以前に弊ブログで取り上げたことがある『レキヨミ』が完結。中篇漫画『めんや』も発刊された。これを機に、今までの柴田康平作品を振り返ろうと思う。まだ単行本化されていない雑誌掲載作品もあるらしいが。
レキヨミ
第1巻は2019年6月14日発行。第3巻で打ち切り。
主人公はレキとヨミの2人。2人暮らしの姉妹であり、妹のヨミが薬を作って生計を立てている。姉のレキはちゃらんぽらんで、ヨミを溺愛している。レキの奇行に対して、ヨミが鉄拳制裁を加えるというのが基本的な流れだ。主要なキャラクターは (雄の狼を除けば) 全員女性であるため、男性キャラクターが苦手な人でも安心して読める内容になっている。
内容はファンタジー世界を舞台とした百合といった具合。この漫画の最大の特徴は体液の多さ。凝った可愛らしい造形のキャラクターを、唾液や涙、胃液、血液などでコーティングするのだ。このような作風から、同じ漫画誌に掲載されている『ハクメイとミコチ』と比較され、一部では「汚いハクミコ」と呼ばれた。ベトベトとした同性愛が好きな方におすすめである。
聞くところによれば、柴田先生が東方Projectの二次創作を作っていた時代では、レキヨミに近い作風で知られていたらしい。
んねこん
2020年1月15日発行の短篇集。ほとんどのキャラクターは女性であり、数少ない男性キャラクターは汚れ役。それ以外は亀やロボットなど。以下、収録作を紹介。
- 煙、煙
- 掲載誌であるハルタの表紙と、それにまつわる掌編。タバコが主題となっている。思えば、『レキヨミ』もタバコの描写が多かった。
- んねこん
- んねこん2020
- 表題作。「んねこん2020」は書き下ろしの続篇。表紙右の少女が主人公。人間と猫が知恵比べで勝負する。
単行本の各所で主人公の描き下ろし(?)イラストが追加されている。本誌掲載時にこの話を気に入った方ならば、読んで損はないかもしれない。 - 遅れて魔女っ娘
- 出自が「未発表」という異色作。ハルタ掲載作品でもなければ、描き下ろしでもない。
魔法少女もののパロディ。もはや少女とはいえない年齢となった主人公の前に、魔法小動物が現れて勧誘してくるが、主人公に疎まれて暴力をふるわれる。
収録作の中では最も『レキヨミ』に近い。個人的にはかなりの高評価。暴力と恥辱の描写がすばらしい。この短篇1つのための単行本1冊を買うだけの価値がある。 - 胸を借りる
- 初出は『スレンダーフェローズ』。
スレンダーな少女の目の前にあるのは、道路に落ちた豊満な巨乳。少女はさっそく巨乳を拾い、スレンダーを卒業するが……。意味不明に始まり、意味不明に終わる、不条理下ネタ漫画。 - いしをみる。
- 宝石を主題とした漫画。主人公は本物の宝石を求めて、安物ばかり掴まされる。
- どぼん
- 少女が潜水するため「どぼん」という題名。『レキヨミ』第2巻の表紙には、「どぼん」の主人公の格好をしたヨミが描かれている。
- くちなし
- 機械が発達した文明を舞台とした作品。主人公はロボット修理屋の女性。主人公所有のロボットが勝手に家を出ていき、頭だけになって戻ってくるという行動を繰り返しており、主人公はそれに悩まされていた。ロボットは口がなく喋らないため、奇行の意図が分からない。圧迫する不安とその解消がこの作品の筋書きとなっている。
ちなみに題名はダブルミーニング。 - たまころがし
- 『よんこまフェローズ』が初出の4コマ漫画。獣耳の少女と大きな陸亀 (擬人化した亀ではなく普通の陸亀) との旅を描く。下ネタや暴力は無いものの、キャラクターの造形や、主人公の奇行を軸に物語が進むところなど、『レキヨミ』に似た要素がある。
ところで、『レキヨミ』や『めんや』にも亀が登場するが、柴田先生は亀が好きなのだろうか。 - 夢を犯せ旅人
- 2015年の週刊少年チャンピオンが初出。収録作の中では最も古いかもしれない。数少ない男性キャラクターが登場する作品だが、前述の通り憎い敵役として登場する。
『不思議の国のアリス』をモチーフとした作品。主人公は現実では根暗で無力な少女に過ぎないが、睡眠時には他人の夢の中に入ることができる。気に食わない人の夢の中に入り込み、その精神を破壊することで鬱憤を晴らすのが趣味だ。本作は主人公が夢の中で繰り広げる自由で放埓な暴力を描く。
収録作の中で最も荒削りな印象を受けた。
めんや
2020年9月15日発行。『レキヨミ』以前に連載された中篇漫画。ただし、『レキヨミ』後に描かれたエピソードも2篇 (うち1篇は描き下ろし) 収録されている。
『レキヨミ』はファンタジー世界を舞台とした下ネタ漫画だったが、『めんや』は純粋なファンタジー作品としての側面が強い。主人公の親に近い立ち位置だが、男性と思しきキャラクターも登場する。
『めんや』は「麺屋」ではなく「面屋」。主人公は仮面やお面の類を作る職人の弟子であり、お転婆で向こう見ずな性格の持ち主。
最初のエピソードは面を駆使して冒険する主人公の姿が描かれる。面にはそれぞれ特殊な力がこもっており、身につけると妖精の姿が見えるようになる面や、力が強くなる面などがある。口をきかない生き物の声が聞こえるようになる面もあるが、こちらは特殊なギミックで表現されていて面白い。
第2話から第4話は面の製作工程と、主人公の面職人としての成長が描かれる。第1話とは物語の方向性が大きく異なっている。第1話で重視された面の特別な力の描写は抑え気味になった。むしろ、主人公の成長を描写する媒体として機能しているように思える。また、第1話では主人公の表情が面で隠され、感情が行動で間接的に表現されていた。一方で、第2話以降は喜怒哀楽がはっきりと描写される傾向にある。面そのものよりも、主人公の行動に焦点を当てるようになったためだろう。成長譚としてはもちろん、ドタバタ劇としても完成度が高い。
『レキヨミ』後に描かれた第5話は、一転して面の力が話の軸となる。主人公の感情は、第2話から第4話では喜怒哀楽が大きく変調していたが、第5話では終始得意気だ。面の力を駆使して鮮やかに問題を解決していく。スラップスティックとしての側面が強い。筋書きが「夢を犯せ旅人」に近いところがあると思った。
様々な点でアクが強かった『レキヨミ』と比べると、『めんや』の方が受け容れやすい内容だったと思う。ただ、『レキヨミ』の毒々しさも楽しかった。もっとも、今となっては……。
現在
2020年9月現在の柴田先生の現況は下記の通り。
【うれしいお知らせ】
— ハルタ (@hartamanga) August 18, 2020
『レキヨミ』の連載を終え、『めんや』のコミックス制作もひと段落。柴田康平さんは、ただいま次回作に向け準備中です。
そこで、新連載までの期間限定で、柴田さんが日々のラクガキを直接投稿するサイトがオープンしました。ぜひ、チェックして下さい!https://t.co/vGCY9gpjnE
次回作をお楽しみに。
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