の目の前で消えた。私は怯えた。それ以来、私は一人ではこの場所に来ないようになった。

私は今も何日かその劇場に行き、時折役を演じる。しかし、どんなときも「手摺の少女」のことを忘れず、絶対に飴の袋をお供えする。もはや幽霊のことを信じていないとは言えない。けれども、あの子は大学で過ごす時間をかなり面白くしてくれたことは間違いない。


大学の劇場で起きた楽しい幽霊譚。地元で起きた出来事を元にしたそうです。

作品情報
原作
A Bag of Candy (Creepypasta Wiki、oldid=1515045)
原著者
Shinigami.Eyes
翻訳
閉途 (Tojito)
ライセンス
CC BY-SA 4.0

2025年11月18日火曜日

禍話リライト「耳なし芳一」

バスの画像

Aさんという女性が体験した話。当時、Aさんはバス会社に勤務しており、バスガイドの仕事をしていた。

そのバス会社では、バスガイドが「耳なし芳一」の話を語る機会が多かった。バスツアーで平家に縁のある土地を通るときに、子供向けに「耳なし芳一」の話をするのである。普通に語ってもさほど怖い場面が無く、語りには様々な工夫が必要だった。Aさんは新人で、上手くコツを掴めずにいた。

バス会社にはBさんという先輩がいた。Bさんは真面目でストイックな性格であり、後輩の面倒見も良かった。BさんはAさんが悩んでいる様子を見兼ねて、テープレコーダーで自分の語りを録り、Aさんにテープを渡した。翌日は休みだったため、Aさんは語りの練習をすることにした。

Aさんは一人暮らしだった。テープを聞きながら練習を重ねているうちに時間が過ぎていった。事が起こったのは、草木も眠る丑三つ時の頃。

Aさんは「耳なし芳一」の後半部の、平家の亡霊が芳一を探す場面を練習していた。テープからはBさんの声が流れていた。

亡者が芳一の名を何度も叫ぶ。それから、少し間を開けて、恐ろしげな声で芳一の名を呼ぶ。

「芳一、芳一……芳一!」

Aさんは最後のタメが重要なのかと得心した。感覚を掴むため、その部分を繰り返し再生した。

「芳一、芳一……芳一!」

「芳一、芳一……芳一!」

何度もテープを聞いているうちに、Aさんは違和感を覚えた。最後の「芳一!」と叫ぶところで、スピーカー以外からも声が聞こえる気がする。声が重なって聞こえる。

「芳一、芳一……芳一ィ!」

「芳一、芳一……芳一ッ!

Aさんは徐々に気味が悪くなってきた。夜も遅いことに気付き、練習を切り上げて床に就くことにした。

翌日のこと。Aさんが朝の支度をしていると、バス会社から電話があった。

Bさんが自殺した、という連絡だった。

AさんはBさんが自殺する理由が思い当たらなかった。通夜に出席し、遺族から話を聞いてみると、Bさんの真面目な性格が災いしたらしいことが分かった。

Bさんの部屋からは日記が見つかった。几帳面なBさんは日記を毎日綴っていた。その日の失敗と反省を毎日書いていた。客観的に見れば、失敗というほどでもないことまで、Bさんは自分の責任としていた。そんな習慣を続けて自分を追い込み、ついには発作的に死を選んでしまったのだろう。

Bさんが亡くなったのは、ちょうどAさんが奇妙な体験をしていた頃のことだった。Aさんは虫の知らせというものかもしれないと思った。

Bさんの遺族の一人に話好きの人がいた。その人物はAさんにBさんの死の状況を事細かに教えてくれた。

Bさんは風呂場で左手首を切って死んだらしい。ただ、異常があったのは左手だけではなかった。右腕の手首から肘のところまでを、黒のサインペンでのたくった文字が書かれていた。文字はびっしりと書き殴られており、まるでお経のようだった。

Aさんは恐ろしくなり、通夜から帰った後にテープを捨ててしまったそうだ。バス会社も「耳なし芳一」を語るのを止めてしまったという。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

かぁなっきさんが学校の先生から聞いた話だそうです。

作品情報
出自
真・禍話/激闘編 第3夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

禍話リライト「解説こっくりさん」

教室の中、着物を着た少女の画像。目が隠れている。

Aさんという女性の体験談。

その日、Aさんは小学校の同級生だったBさん、Cさんと一緒に買い物を楽しんだ。その夜にお洒落なレストランで食事をしていたときのことである。

小学生時代の思い出話に話題が移り、当時流行っていた「こっくりさん」の思い出話になった。 今思えばほとんどは言葉になっていなかったが、たまに意味が通る言葉になって怖かった、というような話になった。 Aさんはふとあることを思い出した。

「そういえば、こっくりさんをやっていると、女の子が来て、解説みたいなことをやっていたよね。これはこんな意味があるとか、そんなことを言っていてさ。あの子って誰だったの? 隣のクラスの子だと思うんだけど、BちゃんかCちゃんの友達?」

すると、Bさんが不審そうな面持ちで言った。

「そんな子いたかな。いなかったと思うけど」

CさんもBさんに同意した。しかし、Aさんには間違いなく解説役の子の記憶があった。

確か、こっくりさんを始めた最初の頃にはいなかった。いつの間にかこっくりさんのときはいつも同席するようになっていたはずだ。 夕暮れの教室に、いつもその子がどこからともなく現れて、何か妙なことを言っていた。毎回、こっくりさんを始めるときに「今から私が███を務めます」と宣言していた。 一体、何を務めると言っていたか……。

「確か同年代の子だったよ。あの子、Bちゃんの友達じゃないの?」

「違うよ。絶対にそんな子はいなかった」

「そうそう。怖いこと言うのやめてよね」

結局、BさんとCさんは解説役の子はいなかったと言って譲らなかった。しかし、Aさんは話を続けるうちに記憶が徐々に蘇っていった。記憶の中で、解説役の子が実在していたことは確固たる事実になっていった。

食事を終えてBさん、Cさんと別れた後の道すがら、Aさんは解説役の子がこっくりさんを始める前に宣言していた言葉を思い出した。

「今から私が審神者 (さにわ) を務めます」

さにわ。Aさんにとってはあまり聞きなれない言葉だった。意味を調べてみると、背筋に寒気が走った。

審神者。神様のお告げを聞き、神託を解釈する役職。

解説役の子は一体、何のつもりで審神者を務めると発言したのか。Aさんはこれ以上は記憶を遡らない方が良いと判断し、こっくりさんのことは考えないようにして家路を急いだ。

帰宅すると、Cさんから電話がかかってきた。

「もしもし」

「Cちゃん? 今日は楽しかったね」

「楽しかったじゃないよ」

Cさんはどういうわけか怒っていた。身に覚えがなく、Aさんは困惑した。

「ごめん。私、何か変なことでも言った?」

「Bちゃんが覚えていないのは、そういうことだからさ」

「え?」

「だから、Bちゃんが覚えていないのは、そういうことなんだよ。思い出したら良くないことが起こるでしょ。もうBちゃんの前であの話はしないでね」

Cさんは一方的に捲し立てると、そのまま電話を切った。

それ以来、AさんはBさん、Cさんと個別で会うことを避けるようになった。同窓会などで大勢で会うときは気にしないようにしているが、三人で集まることはなくなった。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
禍ちゃんねる 平成最後の怖い話スペシャル (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
加藤よしき様

禍話リライト「舐婆」

病院内部の画像

Aさんが幼稚園に通っていた頃の話。Aさんには弟にまつわる嫌な思い出がある。

弟が生まれ、Aさんは病院の産婦人科で弟と対面することになった。初めて会った弟はとても愛らしかったことを覚えているという。

ふと気が付くと、Aさんと乳児用のベッドで眠る赤ん坊たち以外は誰もいない時間があった。乳児が眠る部屋で、大人が誰もいないことは普通はあり得ない。看護師か誰かが一人はついているだろう。子供ながらにどこか居心地が悪かったことをAさんは記憶している。

そんな折、看護師用の出入り口から誰かが出てきた。それは誰とも知れない老婆だった。老婆は背がかなり曲がっていた。格好からして間違いなく看護師ではない。自分のように、新しい家族に会いに来た人なのだろうかと思っていると、老婆はAさんの弟の元に真っ直ぐに向かっていった。そして、屈み込んで、弟の顔を舐め始めた。

老婆は一心不乱に弟の頬を舐め回している。幼いAさんはただ茫然と眺めることしかできなかった。弟の頬から唾液の糸が伸びるのを見て、Aさんはやっと我に返った。Aさんは咄嗟にナースステーションへ駆け込んだ。顔馴染みの看護師を呼んで、状況を説明した。

それからは大騒ぎになった。Aさんの弟の顔には、何者かの唾液が付着していた。本来、一人はついていなければならない看護師が、何故か全員に別の仕事が入っていた。 監視カメラで不審人物がいないか確認したが、怪しい人物は誰も映っていなかった。唾液という物的証拠があるため、何者かが狼藉を働いたのは間違いないのだが、誰の仕業だったのかは全く分からなかった。

その後は奇妙な出来事は起こらなかった。弟はすくすくと成長し、二十数年の月日が流れた。弟は独身だが、恋人を作る気配もない。弟にはある思い出があり、誰かと付き合う気になれないのだという。

その思い出は朧気ながら、幼いときのことらしい。眠っていて、ふと目が覚めると、どこからかお姉さんが現れた。お姉さんは美しい人で、自分にキスをしてくれた。弟はそのお姉さんの顔が忘れられないのだそうだ。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 十六夜 佐藤復活祭 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様
聞き手
佐藤実様

禍話リライト「保健室での譫言」

竹林を背景に、靴を履いた足の画像

Aさんという女性が中学生の頃に体験した話。

Aさんのクラスには、Bくんという人気者の男の子がいた。Bくんは運動が得意で、スポーツ推薦で進学先が決まっていた。

ある日、Bくんはドッキリを仕掛けることになった。奥手の女の子に愛の告白をするというものだ。運悪く標的に選ばれたのはAさんだった。Aさんに過失があったわけではない。その場の勢いで決まってしまったらしい。

その日は金曜日だった。Aさんは恋愛には疎く、Bくんからの嘘の告白を聞いて舞い上がってしまった。Bくんに明日に返事を聞かせてほしいと伝えられ、浮かれた気分のまま帰宅した。ドキドキしてあまり眠れないまま夜を過ごし、翌日の土曜日。授業を終えた後、Bくんに告白の返事をした。その瞬間、隠れていたBくんの友人たちが飛び出して、ネタばらしを始めた。AさんはBくんたちと一緒になって笑おうとしたが、上手く笑えなかった。それどころか、涙が溢れてきた。泣き笑いの表情のまま、Aさんは教室を飛び出した。

その日は雨が降っていた。Aさんは学校を出て、傘も差さずに帰り道を走った。そのうちに足が止まり、ついにはしゃがみ込んでしまった。涙と雨でずぶ濡れになっているところを、Aさんの友人たちが駆け寄ってきた。友人たちは事情を知って憤慨し、どこかへ走り去ったAさんを探していたのである。友人たちはAさんを慰めながら家まで送り届けてくれた。

休みが明けて月曜日、Aさんは重い体を引きずるようにして登校した。びしょ濡れになったせいで、風邪を引いてしまったのである。 担任の先生は明らかに体調が悪そうなAさんを心配し、保健室で熱を下げてから帰宅するように指示を出した。保健委員の生徒がAさんを保健室まで送り届けた。

保健室には養護教諭の先生がいた。先生はAさんに解熱剤を飲ませ、ベッドに寝かせた。先生はカウンセリングも担当していたためか、ドッキリがあってAさんが酷く傷ついたことも把握していた。Aさんは高熱に苛まれながら、ベッドの上で譫言を言った。

「先生、キティちゃんって本当につらいですよね」

「先生、ドラえもんっていつも宙に浮いていて大変ですよね」

訳の分からないことを言ったが、先生は「そうね、そうね」と優しく返事をした。 Aさんが譫言を言い、先生は優しく返答する。そんなことを繰り返しているうちに、Aさんは自分が何を言っているのか分からなくなってしまった。何を言っても先生が頷いてくれたことしか覚えていなかった。 ひたすらに先生に話しかけて、先生はただただ肯定する。そんな時間が続いた。

あるとき、不意に廊下が騒がしくなった。先生も「ちょっとごめんね」と断ってから保健室を出ていった。Aさんはその後も無人の保健室の中で譫言を呟いていたが、そのうちに眠ってしまった。

しばらくして目を覚ました。保健室の中にはまだ先生はいなかった。微熱は残っていたものの、体調がある程度は回復したため、家に帰ることにした。帰宅の準備を進めていると、保健の先生が帰ってきた。先生はAさんに体調はどうか聞いてきたが、慌しげで心ここにあらずといった様子だった。Aさんはまだぼんやりとしていたため、先生の様子を気に留めなかった。Aさんは熱が下がったため帰ると伝え、保健室を出た。学校の中は騒然としていたが、Aさんは夢か現かも分からないような心地で学校を後にした。

帰宅後、Aさんはもう一度ひと眠りし、夜には平熱になっていた。これで明日も学校に行けると思っていると、Aさんの友人から電話がかかってきた。友人に体調が完全に回復したことを伝えると、友人はあまり聞きたくない名前を口にした。

「知ってる? Bくん、大変なことになっていたんだよ」

聞いてみると、体育の授業で大事件が起きていたことが分かった。体育の授業は学校の周りを走るというもので、Bくんは友人たちと一緒に走っていた。ふざけながら走っていたものだから、Bくんは何かの弾みで転んでしまった。転んだ先は竹林で、切断されて先が尖った竹があった。不運なことに、Bくんは竹で脚を切ってしまい、重傷を負った。動脈は避けていたため、大量に出血したものの、命に関わる怪我にはならなかった。ただ、その怪我が原因で激しい運動ができなくなり、スポーツ推薦は取り消されてしまった。

Aさんは事件を知り、さすがにBくんを哀れに思った。ただ、わざわざ慰めの言葉をかける気にはならなかった。

それから時が経ち、Aさんが大学生になった頃のこと。Aさんは街中で偶然に保健の先生に出会った。久方ぶりの出会いを喜び、二人は喫茶店に入った。話題は自然とBくんの怪我の話に移った。

「あのときはびっくりしたね」

「そうですね」

Aさんもドッキリの件は流石にもう気にしていなかった。今となっては単なる思い出である。

「あのときは怖かったよ」

「えっと、竹が危険、って話ですかね」

保健の先生は声を潜めた。

「もう、ずっと誰にも話さなかったから、言ってもいいと思うのだけどね……」

Aさんが保健室のベッドの上で譫言を言っていたときのことだ。Aさんは取り留めもない話を延々と続けて、先生は肯定的な返事を繰り返した。ただ、あるときを境に、Aさんは竹の話ばかりし始めた。

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

「先生、竹って尖っている部分があるから危ないですよね」

……

保健の先生は話を続けた。

「なんでこんなに竹に拘っているんだろうと思っていたら、あの事件が起きてね。先生、怖かったよ。でも、誰にも言っちゃいけないと思って、今まで話さなかったんだ」

Aさんも心底恐ろしく思った。同時に、誰にも話さないでいてくれた先生に感謝した。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送、「嘘告白」より)
語り手
かぁなっき様
聞き手
吉野武様

2025年11月15日土曜日

禍話リライト「棒の手紙」

山積みの手紙の画像

「不幸の手紙」というものがある。いわゆるチェーンメールの一種だ。送り主が書かれていない手紙が届いて、文面を見ると「この手紙と同じ内容の手紙を1週間以内に10人に出してください。そうしないと不幸になります」と書かれている。この内容を信じた人が手紙を書き写してポストに投函し、それを受け取った人が同じように書き写す。そんなことを繰り返していくうちに、徐々に手紙が広がっていく。もちろん、大抵の場合は単なる悪戯であり、手紙を無視しても何も起こらない。

「不幸の手紙」と関係する話で「棒の手紙」というものがある。字が下手な人が手書きで「不幸の手紙」を書き写すと、「不幸」が横に潰れて「棒」のように読めてしまう。その手紙を受け取った人が、「不幸」を「棒」と読み間違えて、「棒の手紙」を書き写して知り合いに送ってしまう。こうして、「この手紙を信じなかったせいで、これまで325人が棒になりました」という文面の奇怪なチェーンメールが誕生する。尤もこれは単なる笑い話であり、冗談に過ぎない。ただ、Aさんにとっては冗談では終わらなかった。

Aさんも子供の頃に、「棒の手紙」を受け取ったことがある。下校のときに下駄箱に「棒の手紙」が入っていた。字の癖から推察するに、クラスメートの女子が書いたものらしいと分かった。Aさんは迷信は信じない質で、鼻で笑って「棒の手紙」を破り捨てた。

帰宅後、Aさんは母親の手伝いで、ベランダに干していた洗濯物を取り込んでいた。すると、家の外から友人の声が聞こえてきた。 どうやら、友人が遊びに来たらしい。Aさんは腕を振って友人の呼び声に応えた。すると、友人は叫び声を上げて逃げ出してしまった。

どうして友人は逃げたのか。自分が何か変なことでもしたのか。Aさんには全く身に覚えが無かった。翌日、Aさんは登校した際に友人に話を聞いてみることにした。

Aさんが教室に入ると、友人はバツが悪そうな顔でAさんを見た。怯えているようにも見えた。声をかけてみると、友人はおずおずと口を開いた。

「昨日、お前んちに遊びに行ったんだけどさ」

「知っているよ。俺、ベランダで腕を振っていただろ」

「あれはお前だったのか」

友人は逡巡した後、話を始めた。

「お前んちのベランダに、長い棒みたいなのが立っていたんだ」

あのとき、友人がベランダに見たものは、Aさんの姿ではなく、長い棒だった。棒には瘦せ細った枝が手足のように生えていた。棒は枝の一本を振り上げて、左右に大きく揺らした。まるで手を振っているかのように見えて、友人は恐ろしくなって逃げ出した。

その日、Aさんは棒になっていたのである。


本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という配信で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。

作品情報
出自
震!禍話 第九夜 (禍話 @magabanasi放送)
語り手
かぁなっき様