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2022年1月1日土曜日

パッケージ悪魔で振り返る真・女神転生V

 にようやく真・女神転生Vの全エンディングを制覇した。最初に難易度ノーマルで維持ルート、次に転生して変革ルート、再び転生して真・人間ルート、最後に新生して難易度もハードに変えて人間ルートを進んだ。一通り遊んだと思い、これを機に本作を振り返ってみようと思う。とはいえ、ただ感想を連ねるだけでは芸がない。そこで、パッケージに描かれた悪魔たちを元に話を進めていく。

幻魔アマノザコ

 本作の目玉の一つであるクエストナビを象徴するキャラクター。敵として出会うと厄介だが、仲魔としては弱点が多く、専用技もそれほど強くない。それでも、メインストーリーでもサブクエストでも出番に恵まれているため、不遇だとは思わない。これほど愛らしい () が無条件で好意を寄せているというのに、人間のためにと他の神魔ごと消し去ってしまうナホビノもいるらしい。人間のための選択ではあるが、まるで人間味がない。

 万古の神殿の鍵を回収するときに、アマノザコが何者かに乗っ取られて鍵の言葉を解説する場面がある。作中では特に説明が無いが、おそらくは事象ルシファーがアマノザコの口を借りたのだろう。どうしてそのようなことが可能だったのかは不明だが、「終の決戦」でルシファーが消滅した際に撒いた「種」がアマノザコの体内に入り込んでいるのかもしれない。アマノザコはアオガミの別個体の死骸に尸解の術を施すことで生まれた。材料の死骸に「種」が混入していたのだろうか。ところで、台東区 (第4のダアト) 攻略の冒頭で、アオガミが自身の根源的なところで使命感があるというような発言をしているが、これもルシファーの影響だろう。そもそも、アオガミが一時的に機能を止めたのも、ルシファーと遭遇した直後のことである。本作のストーリーでは、様々な場面でルシファーによる介入が見られる。

 日本語版のルシファーは三木眞一郎ボイスの含みのある演技である。しかし、英語版のプレイ動画を見る限りでは、英語版のルシファーは悪魔らしさのあるいかにも悪そうな声だった。少し残念である。

聖獣ハヤタロウ

 変革ルートを進むと、アブディエル討伐の手助けという名目でハヤタロウを渡され、合体が解禁される。しかし、そのタイミングでハヤタロウを渡されたところで、適正レベルが千代田区 (第3のダアト) 攻略の仲魔を役立たせるには愛が必要だ。ストーリー上で特に目立った活躍もなく、中田譲治ファンでもない限り、合体し直して魔導書をつぎ込むなんてことはしないだろう。そのような事情から、プレイヤーの間では「オソタロウ」という愛称で呼ばれ、本作のシナリオの犠牲者と見なされる。千代田区攻略の際、ユヅルはちょうど待機を命じられているため、その時点で主人公にハヤタロウを渡すという展開があっても良かったのだ。主人公の仲魔にならないにしても、主人公を手助けするイベントの一つでもあれば印象は変わっていただろう。

みんなで発売日をカウントダウン!『真・女神転生V』発売前夜番組」より引用

 ハヤタロウに乗ってダアトを旅するという案もあったらしい。その案が実現していれば、このような悲しい扱いにはならなかっただろう。尤も、ハヤタロウでフィールドを高速で駆け抜けるという遊びを実現するには、かなり広い荒野のマップを用意する必要があるだろう。それを実現するには、BotW並の資本と開発力が求められるはずだ。下世話な話だが、今のアトラスには無理だろう。

 ただ、全くの役立たずというわけではない。耐性と自力で覚える技が優秀で、特に超人八雲ショウヘイ戦で大活躍する。ショウヘイは物理・電撃属性の強力な技を使用してくるが、ハヤタロウは「某を見よ」と耐性で攻撃を受け流しつつ、「物理ブロック」で味方を守ることができるのだ。新生して難易度ハードで遊んだときにかなり助かった。

 ストーリー上では目立たず、終盤で厄介払いのように押し付けられ、活躍させることもできるが新生を選ぶ必要がある。そんな悲しい役を背負わされたハヤタロウだが、元の飼い主の扱いも似たようなものだ。維持ルートのイチロウとアブディエルに比べると、変革ルートのユヅルは影が薄い。ユヅルは主役となるイベントがほとんど無く、ストーリー中で主張が変わることもない。ツクヨミの傀儡にされているようにすら見える。せっかく都合のいい妹がいるのだから、妹絡みのイベントで変革の必要性を認識するなんてことがあっても良かったのだが。

魔神コンス

コンスのサブクエストは設定こそよく出来ているものの、描写が伴っていないという印象だ。
仲魔にすると、セリフがいちいち格好良い。

 メインストーリーでは万魔会談だけが見せ場であり、以降はサブクエストにしか出番がない。サブクエストではかなり印象的な役を演じているが、フルボイスだったアマノザコイベントと比べると、声優の演技も演出も控え目だ。コンスとミヤズの関係性は設定としては面白そうなのだが、お出しされた本編はどうにも中途半端な量の描写で終わっている。特にミヤズはリビドーを沸き立たせる良いデザインだから残念だ。女神ミヤズ・ラーを召喚したり外道スライムと合体させたりしたかったとも思う。コンス・ラーの専用技が仲魔になった後には使用できないという点にも悲哀が感じられるが、この専用技は色々とややこしい仕様らしいから仕方がないのかもしれない。

 維持ルートの描写量と比べると、変革ルートは様々な面で控え目だ。もう一つダアトがあれば、ミヤズとコンス、エジプト王朝との関係性を軸に、ユヅルが日本は日本で、エジプトはエジプトでという多様性の素晴らしさに目覚め、可能性ある世界の創世を目指すようになる、というストーリーを作ることができたかもしれない。続編やメディアミックスで補足されるとありがたいのだが、期待しない方が良さそうだ。二次創作に期待した方がましかもしれない。無許可の二次創作なんてファン活動を謡ったところで所詮は海賊版に過ぎないが。

敦田ユヅルは妹思いという設定があるが、特に活かされてはいない。コンスのサブクエストがメインストーリーに絡んでいれば違ったのではなかろうか。
そうだね。

大天使アブディエル

 本作は維持ルートが優遇されている。ユヅルの影の薄さに比べると、イチロウはとにかく目立つ。そのうえ、第二形態まで用意されているのだ。天使が主の創りたもうた世界の維持のために、蛇に唆されて堕天し、デビルウーマンと化すという展開も面白い。ルート選択後に一緒に冒険ができたらなお良かったのだが、残念ながらルート選択後は雑な描写の末に退場する。

 維持ルートはまだましだが、本作はシナリオが非常に薄い。開発期間自体は長かったはずだが、開発の方向性が何度も変われば、いくら時間や予算があったところで足りなくなることもある。育成システムはよく出来ている。写せ身のおかげで主人公と仲魔にスキルや耐性を持たせるのも難しくない。戦闘システムは育成システムのおかげで理不尽すぎず、ほどよく歯ごたえのあるものとなっている。ダアトの探索も私としては苛々しつつも面白くもあった。悪魔のモデリングも手が込んでいる。ただ、そこまで頑張って力尽きてしまったのだろうか。

地母神ジョカ

得意技はデコピン。

 序盤では衝撃弱点を放置した主人公をバラバラにし、終盤ではプレイヤーを真・人間ルートへと誘う。存在感こそあるが、ショウヘイ周りも描写が薄く、ショウヘイの生い立ちをご親切にも説明する役目も押し付けられている。とはいえ、仲魔にすることもできないツクヨミと比べれば、扱いは遥かに良い。ショウヘイについて解説する場面は、ジョカがかなり面倒見のよい性格をしているという印象を与える効果があるとも言えなくもない。

 真・人間ルートへ進むと、あらゆる神魔が存在しない世界を創り直すことになる。クエストナビとともに荒野を旅し、フィン・マックールに永世の忠誠を誓ってもらい、コンスの決意とミヤズの願いを見届け、魅力的な仲魔たちとともに戦い抜いた先が、人間による人間のためだけの世界というのはどうかと思う。真・人間ルートを選ぶ義務は無く、皆がハッピーな結末にすればいいとも思わないが、最も難しいエンディングとしてお出しされるのがこのルートであると考えると、納得できないところがある。

 樹島サホリの末路、東京のダアト化に巻き込まれた人々の結末、学園襲撃の被害者たち、天使に消された知恵の持ち主のことを考えれば、神も悪魔も全て消すという選択自体は理解はできる。ただ、本作は人間よりも悪魔の描写の方が豊富だ。プレイヤーは冒険を進めるうちに、自然に悪魔への愛着が湧いてくる。会心波を連発してきた妖魔バルキリーや、鉄鋼針で主人公を針山に変えたアンズーは消滅させたくなるかもしれないが、全ての悪魔を消すという選択には抵抗感があるのが普通ではなかろうか。千代田区のコンクリートジャングルも、万古の神殿のFOE迷路も、すべてをエストマを唱えつつ駆け抜けたプレイヤーならば、アンズーさえも許すかもしれない。

 人間側の陣営の描写がもっとあれば、人間のための世界を作る気にもなるかもしれない。悪魔による人間への害をもっと強調する展開があっても違ったかもしれない。例えば、人間の遺体や遺品を冒涜する悪魔を退治するサブクエストなどがストーリー後半にあれば、悪魔を消すという選択も納得しやすくなるだろう。ラフムの一件の後は、悪魔の人類への脅威を感じさせるイベントがほとんどないため、悪魔との交流の方が印象に残りやすく、人間の未来のことはつい忘れがちになる。

合一神ナホビノ

 無口で無表情であり、プレイヤーの選択によって性格付けが決定される。自分の分身にしてもいいし、ロールプレイとして特定の性格になりきってもいい。避妊具についての知識がないピュアな少年にしてもいいし、知っているがすっとぼけているだけと考えてもいい。悪魔会話での不遜な物言いは、悪魔を言いくるめるための演技と考えてもいい。素で踊ったり歌ったり神だけに髪が長いと宣ったりしていると考えてもいい。私には万葉集を読む美少年になりきることはできなかったが、全くの他人になりきることもできなかった。

 本作はいくつか選択肢があるが、どれを選んでもその影響は維持ルートに寄るか、変革ルートに寄るかというだけだ。関係するのはルート分岐後の特典だけである。主人公がどのような思想の持ち主であっても、必ずラフムからタオを庇って致命傷を負う。サホリに引導を渡す場面は美しくはあるが、主人公にプレイヤーの意図から外れた人格があるように感じさせる。台東区でタオが主人公に協力するのは、サホリとの一件があったからという理由があるが、ラフムとの戦いの描写はルート分岐に関係する主人公の思想との食い合わせが悪いように思う。人間や秩序のためを思う主人公であれば、命にかえてタオを守ろうとしてもおかしくはないが、カオス寄りの思想であればどうだろうか。

悲しくも美しい場面だが、変革ルートを選ぶ主人公であれば、サホリの尊厳を尊重しすぎている気がする。

 本作に対する感想は、シナリオさえ良ければ、の一言である。登場人物や設定、舞台といった材料は良いのだが、ほとんど調理されないでお出しされているように思う。尤も、欠陥があるからこそ、語りたくなる意欲が湧くというところもある。欠点があるからこそ愛らしい、と言えなくもない。

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