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2020年9月21日月曜日
柴田康平作品を振り返る【レキヨミ】【んねこん】【めんや】
以前に弊ブログで取り上げたことがある『レキヨミ』が完結。中篇漫画『めんや』も発刊された。これを機に、今までの柴田康平作品を振り返ろうと思う。まだ単行本化されていない雑誌掲載作品もあるらしいが。
レキヨミ

第1巻は2019年6月14日発行。第3巻で打ち切り。
主人公はレキとヨミの2人。2人暮らしの姉妹であり、妹のヨミが薬を作って生計を立てている。姉のレキはちゃらんぽらんで、ヨミを溺愛している。レキの奇行に対して、ヨミが鉄拳制裁を加えるというのが基本的な流れだ。主要なキャラクターは (雄の狼を除けば) 全員女性であるため、男性キャラクターが苦手な人でも安心して読める内容になっている。
内容はファンタジー世界を舞台とした百合といった具合。この漫画の最大の特徴は体液の多さ。凝った可愛らしい造形のキャラクターを、唾液や涙、胃液、血液などでコーティングするのだ。このような作風から、同じ漫画誌に掲載されている『ハクメイとミコチ』と比較され、一部では「汚いハクミコ」と呼ばれた。ベトベトとした同性愛が好きな方におすすめである。
聞くところによれば、柴田先生が東方Projectの二次創作を作っていた時代では、レキヨミに近い作風で知られていたらしい。
んねこん

2020年1月15日発行の短篇集。ほとんどのキャラクターは女性であり、数少ない男性キャラクターは汚れ役。それ以外は亀やロボットなど。以下、収録作を紹介。
- 煙、煙
- 掲載誌であるハルタの表紙と、それにまつわる掌編。タバコが主題となっている。思えば、『レキヨミ』もタバコの描写が多かった。
- んねこん
- んねこん2020
- 表題作。「んねこん2020」は書き下ろしの続篇。表紙右の少女が主人公。人間と猫が知恵比べで勝負する。
単行本の各所で主人公の描き下ろし(?)イラストが追加されている。本誌掲載時にこの話を気に入った方ならば、読んで損はないかもしれない。 - 遅れて魔女っ娘
- 出自が「未発表」という異色作。ハルタ掲載作品でもなければ、描き下ろしでもない。
魔法少女もののパロディ。もはや少女とはいえない年齢となった主人公の前に、魔法小動物が現れて勧誘してくるが、主人公に疎まれて暴力をふるわれる。
収録作の中では最も『レキヨミ』に近い。個人的にはかなりの高評価。暴力と恥辱の描写がすばらしい。この短篇1つのための単行本1冊を買うだけの価値がある。 - 胸を借りる
- 初出は『スレンダーフェローズ』。
スレンダーな少女の目の前にあるのは、道路に落ちた豊満な巨乳。少女はさっそく巨乳を拾い、スレンダーを卒業するが……。意味不明に始まり、意味不明に終わる、不条理下ネタ漫画。 - いしをみる。
- 宝石を主題とした漫画。主人公は本物の宝石を求めて、安物ばかり掴まされる。
- どぼん
- 少女が潜水するため「どぼん」という題名。『レキヨミ』第2巻の表紙には、「どぼん」の主人公の格好をしたヨミが描かれている。
- くちなし
- 機械が発達した文明を舞台とした作品。主人公はロボット修理屋の女性。主人公所有のロボットが勝手に家を出ていき、頭だけになって戻ってくるという行動を繰り返しており、主人公はそれに悩まされていた。ロボットは口がなく喋らないため、奇行の意図が分からない。圧迫する不安とその解消がこの作品の筋書きとなっている。
ちなみに題名はダブルミーニング。 - たまころがし
- 『よんこまフェローズ』が初出の4コマ漫画。獣耳の少女と大きな陸亀 (擬人化した亀ではなく普通の陸亀) との旅を描く。下ネタや暴力は無いものの、キャラクターの造形や、主人公の奇行を軸に物語が進むところなど、『レキヨミ』に似た要素がある。
ところで、『レキヨミ』や『めんや』にも亀が登場するが、柴田先生は亀が好きなのだろうか。 - 夢を犯せ旅人
- 2015年の週刊少年チャンピオンが初出。収録作の中では最も古いかもしれない。数少ない男性キャラクターが登場する作品だが、前述の通り憎い敵役として登場する。
『不思議の国のアリス』をモチーフとした作品。主人公は現実では根暗で無力な少女に過ぎないが、睡眠時には他人の夢の中に入ることができる。気に食わない人の夢の中に入り込み、その精神を破壊することで鬱憤を晴らすのが趣味だ。本作は主人公が夢の中で繰り広げる自由で放埓な暴力を描く。
収録作の中で最も荒削りな印象を受けた。

柴田先生がTwitterアカウントを持っていた頃、ハルタに「くちなし」が掲載されたことをTwitterアカウントで宣伝したことがある。 Twitterアカウントは現存しない。イラストは柴田先生が宣伝のためにTwitterに掲載していたものを引用した。 もしかしたら、ハルタにも同じイラストを掲載していたかもしれないが、私は読んだことがない。
めんや

2020年9月15日発行。『レキヨミ』以前に連載された中篇漫画。ただし、『レキヨミ』後に描かれたエピソードも2篇 (うち1篇は描き下ろし) 収録されている。
『レキヨミ』はファンタジー世界を舞台とした下ネタ漫画だったが、『めんや』は純粋なファンタジー作品としての側面が強い。主人公の親に近い立ち位置だが、男性と思しきキャラクターも登場する。
『めんや』は「麺屋」ではなく「面屋」。主人公は仮面やお面の類を作る職人の弟子であり、お転婆で向こう見ずな性格の持ち主。
最初のエピソードは面を駆使して冒険する主人公の姿が描かれる。面にはそれぞれ特殊な力がこもっており、身につけると妖精の姿が見えるようになる面や、力が強くなる面などがある。口をきかない生き物の声が聞こえるようになる面もあるが、こちらは特殊なギミックで表現されていて面白い。
第2話から第4話は面の製作工程と、主人公の面職人としての成長が描かれる。第1話とは物語の方向性が大きく異なっている。第1話で重視された面の特別な力の描写は抑え気味になった。むしろ、主人公の成長を描写する媒体として機能しているように思える。また、第1話では主人公の表情が面で隠され、感情が行動で間接的に表現されていた。一方で、第2話以降は喜怒哀楽がはっきりと描写される傾向にある。面そのものよりも、主人公の行動に焦点を当てるようになったためだろう。成長譚としてはもちろん、ドタバタ劇としても完成度が高い。
『レキヨミ』後に描かれた第5話は、一転して面の力が話の軸となる。主人公の感情は、第2話から第4話では喜怒哀楽が大きく変調していたが、第5話では終始得意気だ。面の力を駆使して鮮やかに問題を解決していく。スラップスティックとしての側面が強い。筋書きが「夢を犯せ旅人」に近いところがあると思った。
様々な点でアクが強かった『レキヨミ』と比べると、『めんや』の方が受け容れやすい内容だったと思う。ただ、『レキヨミ』の毒々しさも楽しかった。もっとも、今となっては……。
現在
2020年9月現在の柴田先生の現況は下記の通り。
【うれしいお知らせ】
— ハルタ (@hartamanga) August 18, 2020
『レキヨミ』の連載を終え、『めんや』のコミックス制作もひと段落。柴田康平さんは、ただいま次回作に向け準備中です。
そこで、新連載までの期間限定で、柴田さんが日々のラクガキを直接投稿するサイトがオープンしました。ぜひ、チェックして下さい!https://t.co/vGCY9gpjnE
次回作をお楽しみに。
2020年5月24日日曜日
意外な証拠──1986年ワシントン州、鎮静薬へのシアン化物混入
、アメリカはワシントン州シアトル郊外、40歳の女性が鎮静薬を服用した後、変死した。死因はシアン化物中毒。鎮静薬にシアン化物が混入されていたのである。その後、6日前のにも52歳の男性が鎮静薬を服用した後に突然死したことが判明する。男性の死因を再調査したところ、同じくシアン化物による中毒だった。謎の毒殺魔の暗躍に人々は戦慄した。これは無差別殺人事件なのだろうか。捜査官たちの調査の過程で、意外な証拠から犯人への手掛かりが浮上する。
この事件も海外のテレビ番組Forensic Filesで特集された。題名は「Something's Fishy」。"fishy"という単語は「怪しい」、「魚のような」という意味である。この題名は本事件の特徴を的確に表現している。この番組はYouTubeで視聴が可能である。本稿を読めば番組の内容を理解しやすくなるはずである。
関係者
- スーザン・"スー"・キャサリン・スノー (Susan "Sue" Katherine Snow)
- 銀行の副支店長。当時40歳。2人の娘の母親でもあった。エキセドリンという鎮静薬に仕込まれたシアン化物により死亡する。
- ヘイレイ・スノー (Hayley Snow)
- スーの前夫との娘。当時15歳。倒れたスーを発見する。
- サラ・ウェブ (Sarah Webb)
- スーの双子の姉妹。
- ポール・ウェブキング (Paul Webking)
- スーの2番目の夫。トラック運転手。度重なる離婚の後、6ヶ月前に結婚したばかりだった。
- ブルース・エドワード・ニコル (Bruce Edward Nickell)
- 当時52歳。スーより前に同じくエキセドリンに混入された毒物で中毒死していた。
- ステラ・ニコル (Stella Nickell)
- 当時43歳。ブルースの妻。離婚経験があり、2人の娘がいるが、いずれもブルースとの間の子供ではない。
- シンシア・"シンディ"・ハミルトン (Cynthia "Cindy" Hamilton)
- ステラの最初の娘。ステラが16歳のときに産まれた。前述の通り、ブルースとの血の繋がりはない。
- アンナ・ジョー・ライダー (Anna Jo Rider)
- ステラの友人。
- トム・ヌーナン (Tom Noonan)
- ペットの魚などを販売していた人物。単なるペットショップの店長がどのような理由で事件と関わることに?
- コリン・L・フリグナー (Corrine L. Fligner)
- スー・スノーの検死を担当した監察医。
- ジャネット・ミラー (Janet Miller)
- スー・スノーの検死を担当した検視助手。
- リー・ワゴナー (Lee Waggoner)
- FBIの筆跡鑑定の専門家。
- グレッグ・オルセン (Gregg Olsen)
- 本事件について特集した書籍Bitter Almondsの著者。
- アル・ファー (Al Farr)、Paul Ciolino
- 探偵。本事件の再調査を行う。
- カール・コルバート (Carl Colbert)
- 弁護士。探偵2人とともに本事件の再調査を行う。
- フレデリック・ホワイトハースト (Frederic Whitehurst)
- かつてFBIの犯罪研究所で勤務していた人物。FBIが弁護側に開示しなかった文書を探偵たちに提供した。
暗躍する毒殺魔
1986年6月11日、ワシントン州オーバーン (Auburn)。銀行の副支店長であるスー・スノーはいつも通りの一日を迎えるはずだった。しかし、その日の朝、娘のヘイレイは昏倒した母親の姿を見つける。近隣の病院へ搬送されたが、まもなく死亡が確認された。健康状態に問題はなかったはずなのに、どうして突然死したのか。
監察医のコリン・フリグナーが検死を担当したが、すぐには原因は判明しなかった。しかし、助手のジャネット・ミラーが胸腔を開けたところ、微かに特異臭が漂ってきた。いわゆるアーモンド臭である。その後の血液検査により、死因は急性シアン化物中毒であるという結論が下された。
スー・スノーの葬儀の日、スーの双子の姉妹のサラ・ウェブはスーの自宅で鎮静薬を探していた。台所でエキセドリンの瓶を見つけたが、どこか違和感があった。スーは錠剤しか飲まないはずなのに、そこにあったのはカプセルだった。この危機感がサラの命を救った。スーを死に至らしめた毒物が隠されていたのはこのエキセドリン (より正確に言えばExtra-Strength Excedrinという銘柄) のカプセルの中だったのである。
スーを毒殺した犯人として、つい最近結婚したばかりの夫であるポール・ウェブキングが疑われた。ポールは結婚する直前まで昔のガールフレンドと付き合っていた。他の家族からの評判も悪かった。妻を亡くした夫は鎮静薬を錠剤からカプセルに切り替えたことを認めたが、事件への関与は否認した。ポールは自身の潔白を証明すべく、ポリグラフ試験を受けた。そして、見事にパスしてみせた。
ポールが犯人でないとすれば、一体誰が犯人なのか。もしや、毒殺魔が無差別殺人を企てたのか。この事件により、同じ銘柄の鎮静薬が店の棚から回収されることになった。実は、この事件の4年前にも、シカゴでタイレノールにシアン化物を混入するという類似の事件が発生していた。この事件では7名もの死者が出た。依然として未解決であるこの事件を契機に、毒物混入への罰則が強化された。人々は毒物が混入されたエキセドリンでさらに死者が出ることを恐れた。その恐怖は既に現実のものとなっていた。事件の報道を聞いたある女性が、自分の夫もシアン化物中毒で死亡したかもしれないと名乗り出た。
同じくオーバーンに住むブルース・ニコルも6月5日に突然死していた。その日の夕方、ブルースは頭痛を抱えて帰宅した後にエキセドリンを服用した。その後に倒れたのである。当初は気腫による自然死と見なされた。しかし、妻のステラによれば、ブルースもスーが服用したのと同じロット番号 (5H102) のエキセドリンを、死の直前に服用していたという。ブルースは気腫を患っておらず、ステラはブルースの急死を当初から疑わしく思っていたという。ステラの求めにより再調査を行ったところ、ブルースもシアン化物中毒で死亡していたことが判明した。ブルースの自宅からシアン化物が混入したエキセドリンの瓶が2本も発見された。
店頭から回収されたエキセドリンも調査にかけられた。シアン化物は本来の鎮静薬よりも密度が高いため、X線での検査にかけることで毒物が混入した瓶を検出することができた。こうして、さらに2本の瓶に毒物が混入していたことが明らかとなった。アナシンという鎮痛薬にも毒が盛られていたという。運が悪ければ、死者は2名では終わらなかったかもしれない。
意外な証拠
FBIは毒入りのカプセルに対して詳細な分析を行った。カプセルには700 mgのシアン化物が含まれており、致死量を遥かに上回る量だった。そして、カプセルの中にシアン化物とも鎮静薬とも異なる緑色の粒子が含まれていた。この正体不明の物質を質量分析法で検査したところ、アトラジン、ジクロン、モニュロン、シマジンという4種類の成分で構成されると判明した。このうちの2つの物質は特に藻類の駆除に使用されるものだった。捜査官たちは近隣のペットショップで同様の薬剤が売られていないか調査した。とりわけ捜査官の目を引いたのがアルジー・デストロイヤー (Algae Destroyer) という銘柄の商品だった。その名の通り、藻類の駆除用に売られていたそれは緑色の錠剤で、成分も件の緑色の物質と全く同じだった。どうして、藻類駆除用の薬剤が、シアン化物とともにカプセルに混入していたのか。捜査官たちはある事実に思い当たった。そういえば、被害者の1人であるブルースの妻ステラ・ニコルはアクアリウムが趣味だったと。
FBIはステラの家の近隣にある57軒のペットショップを調査した。その結果、トム・ヌーナンというペットショップの店主が、ステラ・ニコルにアルジー・デストロイヤーを売ったことを覚えていた。ヌーナンはステラに対してある助言をしていた。アルジー・デストロイヤーは簡単には水に溶けないことが多いため、砕いてから水槽に入れると良いと。おそらく、ステラはその助言に従ったのだろう。
元からステラは怪しい人物ではあった。ステラの家には毒入りのエキセドリンの瓶が2本もあった。ステラは2本の瓶を異なる時期に購入したと語っていた。合計で5本しか発見されなかった毒入りの瓶のうちの2本を引き当ててしまったというのは、偶然にしてはあまりにも運が悪すぎる。
ステラにはブルースを殺害する動機があった。ブルースは7万6千ドルの生命保険に加入していた。しかも、事故死した際に10万ドル多く支払われる契約になっていた。ステラは住宅ローンなどの支払いを滞納しており、金に困っていた。ブルースが死亡する5日前、ステラは債権者たちに手紙を書いていた。支払いを滞納していたのは結婚生活に問題があったためであり、問題は直に片付く見込みであると連絡していたのである。 FBIの筆跡鑑定の専門家であるリー・ワゴナーが生命保険の契約書の筆跡を調査したところ、疑わしい箇所があると判明した。ブルースのものとされる署名はブルースの筆跡とは一致せず、ステラの筆跡と特徴が一致すると鑑定された。捜査官たちはステラが生命保険の契約書を偽造したと判断した。
ブルースを殺害する動機が他にも見つかった。ステラとブルースはかつてはバーなどに通うことを楽しんでいた。しかし、ブルースはアルコール依存症の治療を受け、酒を飲むのをやめた。ステラもバーへ通う頻度が減ることになった。これはステラにとっては望ましい変化ではなかった。
さらに、ステラの娘であるシンディが追い討ちをかけた。母親が毒殺犯であると証言したのである。シンディはステラが図書館に通って毒物について調査していたと報告した。オーバーン公立図書館 (Auburn Public Library) の記録に、ステラがDeadly Harvest (John M. Kingsbury著) という書籍を借りていた証拠が残っていた。シアン化物について扱うセクションでステラの指紋が多数検出された。他の様々な書籍でもシアン化物について扱うページでステラの指紋が発見された。Human Poisoningという本も借りていたが、これは借りっぱなしで返却していなかったという。
こうして、ステラが犯人であることを示す状況証拠が揃っていった。しかし、ステラはスー・スノーとは面識がなかった。どうして、知らない人間を殺す必要があったのか。そもそも、なぜ、カプセルに藻類用の駆除剤までもが混入したのか。捜査官たちは以下のように推測した。
ステラは毒入りのカプセルを用意する際に、アルジー・デストロイヤーを砕くのに使ったものと同じ容器を使用した。容器を洗い忘れていたため、カプセルに毒物だけでなく、アルジー・デストロイヤーも微かに混入することとなった。これがステラの犯行を暴く意外な証拠になってしまったのである。
ブルースは慢性的な頭痛に悩まされており、鎮静薬を常用していた。ステラはこれを利用して夫に毒を盛ることに成功した。しかし、ここで計算違いが発生した。検視官がブルースは自然死したと誤認したのである。これにより、事故死で追加で支払われるはずの10万ドルが宙に消えた。そこで、ステラはブルースの死を再調査させること、さらには、毒殺魔にブルースが殺害されたという印象を与えることを目的に、毒入りのカプセルを無差別にばらまいた。被害者は誰でも良かった。スー・スノーとその家族は運が悪かったのである。
ステラは裁判を受け、2件の毒物混入よる殺人で90年の禁固刑の判決を受けた。シカゴでのタイレノールへの毒物混入後に制定された毒物混入を禁止する法律下で有罪となった最初の事例である。
蛇足(?): 後の展開
1997年に放映されたForensic Filesで取り上げられたのは上記まで。2000年代に発行された記事によると、探偵のアル・ファーとPaul Ciolino、弁護人のカール・コルバートにより事件の再調査が行われたという。
これらの記事ではステラの主張が取り上げられている。ステラが毒草についての本を読んだのは、子供の危険になるかもしれない植物の存在を認識するためだったという。シアン化物について調べたのは自分の夫が死亡した後であり、夫の死について調べるためだったとも主張している。
警察は、ステラは2本のエキセドリンの瓶を異なる時期に購入し、買った場所もおそらく別々であると述べていた。しかし、事件が起こる数ヶ月前にニコル夫妻と一緒に暮らしていた友人のアンナ・ジョー・ライダーによれば、ステラはAlbertson'sという店でのセールの際に同時に2本の瓶を買ったという。当時、ライダーはFBIの捜査官にステラが殺し屋を雇って自分を殺しに来ると脅され、ステラが真犯人であると信じ込み、弁護側に協力することを拒んだとされる。また、弁護側に開示されなかったFBIの資料によると、スー・スノーが持っていた毒入りの瓶には謎の指紋が確認されたとのことである。
ステラの娘のシンディは実の母を告発する証言で事件解決に貢献したことにより、医薬品メーカの連合 (Nonprescription Drug Manufacturers Association) から25万ドルもの褒賞金を受け取った。シンディが9歳のとき、ステラはシンディをカーテンロッドで殴打したとして検挙されている。ステラはシンディを虐待したことを否定しており、シンディが学校に行きたくなかったために吐いた嘘だと主張している。ステラによれば、シンディはステラを妬んでいたという。ステラの主張の通り、虐待の過去は虚偽の可能性もないとはいえないが、どちらにしてもシンディは母親を好いていなかったのだろう。シンディの証言によれば、ステラはひっきりなしにブルースの悪口を言っていたとのことだが、ステラの友人のライダーはそれに反する主張をしている。ライダーによれば、ステラがブルースへの不平をこぼすところを見たことがないという。ライダーはニコル夫妻とともに生活していた時期があり、通勤・帰宅の際はいつもステラとシンディの2人と一緒だったらしい。ライダーの主張には信憑性があるかもしれない。
ちなみに、医薬品メーカの連合はシンディを含む9名に総額で30万ドルの褒賞金を支払っている。ペットショップの店主であるヌーナンも、犯人逮捕に協力した謝礼として1万5千ドルを受け取っている。探偵たちはヌーナンの証言は嘘であると主張している。
弁護側はこれらの新発見を元に再審を求めたが却下された。事件に使用されたシアン化物そのものは発見されずに終わっており、ステラが購入したとされるアルジー・デストロイヤーの現物も見つからなかった。毒物とアルジー・デストロイヤーを粉砕するのに使用したとされる容器も発見されておらず、直接的な証拠は出尽くしていない。事件が再び動く可能性もないとはいえない……かもしれない。
参考文献
- Season 2, Episode 9: Something's Fishy. Forensic Files. YouTube.
- Associated Press (1988年6月18日). Pill-Tamper Deaths Bring 90-Year Term. Los Angeles Times. 2020年5月11日閲覧.
- Associated Press (1990年10月6日). O.C. Woman Gets Big Reward in Mom's Conviction. Los Angeles Times. 2020年6月28日閲覧.
- Marshall, Rory (1987年12月16日). Woman Pleads Innocent In Excedrin-Tampering Deaths. AP News. 2020年5月11日閲覧.
- Tibbits, George (1988年5月10日). Woman Convicted in First Product-Tampering Case. AP News. 2020年5月11日閲覧.
- Kohn, David (2001年6月4日). Bitter Pill: A Wife On Trial. CBS News. 2020年5月7日閲覧.
- Kohn, David (2001年6月4日). Bitter Pill Pt. II: Retracing The Case. CBS News. 2020年5月7日閲覧.
- Kim, Gina (2001年6月5日). New evidence cited in tainted-drug case. The Seattle Times. 2020年5月13日閲覧.
- Schabner, Dean (2006年1月8日). FBI Tampering Alleged in Cyanide Case. ABC News. 2020年5月11日閲覧.
- Woman convicted of killing two in Excedrin tampering. HISTORY. 2009年11月13日. 2020年5月11日閲覧.
- Bovsun, Mara (2017年5月14日). Washington woman poisoned husband, planted tainted pills around state in 1986. New York Daily News. 2020年5月11日閲覧.
- "Forensic Files" Something's Fishy (TV Episode 1997). IMDb. 2020年5月23日閲覧.
2020年5月6日水曜日
木片の中に消えた女——ヘラ・クラフツ事件
、アメリカはコネティカット州ニュータウンで発生した事件。客室乗務員のヘラ・クラフツが失踪した。ヘラの夫はパイロットであり、家庭内暴力を噂されていた。そのうえ、浮気までしていた。殺人が起きた疑いが濃厚だったが、遺体そのものは見つからなかった。おそらく、今もなお。ヘラ・クラフツはどこへ消えたのか……。
この事件は海外のテレビシリーズForensic Filesの最初の放送で特集された。2020年8月現在、YouTubeのFilmRise系列のチャンネルにて公開されており、無料で視聴できる。題名の通り、科学捜査を主軸とした番組で、殺人事件だけでなく、病気や事故について特集することもある。興味深い内容であるが、英語のために日本人には理解しにくい。本稿が番組の内容を理解するための一助となれば幸いである。
関係者
- ヘラ・ニールソン・クラフツ (Helle Nielson Crafts)
- パン・アメリカ航空の客室乗務員。1947年7月7日生まれ。当時39歳。デンマーク出身。リチャードと1975年11月に結婚。3児の母。1986年11月に突如失踪する。
- リチャード・B・クラフツ (Richard B. Crafts)
- ヘラの夫。イースターン航空のパイロット。1937年12月20日生まれ。当時49歳。ニューヨーク・シティ出身。副業としてニュータウンやサウスベリーで警察官 (助手?) を勤めていた。銃マニア。
- ドクター・ヘンリー・C・リー (Henry C. Lee)
- 科学捜査の専門家。後にO・J・シンプソン事件で弁護側の証言を行った。ジョンベネ・ラムジー事件の捜査でも功績がある。
- ドクター・アルバート・B・ハーパー (Albert B. Harper)
- 自然人類学者。ドクター・リーとともに科学捜査を行った。
- ドクター・コンスタンティン・P・カラズラス (Constantine P. Karazulas)
- 歯科法医学の専門家。
- ドクター・ローウェル・レヴァイン (Lowell Levine)
- 歯科法医学の専門家。ケネディ大統領やナチスのメンゲレ大尉の遺体の鑑定に携わったという経歴がある権威的存在。
- キース・メイヨー (Keith Mayo)
- 探偵。ヘラがリチャードの浮気を調査するために雇った。元警察官。1999年に自動車事故での負傷が原因で死去したとのこと。
- ダイアン・M・アンダーセン (Dianne M. Andersen)
- ヘラが雇った離婚弁護士。
- ドーン・マリー・トーマス (Dawn Marie Thomas)
- クラフツ家のオーペア。
- ジョセフ・ハイン (Joseph Hine)
- の早朝に道路を除雪する仕事をしていた。
- マイケル・デジョセフ警部補 (Michael DeJoseph)、ロバート・トヴァードジク刑事 (Robert Tvardzik)、パトリック・マカファーティ刑事 (Patrick McCafferty)、T・K・ブラウン刑事 (T. K. Brown)、マーティ・オーラダン (Marty Ohradan)
- ヘラ・クラフツ失踪事件を捜査した警察官たち (の一部。当然ながら他にもいる)。
- ジョセフ・パロムビジオ (Joseph Palombizio)
- リチャードに対してポリグラフ試験を行った人物。
- ウォルター・F・フラナガン (Walter F. Flanagan)
- コネティカット州検事。本件の裁判で検事側を主導した。2007年に退職。
- トーマス・E・ファーヴァー (Thomas E. Farver)
- 本件の裁判での被告人側の弁護士。
- マーティン・L・ニーグロー (Martin L. Nigro)
- 2度目の裁判での判事。
- カレン・ロジャーズ (Karen Rodgers)
- リチャードの姉妹。裁判以降、クラフツ夫妻の3人の子供 (当時12歳、10歳、8歳) を保護していた。ウェストポート居住。Gadoの記事で言及される「ウェストポート居住のリチャードの姉妹」はおそらくこの人物。裁判の際は犯人に対して最高刑を求めた。
- リーナ・ジョハンソン (Leena Johanson)
- ヘラの知人。1986年11月上旬にヘラから次のような不吉な言葉を聞かされた。「自分の身に何かが起きたら、事故だとは思わないで」(原文: "If anything happens to me, don't assume it was an accident." 出典: Gado, p. 2)
- ナンシー・ドッド (Nancy Dodd)
- リチャードの浮気相手。
ヘラの失踪
事件の舞台はコネティカット州ニュータウン (Newtown)。一般名詞のように見えるが地名であり、裕福な人が住む地域でもある。1986年11月18日の夜に吹雪が町を襲い、路面は雪で覆われ、停電になった。少なくとも11月20日まで吹雪は収まらなかったようだ。その最中、ニューフィールド・レーン (Newfield Lane) 5番地にある夫婦の家で何かが起こった。
、ニュータウン警察に通報があった。通報者は探偵のキース・メイヨー。内容は、依頼人のヘラ・クラフツが最近失踪した、おそらく夫のリチャードに殺害されたというものだった。
リチャードは商用航空のパイロットでありながら、副業で警察官も勤めているという人物だった。警察での仕事はパイロットと比べるとかなりの薄給だったが、リチャードは非常に熱心に副業に取り組んでおり、警察内では良い評判を得ていた。当時コネティカット州警察で使用されていたのと同じ車 (1985年フォード・クラウン・ビクトリア) を購入し、自費で警察用の装備を揃えたほど入れ込んでいた。一般に、妻が夫の元を突然立ち去るという出来事は珍しいものではない。夫婦喧嘩は犬も食わないというように、大抵の場合は大事にはならない。警察も当初は事を楽観視していた。しかし、メイヨーが自ら用意した調査資料に応じて捜査を進めたところ、事態は複雑であることが判明してきた。
ヘラの姿が最後に目撃されたのは11月18日のこと。ドイツへのフライトを終えて、友人に車で家まで送ってもらったのを最後に行方不明となった。次のフライトの予定があるにも関わらず、職場に姿を見せなかった。欠勤するという連絡も無かった。ちなみに、ヘラの車はケネディ国際空港のパン・アメリカ航空従業員用駐車場に放置されていた。
警察がクラフツ一家の友人たちに話を聞いたところ、ヘラは育児に熱心な母親であると評価されていた。幼い子供たちを置き去りにして、何も言わずに夫の元を去るような人物ではないと口を揃えて答えた。また、ヘラはできるだけすぐに離婚したいとこぼしていたという話もあった。リチャードは女性からすると魅力的な人物であったようだが、女癖が悪いことでも知られていた。ヘラは顔に傷を負うことがあり、家庭内暴力も受けていたようだ。それでも、子供の養育や体面を考えて我慢していたが、とうとう耐えかねたらしい。ヘラは1986年に離婚弁護士のアンダーセンを雇い、証拠集めのためにメイヨーを雇った。リチャードはニュージャージー州に住む女性と浮気していた。メイヨーはリチャードの浮気の模様をカメラに収めていた。
ヘラが不在である理由について、リチャードが拵えた言い訳も奇妙だった。理由がころころと変わったのである。
- 隣人への返答
- ドイツへ旅行に行っており、すぐに帰ってくる。
(しかし、別の人物には、どこに行ったか自分も知らないと答えている) - 11月20日 (19日?)、一家のオーペアであるドーン・トーマスへの返答
- どこに行ったか分からない。
- 11月21日、同じくトーマスへの返答
- 故郷のデンマークに住む病気になった母親のお見舞いに行っている。11月24日に帰ってくる (実はヘラの母親は健康そのものであったことを、ヘラの知人であるジョハンソンが確認している)。
- 12月2日、警察への返答
- 11月19日に停電のため、ウェストポートに住むリチャードの姉妹 (おそらくカレン・ロジャーズ) の家に避難しに行ったはずである。それ以来、何の音沙汰もなく、行方をくらます兆候もなかった。
- 友人への返答
- 親友のヘレン・ディクソン (Helen Dixon) とともにカナリア諸島へ行った。
11月19日の行動にも怪しい点があった。19日午前6時、リチャードは眠っていたオーペアのトーマスを起こした。リチャードは、吹雪で停電になったから避難しよう、ヘラは既にウェストポートの姉妹の家に向かっており、後で落ち合うことになると伝えた。午前6時30分、リチャードは3人の子供たちを起こし、子供たちとトーマスとともに車で姉妹の家へ向かった。彼らは姉妹の家に到着したが、先に向かったはずのヘラの姿はなかった。リチャードは子供たちとトーマスを車から降ろすと、すぐにどこかへ立ち去った。謎の空白期間を経て午後7時、リチャードは姉妹の家に戻り、子供たちとトーマスを連れて帰宅した。トーマスは主寝室のカーペットに大きな黒い染みができていることに気付いた。リチャードは灯油をこぼしただけだと答えた。数日後、その染みの部分は切り取られてしまった (ちなみに、メイヨーはトーマスのカーペットの染みについての証言を映像に記録し、警察に捜査をさせるための説得の材料にした)。
あまりにも怪しい言動のため、12月4日、リチャードは警察からポリグラフを受けることを求められた。リチャードは同意し、ポリグラフ試験をパスしてみせた。ポリグラフは決定的な証拠にはならないとはいえ、この結果を見て、一部の捜査官はリチャードは犯人ではなさそうだと判断したようだ。しかし、完全に疑いが晴れたわけではない。12月11日午後9時20分、リチャードが夜のシフトのためにサウスベリー警察署にいたところを、ニュータウン警察のデジョセフ警部補とトヴァードジク刑事が尋問に訪れた。ヘラの不在について質問される度に異なる言い訳をした理由を問われると、リチャードは、自分の妻が行方を晦ましたなんて言いたくなかった、自分もヘラがどこに行ったのか分からないと答えた。妻に逃げられた男が咄嗟に嘘をついただけ。あながちあり得ない話でもなさそうだが、警察官たちはリチャードの妙に落ち着いた対応に却って疑念を募らせた。
証拠集め
メイヨーは消えたカーペットの断片を探しにゴミ捨て場へ向かった。ゴミの山の中からそれらしき布切れを見つけたものの、残念ながら空振りだった。それでも、捜査は進展しつつあった。
刑事たちはリチャードのクレジットカードの利用履歴に着目した。リチャードは11月13日にウェスティングハウス社の大きな冷凍庫をダンベリーの家電用品店で購入していた。リチャードは375ドルを支払い、11月17日に引き取っていた。また、ダリエン・レンタルズ (Darien Rentals) で何らかの機械を借りており、900ドル支払っていた。
さらに、クリスマス休暇でリチャードが子供たちを連れてフロリダに行った隙を突き、州警察は令状を発効して家宅捜索に踏み切った。科学捜査の専門家であるヘンリー・リーも同行した。家の中は散らかり放題で、まともに家事が行われていないようだった。捜査官たちは冷凍庫を見つけたが、実はそれは元からあった冷凍庫だった。後に明らかになることであるが、リチャードが新しく買った冷凍庫は既に処分されており、その後も発見されることはなかった。 ドクター・リーはマットレスから微小な血痕を発見した。血液型はO型で、ヘラのものと一致した。血液の飛沫の形状から、鈍器で殴られたときに付着したものと推測された。 最近洗濯したと思しきタオルからも、血液を拭ったと見られる痕跡が発見された。しかし、遺体そのものは見つからなかった。
翌週になって事態は急変する。900ドルもの大金を支払って借りた機械がウッドチッパーであることが判明した。「ブラッシュ・バンディット」(Brush Bandit) という銘柄だった。どうやらリチャードは大量の木材を粉砕する用事があったらしい。12月30日、マカファーティ刑事とブラウン刑事は有力な目撃者を発見した。作業員のジョセフ・ハインである。ハインは11月20日の早朝、吹雪が吹き荒れる中で除雪をしていた。その最中で、U-ホールのトラックが路肩に駐められているのを何度か目撃した。トラックには大きなウッドチッパーが装着されていた。場所はゾア湖 (Lake Zoar) の近く。 最初は午前3時30分頃で、橋の上にトラックが駐められており、側には男が立っていた。男はハインに通り過ぎるように促し、ハインはそれに従った。 1時間後 (2時間後?) にリバー・ロード (River Road) で同じトラックを再度目撃した。近くに人は見かけなかったが、道路の路肩に木片が積み上がっていた。 早朝で、しかも吹雪の中、わざわざウッドチッパーを使う用事などあるのだろうかと不自然に思っていた。
ゾア湖のほとりでは木片の山が積み上がっていた。木屑の中を探ってみると、ぼろぼろの紙片があり、見てみるとそれは封筒だった。宛名はヘラ・クラフツ。捜査官たちはついに決定的な手掛かりを発見した。さらに一帯を捜索すると、他にもヘラ宛ての封筒がいくつか見つかった。それ以外にも、ブロンドの髪の毛、足指や手指の一部、爪、歯の欠片、骨片、血液、人間の組織片、布の断片、プラスチック片といった証拠品も見つかった。 12月30日にはゾア湖と繋がるフーサトニック川 (Housatonic River) の底でSTIHL社のチェーンソーが見つかった。チェーンソーはシリアルナンバーが削られて読めなくなっていた。最近になって水中に遺棄されたものと見られた。その刃には人間の組織片、ブロンドの頭髪、青緑色の繊維が僅かにこびり付いていた。 当時はDNA鑑定の技術が未発達だったが、それでも強力な証拠となった。
チェーンソーに付着した青緑色の繊維はヘラが好んだ綿製の寝間着の色と同じで、ゾア湖で発見された他の繊維と同一だった。ゾア湖やチェーンソーから発見された頭髪も、ヘラのヘアブラシに絡まっていた髪の毛と特徴が一致した。シリアルナンバーの復元にも成功し、1981年1月9日にリチャードが644.95ドルで購入したものと判明した。メイヨーがそのときのレシートを保管していた。ヘラがメイヨーに捜査を依頼した際に渡した書類の1つだったのである。
ゾア湖で発見された爪に付着していたマニキュアはヘラが使用していたものと化学的に一致していた。
レンタル会社の駐車場でウッドチッパーの実物が発見された。ドクター・リーは自然人類学者のドクター・ハーパーに協力を求め、骨片などが砕かれた原因を調査すべくある実験を行った。それは、件のウッドチッパーと同じものに豚を放り込むというもの。砕け散った残骸の特徴は、ゾア湖で発見された骨片のそれと同一だった。骨片を破砕して血液型を調べたところ、ヘラのそれと同じO型だった。
歯科法医学者であるドクター・カラズラスは歯の欠片を調査した。ある歯の欠片には金属の歯冠が付いていた。ヘラの歯の治療の記録と照らし合わせてみると、完全に同一人物の歯であると判明した。同じく歯科法医学者のドクター・レヴァインもドクター・カラズラスの見解を支持した。
1987年1月11日、リチャードに対する逮捕状が発行された。
ヘラ消失の経緯
結局のところ、ヘラはいかにして消滅したのか。警察の見解は下記の通り。
寝室で血液が検出された。血痕はベッドに体をぶつけて生じたものだろう。このことから、ヘラが殺害されたのは寝室であると推測できる。11月19日早朝 (18日?)、就寝時の準備か何かの最中に殺されたのだろう。その後、ヘラの遺体を最近買った大きな冷凍庫の中に入れたと考えられる。こうしてひとまず遺体を隠した後、眠っていたオーペアのトーマスと子供たちを起こし、停電を口実に姉妹の家へ連れていった。リチャードはすぐに家に戻った。おぞましい後始末はこの後に始めたのだろう。
リチャードは冷凍庫の中で凍結したヘラの遺体を、所有地の中でも人目の付きにくい場所へ持っていった。そして、チェーンソーで遺体を手頃なサイズに切断した。凍り付いた遺体をバラバラにするのは比較的容易だったことだろう。リチャードは遺体をゾア湖へ持っていった。そして、遺体をウッドチッパーにかけて粉砕し、ゾア湖の中に遺棄した。その後、木材をウッドチッパーに突っ込んだ。おそらく、血肉に汚れたウッドチッパーを綺麗にするためか、証拠の隠滅のためだろう。こうして、ヘラの遺体の大部分はゾア湖の流れの中に消え、ヘラは永遠に消滅した。しかし、全ての証拠が隠滅されたわけではなかった。遺体の一部は、ヘラの寝間着のポケットの中に入っていた封筒とともに地面に落ちたまま残っていたのである。
遺体の処分方法の残虐さは紙面を大きく賑わした。あまりにも有名になったため、陪審員の判断への影響が考慮された。裁判はニュータウンではなくニューロンドンで開かれることになった。しかし、この裁判では陪審員の合意が得られずに終わり、判決はノーウォークでの裁判に持ち越しとなった。結局、リチャードは有罪となり、50年間の禁固刑という判決が下った。遺体そのものが発見されずに殺人で有罪判決となったのは、コネティカット州では初の事例だった。裁判の際、リチャードは悔恨の念を見せることもなく、無感情のままであったという。
参考文献
- Season 1, Episode 1: The Disappearance of Helle Crafts. Forensic Files. YouTube.
- Gado, Mark. All about the Woodchipper Murder Case. Crime Library. 2020年3月31日閲覧.
- Associated Press (1999年1月9日). 50-Year Sentence Imposed In 'Wood Chipper' Murder. The New York Times. 2020年5月5日閲覧.
- Bigham, Steve (1996年11月22日). Notorious Crafts Murder Shook Newtown Ten Years Ago. The Newtown Bee. 2020年5月6日閲覧.
- McMurray, Kevin (2009年11月18日). 23 years ago, Richard Crafts was more willing to part with his wife than his money. NewsTimes. 2020年3月30日閲覧.
- Polansky, Rob; Naples, Kaitlyn; Hogan, Kevin (2016年11月17日). Woodchipper murder case from 30 years ago was pivotal for forensic scientists. wfsb.com. 2020年5月2日閲覧.
2020年2月23日日曜日
綾波レイのルーツの真偽

筋肉少女帯やオーケン (大槻ケンヂ) を語るうえでよく話題になるのが、ある楽曲が『新世紀エヴァンゲリオン』のヒロイン・綾波レイの元となったという話である。
この話はインターネット上でしばしば耳にする話題だった。筋肉少女帯の楽曲には「何処へでも行ける切手」(『断罪!断罪!また断罪!!』収録) というものがあり、この歌詞中の「包帯で真っ白な少女」が綾波レイの元になったというのである。 私自身はバンドブームなるものは伝聞でしか知らず、インターネットで筋肉少女帯を再発見した世代である。当時からのファンならば常識なのかもしれないが、私からすれば情報源が曖昧で真偽不明だった。
ただ、この件はすぐに片付いた。漫画版『新世紀エヴァンゲリオン』第2巻の巻末にそれを裏付ける証言が載っていたのである。それは綾波レイのデザインを担当した貞本義行氏の直々の発言である。「その曲を聴いた時のいたいけなイメージ」が綾波レイの性格付けの元となったとのことである。
ただ、インターネットで聞いた噂話には続きがある。『何処へでも行ける切手』の「包帯で真っ白な少女」にもオマージュ元があるというのだ。 それは丸尾末広の漫画『少女椿』のヒロイン・みどりちゃん。 彼女もまた包帯で真っ白な少女であり、歌詞の元となったという。
この件は長年、裏がとれずにいた。オーケンは多数のエッセイを書いており、その中に情報源が転がっていそうだが、そう簡単には見つからないだろう。そう思っていた矢先、地元の図書館の本棚の中にオーケンのエッセイが眠っているのを発見した。果たして、そのエッセイ『90くん』(角川書店、2000年) にソースがあったのである。灯台下暗し。それにしても、とんでもない表紙である。よく公費が降りたものだ。

答えは107-108ページにあった。件のエッセイからそのまま引用する。
観念的な単語のネタ元をいくつか明かすと"闇の右手"とは古いSF小説「闇の左手」に由来している。"休みの国"とは'70年代のアングラロックバンドの名前を拝借している。問題の"包帯で真っ白な少女"であるが、丸尾末広のマンガによく出てくる包帯だらけの少女たちと、そしてジョルジュ・フランジュ監督の恐怖映画『顔のない眼』の主人公、ケガした顔を隠すために真っ白な仮面をいつもかぶっている少女をモデルとしている。
丸尾末広作品が由来の一つとあり、それは正しかった。ただ、ピンポイントで『少女椿』と指定されておらず、オマージュ元の丸尾作品の一つではあったかもしれないが、明言はされていない。そもそも、私の知る限り、みどりちゃん自身は包帯で真っ白な少女ではない (包帯で真っ白な男は出てくるが)。 そのうえ、由来が丸尾作品以外にもあった。インターネットの曖昧な噂をソースに知ったかぶってはならないという教訓になった、ということで一件落着である。
とはいえ、前述の通り、オーケンは多数のエッセイを執筆している。その中のどれかに『少女椿』と名指ししたものもあるかもしれない。みどりちゃん自身は包帯で真っ白な少女ではないが、包帯で首を締められて苦悶する場面はある (もっとも、それはみどりちゃんの幻覚のようだが)。 さらに言えば、オーケン自身がインターネット上を漂う噂以上に曖昧な男である。同じエピソードを題材にしているはずなのに内容が一定しなかったり、話を盛っていたりする。 結局のところ、重要な情報源を発見できたが、インターネットで聞いた話のどこまでが正しく、どこまでが間違っているのかは、私では断言できないというところで落ち着くしかない。
ちなみに、Wikipediaの綾波レイの項目 (oldid=75162147) によると、『「何処へでも行ける切手」の歌詞は、丸尾末広の漫画「少女椿」の主人公「みどりちゃん」をモデルとしており、さらにこれは森田童子の楽曲「セルロイドの少女」に登場する「みどりちゃん」に由来している』とのことである。「少女椿」の次は「セルロイドの少女」。日本語版Wikipediaにありがちなことだが、出典が全く示されていない。ここまで来ると完全にお手上げである。誰か助けてください。